現在開催中のイベント、水着剣豪七色勝負のネタもあるので未プレイの方はご注意を。
照りつける太陽、吹きすさぶ熱風。
人の手によって切り開かれ、開発された大都市を一歩出れば荒野が広がる世界。
西部絢爛賭場ラスベガス――2019年の夏に舞台に、藤丸立香は訪れていた。
「ふう……」
額を伝う汗を拭う。
日本とはまた別種の暑さに、都市内でこれなら荒野に出ればどうなのか――などと考えてしまう。いや、別に出るつもりはないのだが。
カルデア所属の葛飾北斎を始めとしたサーヴァント数騎が謎の水着化を果たし、その解決の為訪れた特異点。
水着剣豪やらカジノやらと謎展開が相次ぐが、それはまあいつもの事。
一先ず全てを受け入れつつ(もしくは諦めつつ)、解決をはかるのが常道。
そう、特異点――特に夏やらハロウィンやらには、常識を投げ捨てるものなのだ。
「まずは軍資金、か」
特異点攻略の為にはこの疑似ラスベガスに存在するカジノを攻略していく必要があるのだが、そのためには軍資金が必要になってくる。QPである。
稼ぐ手段もラスベガスらしくカジノとなるのだが――
「何から手を付けるべきか」
今はカジノの中で皆と別れ、それぞれギャンブルに挑んでいる最中である。
――とはいえ立香もこの手の本格的な賭場は初めて。
日本生まれで海外などカルデアに雇われるまで行ったことがないのだから当然だが、初めての場所では些か戸惑う。
とはいえ皆が動き出している中いつまでもぼーっと躊躇している訳にもいかず、冒険野郎の気質を発揮して適当な席に付こうとするが――
「あら?」
どことなく聞き覚えがある声に、思わず振り返ってしまった。
――が、そこにいたのは頭をよぎった人物とは別人。
なのだが……よく似ている。
文字通り大人と子供なのだが、少し前に起きた事件で縁を結んだ吸血鬼の少女に。
青みがかった、僅かにウェーブのかかった銀のロングヘアー。
品のいい赤色のワンピースタイプのドレス。
整った美貌の全容は、かけているサングラスで伺うことができない。
「ご機嫌よう、カルデアのマスターさん」
「……こんにちは。えっと、どこかで会った事が?」
「直接は初めてね。でもあなた、サーヴァント界隈ではちょっとした有名人よ」
確かに人理焼却を覆した辺りから、ポツポツこういう扱いを受けることはある。
未だに慣れないし、正直くすぐったくはあるのだが。
「私はちょっとした英霊休暇でこの特異点に来たんだけど――」
「英霊休暇」
「あら、知らない? 正規の英霊にはそういうのもあるのよ。守護者とかは対象外だし、私も正規の英霊とは言い難いんだけど……。あとはどっかで縁でも拾えるかなーって。あなたはいつも通り、特異点の修復に? ここはあなた達の世界線だものねぇ」
「ええ、まあ。あと、ウチのサーヴァント達が水着剣豪になっちゃって」
「……まーた変なことになっているわよねぇ。人理が不安定な分、普段なら大勢に押しつぶされる可能性が浮かび上がってきているというか。まあそういうの、嫌いではないけど」
クスクスと笑う姿に、やはりどうにもデジャヴを感じてしまう。
「ああ、そう言えばまだ名乗ってなかったわね」
彼女はポンと手を叩き、しかしながら「う~ん」と悩まし気な声を漏らす。
「――とはいえいきなり真名開示もつまらないし、そうねぇ。ラスベガスのキャスター、はちょっと安直だし」
「とりあえずキャスターなんですね」
『いやちょっと待って!』
いきなりいつもの空中投影スクリーンに、ダ・ヴィンチちゃんが現れた。
『彼女の霊基の観測データ! グラ――』
「はいぷちっ」
彼女の右手がチョキを作り閉じると、同時に通信が途絶えた。
「夏だからねぇ。通信も調子が悪くなるわ、うん」
「え、いや。今明らかに……」
「あー、私の名前だったわねー。全く、出会ったばかりの美人にいきなり声をかけてくるなんて、なかなかのプレイボーイっぷりよね」
あからさまに取り合う気がない様子だった。
しかもいつの間にか立香から声をかけたことになっているし。
「パエリア」
「はい?」
「パエリア・S。とりあえずそう呼んでちょうだいな」
「……好きなの? パエリア」
「え? いや、別に。和食の方が好きだし」
何となく、インド異聞帯で会ったクリプターを思い出してしまった。
「ところであなた、カジノは初めてのようね」
「あ、はい――いえ」
肯定しようとし、寸でのところで踏みとどまる。
危ない危ないと首を横に振り、自信満々で答える。
「ガチャを少々嗜んでいます」
「しょっちゅう沼ってるって顔してるわよ」
サングラス越しでもわかる――彼女の瞳が呆れていると。
男のちっぽけなプライドは砕け散った。
「まあいいわ。これも縁――ちょっとだけお姉さんからアドバイスしてあげましょう」
パエリアは妖艶に笑い、赤い唇から牙が覗く。
「――とりあえず、大穴一点狙い。全財産をチップに」
「どう考えても悪魔の誘いですね分かります」
こいつぁやべぇと回り右をするが、肩をガシッと掴まれる。
細腕に見合わぬ怪力だった。
「実はバーサーカー?」
「肉体派のキャスターとか、今日日珍しくもないでしょう。――悪魔なのは確かだけど、まあ待ちなさいって。小出ししてビギナーズラックを使い切る前に、でかいの狙った方がいいのよ」
「負けフラグ?」
「私以外ならね」
そのままギリギリと引っ張られていく立香なのだった。
◇
「本当に勝ってしまった……」
積み上げられた大量のコインに呆然としながらも、どこか現実感がない立香。
その隣にはパエリアがほれ見たことかといった顔立ちで立っている。
「だから言ったでしょう? 尊敬を込めて、お姉さまと呼んでもいいのよ?」
「ははぁー、参りました。お姉さま」
「よろしい――まあこれでビギナーズラックは使い切ったから、後は手堅く賭けていくことね。とりあえず最初の水着剣豪に挑む分には十分だから、使い込まないように遊びなさい」
「大丈夫。引き際には定評があるんです」
「『流れが来てる!』って突っ込んでいくタイプよねー」
「人の不幸も楽しいけど、大勝ちも爽快感がある――まあそこそこ楽しめたわ。私はこの辺りで……」
「あっ、立香君じゃない。奇遇ね!」
振り返ればそこにいたのは3人の少女。
声をかけてきたのは最近カルデアに召喚された神霊・神綺。
一歩下がって侍るのは彼女のメイド・夢子。
そして最後は幻想郷の人形遣い・アリスであった。
「わっ、すごいコイン! 大勝じゃない。私もあやかりたいわね」
コインの山をツンツンとつつく魔界神を、夢子が窘める。
「神綺様、崩れたら面倒なのでおやめください」
「そんな間抜けじゃ――あっ」
勢い余ったのか、言った傍から崩れるコインタワー。
惨劇を予感した立香だが、コインはふわりと糸の網で受け止められた。
「まったく……あんまり騒ぎになるような事をしないでよ」
「ありがとー! アリスちゃん」
やれやれとクール気に肩をすくめる人形遣いに、立香も目礼する。
「それにしても――皆さんも水着なんですね」
「うん? カルデアの夏での正装って聞いたから。それにいつもの服は、夏の装いとしては相応しくないからね」
胸を張る神綺は赤のビキニタイプ。夢子はメイドオルタに似た水着メイド。アリスは白いワンピースタイプと三者三様だった。
「それができなくて長年血涙を流していた人もいるんで」
「あー、ひょっとして沖田ちゃん? 大丈夫、私がチャチャッと霊基を弄ってあげたから! これでも創造神だからね」
「救われたか……」
だがこの時の立香には知る由もなかった。
沖田さんがユニヴァースの謎科学によって、ジェット付サイボーグに変貌している事実など……
「ところでそっちの女の人は?」
神綺の問いかけに、パエリアがさっと前に出る。
微笑みながら優雅に一礼し――
「どうも――立香の現地姉のパエリアです」
とんでもない事言い出しやがった。
「え、何? あなたそういう趣味があったの?」
アリスが若干引いていた。
「違うっ! 姉なら間に合っている! ――ってこれも違った!?」
何故か浮かんだジャンヌ(イルカ)の姿を、首を振るって追い払う。
そんな中我関せずと神綺も一礼し――
「どうも――魔界の神で立香君のホーム母の神綺です」
「何遊んでいるんですか神綺様」
即座にツッコミを入れる夢子に、ホーム母はチッチと指を振るう。
「もー、お互い冗談だよ? 夢子ちゃん。大体家族って大事なものだし、その場の気分でポンポンなれるものじゃないに決まっているじゃない?」
どこぞの自称姉や自称母に聞かせてあげたいセリフだった。
「私が立香君を息子と呼ぶ時がくるとしたら、それこそ夢子ちゃんやアリスちゃんと結婚した時くらいだろうし」
「ちょっと、急に何を言い出すのよ」
「仮定論で、一般常識。もしもの話よ。都会派を名乗るなら、このくらいでいちいち動揺しないの。第一せっかく可愛く成長したのにいつまで経っても男の影もないし、ちょっと心配しているのよ?」
「鏡を見てから言ってほしいわね、その台詞」
「合わせ鏡の話?」
「違います」
その様子を見ていたパエリアはポツリと――
「仲良きことは美しき哉」
――と呟いた。
「ところでそっちはカジノで遊びに?」
立香の問いに、二人はコントを止めて振り返る。
「それもあるけど、ちょっとQPを貯めようと思ってね」
「何か買いたいものでも?」
「ちょっと聖杯でも作ろうと思って」
魔界神さまはサラリととんでもない事を言ってのけた。
「何に使うかははっきりとは決めてないけど、カルデアからの魔力供給だけじゃできることに限りがあるからね。宝具の足しにしてもいいし、事が終わった後私が受肉するのに使ってもいい。無駄になるものでもないから、暇を見てキープしておこうかなって」
「スケールが大きいのにフワッとしてますね」
「そう? 電池みたいなものでしょ。あーあ、ここまで魔力のやりくりに四苦八苦するのも初めての経験ねー。これはこれで新鮮だし、楽しいけど」
立香も多くのサーヴァントに聖杯を求める理由を聞いてきたが、電池扱いはさすがに初めてだった。
その様子を見ていたパエリアも苦笑している。
「さすがは魔界の神、か……」
「そう? そっちだって
「別の
「あ、うん。助かったよ」
「どういたしまして」
パエリアは最後に、サングラス越しで立香の顔をじいっと見た。
「えっと」
「ファラオカジノに随分立派な宝石があるって聞いたから、おじ様へのお土産にしようかと思っていたけど――やめた方が良さそうね。まああそこに居座っているラクダ女はちょっと面倒くさそうだったし、別にいっか」
ラクダ――立香の脳裏に浮かんだのは、常に商魂たくましくギャンブルにハマり、英雄王から秘書をクビにされたという女王様の姿だった。
「あと、姉を名乗る不審者には気を付けておきなさい。私と違って、ガチ勢だから――じゃあね。縁があったらまた会いましょう。異聞の皆様も、この辺りで失礼しますわ」
そう言い残すと彼女は、一度瞬きをした後にはもう姿を消していた。
「星の巡りを見る者は、往々にして星を俯瞰する立場に立ちやすいのよね」
「神綺さん?」
「虚数の神殿だったり、楽園の塔だったり、世界の外側だったり――普通は次なんてないんだけど、私を引っ張り出した立香君だったら期待できるかもね……よしっ! それじゃあ張り切って稼ぐぞー!」
右手を大きく腕に突き上げて張り切る魔界神。
――なお、夢子が財布のひもをしっかり握っていたため致命傷は免れたようである。
〇パエリア・S
自称キャスターの、20代半ばに見える女吸血鬼。少しばかり見知った立香にちょっかいをかけ、助言を授けた。
〇アリス・マーガトロイド
異聞帯の魔界出身の人形師兼魔法使い。久々に再会した養母にやたらと構われて辟易している――ように見えるが、内心まんざらでもない。
〇夢子
神造魔界人にしてメイドさん。神綺の宝具によって現界しており、神綺のサーヴァントのような状態。
〇姉を名乗る不審者
多分来年は鯱かメガロドンを連れてくる(震え
〇神綺 クラス:キャスター
・異聞帯の魔界の神。とある縁からカルデアに召喚された。背中の羽は白かったり黒かったり生えてなかったり――というか普段は仕舞っている。
基本は理知的でおっとりとしているが、たまに攻撃的になることも。創造神という性質から、規格外の道具作成スキルを保有する。水着にだってサンタにだってなれる。
アホ毛のようなサイドポニーだが、セイバーの両儀式に狙われているため彼女のことは若干苦手としている。
・宝具:全魔界降臨(アドベント・インフィニティ・ビーイング)
対界宝具 ランクEX レンジ1~∞
魔界の神である彼女の経歴の象徴にして、第一宝具。彼女の創造物である魔界及び内部の施設・住人を自在に召喚できる。――が、彼女自身が一サーヴァントとしての現界であるため無限ともいえる広大な敷地の完全展開は不可能であり、極めて限定的な仕様となっている。具体的には極一部の領域の展開、消費魔力に応じた規模での人員の召喚。更に固有結界と同じく発動中は常に魔力を消費するため、長期展開には向かない。
数人単位且つ省エネ仕様で喚び出すのなら、長期間の召喚も可能。必要な魔力さえ賄えるのなら元々の魔界と同じ状態まで持っていくことも理論上は可能だが、その理論値はダ・ヴィンチちゃんが白目をむくほど。
「聖杯じゃお話にならない。地球を食いつぶしても無理。魔神王が3000年かけた人類総エネルギー化事業と同等以上の魔力が必要」とはダ・ヴィンチちゃんの弁。同時に――
「多分だけど、元々は全知全能といってもいい存在だった。それが魔界創造で膨大なリソースを使って大幅に弱体化した結果が、今の神綺という神霊。むしろ順番が逆で、最初は全知全能を捨てるために魔界を創ったのかもしれない」とも語る。
神綺自身は特に何も語らないため、真相は彼女の心の中に――
落枝蒐集領域幻想郷完結から数日ですが、番外編を投稿開始です。今後も不定期ながらネタが浮かび次第投稿するつもりですので、よろしくお願いします。