落枝蒐集領域幻想郷   作:サボテン男爵

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「聖晶石の霊圧が、消えた……?」


落枝蒐集領域幻想郷 その10

「おや? 何やら人が集まっていますね」

 

 昼も半ば――マシュの言う通り人だかりができており、賑わっているようだった。

 

「お祭りかな?」

「え~と。あぁ、アレが万歳楽のショーですか」

「万歳楽?」

 

 美鈴の得心いったという声に反応すると、彼女は頷く。

 

「なんでも河童たちが捕まえた怪魚のショーだとか。私は門番の仕事で見たことはなかったのですが」

「河童ですか! 日本各地で知られる水の妖怪ですね。西遊記でも有名な。以前先輩が西遊記を元にした特異点に紛れ込んだ時は、書文さんが沙悟浄になっておられたんですよね?」

「へぇ、そんなことまで・・・・・・でも沙悟浄が河童扱いなのは、日本での話ですよ。そもそも中国には河童いませんし」

 

 一行は人だかりに近づいていき、ショーの様子を伺う。

 

「えっと、あのツナギ? を来た小柄な方々が河童ですか? 見た目だけでは人間の子供と見分けがつきませんね」

「ああ見えてなかなか強かな連中ですよ。幻想郷の河童は技術者集団で、独自の技術開発を行っています」

 

 立香はカルデアの科学者チームが聞いたら、興味を持ちそうだなと考えた。

 

「商機に目ざとく、屋台なんかもよく出していますね。このショーも金稼ぎの一貫でしょう。まあ偶にやらかしているみたいですが」

「なんだかそれだけ聞くとあんまり妖怪らしからぬような……それはともかく、万歳楽とはアザラシのことだったのですね。でも一緒にショーをしているのは――」

「ジャンヌだね。リースも」

 

 アザラシを使ったショーの中に紛れ込んでいるのは、見覚えのある水着の聖女様。

 使い魔のイルカ――リースと共に、様々な芸を披露していた。

 ジャンヌ自身もサーヴァントとしての身体能力を活かしてアクロバティックな動きを見せており、観客たちには好評なようだった。

 もっとも男性客の目は結構な割合、ジャンヌに行っているようだったが。

 

「あれ? マスターにマシュ殿じゃないですか」

 

 立香たちを見つけて近寄ってきたのは、最近新しく加わった円卓の騎士。

 

「ガレスちゃん」

「はい! お疲れ様です。今は休憩中ですか?」

「人だかりが気になって。ガレスちゃんは?」

「ええ、実はこのショーの伴奏をトリスタン卿が務めておられて。せっかくなので見学させていただいているところです」

 

 耳を澄ませば、確かにショーを補助するようにBGMが鳴り響いている。

 もっとも竪琴から奏でられているとは信じがたい系の音楽だったが。

 

「それではオオトリ、行きますよー! おいでスクラージ! 

豊穣たる大海よ、歓喜と共に(デ・オセアン・ダレグレス)』!!」

 

 ジャンヌによって巨大なクジラが召喚され、潮吹きのシャワーが観客たちに降り注ぐ。

 ショーの興奮は最高潮に達していたが、立香は思った――やり過ぎだ。

 

「あっはっは! いやー今回は儲かったよ! 最近はショーも下火になっていたからねぇ。聖女サマも助かったよ!」

「ふふ、どういたしまして。万歳楽も労って上げて下さいね?」

「勿論さ! 水に住む者同士、仲良くやっていかないとね。こいつも久しぶりに本物の海水を堪能できて嬉しそうだしさ」

 

 ショーが終わり舞台裏へと向かった立香たちを出迎えたのは、そんな会話だった。

 

「あら、マスターもいらしていたんですね? 私たちのショー、どうでした? 初めてなのでうまく出来ていたかどうか……」

「本職でもびっくりだと思うよ。でも宝具はやり過ぎじゃない?」

「てへっ☆」

「許す」

 

 ウインクしながら舌を出してくるジャンヌに、立香は細かいことなどさっさと水に流すことにした。

 

「えぇっと、立香さんって意外と単純で?」

「はい……時折非常に」

 

 苦笑する美鈴に目を伏せるマシュ。でも昔の偉い人だって言っていた。『可愛いは正義』だって。

 

「おっと、アンタらは聖女サマのお知り合いで?」

 

 河童の少女に自己紹介すると、彼女も名乗り返してくる。

 

「わたしは谷河童のにとり。よろしく頼むよ、盟友! 今回お宅のスタッフには随分世話になったよ」

「どういたしまして。でも今回だけこれだけ派手だと、次から大変じゃない?」

 

 なんせイルカやらクジラやら水着美女がいたのだ。悪い言い方になるが、アザラシ一匹ではどうしても力負けするだろう。

 

「ふふん♪ わたしたちだって何も考えていないわけじゃないさ。今回のショーから色々着想を得たことだし、我々のテクノロジーで負けないくらいの盛り上がりにして見せるよ」

 

 勇ましく胸を張る姿からは、技術者としての自負が感じられた。

 ――なのだが隣にいる聖女と並べてしまうと、胸を張ったところで(以下略

 

 そんな折、ポロロンという聞き覚えのある音が耳に届く。

 

「円卓の騎士・トリスタン――参上しました。舞台からもマスターたちの様子は伺えましたが、挨拶が遅くなり申し訳ない」

「あっ、トリスタン卿! お疲れ様です! 音楽、とても素敵でしたよ!」

 

 真っ先に彼に近づいていったのは、元気印のガレス嬢。

 そんな彼女にトリスタンも笑みを浮かべる。

 

「ありがとうございます。もっとも今回は、私がメインという訳ではなかったですがね。いわば添え物――しかし主役の魅力を最大級に引き出しうる名脇役。ふふ……これからは“うっかりトリスタン”と呼んでくれてもいいのですよ?」

 

 自慢気なトリスタンであったが、立香は思わず脱力してしまった。

 

「えーと、トリスタン。それ元ネタ知ってる?」

「いえ、直接は。しかしジャンヌ・ダルクのオルタ殿が熱弁してくれたもので」

「そっちのジャンルにも手を出してたかー」

「むう、私にはそんな話題振ってくれないのにー。お姉ちゃんは悲しいです」

 

 突っ込むべきかと3秒ほど考えた結果スルーすることにし、気になっていたことを尋ねる。

 

「ところで二人はどうしてショーに?」

「ええ、それなのですが……にとり殿、約束の報酬は?」

「勿論用意しているよ。ショーも盛り上がったし、色をつけさせてもらったよ!」

「それは助かります――これで円卓の名を汚さずに済みました」

 

 先に口を開いたのはトリスタンだった。

 

「実は今日の昼、夜雀が開く屋台で飲み食いをしたはいいモノの、このトリスタン一生の不覚。こちらの金銭を持ち合わせていないことに気付き、ここで行われるというショーに売り込み営業をしたのです。屋台の主人は『お金は別に良い』と言ってくれましたが、さすがに幼い少女が一人切り盛りする店から無銭飲食となれば騎士の名折れ。モードレッドですら本気で渋い目をするでしょう」

「へー、そんな理由だったんだ。ミスティアのヤツがいいって言ってるんなら、別に払わなくてもいいだろーに」

「いえ、さすがにそのような訳には」

「騎士サマは律儀だねぇ……あ、はい。これお給金」

 

 にとりが別の河童が持ってきた封筒を受け取り、そのままトリスタンへとパスする。

 

「ありがたく頂戴します――ふむ、これだけあれば昼の支払いをしても十分余りますね。そちらのチャイナ服のご婦人。もし良ければ今夜一杯いかがですか?」

「えっ、私ですか? あははー、ナンパなんていつ以来ですかね。でも残念ながら、今夜は先約が入っているんですよ」

「――トリスタン卿? 私、浮気は良くないと常日頃言っていますよね?」

 

 ジト目で見てくるガレス相手にも、どこ吹く風で口笛など鳴らして見せるトリスタン。

 この男、まるで反省していなかった。

 

「えっと、ジャンヌさんは何故ショーに?」

 

 マシュがその空気を変えるように言葉を発する。

 もっともトリスタンの代わりにいたのがランスロットであれば、ガレスではなくマシュが詰めよったのは想像に難くないだろうが。

 

「私は元々妹たちを追いかけてきたんですが、途中で見かけた万歳楽が気になって。話しかけてみて、後は成り行きですね。マスターは、アザラシ好きですか?」

「う~ん、味は悪くなかったかな」

「まさかの食レポっ!?」

 

 愕然とした顔の聖女様の表情は、なかなかレアであった。

 

                     ◇

 

「えぇ、いい出来だわ。マイスター・アリス」

 

 快楽のアルターエゴ・メルトリリスは人形の魔法使いに向かってそう告げた。

 ここは魔法使いアリスの家にして工房。

 メルトリリスは差し出されたフィギュアを受け取り、ご満悦だった。

 

「だったらよかったわ。外来本でこういうものもあるってことは知っていたけど、実際に作るのは初めてだったから」

 

 抑揚の少ない声で返すアリスだが、別に嬉しくないわけではないのは、僅かに綻んだ彼女の口元が語っていた。

 

「カルデアにも優れた作り手は何人かいるけど、本職という訳ではないから。腕のいい職人と縁を結ぶ機会は貴重なのよ。この世界とも、いつまで繋がっているかわからないことだし」

「そうなの? わたしとしても人の技術には興味があるから、ちょっと会ってみたかったのだけど」

「あら、てっきり我が道を極めていくタイプだと思っていたわ」

「基本的にはそうだけど、別に頑なになっているわけじゃないわ。たまには他の風にも触れておかないと、感性が腐っていくのよ。それは私のような“作る者”にとっては致命的だわ」

 

 『あくまで私の場合は、だけどね』と続けたアリスに、メルトリリスは頷き家の中の一角に目をやる。

 

「あの子たちを招いたのもその一つ? 私みたいに客としてならともかく、あの子たちまで歓迎するのは意外だったけど」

 

 視線の先にいたのは、所謂カルデアお子様チームの一部――ジャック、ナーサリーライム、ジャンヌ・ダルク・サンタ・オルタ・リリィだった。

 今はアリスの操る人形相手にキャッキャとお茶会を楽しんでいる。

 

「訪ねてきた相手にお茶を振舞うくらい、普通でしょう? 私、都会派だから」

「……こんな森の中に住んでいるのに?」

「住んでいるのによ。――ところで気になっていたんだけど、あの私と同じ名前の女の子。彼女は人形のサーヴァントなのかしら?」

 

 アリスが指摘したのは、球体関節が見え隠れする少女――ナーサリーライム。

 

「本来は本のサーヴァントよ。彼女はマスターの心を映す固有結界。契約者によって姿を変えるわ」

「へぇ……じゃあ今のマスターさんはよほど少女趣味なのかしら?」

「……そこの所、ちょっとややこしいのだけれどね。アレは以前、別件で召喚された時の姿。真名だって別にアリスって訳ではないし――ホント、なんでよりにもよってあの姿で……」

「そんなことまで知ってるってことは、あの子とは結構親しくしているの?」

「色々あったのよ。色々とね……それよりも人形のサーヴァントだったら、ダンゾーとかがまさにそれね。本人に言わせれば絡繰りの忍びだそうだけど」

「忍び――NINJAってやつね! NIN――JUTSUっていう独自の魔法で、軍相手にも戦える一騎当千の凄腕エージェントだと聞くわ。傀儡を操ったりもするそうだし、少し親近感が湧くわね」

「……そのトンデモイメージ、ほんとどこから来たのかしらねぇ? サブカルチャーの影響かしら――まああいつらに関しては、ちゃんと術も使うんだけど」

 

 『やっぱり!』と手を合わせるアリスに、メルトリリスは小さく嘆息した。

 同時に、マスターも何だか妙竹林な術を伝授されていたわねぇ、なんて考えつつ。

 

「他にはメカエリチャンとかもいるけど――いいえ、やっぱりアレは違うわね。どう考えても技術体系が違い過ぎるわ。しかも私と同じアルターエゴだなんて……イロモノ枠のくせにプリマたる私を差し置いて、リップ共々PVにまで出ているし」

「何の話?」

「あら? 私ったら何を口走って……少し疲れがたまっているのかしら?」

 

 何故か脳裏に浮かんだ謎の情景に、不思議そうに小首を傾げるメルトリリスだった。

 

                      ◇

 

この日、本居小鈴は変わった客を迎えていた。

 

(外来人? それとも妖怪かしら? あんなに足を出して……)

 

 人里の人間では滅多に着るもののいない、洋装の黒いコートに短いスカート。

 病的なまでに白い肌に、鋭い光を宿した金の瞳。

 

「ちょっといいかしら?」

「あ、はい。何かお探しでしょうか?」

「いえ、ここでは本の買取をしていると聞いたんだけど――コレ、買い取れるかしら?」

 

 女性は背負っていた荷物をカウンターの上に乗せる。

 

「えっと、拝見させてもらいますね……ってこれ、かなり新しい本ですね。というよりも製本仕立てみたいな」

 

 貸本屋と仕事柄と自らの趣味から多くの本を取り扱う小鈴の目には、直ぐに分かった。

 ぱらりぱらりと、ページをめくっていく。

 

「漫画ですか……でも紙やインクの質からして、人里で刷ったものじゃない?」

「へぇ、さすがは本職といった所かしら? よくわかるものね」

「はは、ありがとうございます。でも、あなたは一体……」

「その本たちは、幾度にも渡る繰り返しの中で消え去っていったモノ。とはいえBBの計らいか、データだけは残っていたからね。折角だから製本しなおして持ってきただけよ。幻想郷は、忘れられたモノが行きつく先と聞いたわ。だったらこの本たちの居場所としても、それなりに相応しいでしょう? 私も、少し足跡を残しておくくらいなら主も許してくれるでしょう」

「はぁ……」

 

 小鈴には女性の言っているは半分も理解できなかったが、この本たちに深い思い入れがあることは理解できた。

 ともかくまずは仕事だ――そう思い直し、改めて本を検分する。

 

「幻想郷では、あんまり見ないタイプの本ですね」

「そうかしら? あぁ、確かにココの品揃えを見る限りでは、そんな感じではあるわね」

「えぇ、特にこの『詠天流受法用心集』なんて妖魔本でもないのに、何か不思議なモノを感じると言いますか……」

「それだけは持ってこなかったのに何であるのかしら!?」

 

 竜の魔女――ジャンヌ・ダルク・オルタは心の底から叫んだ。

 




〇河城にとり
幻想郷の河童。水を操る力を持つが、むしろ技術者としての側面が強い。独自の技術開発を行っており、新しい技術に関しても貪欲。割と腹黒い一面も持つ。

〇ジャンヌ・ダルク(水着)
夏に浮かれた聖女様。イルカを撃ちだす正統派アーチャー。使い魔のイルカは実は新手のスタンド能力で、倒した相手を洗脳する力を持っているという噂も・・・・・・

〇ガレス
円卓の騎士第7席。とにかく手がキレイ。乙女の嗜みも心得ている。

〇トリスタン
琴を奏で、音階を飛ばす正統派アーチャー。初登場の1部6章では反転し冷酷な姿を見せたが、後はまあ察して。

〇ミスティア・ローレライ
屋台を経営する夜雀。人を鳥目にする能力を持っているが、トリスタン相手には『この人ずっと目を閉じているから力が意味ない!?』と勝手に慄いていた。なお、トリスタンは糸目なだけでちゃんと見えている。肝心な場面ではクワッと目を開く。どことは言わないが。

〇メルトリリス
快楽のアルターエゴ。フィギュア収集が趣味で、今回アリスの元を訪れた。何気にキャラソン持ちなので、トリスタン演奏メルトボーカルとかもやれる。貞淑に、隠しています!

〇アリス・マーガトロイド
七色の人形遣い兼魔法使い。■■■■■■■■■■■■■■■■■。メルトリリスとの会話から、現在ではカルデアの■■■■■■■■に興味を持つ。――なのだが、特に本編中この設定が活かされる予定はない。

〇ジャンヌ・ダルク・オルタ(新宿)
聖杯から生まれ、人理の不安定さの中でのみ存在を許されたサーヴァント。いずれ消えゆく身の足跡を残すべく、幻想郷を訪れた。あと普通に観光目的。

〇本居小鈴
人里の貸本屋の少女。どんな文字でも読める能力を持っている。危険なモノや超常の存在を恐れる一方惹かれる面も持つ。

〇詠天流受法用心集
清く正しい仏門スローライフエッセイ。



FGOも4周年を迎えました。低レア鯖大量追加にはビビった……
福袋ではエレちゃん狙いで3騎士+α。金ランサーまではいったものの、師匠でした。やはり縁がないのか……。とはいえこのSSも、元はスカサハから始まった部分もあるんですよね。これも書いたら出る教? 呼符は間違えてシュレッダーに突っ込んじゃったので、エドモンに再発行してもらいに行かなきゃ……

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