落枝蒐集領域幻想郷   作:サボテン男爵

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落枝蒐集領域幻想郷 その13

「紫は、いつもはもっとのらりくらりとした奴なの。――あそこまでストレートに事を進めようとするのは、はっきり言って珍しいわ。本気だって言ったのも、多分本当なんでしょう。何がアイツをそこまで突き動かすのかは知らないけど、あなた達も真剣に考えることね。もっとも、その様子じゃあ言うまでもないでしょうけど」

 

 そこまで言い残すと、『後はあなた達の問題』だとレミリアは部屋から出ていった。

 

『異聞帯を有効活用と言っていたな……どういうことだ。空想樹と何度も対峙してきた我々でさえ、まだ分かっていない部分の方がはるかに多いというのに――。ヤクモユカリはアレが何なのか、見出したとでもいうのか? そもそも一体どこであそこまで我々の情報を……』

 

 頭を抱えるゴルドルフ所長にホームズは告げる。

 

『どこで――というのはおそらく、このカルデアでしょう。思えば食堂の幻想郷案内掲示板――アレは彼女が設置したものと見るべきだ。サーヴァントが減り、手薄になったカルデアで情報収集を行った。無論警備システムもあるし少なくないサーヴァントも残っていたが、それが為せる以上かなりの力を持った相手なのは間違いない。我々が把握しない、全く別の情報源を持っている可能性も否定はできないが――』

『それよりも今考えるべきは、彼女の提案に乗るか乗らないかっていうことだよね』

 

 ダ・ヴィンチちゃんの言葉に、一同は静まり返る。

 

「あの、ダ・ヴィンチちゃん。私たちの人類史を取り戻すための目途というのは……」

『可能性レベルで言えば幾つか存在するが――いや、希望的観測は止めてはっきりと言おう。現時点において、汎人類史を修復するための手段は確立されていない。全て手探り状態――暗中模索というやつだよ』

『そもそも、地球が白紙化したプロセスからして解明できていませんからね。人理焼却事件では原因となった特異点を解消することで、人類史を正常な姿へと戻すことができました。対して今我々が直面している濾過異聞史現象は、汎人類史と異聞帯とが激突し合うことで起こる事象転換作用――要するに歴史の切り替えなのですが、ここで問題となるのが濾過異聞史現象と地球の白紙化は、別の案件である可能性が非常に高いということです。濾過異聞史現象における勝者が汎人類史となったところで、残るのは白紙化したままの地球というケースは否定できません。……そうなれば汎人類史も、いずれ“先がない世界”として正式に剪定事象となるでしょう』

 

 シオンは説明口調で、そう締めくくる。――だがそれは……

 

「勝っても、先はないかもしれないっていうこと?」

 

 いつも頭の片隅にあり、考えないようにしていた疑問。立香はそれを口にしていた。

 だとしたらそれは――残酷な話なのだろう。

 既に3つの異聞を狩り取った――否、世界を滅ぼした。

 

 異端のヤガは、オレたちの間違いこそがお前たちの正しさの証明だと吼えた。

 花と集落を愛する少女の元を、彼女たちの終わりどころか別れも告げずに立ち去った。

 唯一の人となった皇帝から、人の未来の希望を託された。

 

 だがその行きつく先が、あのどこまでも続く白い大地なのだとしたら――

 

『ええいっ!!』

 

 ゴルドルフ所長が突如、大声を上げた。

 

『いい加減頭が煮詰まってきた! 今の流れでミーティングを続けたところで、悲観的な方向にしか頭が働かんだろう! 私はそういうの、よく知っているからな。今日はもう遅い――こういう時は一旦寝て、頭をリセットするに限る。という訳で今日の所は解散だ! 明日の朝、再度ミーティングを行う。お前たち現地班も、体と頭をよく休めておけ!』

 

 そう言い終えると、ゴルドルフ所長はすぐさまスクリーンから姿を消した。

 

『あらら、行っちゃった。でもゴルドルフ君の言うことももっともだ。人間は走り続けられるようには出来ていない。時には立ち止まることも必要だ』

『我々裏方は気になることがあるのでまだ解析作業を続けますが、お二人は今日の所は休んでください。――あ、眠れそうにないならよく効く睡眠導入剤を送りますよ? なんとアトラス院と錬金術師パラケルススがコラボした、夢の一品です!』

「結構です」

『試験的に少数閻魔亭にも置いてもらい、購入された日本在住匿名希望の神霊Sさんからは、『あの時これがあればもっと楽だった』と高評価のコメントもいただいているのですが……』

「余計に結構です」

『そんなー』

 

 残念そうな顔をするシオンを尻目に部屋を立ち去り、各々に部屋に向かう。

 その途中、武蔵ちゃんに出会った。

 

「あ、立香君! ……うん、難しそうな顔しているわね。大変な話だったとは、チラリと聞いたけど。今から寝るところ? だったらいいものがあるからちょっと持ってくるわ!」

 

 一旦走り去り、再度戻ってきた彼女が持ってきたのは変わった柄の枕だった。

 

「はい、最近幻想郷で流行っているっていう安眠枕! 私も使ったけど、効果はバッチリだったわ。休めるときに休むことこそ重要なのです!」

 

 ありがとうとお礼を言い、武蔵ちゃんと別れる。

 そして部屋の前まで来て、マシュと向き合った。

 

「あの、先輩。私は……」

 

 何かを言わなければならないけど、うまく言葉に出来ない――そんな表情だった。

 そんな彼女の頭を、ゆっくりと撫でる。

 

「あ――」

 

 幼いころ、急に訳もなく不安になることがあった。その時には母親が、こうして頭を撫でてくれた。

 出会った頃は限りなく無垢だったマシュ。彼女は人類史を巡る旅を通し、色彩を得ていった。

 良くも悪くも、人間らしくなった――同時に今がきっと、彼女にとって一番不安定な時期なのだ。

 自分なら彼女を正しく導ける――なんて傲慢なことを考えるつもりはない。

 だからといって、不安に揺れるその瞳を放ってもおけなかった。

 例え傷をなめ合うような関係であっても、人の熱が必要な時はあるはずだ。

 しばらくそうしていて――やがてお互い気恥ずかしくなってきた。

 

「あ、あの先輩! その、ありがとうございました。――おやすみなさいっ!」

 

 顔をわずかに赤く染めて去ってく後輩を見届ける。

 手のひらに残った彼女の熱を名残惜しく感じながらも、立香も部屋に入る。

 そのままベッドに潜り込み、武蔵ちゃんから預かった枕を頭に敷いて――視界が暗転した。

 

                      ◇

 

 ――気が付けば、見覚えのある場所に立っていた。

 暗い空。燃え盛る現代日本の街並み。全ての始まりにして、幾度となく訪れた場所。

 即ち“特異点F”。

 

 メインサーヴァントであるマシュ。短い付き合いしかなかったが、強く心に刻まれたオルガマリー所長。不思議なアニマルフォウ君。頼れる兄貴分であるクー・フーリン。

 そしてスクリーン越しにサポートしてくれたドクター・ロマン……

 

 覚悟なんてなかった。サーヴァントや魔術どころか、右も左も分からなかった。それでも旅の始まりとなった、この場所。

 自然と立香はその旅路に思いを馳せようとし――

 

 ガッチャーーーーンッ!!

 

 ――と、世界が割れた。

 同時に羊と人の顔と機械を組み合わせたような形容しがたい怪生物? に、見覚えのあるモコモコのお兄さんと、これまた見覚えのある黒コートに黒い帽子の青年がはね飛ばされていく姿が目に映る。

 なんか感慨とか諸々、台無しだった。

 

 あんまりな出来事に呆然としていると、いつの間にか特異点Fは消え去っており立香は宇宙空間にも似た不思議な場所に立っていた。

 ――いや、上も下もないような場所で立っているというのもおかしな話だが。

 そしてここにいるのは立香一人ではなく。

 

「まったく、あんな性質の悪そうな夢魔がどっから入り込んだんだか……もっとも私の目が黒いうちは好きにはさせませんが」

 

 かく言う彼女の瞳は、青かった。

 瞳のみならず髪も青く、その頭上には真っ赤な帽子――

 

「新手のサンタさん?」

「私はサンタではなくドレミー・スイート。夢の支配者です。あなたは――あれ? 見覚えがない顔ですね。スイート安眠枕のユーザーアンケートを取りに来たのですが」

「あの、さっきの二人は?」

「ああ、さっきの夢魔? なんか夢を使って悪事を企んでいる気配がしたので、轢きました。不自然に作られた夢は精神を強く侵すのです。黒コートの方は……まあぶっちゃけ巻き添えなのですが、あんなに負の念を纏っていたらやはり安眠の敵でしょう」

「えっと、一応知り合いなんで」

「えっ? 友達は選んだ方がいいですよ?」

 

 初めて会った少女に、ガチで心配されてしまった。

 一先ず自己紹介をして、ここがどこなのかを尋ねる。

 

「ここは夢の世界です」

「夢――」

 

 また何やら奇妙な夢体験に巻き込まれたのだろうか?

 色々と大変なタイミングで。

 

「それでは話を戻しましょう。先ほど言ったように安眠枕のユーザーアンケートを取りに来たのですが、使い心地はどうでしょう?」

「あの変な模様の枕?」

「変とは失敬な。しかし素直な意見として受け止めておきましょう。それで使い心地は?」

「……すぐに寝ちゃったので、何とも」

「なるほど、では睡眠導入効果は高いということで。他に何か気になった事は?」

「えっと――」

 

 その後も幾つか質問を受け、それに答えていく。

 ドレミーはふんふんと頷きながら、やがて質問を終える。

 そして唐突に違う話を切りだした。

 

「ところで、実は全ての生き物の夢というのは繋がっているのです」

「はあ」

「だから夢の中で見知らぬ場所に行ったり、見知らぬ人に出会うこともあります」

 

 急に始まった講義に、立香は戸惑いながらも相槌をうつ。

 

「あなたも夢の中で、不思議な体験をしたことがありませんか?」

「割としょっちゅう」

 

 カルデアに来て立香自身大きな変化を迎えたものと言えば、まさに夢だろう。

 数多のサーヴァントと契約し、夢の中で彼らと見知らぬ場所へと旅立ち、戦う。

 時にはレイシフトまでしていることも――そんなことが幾度もあった。

 そのことをドレミーに話すと、彼女は大真面目な顔で頷いた。

 

「やはりそうですか」

「あの、それが?」

「あなた、このままじゃその内夢に殺されますよ」

「………………」

 

 ――否定は、できなかった。

 監獄塔をはじめ夢の中で幾度となく危ない橋を渡り、何とか生きているという現状なのだ。

 

「少し前も夢と現と都市伝説でトラブった女の子がいましたが、あなたの症状はその比ではない。サーヴァントとの契約でしたか……それは本来、1対数百という比率で結ぶ前提ではないのでしょう。今のあなたは、言わば結んだ縁の糸で首を絞められている状態です。正常に夢を見られなくなっているという状況は、私としては見過ごせない」

「……だったらどうするの?」

「切りましょう」

「切る?」

「サーヴァントとの契約」

「え、嫌だ」

 

 考えるまでもなく、そんな言葉が口から出ていた。

 

「……切る、とは言っても契約の一部だけです。夢を繋げる要因を部分的に削除して、他人の夢に引きずられ過ぎないようにする。悪くない話だとは思いますが?」

 

 正論だ。不思議そうに首を傾げる彼女は、純粋にこちらの身を案じてくれているのだろう。

 立香自身、第3者的な立場に立てば彼女の意見を支持するかもしれない。

 ――だがそれでも、『うん』と言う気にはなれなかった。

 

「みんなは――」

「はい」

「オレが喚んで、応えてくれた。それぞれの都合も事情もあるだろうけど、それでもオレみたいなただの人間に力を貸してくれている」

 

 そして勘違いでなければ、信を置いてくれてもいる。

 

「みんなの夢がオレと繋がるのなら、多分それはオレみたいなただの人間を必要としてくれている時だと思う。だったら今度は、こっちが応える番なんだ」

「それは義理?」

「それもあるし、そうしたいっていうのもある」

「……例えそれで、死ぬことになっても?」

「死なないように努力する。みんなも、オレが死なないようにいつも守ってくれている」

「他力本願ですね」

「本当にそう思うよ」

 

 自分ひとりじゃ何もできない。

 人理修復の旅だって、一人だったら旅にすらならず野垂れ死んでいただろう。

 ――それでも、いつだって応えてくれる誰かがいた。

 ――道を作ってくれる誰かがいた。

 ――背中を押してくれる誰かがいた。

 ――時には立ち止まり、共に泣いてくれる誰かがいた。

 

「――そっか」

「……? 何か?」

「いや、ちょっと心の整理がついただけ」

「それは良かった。良き眠りは心の安寧を保ちます」

「あの、さっきの話はもういいの?」

「あなたがいいというのなら、まあいいでしょう。嫌々ではなく進んで損を取りに行くというのなら、別に止めはしません。元々あなたは管轄外のようですし、丁寧にアンケートに付き合ってくれたお礼みたいなものでしたから」

 

 『お礼の押し売りはよくないですからね』と、ドレミーは変わった笑みを浮かべた。

 続いて手を軽く振ると、ベンチが現れる。

 

「良ければ、もう少しお付き合いいただいても?」

「いいけど、何を?」

「話を聞かせてもらえますか? あなたがこれまで見てきた、夢の話を――なんせ私は夢を喰う妖怪ですからね」

「……夢の記憶、消えたりしない?」

「消えません。できますけど、消しませんよ。忘れたい夢があるなら請負ますが」

 

 勧められてベンチに座り、ポツリポツリと話を始める。

 楽しかった夢、悲しかった夢、戦いの夢、訳の分からない夢、救いのない夢――

 彼女はその一つ一つを興味深そうに――咀嚼するように耳を傾ける。

 

 そしてふと、思いついたことを尋ねる。

 

「そう言えば――」

「はい?」

「八雲紫って人のこと知ってる?」

「境界の妖怪ですか。彼女がどうかしました?」

「実は――」

 

 彼女との邂逅と交渉のことを話すと、ドレミーは考え込むように唸った。

 

「なるほど……彼女がそのようなことを」

「すごく、真剣な様子だったから」

「幻想郷では、胡散臭さの代名詞みたいな妖怪なんですけどね。――しかしそれは、展開次第では私にとっても好都合かもしれません」

「ドレミー?」

「こちらの話ですよ。あなたがどう返事をするかは知りませんが、場合によっては――。……今日の所は、そろそろお開きにしましょうか」

 

 ドレミーがポンポンと、自分の膝を叩く

 何事かと首を捻ると、彼女の手が伸びてきて頭を掴まれ――何故か膝枕されていた。

 目を白黒させていると優しい子守唄が響き――立香の意識は急速におちていった。




〇モコモコのお兄さん
夢魔のハーフ。夢を通してこれまでの旅の記憶を追体験させ、立香を意識誘ど――ゲフンゲフン。エールを送ろうとしていたところ怪生物に轢かれ退場した。

〇黒いコートに黒い帽子の青年。
クハハの人。夢を通して立香に発破をかけようとベストタイミングを狙って出待ちしていたが、モコモコのお兄さんに巻き込まれる形で怪生物に轢かれ退場した。

〇ドレミー・スイート
夢の支配者。獏――動物の方ではなく、妖怪。サンタ帽と羊属性を兼ね備え、アルテラから一方的にライバル視されているかもしれない。


あ、ありのまま起こった事を話すぜ! 最初は普通にこれまでの旅を追体験して立香が覚悟を決め直す予定だったが、『それ、その内本編でやるよね? ってかバビロニアエピソード0でもうやったよね?』とか考えていたら、いつの間にかドレミーが文面を支配していた! 催眠術とか超スピードとかそんなチャチなモノじゃねぇ。もっと恐ろしいドレ顔の片鱗を味わったぜ……
注)夢オチではありません。
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