なので細かい部分にはお目こぼしを。
1
今は昔、竹取の翁という者ありけり。野山に紛れて竹を取りつつ、よろづのことに使いけり。
「顔を出せい」
「きゃーーー!?」
蓬莱山輝夜は月の都の姫である。――否、姫であった。
月の都においても屈指の身分を誇った輝夜ではあるが、代わり映えのない生活に飽き飽きし、その興味は次第に地上へと移っていった。
そこで一計を案じ、禁忌である蓬莱の薬を服用して不老不死になると同時に月の都からは罪人認定。
狙い通り、地上へと流刑された訳ではあるのだが・・・・・・
「な、何今のっ!? ちょっと首筋がゾワッとしたわよ。私不死なのに!」
無事地上へと辿り着き、「これからどうしようかしら?」などとのほほんと考えていたところ、突然流刑用のポッドが真っ二つ(竹形・製作者が最近、竹ブームだったらしい)。
慌てながら周りを見渡すと、そこには仮面をつけた大男の姿が。
「えーと・・・・・・? どなたかしら?」
「麓の里より竹を取りに参った。竹取の翁である」
怪しげに目を光らせる男性にたじろぎながらも、紆余曲折の末輝夜は竹取の翁の家にて世話になることになっていた。なっていたのである。
「む、帰ったか。その女子は?」
竹取の翁に連れられ彼の住む庵へと戻ると、そこにいたのは一人の美女であった。
輝夜自身自分のことを卓越した容姿の持ち主であるという自覚はあったが、目の前にいたのはそんな輝夜でも唸らざるを得ない美貌の持ち主。
プロポーションに至っては、彼女の教師であった八意永琳に匹敵するであろう。
「拾った。しばし、庵にて面倒を見る」
「そうか。私はスカサハ――よろしく頼むぞ」
何でも竹取の翁の妻であるらしく、輝夜の持つ常識では異色の組み合わせであるが、「地上ってそんなものなのかしら?」と内心首を傾げつつも一先ず受け入れたのであった。
こうして竹取の翁とスカサハの元での、輝夜の地上生活は始まり――
「ふむ・・・・・・? 随分と育ちが早いな」
「刑罰で縮められたのが、元に戻っているだけだから」
「それにしても――うむ。凄まじい才を秘めているとみた。これは一つ、手ほどきをせねばなるまいな」
「へぇ・・・・・・地上の武芸、どんなものなのかしら?」
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「助けてえーりん!!」
「私姫だから、家事とかはちょっと――」
「働け」
「アッ、ハイ」
「今日は服を拵えてみたぞ」
「あら、ありがとう――何コレ?」
「儂の地元の戦闘服だ」
色々とあったが、輝夜は念願であった新鮮な体験をしつつ健やかに育っていった。
やがて彼女の噂は広がり、その美貌を求めて多くの男たちが言い寄ってくることとなった。
◇
2
チヤホヤされるのは嫌いでなくとも、あんまりしつこければ辟易するのが世の常。
そもそも結婚するといっても不死と定命のものではうまくいかないだろうし、遠くない未来に月から来る永琳と共に姿を暗ませる予定なのだ。
翁とスカサハも結婚に関しては強くは言わないので、輝夜も好きにさせてもらうことにした。
輝夜は連日のように訪ねてくる5人の貴公子に、それぞれ難題を与えた。
“仏の御石の鉢”、“蓬莱の玉の枝”、“火鼠の皮衣”、“龍の首の玉”、“燕の子安貝”。
どれも幻と言える一品であったが、貴公子たちは何とか輝夜との結婚にありつくため何とか入手しようと――あるいは入手したように見せようと、手を尽くした。
しかしながら結論から言えばそのどれもが失敗し、目論見通り結婚話はご破算となったのであった。
「案外だらしのないものね。確かに難題ではあったけど、どれも地上にあるものなのに。もし本当に持ってこられたら、一時身を預けるくらいは考えてあげてもいいかなー、って思っていたのだけど」
「ふむ、時に輝夜よ」
「どうしたの、じぃじ?」
「件の5つの宝であるが、我が契約者が以前、入手していたのを思い出してな」
「え」
「宝を手に入れる手腕の持ち主が好みであるのなら、いずれ紹介しよう」
◇
3
5つの難題を経て、輝夜の噂についには帝の耳にまで届くこととなった。帝は輝夜を一目見たくなり呼びつけたがうまくいかず、狩りを装い彼女の顔を見てやろうと一計を案じた。
目論見はうまく進み、帝の瞳はこの世のものとは思えぬ美貌の持ち主を捉えることとなった。
帝は思わず駆け寄り、声をかけていた。
「お嬢さん、是非お婆さんを私に下さい!」
「ふむ、儂もまだまだイケるではないか」
「こんなの絶対おかしいわ」
◇
4
スカサハが帝にアタックをかけられるのを尻目にため息を吐きながらも、輝夜は月からの迎えが来る日が近づくのを感じていた。
「ねえ――じぃじ、ばぁや。以前言っていたとおり、もうすぐ月からの使者が私を迎えに来るわ」
「もうそのような時期か・・・・・・確か月の刑期だったか。存外に短いのだな」
「月の民にとっては、地上は穢れと定命に満ちた地。永遠を生きる者からすれば刹那に等しい時間であっても、十分な罰になると考えているんでしょう」
「月人達は、地上を発ち随分と永いと見える。長命と引き換えに命の営みすら忘れたか。――それが怠惰を呼ぶというのなら、一度我が赴く必要もあるか」
「ふむ、輝夜が育ったという地、儂も些か興味を惹かれるな。話を聞く限り、かの魔神王が目指した理想世界に近いものがある。その際は儂も同行しよう」
「やめて、ホントやめて」
尚、月に赴く云々は翁流ジョークだったらしい。
◇
5
十五夜――ついに月からの使者が輝夜を迎えに来る夜が訪れた。
だが実際の所輝夜は月に帰るつもりなどこれっぽちもなく、使者のリーダーとして訪れる永琳と共に、他の月人を振り切ってトンズラするつもりであった。
共に迎えを待っていたスカサハがふと空を見上げ、目を細める。
「何か来るな。アレが月の使者とやらか?」
輝夜も空を見上がるが、予想に反し月の軍ではなく小さな光点が空から迫ってきて――
「とうっ!! コードネームXX! 月(の使者)に代わってお仕置き……じゃなくって出勤です!」
「いや、誰よあなた」
「おや、そちらにいるのは翁君じゃないですか。あなたも地球まで来ていたんですね。それに……げえっ!? サベッジクィーンまで!? い、今は銀河警察のお仕事はお休み中なので、バトルはなしですよ! 貴女の槍めっちゃ痛いんですからー!」
「ふむ、宙より来た者か。そのサベッジ何某とやらは覚えがないが、月に代わってと言っておったな?」
「ああ、そうでした。ええと、そちらの方が輝夜さんですね。これ、月の八意さんからの宅急便です。確認とサインをお願いします」
差し出された箱の封を解くと、中には月で一般的に使われる携帯端末が。
従者の意図を即座に察し、録画された映像を再生する。
『……この映像が再生されているということは、無事姫様の元まで届いたようですね。単刀直入に言います。月は現在“BB”を名乗る存在から襲撃を受けており、その混乱のせいでちょっと迎えに行けそうにありません。ぶっちゃけ割と、月の都始まって以来の未曽有の危機なので、姫様は今しばらく地上でお待ちください。なお、このメッセージを預けているのは月付近を漂流していたXXさんという方で――』
「え? なに、月の都ピンチなの? 直に見てみたかったかも……」
「ハハハ、故郷の危機というのになかなか豪胆じゃの」
「だっていつも威張り散らしているやつらの慌てふためく顔なんて、そうそう見れるものじゃないし」
「ふむ・・・・・・かの月の蝶、汝の管轄ではなかったか?」
「いえ、翁君。アレ邪神が入ってない、ノーマルの方なんで。となると私が動く根拠としてはちょっと弱いんですよね。電子戦とか苦手ですし」
「えーと、何にせよ、今しばらくお世話になるわ。今後ともよろしくね?」
◇
6
――それが変わった夢であるということは、最初から分かっていた。
実際に輝夜のことを拾ってくれた老夫婦は善良であれど、ああも破天荒ではなかったし。
帝がばぁやに惚れるなんて馬鹿げた展開、起こらなかったし。
月の使者たちは永琳と共に皆殺しにして、二人で地上に隠れ住んでいたし。
“if”どころではなく、そもそも起こるはずもない“虚構”。
だが輝夜はこのハチャメチャな夢を、それなりに楽しんで見ていた。
寡黙で厳しく、しかしながら懐の深さを見せるじぃや。
苛烈で美しく、時に暴走しがちでも面倒見のいいばぁや。
時折訪れる稀人達も奇人変人ぞろいで、輝夜を大いに驚かせながらも楽しませてくれた。
――そんな、刺激的な夢での日々。
だが夢はいつしか終わるもの――摂理とか真理なんて難しい言葉を用いるまでもなく、至極当然のことであった。
「もう、目が覚める時が来たのね――」
いつの間にか、輝夜は黒い――しかしながら暗くはない空間に佇んでいた。
「然り。奇縁は解れ、互いに元の世界に戻ることとなろう」
同じく佇んでいた翁が、厳かな口調で宣言する。
「此度のことは、聖杯の欠片が悪戯をしたといった所か。ふふっ……影の国の女王たる身としては、なかなかに新鮮な体験ではあった」
スカサハが淡い微笑を浮かべ、輝夜を見つめていた。
「そう――短い時間だったけど、お世話になったわね。楽しい夢だったわ」
「別にもう少し、別れを惜しんでくれてもいいのだぞ?」
「ふふっ、じぃややばぁやなんて呼んでいたけど、私これでも多分、二人よりも年上なのよ? 年長者が情けない姿なんて見せられないわ」
「ふむ、これは一本取られたか。ハハハ、しかし私が年を理由にマウントを取られるとはな。クーフーリンめにも見せてやりたかったわ」
「時が止まった身としては、幾ばくかの齢の過多なんて、あんまり意味がない気もするけどね」
輝夜がフッと、表情を崩す。
「でもちょっと残念。二人を永琳にも紹介したかったのだけど。きっと、もう会うこともないんでしょうね」
だが翁は、相対するように答える。
「確かに縁は解れた。だが未だ、糸としては残っている。文字通り、蜘蛛の糸ほどではあるがな」
「あら珍しい。じぃやでも気休めを言うことがあるのね」
「ふふ、我らのマスターが“縁”については一角ある人物だからな。人理の不安定さやカルデアという場の特殊性はあれど、紡いだ縁が如何に細くとも手繰り寄せる様は、私をもってしても驚嘆するしかない。もっとも本人は、縁の糸を結び過ぎて繭籠りといった有様だかな」
ハハハと笑うスカサハに、輝夜が目を丸くする。
「えっ、マスターって……じぃやとばぁや、誰かに仕えていたの? あなた達みたいなトンデモキャラが? どこぞの神か、希代の英傑が相手かしら?」
「強いて言うならば――“人”か」
「・・・・・・なにそれ、からかっているの?」
「いいや、翁殿の言う通りだ、輝夜。全ての人を体現した者でもなく、全ての人の頂点に立つ者でもなく――ただ成り行きから世界を背負い、その上で歩みを止めぬ、ただの人だよ」
「いろいろ矛盾しているように聞こえるのだけど」
「矛盾を内包した上で立ち続けるのが、人であろうさ。そうだな……これ以上私の口から語るのも、直接会ったときの楽しみを奪うことになるだろう。後は自分の目で確かめるがいい」
そこでスカサハは一旦言葉を区切り、眠りにつく子におやすみなさいという母親のように、別れの言葉を口にする。
「そなたとの生活、私も楽しかったぞ。――では、またな。」
続き翁も短く――しかしながら気のせいでなければ、いつもより少しだけ優しく聞こえる別れを交わす。
「怠惰に耽らず、壮健に過ごすがよい」
フッっと、輝夜の意識が遠のく。どうやら、もう本当に時間がないらしかった。
だったら、最後に言うべきことは――
「ここまで期待させたんだから、またいつか会いに――!!」
◇
7
鈴仙・優曇華院・イナバは元“月の兎”である。
今は故あって幻想郷の永遠亭に身を寄せており、人里への薬の行商へ行ったり家事を引き受けている。その日も朝餉の支度をしていたのだが――
「おはようウドンゲ」
「ふぇっ!? 姫様!?」
「何よそんなに驚いて……」
「あっ、すみません。こんなに早く起きてくるなんて珍しくって。あっ、朝餉の支度にはまだ少々時間がかかるので、お待ちください」
「ああ、私も手伝うわよ」
「あ、はい。じゃあこっちを――ってえぇぇぇ!? き、急にどうしたんですか姫様!?」
「どうしたって……別にいつものことじゃない?」
「えぇぇぇ…… 何か悪い夢でも見たんですか?」
「ふふっ、滅茶苦茶でハチャメチャだったけど、夢見は良かったわよ」
輝夜手製の料理による朝食という、永遠亭でも屈指の珍事を終え、その後も輝夜がテキパキと家事をこなしていった為暇になった鈴仙。
戸惑いながらも輝夜と共に一服していたが、ふと昨日人里で耳にした出来事を話題に上らせた。
「そう言えば姫様、紅魔館の方で何かあったらしいですよ」
「へぇ、あそこも毎度毎度よく飽きないものねぇ。また爆発でもした?」
「いえ、あの屋敷の中ってやたらめったに空間を広げているでしょう? そのせいか、何か妙な世界につながったみたいで。なんでも、“チェイテピラミッド姫路城”とかいう訳の分からないもので――」
紡がれた縁は思わぬ魔城を喚びよせ、幻想郷史上もっとも困惑に満ちた異変を引き起こす。
再会の時は、近い――
続きません。
輝夜と老夫婦が、何故かFGOの山の翁とスカサハに結びついたことから出来たネタです。
”不死”や”超越者”といった部分で、似通った要素があったせいかな。
5人の貴公子あたりもFGOキャラを挿入しようかとも思いましたが、勢いを優先しダイジェストで。
仮に当てはめるとすれば、ヒトヅマニア達かなぁ……
帝がスカサハに一目惚れするシーンが、実は一番やってみたかった部分だったり。
「若いし、イケるイケる」
輝夜のサーヴァント的マテリアルも作ってみたい気がしましたが、断念。
仮に作った場合、クラスはムーンキャンサーにしたいところですが、あれいまいち要素が分かりませんからねぇ。
あと、筋力はAになります。
永遠亭組だと永琳はアーチャー、ウドンゲはアサシン、てゐは……ライダーかな? 幸運を運ぶ的な意味で。
ちなみに今回のイベントをクリアした場合、輝夜にはケルト式戦闘スーツの霊衣が開放されます。ピチピチです。
それではここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。