響鳴り渡る胸の歌、其ノ哥ヲ束ネルナ 作:ライトニングフルセイバー
「お待たせ致しました。立花様と翼様をお連れするようにと」
スーツの男について行くしかない私たちは、不安ばかりが募りつつも重い足でついて行った。
シンフォギアが存在しなかった世界でも、ここまでの不気味さは存在しない。
それはきっと、温かい場所だけは変わらなかったからなのだ。
シンフォギアがなくとも、二課が存在せずとも、私たちの知る温かいものがどの並行世界にも必ず存在した。
それが、この世界にはない。
我々の知らない二課は何かを隠し、奏は私を知っていたと思うが別の並行世界で出会った奏よりも精神的な部分が不安定で、緒川さんもあの瞳は私たちを完全には受け入れていない……この世界の二課で見たものと同じ目をしていた。
……いったい、何が起きているというのだ。
「……取り乱して悪かったな。話は緒川さんから聞いたよ」
「奏、もう大丈夫なの?」
「あ、ああ……。…………翼、なんだよな?」
「うん……」
「……そっちは立花響だっけ? 翼から聞いてると思うけど、天羽奏だ」
「はい、よろしくお願いします……奏さん」
奏はまだ私を見て怯えてはいたが、最初のような発狂は収まっていた。
奏の隣に緒川さんが座り、いよいよ場の準備は整ったというふうだ。
「ではまず、こちらを見てください」
奏が一つの箱を取り出し、開ける。
中にはシンフォギアのペンダントが丁寧に仕舞われていた。
「これは……シンフォギア、ですか」
「私が使っていたガングニールだ」
「ガングニール……やっぱり、この世界にもノイズがいるんですよね?」
「正確には存在していた、だな」
「存在していた……。ということは」
「過程は違うけど、この世界のバビロニアの宝物庫は閉じている」
「えぇ!?じゃあ、私たちが来た意味って……」
「そっちの世界の話は聞いているけど、錬金術師も全部動きは把握しているし二人が見たっていう並行世界と比べればここは平和だ」
しかし、たしかにギャラルホルンはこの世界を指し示した。
それには何か意味があるはずだ。
「多くを説明することは出来ませんが、この世界では櫻井了子という人物は天羽々斬とガングニールのプロトタイプを作り上げた直後に死亡し、奏さんと翼さんがツヴァイウイングとして活動を始めようとした矢先に貴女を含め、一族は死滅しています」
「……一族が死滅、ですか」
「死滅、というよりは急に、突然消えちまったっていうほうが正しいな。
……翼以外は」
「そんな……」
これは予想通りだ。
叔父様の名を出した時点での二課の拒絶を見るに、我々が何かをしてしまい、悪いものに蓋をするかのように「無かったことにした」のだろう。
そして、そう指示したのはおそらく……。
「……考えたくはないですが、何らかの理由で我々を始末し、友であり、片翼である奏を防人として利用しているということですか」
「……なるほど、翼さんはそういう認識だったのですね」
「……そういう認識だった?」
「言っただろ。一族皆消えたって」
「! バカな!!?全て、全て滅んだというのですか!!」
殺しても死なないとさえ思っていたお爺様までが、消失したのか?
だが緒川さんのその表情が真実であると言っていた。
「翼さん……」
「……何が起こるか分からないと覚悟はしているつもりだった。これまでも。しかし、私たちは消え、奏に防人の役目を全て背負わせてしまったというのは、流石に堪えるな」
ー響視点ー
翼さんが悲しんでいるのを見て、私は何を出来なかった。
もし私が死んで未来が「私の代わり」にガングニールで戦い続けている世界があったとしたら、私はとてもショックだと思う。
ううん、とてもショックだ。
「久しぶりの、これが最後の再会かもしれませんし、二人の時間の為にも僕と響さんは外に出ておきますね」
「ありがとう、緒川さん」
「……申し訳ありません。立花、すぐに戻る」
「……分かりました」
何となく気まずい雰囲気の中、私たちはこの部屋を後にした。
「僕は二課に未だ眠っているはずのギャラルホルンを調査してみようと思います。なにか分かればすぐにそちらに連絡します」
「……お願いします」
「お二人は長くここにいるべきではありません。奏さんも守れなかった分、今度こそ翼さんを守りたいのでしょう」
「……」
「……それから、僕たちも、二課も、お二人を拒絶しているわけではないのです」
「え……?」
「ただ恐れているのです。
お二人が死んでしまうかもしれないと」
「あの、それってどういう……」
「……それでは」
緒川さんはそれから私と目を合わせることなく去っていった。
……私たちが死んでしまうことを恐れている?
それはもしかして、この世界の翼さんが死んで、翼さんの家族がいなくなってしまったことと関係があることなの?
怖い。この世界に来てから、何かが崩れていくような気がする。
……こんな時に未来がいてくれれば。
「……!平気、へっちゃら!」
私まで弱気になっちゃダメだ。
今一番辛いのは翼さんなんだ。
私が翼さんやこの世界の奏さんたちの力にならないと。
「――あれ?」
部屋に戻ろうとしたところでここに来る時には見なかったような亀裂を発見する。
しゃがめば私ぐらいなら入れてしまいそうな亀裂だ。
「なんだろう、これ……」
恐る恐る私はその中を覗いてみた。
ーー
ーーーー
ーーーーーー
「――おい!!」
「!!」
あれ? 私、眠ってた……?
いや、それよりもここは……。
「気が付いたデスか!?」
「良かった……。怖かった」
「え……? どうして? 私、戻ってきたの?」
なんで? あの時、亀裂を覗いて……。
「おい、先輩はどうした?」
「そうだ、翼さんは……」
あの世界はなにかおかしい。
皆にも相談しないと。
「翼さんは
奏さんと一緒だから問題ないよ」
――あ、れ
「新しい並行世界にも奏さんが……」
「ということは、最初に見た並行世界とあまり変わらないってことかしら?」
「それが平和は平和なんですけど、色々とあって翼さんだけ残ってるんですよ」
なんでなんでなんでなんでなんで!?
体が、口が勝手に……。
もしかして、あの亀裂を覗いた時に何かされた……!?
「で、どうしてお前一人なんだ?」
「それが向こうの世界の人たちや翼さんに先に戻って報告するようにって言われてたんですよ」
違う。私が言いたいのはそんなことじゃないのに!!
「だからもう向こうの世界には行かなくていいですよ」
誰か……皆……未来……!!!
「――だそうだ」
「ええ、そうね」
「……?」
……クリス、ちゃん。
「急に嘘くさい。言葉が安すぎるんだよ」
「……なに、言ってるの?」
「とはいえ、その顔見る限り体は本人のようだし……何者かに操られているのかしら」
「響が誰かに……!」
「すぐに悪霊退散してやるデス!」
「響さん、少しだけ我慢してください」
クリスちゃん、マリアさん、切歌ちゃん、調ちゃん。
みんな……!!
「ど、どうしたクリスちゃん、マリアさん、切歌ちゃんに調ちゃんまで……」
「偽物がそいつの体を使って私たちの名を呼んでんじゃねえ!!あのバカに何をしたッ!
お前は、何もんだッ!!?」
「何モ知ルナ
キクナ
探ルナ
贄トナルノハ、風鳴ノ血デ十分ダ」