響鳴り渡る胸の歌、其ノ哥ヲ束ネルナ   作:ライトニングフルセイバー

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前兆

 立花が緒川さんと部屋を出てからしばらくの沈黙が続く。

 ……あの時のライブで私が死に、奏が生きた世界のほうがまだ、奏の気持ちを理解出来た。

 

「……ねえ、奏」

「どうした?」

「……まだ、私のことが怖いの?」

「! ……はは、顔に出てたか」

 

 正直、あの話だけを聞いても不可解な点が多すぎる。

 櫻井女史がいて、二課が存在していて、叔父様が死んだことで二課の司令が入れ替わった。

 それは理解出来たが、ならば他の人員まで総代わりしてしまった理由は何だ。

 あの場所には私や立花が知る人物は一人もいなかった。

 

 私に対して怯えている理由も謎だ。

 私以外が失踪したということは、私だけが何か起きてしまったということだ。

 その時期はツヴァイウイングが結成し、活動を始めようとした矢先。

 ……そういえば。

 

「ねえ奏、ここの私が死んだのは叔父様やお爺様、お父様が死んだ後か前?それとも同じタイミングで?」

「……」

「少しだけ気になったの。この世界の私はどうして……」

 

「探るな」

 

「――……」

 

 拒絶。ではない。

 何なの、その目は。

 いったいナニを見ているの?

 

「知ろうとしないでくれ。もう、私に、翼を……!!」

「私を……?」

 

 よく見ると奏の手には血が流れていた。

 そして今にも唇を噛みちぎりそうなほど、血が出るほどに何かを耐えようとしていた。

 

「――何でもない。っ、……私は防人の務めを果たしに行く。翼も用が済んだなら私たちのためにも早く帰ってくれ」

「待って奏!私の話を!!」

 

 呼び止めようとしたが、急ぎ足でその場を離れられ、追いかけようにも黒服に行く手を阻まれて進むことが出来ない。

 その黒服も、まるで私が悪鬼にでも見えているかのような対応だ。

 

 ……私では、立花のようにはいかないのか。

 大切な片翼の力にすらなることは出来ないというのか。

 

「……どうするべきなのだろうな」

 

 元よりここには得体の知れない何かを除けば、私さえいなければ脅威もなく平和だという。

 奏が去ってから私に対する皆の視線はとても怖い。

 今までとは大違いだ。

 きっと、昔の立花もこんな辛い思いをしていたに違いない。

 それを受けて……改めて彼女は凄いな。

 

 ……少しだけ疲れてしまった。

 立花も待っていることだ。早く戻ろう。

 

 

 

「立花、遅くなってしまったな」

 

 人の視線にまた気が滅入りながらもお父様の部屋だった場所に戻る。

 ……しかし、そこには立花の姿はない。

 

「……立花?」

 

 緒川さんとなにか話しているのだろうか。

 ……思えば、これほど誰彼からも自分を拒絶され、恐れられたことはなかった。

 どんな世界でも、少なからず仲間や味方はいてくれた。

 

「……一人は、寂しいな」

 

 この孤独は、今の私には耐え難い。

 

「……ん?」

 

 部屋の端っこに紙が……。

 あんなもの、最初に見た時にあっただろうか……?

 

「立花の置き手紙、というわけではなさそうだが」

 

 手に取り、それが何かを確認する。

 裏面だが、文字が書かれている。

 やはり手紙だろうか。

 

 

【シンフォギアに関する報告書

我々は、ノイズに対抗する手段となり得るであろう櫻井女史の研究を引き継ぐことを決定した。

 

ソレガ全テノ始マリダ】

 

「……研究。これは、私が天羽々斬を纏う以前のものか?」

 

 この世界のシンフォギアはあくまでプロトタイプだと言っていた。

 しかし、これを読むに櫻井女史の研究は彼女の死後も別の誰かに引き継がれていたということか。

 ……この手紙から考えられるのは、それに失敗し、風鳴が滅んだ。

 ……これだけでは関係性が分からない。

 この紙の最後の一文。

 これだけが他の文と違って異質だ。

 

 見ているだけで、心を抉られるような……。

 

「翼さん」

「!!? ……た、立花?」

 

 いつの間に、背後に?

 警戒はしていなかったとはいえ、そこまで集中してしまっていたのか。

 

「翼さん、ここに来る途中なにかありませんでした?」

「ここに来る途中? ……いや、何も無かったはずだ」

「そうですか」

 

 思い返してみても特に何もなかったはずだが、何かあったのだろうか?

 

「何かあったのか?」

「はい……なにか緑色のなにかが」

 

 ……緑色?

 やはりそれに心当たりはない。

 

「緒川さんたちに伝えるべきか。しかし……」

「……」

「……私ではちゃんと聞き入れてはくれないだろうな。立花、頼めるか?」

「……」

「……立花?」

 

 考え事をしている時の立花はいつも何か悩みを抱えている時だが、それほどその緑色のなにかというのは考えるべきものなのか?

 ……いや、まさか他にも何か見たのか?

 

「立花、何かあったなら全部話してくれ」

「……あ、ごめんなさい。ちょっと気になることがあって……」

「気になること?」

「はい。……あ、でも気にしないでください! えっと……家の事なので」

「! そうか……この世界でライブがなかったということは、立花はリディアンに来ていない可能性もあるのだな」

「……あ、はい。それで……」

 

 この世界の立花の家を覗いてみたいということか。

 ここは立花にとっての別の幸せがあったかもしれないもしもの世界だ。様子見をしたいという気持ちでもあるのだろう。

 幸いこの世界にはノイズが存在しない。

 多少の寄り道ぐらい許されてもいいだろう。

 

「分かった。行ってきてもいい」

「本当ですか!?」

「ああ。今の私たちに出来ることは待つことだけだ。少しぐらい外に出ても問題はないだろう」

「ありがとうございます!」

 

 嬉しそうのこの場を去っていく。

 ……立花もそういうことが気になるものなのだな。

 話はその後にしてもいいだろう。

 

 

 ……しかし、それから立花は帰ってこず、一日目が終わった。

 

 

〖天羽奏邸 一日目〗

〖天羽奏邸 二日目

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