落枝蒐集領域幻想郷   作:サボテン男爵

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※番外編は、基本的に時系列はバラバラです。


番外編2 赤い暴君

「幻想郷を余の後宮(ハレム)とする!!」

 

 クロスロードを潜り抜けて紅魔館に立ち入った我儘皇帝は、ティータイムだった立香たちの目の前で開口一番堂々と宣言してのけた。

 

「え、何こいつ? 頭が茹っているの? なんか全体的に赤いし」

「赤いのはこの屋敷であろう、麗しき少女よ! うん、暗いのを除けばなかなかに余好みである!」

「あ、うん。ありがとう?」

 

 いきなりのトンデモ発言に未だに目をぱちくりさせている紅魔館の主に代わり、マシュが問いかける。

 

「ええっと、ネロ陛下。先ほどの言葉の意味は?」

「文字通りである! 正確には後宮(ハレム)にするではなく、後宮(ハレム)を築き上げるのだがな!」

 

 ネロはその辺を歩いていた妖精メイドをひょいっと抱き寄せ、ハグしながら微笑む。

 

「この幻想郷は実に良い! 先の事件の際は何故か創作意欲が漲っており工房に籠っておったが、宴と言われ参上してみれば見目麗しい少女が選り取り見取り! カルデアにも美女美少女は多いが、こちらも負けておらぬ。ここのメイドも非常に愛らしい! ぶっちゃけ実に羨ましいぞ! 余も何人か連れて帰りたいくらいだ――蝙蝠羽の主殿よ、良い趣味をしておるな。無論、そなたも余のドストライクだ!」

「え、何? 私こいつに何かした? 知らない間に好感度がMAX近くなっているんだけど」

「可愛い娘だったらみんな好きなんだよ」

 

 そそくさと自分の背後に移動してきたレミリアに、立香は揺るぎない事実を伝えた。

 

「同性愛好家ってやつ? 王侯貴族なら、珍しい話でもないけど……」

「どっちもOKなお方」

 

 似たような性癖持ちなら宮本武蔵もそうなのだが、彼女はどちらかと言えば美少年好きで、ネロは美少女好きな印象を受ける。

 

「あの、ネロ陛下。後宮と言っても具体的にはどうされるおつもりで? 流石に幻想郷の方々に迷惑をかけるような真似は控えてもらいたいのですが……」

「うむ! 余は夢こそ壮大であっても地に足がついた皇帝故。まずは足場固めが大事だと心得ておる。本日は下見に来たのだ」

「フォフォウ?」

 

 不思議なアニマルフォウ君が、マシュの肩の上で小首を傾げた。

 

「ネロ祭の準備や諸々の趣味でQPもカツカツでな。さすがに現状後宮に回せる予算はないのだ」

「いつも助かっています」

「うむ! だがネロ祭も前回は金ぴかめに乗っ取られたのでな。アレはアレで楽しかったのでアリなのだが、やはり余が主役でなければな!」

「あ、それ分かるわ。やっぱり一番目立つのは自分じゃないとね!」

「であろう!? やはり赤が好きな女は話が分かるな!」

 

 先ほどまで置いておいた距離はどこに行ったのか、手を取り合うネロとレミリア。

 類は友を呼ぶ、とでもいうべきか。

 もっとも互いに主役の座を奪い合う立場になれば、すぐさま敵対するのが目に見えるようだったが。それも楽しく喧嘩する、という形で。

 

「――という訳でだ、マスター。本日は余に付き合って貰いたいのだが……」

「先輩……」

 

 上目づかいのネロに、目配せしてくるマシュ。

 後輩が目線で語っている――「さすがに放っておくのはいろんな意味で心配です」と。

 立香は首を縦に振るしかないのであった。

 

                      ◇

 

「ここは――迷いの竹林でしたね」

 

 ネロに連れられ訪れたのは、深い霧が立ち込め竹が生い茂るうっそうとした竹林であった。

 

「確か、“あの”輝夜さんが住んでいるとか……」

 

 横目でチラチラと見てくるマシュに、反応を迷う立香。

 先の事件において助太刀してくれ、トンデモ発言をかましてくれた少女。

 スカサハや山の翁といった面々とも交流があり、立香自身は少し話しただけの謎の多い少女である。

 

「ところでネロはなんでここに?」

「土地を探していたのだ。この辺りは人里の者達の手も入っていないと聞いたのでな。しかしこうも霧が深いとは……やはり下見は大事であるな」

 

 コンコンと竹をノックするように叩くネロに、マシュが告げる。

 

「土地の所有権などはどうなっているのでしょうか?」

「その辺りも確かめる意味での下見だ。後は少々気になった少女がいたのでな……おっと、余はついておる。噂をすれば――というやつだ」

 

 ネロが振り向いた先に視線を飛ばすと、そこにいたのは一人の少女。なのだが――

 

「コスプレ?」

 

 立香が思わずそう呟いてしまったのも無理はないだろう。

 幻想郷では珍しいミニスカートに、女子高生と見まがうばかりの制服じみた服装。

 更に頭からは2本のウサミミ――場所が場所なら間違いなくコスプレと断じられることであろう。

 もっとも彼女自身は、警戒交じりの視線を立香たちに送ってきていたのだが。

 

「あなたは――確か姫様の……」

 

 彼女の言葉にマシュがジトっとした視線を送ってきた気がするが、立香は全力で気づかないふりをした。

 

「私は鈴仙――鈴仙・優曇華院・イナバ。迷いの森にある永遠亭に身を置く者よ」

 

 真っ先に自己紹介をしてきたウサミミ少女に、立香たちもそれぞれ名乗り返す。

 

「永遠亭に用かしら? もし訪ねてきたのなら、案内するように言いつけられているけど……一応確認するけど、医者が入用という訳ではないのよね?」

「実は――」

 

 マシュが事の次第を説明すると、彼女は後宮の下り辺りで呆れ顔になりながらも素直に質問には答えてくれた。

 

「竹林の所有者だったら、因幡てゐって妖怪ウサギよ。今はどこをほっつき歩いているかは知らないけど」

「左様か。ふむ……姿が見えぬのであれば、今回は名を覚えておくにとどめるとしよう。しかしそなた――」

「何かしら?」

「宴で見かけた時から思っていたが――実に良いな!!」

「はっ?」

 

 ポカンと口を半開きにする鈴仙に、ネロは目をキラキラと輝かせる。

 

「見よマスター、この者の出で立ちを! ウサミミ、ブレザー、ミニスカ! 一見媚び媚であざとさのオンパレードであるが、それを自然体として見事に着こなしておる! 余をもってして逸材としか言いようがない!」

「……誹謗中傷にも聞こえるけど、波長を視る限り間違いなく褒めているのよね、コレ」

 

 何とも複雑そうな面持ちの鈴仙。そんな彼女に、マシュが尋ねる。

 

「波長、ですか?」

「うん? ああ――私の能力。そういったものが視えるのよ」

 

 鈴仙は自分の赤い目を指さす。

 

「波長が長ければ暢気、短ければ短気。――そっちの赤いのは、巫女と同じタイプね。長い時と短い時が、さっきから交互している。藤丸は普通……まあやや長めかしら? その小動物はツッコミ役? あなたは結構長い方――だけどちょっと不安定気味ね。まるで最近になって多くの感情に触れ始めた子供のよう」

「は、はい……よくお分かりで」

 

 びっくりしたような表情でマシュが応える。

 

「ちなみにこの服は月のウサギとしては標準――私は月の出身なのよ。まあ今は地上のウサギなんだけど……別にコスプレ? とかいうやつじゃないわ」

「マジか、進んでおるな。こっちの月は……うん、こっち?」

 

 ネロは自分自身の発言に首を傾げるが、鈴仙は気にした風もなく説明を続ける。

 

「私の両眼は月の狂気を宿す――あんまりじろじろ見ない事ね」

「月の狂気であるか……ううむ、叔父上には会わせられぬな」

 

 ネロの叔父上――カリギュラ帝。

 月の女神に魅入られ狂気に堕ちた、かつてのローマ帝国皇帝の一人。

 

「しかし何故月にウサギが住んでおるのだ?」

「それはほら、月の模様がモチを搗くウサギに見えるから・・・・・・」

「月の模様、とな? アレはカニであろう。もっとも余としては、獅子を推すところであるが」

「は? 故郷にカニも獅子もいなかったわよ。多脚戦車くらいならあるけど」

 

 何だが微妙に認識の違いが発生していた。

 マシュがそこに、注釈を入れてくる。

 

「月の模様は、世界各国で意見が分かれるようですね。ウサギ、カエル、獅子、カニ、少女、女神など――地域によってさまざまな説が存在します」

「フォウ!」

「ふふ、そうですね。フォウさんのようにも見えるかもしれません」

「自分の体を捧げたウサギが月に送られたって聞いたこともあるけど」

「帝釈天――つまり雷霆神インドラ。アルジュナさんのお父さんの逸話ですね。おもしろい事に、実はケツァルコアトルさんにも同じような逸話があるんです。人間として旅をしていたケツァルコアトルさんに自分の身を食料として差し出したウサギが、月に送られたというお話が。違った神話なのに、不思議な共通点ですね」

「そうなんだ。カルデアに戻ったら聞いてみようか」

 

 もっともカルデアのケツァルコアトルは神話上にない女神としての顔で降臨しているので、その記憶がはっきりとあるかは定かではないのだが。

 

「そのケツ何とかって神様のことは知らないけど、月のウサギたちはあるお方の罪を贖うために薬を搗き続けているのよ」

「薬を搗く罰則とは、一風変わっておるな。どのような意味があるのだ?」

「さあ? 儀式めいたものだし詳しい意味までは知らないわ。何千年も変化がない形骸化したルーチンワークだって言い出すウサギもいたくらいだし……地上のウサギは『ダイコク様~』って言っているけど」

「ダイコク……大国主命?」

「大黒天――シヴァ神の化身であるマハーカーラ神とも習合される神様ですね」

「パールさんの旦那さんの……スカサハ=スカディみたいなものかな?」

 

 立香は北欧異聞帯の女神を思い浮かべた。

 汎人類史のスカサハとは、似て非なる女神を。

 

「もしくは別側面の可能性か、複合神性のようなものかもしれません。インドの神様は化身として、日本の神様は分霊として自身を分けられることがありますから」

「名前が変わるだけならまだしも、分裂したりくっついたりと神様も大変よねー。私は気楽なウサギで良かったわ」

 

 そういえばサーヴァントのみんなも結構別霊基として分かれているなと、立香はカルデアの風景を思い浮かべた。

 

                       ◇

 

「ここが旧都であるか! 余の趣味からは若干外れるが、地底にこれほどの都市を築き上げるとは見事なものよな」

 

 立香たちは迷いの竹林に続き、地底世界――旧地獄と呼ばれる地に訪れていた。

 

「エレナが見たら喜びそう」

「エレナさんの場合、幻想郷はどこを見ても喜びそうですね」

 

 今はまだ都の入口付近であるが、和風の建物が多く建った江戸の街並みを思わせる一大都市。

 しかしそこに住まうは人間ではなく、異形の者達が行きかう姿を目にすることができる。

 

「それにしても、思ったよりも明るいのですね。旧都の灯ではなく、上の方から薄ぼんやりと明かりが落ちてきているように感じますが」

「ヒカリゴケかな?」

「先輩。ヒカリゴケは光を反射する性質ですので、大本の明かりがないと光りませんよ」

「魔術世界にならば、自ら光るコケがあっても不思議ではないがな。――これはおそらく、テクスチャというやつの一種であろう」

 

 ネロはそう言って、地底の空に手をかざす。

 

「そう言えば地底なのに雪が降る――とも聞きました。単なる物理的な地底なのではなく、一種の独立した環境を持つ異界ということですか」

「うむ、余もその内やってみたい! ローマチックで絢爛豪華な都を仕立て上げるのがよいな!」

 

 皇帝特権EXを持っているあたり、実際に無理やりにでもやれてしまいそうなネロなのであった。

 

 旧都に足を踏み入れていくと、妖怪たちからチラチラと視線を向けられる。

 おそらく人間がここまで来るのが珍しいのだろう。

 そして妖怪たちは波が割れるように移動し、その間から一本角の女性が声をかけてきた。

 

「うぉぉい、お前さん方! 地上の人間かい?」

「むっ、そなたは……」

「星熊勇儀ってもんさ」

 

 大きな盃を片手で軽々と支える、赤ら顔の鬼はそう告げた。

 

「地底はあんまり人間が長居する場所じゃないよ。怖~い妖怪にペロリと平らげてられちまうかもしれないし、すぐにどうこうなる訳じゃないけど瘴気もあるから。……ってお前さんたちは平気そうね?」

「余やマシュはサーヴァントの身であるからな」

「先輩は大丈夫ですか?」

「全然平気」

 

 立香にはマシュとの契約の影響で、対毒スキルとでも呼ぶべき加護が宿っている。

 もっとも対毒とはいっても効果範囲は曖昧であり、病気や酒の魔霧に対しても効果を発揮することもある。

 

「サーヴァント……ああ、どっかで見たと思ったら先日の宴会でか! あんたら、カルデアってやつだろう?」

 

 問いかけに、立香は頷く。

 

「やっぱりな。いや~、見慣れぬ強者がゴロゴロいるんだから驚いたもんさ。ちょっと前にもここに来た聖女と一戦交えたんだが、あれは良い喧嘩だった。鬼ほどの膂力はないが、拳が痛いのなんのって。ありゃ有難いお経でも纏っていたのかね?」

 

 その説明だけで誰のことだが分かってしまった。

 

「あの、迷惑をかけませんでした?」

「迷惑? とんでもない、ああいう喧嘩なら大歓迎さ! それで、今日はどうしてここまで?」

「うむ、余の要件に付き合って貰っていたのだが――その前に……」

 

 ネロが両手を広げポーズをとる。

 なんだなんだ? と注目が集まる中、彼女は宣言する。

 

「変・身!!」

 

 ――瞬間、ネロの体が発光し薔薇の花びらがエフェクトのように舞い踊る。

 それがおさまった後にいたのは……

 

「オリンピアの余、参上である!!」

 

 体操服姿へと霊基を変えたネロであった。

 

「え~っと、急にどうしたんだい?」

「勿論、そなたへの対抗心である! さすがに角までは生えぬが……いや、生えそうな気もしなくはないな」

 

 惜しげもなく生足を晒しながら、ネロは告げる。

 星熊勇儀は、体操服的な姿の鬼であった。

 

「――それで、要件であるが……」

「一旦話をぶった切って何事もないかのように戻すのかい。鬼みたいな身勝手さだねぇ」

「褒め言葉であるな! ここの妖怪たちは高い建築技術を持つと聞いてな。いずれ仕事を頼むことになるかもしれぬから、顔通しにきたのだ」

「まあ喧嘩で町を壊しては修繕の日々だから、得意分野ではあるけどねぇ。鬼の中で一番その手のことが得意なのは萃香の奴だし、土蜘蛛連中は時々仕事で地上に行っているよ。道中で会わなかった?」

 

 黒谷ヤマメと名乗る少女になら会った。

 『病気の通りが悪いのねぇ』なんて物騒なことを言われたのだが。

 

「アッハッハ、そうかいそうかい。まあ悪気はないから勘弁してやってくれ。そのルートで来たのなら、途中でパルスィにも出くわしただろ?」

「はい、大変親切にしていただきました。ただカルデアの名前を出したら及び腰になってしまわれましたが……」

「前に会ったスパルタクスのヤツを苦手にしていたからねぇ。なんでも話も嫉妬も通じないとか……」

 

 橋姫と呼ばれる少女。

 少々嫉妬節が目立ったが、マシュのいう通り親切な相手だった。

 ただ嫉妬から鬼へと変じたという件に、立香は清姫のことを思い出してしまったものだ。

 

 ――その後ネロは勇儀と話を続け、幾つかの情報を交換した後にひとしきり頷く。

 

「うむ、有意義なひと時であった。ところで勇儀よ――そなた、力比べなどは好きか?」

「三度の飯よりね。花より喧嘩さ」

「ふむ……まだ時期も場所も未定なのだが、闘技会を計画しているのだ。都合さえ合うようなら、そなたもゲストとして招待したいのだが」

「ほうっ! そいつはいいね! こちらからお願いしたいくらいさ。何なら地底を使うかい?」

「候補としては考えさせてもらおう。カルデアの状況次第では中止になるやもしれぬが……いや、余とマスターならば問題はないな! うむ、詳細が決まり次第連絡を入れる故、楽しみに待っていてくれ!」

 

                      ◇

 

 ――立香たちは勇儀と別れた後、灼熱地獄跡の管理を任されているという古明地姉妹が住む地霊殿へと足を運んでした。

 

「ネロ陛下、ここにはどんなご用で?」

「地底で一番立派な建物と聞いたからな! せっかくここまで来たのだから見ていかねばなるまい! たのもー!!」

 

 ネロが大声で呼びかけると、少ししてから館の扉がギィィという音と共に開け放たれる。

 現れたのは、幼げな風貌の半眼の少女。

 

「……好き好んでこんなところまで来るなんて変わり者ですね。私の力を聞き及んだ上で観光気分とは……。まあ歓迎くらいはしましょう。知っているようですが、私は古明地さとり。地霊殿の主です」

「うむ、余は――」

「ネロ陛下ですね。異世界の、かつてのローマ皇帝その人。その影――境界記録帯。それにカルデアのマスターに、デミサーヴァント、星の獣。『おとなし気な印象なのによくしゃべる』ですか。こういう性分なもので」

 

 何も言わずとも、どんどん会話が進んでいく。

 心を読む妖怪とは聞いていたが、なるほど。その名に偽りなしのようだった。

 

 ――が、さとりは突如眉を顰める。

 

「ちょっと皇帝さん。そんな大っぴらに可愛いやらどう愛でようやら考えるのやめてくれませんか? 恥ずかしいですし、メイド服も水着も着ませんから」

 

 どうやらネロの欲望は駄々洩れのようであった。

 

「別にいいであろう! 減るものでもあるまいし」

「減るんですよ。私の矜持とか色々」

「ふむ、ところで『目には目を、歯には歯を』という言葉があってだな」

「……ちょっと。何で『心を丸裸にされたから、余にも相手を丸裸にする権利があるのでは? うん、アリであるな!』なんて超解釈になるんですか!」

「女子同士だし、そう恥ずかしがらずとも……」

「大体その言葉は過剰な報復を防ぐためのものであって、『やられたらやり返せ』という意味ではありません!」

「『第一私の読心はパッシブスキルです』か?」

「――っ、私の心をっ!?」

「要するに余が生前開発した“ネロ式相手の好み判別占い”の亜種であろう? やればできるものであるな!」

 

 自慢げに胸を張るネロ。

 とっかかりさえあれば、本来使えないスキルですら使えてしまう皇帝特権EXの我儘っぷりの発揮であった。

 

「というか私の心を読んだんならもうお相子ですから、じりじりと近寄るのやめません?」

「花を愛でるのはおかしなことではあるまい? つまり、可愛い女の子を愛でるのもおかしいことではない。うむ、真理であるな!」

「ダメだこの皇帝、この間のバーサーカー以上に話が通じない……ちょっと、そこのマスター! 使い魔の躾がなってないですよ! って何を『ネロは自分より小さい女の子を特に愛でようとする傾向にある』なんて冷静に分析しているんですか!」

「――っ、俺の心をっ!?」

「今さらですか、そのツッコミ! というかさっきの私の真似ですか!? ああもう嫌だ、この主従!」

「あの……先輩にネロ陛下。この辺りで……」

 

 マシュが窘めようとしてくるが、さとりは堪忍袋の緒が切れたとばかりに第三の目を前面に押し出す。

 

「そっちがそのつもりなら、こっちも自衛権を行使させてもらいます! 想起せよ、あなたのトラウマ!!」

 

 サードアイから光が放たれ、近くにいたネロの顔に当たる。

 それ自体にダメージはないようであるが、徐々に人影のようなものが現れ、それを見たネロがビクリと動きを止めた。

 ――出てきた相手は、最近カルデアに召喚されたサーヴァント。

 

『ほほう、3度ガッツを使えるスキル? それは素晴らしい! この陳宮、長らく軍師をやっていますが、あなたのような献身的なサーヴァントにお目にかかるのは初めてです。マスターの令呪と合せれば4回もいけますね。え、何がいけるかって? ははは、勿論お分かりでしょう?』

 

「マスターーー!?」

 

 立香に対し、ネロが目を潤ませながら飛びかかってきた。

 

「そなたは……そなたは余を自爆などさせぬよなっ!? いや、余とて人理を守護するサーヴァント。1回くらいなら嫌だけど耐えて見せるがっ! でも1度の戦闘で4回とかあり得ぬよなっ!?」

「今『その手があったか』って考えましたね」

「鬼かそなたはっ!? いや、さっきまでいっぱいいたのだが! というかあの軍師怖い! 顔が笑っていても目が笑ってないというか!」

「『考えただけで、やりません』だそうですよ?」

「信じていたぞマスター!!」

 

 そのままの勢いでぎゅうっと抱きしめてくるが――筋力Dランクとはいえサーヴァントの膂力なので色々とヤバい。

 

「ね、ネロ陛下! マスターが青くなっています!」

「む、しまった。余としたことが感極まったあまり、皇帝特権で怪力まで発動しておった。マスター、気をしっかり持つがよい!」

「フォフォウフォフォ、フォウフォウフォーウ、フォフォウフォウ」

「『女の子の柔肌を堪能したんだから甘んじて受けるべき』ですか。……はぁ、仕方ないですね。ウチで休んでいってください」

「うむ、感謝するぞ。……ところで温泉があると聞いたのだが」

「一緒には入りません」

 

 ――結局この日は、地霊殿にお泊りすることになった立香たちであった。




〇フォウ君
 星の獣。頼れるランナー。現在はただの小動物のはず。旧地獄への長期滞在は危険かもしれない。

〇ネロ・クラウディウス
 赤い暴君。我儘皇帝。――なのだが持ち前の明るさと愛嬌であまり嫌には感じない。今回皇帝特権スキルで得た読心術はさとりのような“異能”ではなく、“技術”の延長上にあるもの。
また自己顕示欲が非常に強く、授業中の教師に対し、生徒の前でネロと検索したらスケスケの美少女の画像が出てくるという恐るべきテロを実行した。
 この件に対し本人は「反省している。ヴィーナスの霊基でやるべきだった。……ところでヴィーナスの霊基ってなんだったっけ?」とコメントしている。

〇鈴仙・優曇華院・イナバ
 元月のウサギにして、現地上のウサギ。優れたスペルカードのネーミングセンスを誇り、金時や小太郎と気が合うかもしれない。

〇古明地さとり
 地霊殿の主であるさとり妖怪。読心の力を持ち、言葉を持たぬ相手とも意思疎通が取れる。しゃべれないバーサーカーや狼王ロボ相手でも話ができると思われる。でも狂気スキル持ちにはご注意。誰かと目が合ってしまうかも。

〇陳宮
 カルデアに新たに加わった軍師。なのだが……登場早々その宝具の性質から数々の異名を授かることになった授かりの軍師。「そこです、自爆しなさい」。
 なお、赤王はともかく嫁王は……


 夏もそろそろお終い。最近は一気に気温が下がってきています。2019年度FGO水着イベも残りわずかとなり、後はたまっているフィーバーチケットを使い切るのみ。夏の終わりを駆け抜けねば――

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