落枝蒐集領域幻想郷   作:サボテン男爵

22 / 44
主にギャグ回。


番外編3 守矢神社は技術革新の夢を見るか

「神奈子様! 諏訪子様!」

 

 幻想郷には二つの神社がある。

 一つは言わずと知れた博麗神社。古くより存在する社。

 そしてもう一つは、比較的近年幻想郷に引っ越してきた神社である守矢神社。

 

 その住人にして風祝たる東風谷早苗は、慌てた様子を隠そうともせず二柱の神へと駆け寄った。

 

「どうしたの早苗、そんなに慌てて。博麗神社に行っていたんじゃなかったっけ?」

「霊夢さんが……霊夢さんが!!」

「落ち着きなさい、早苗。深呼吸して、ゆっくりと息を整えて――よろしい。それで、博麗の巫女に何があったんだ?」

 

 ただならぬ様子の風祝を一旦落ち着かせ、守矢の祭神たる八坂神奈子は語りかける。

 霊夢は他所の巫女とは言え、博麗大結界の要――それを差し引いても十二分に顔見知り。

 営業上の理由で敵対することこそあれど、本当に何かあったのなら手を貸す程度の義理はあった。無論、その際は大いに貸しを作るつもりであったが。

 

 俯いていた早苗は、神奈子の声に呼応するように、肩を震わせながらその事実を口にする。

 

「霊夢さんが……ロボットを買ったんです!!」

 

 飛び出したのは予想の斜め上の台詞だった。

 

「ごめん、今なんて?」

「でーすーかーらー! 霊夢さんがロボットをですね!」

「うん、とりあえず聞き間違いでないことは分かった。意味はまるで分からないけど」

 

 何故にロボット? 幻想郷でロボット? 盛大にクエスチョンマークを浮かべる神奈子の横で、神社の裏ボスたる洩矢諏訪子が何かを察したように声を出す。

 

「あっ、わかったよ! ほら、アレでしょう? ひと昔前に流行ったASOBOとかいう鮫のおもちゃ。アレが幻想入りして、古道具屋に流れ着いたのを買ったとか……」

「何言っているんですか。あんなホラゲーの住人がロボだなんて認めませんよ、私は! そもそも霊夢さんが香霖堂でお金を払う訳がないでしょう!」

 

 散々な言い草だった。

 なによりもひどいのが、その事実を否定できないというところだったが。

 

「――とりあえず、事情を一から説明してくれるかしら? 話が読めないんだけど」

「あ、ハイ。えっと、ちょっと前からカルデアって所と交流ができましたよね?」

「ああ、あの他所の世界の連中だな? 私はまだ、先の宴会でしか会っていないが」

「はい。その宴会の時、カルデアの人たちが博麗神社のお賽銭箱にQPっていうのを結構入れていかれたらしくて」

 

 諏訪子ははーいと片手をあげる。

 

「なにそれー?」

「何でも量子の揺らぎ――魔力資源の一種らしいです。カルデアでは通貨としても流通しているそうで。でも当然幻想郷では通貨としては使えないんですよね。一応アリスさんとかが相手なら取引に使えるそうなんですが、他の使い道を新しい神様に相談したらしくて……」

「宇佐見蓮子ね」

 

 博麗神社の新たなる祭神にして、幻想郷のニューフェイス。

 八雲紫とも知己だという、油断できない相手だと神奈子は睨んでいた。

 

「そこで蓮子さんが紹介したのが、アマゾネス・ドットコム」

「何そのひどくデジャヴを感じる名前」

「宇宙と特異点を股にかける通販会社らしいです」

「理解が追い付かないからちょっと待ってくれる?」

 

 神奈子はこめかみに指をあてる。

 おかしい、幻想郷は文字通り幻想と神秘が集う領域のはず。

 ロボはまあ、百歩譲って幻想といってもいいだろう。

 実際守矢神社でも幻想の技術として、核融合炉の開発を進めていることだし。

 宇宙も神秘に溢れてはいるし、幻想郷にも実際に宇宙人はいる――だからこれもいい。

 ――でも、何故に通販?

 

「え、なに? スキマ妖怪の親戚か何か?」

「何でも蓮子さんが持つ端末からポチれば、即日商品が届くとか。現地では徒歩で」

「そこはアナログなのね」

「蓮子さん曰く『ものすごく便利だけど、絶対に就職したくないダークマター企業』だそうです」

「ブラックさも宇宙規模なの……」

「そんなものまで幻想入りしちゃ、洒落にならないねー」

 

 アハハと諏訪子はのんきそうに笑う。

 相方の様子に神奈子はため息を吐きながらも、風祝に再度問いかける。

 

「話は分かりました。理解し切れたとは言い難いですが……それで、そのロボがどうしたっていうの?」

「百聞は一見に如かず――博麗神社まで行きませんか?」

「あ、完全に留守にするのもなんだし私は残るよ」

「じゃあ諏訪子様にはちょっとお願いが……」

 

                       ◇

 

「あら、また来たの?」

 

 早苗と神奈子が博麗神社に辿り着くと、縁側でのほほんとお茶を飲んでいた霊夢が出迎えた。

 

「早苗はともかく、宴会以外でアンタがここまで来るのは珍しいわねぇ。重い腰を上げてどうしたのかしら? また新しい金属の催促とか?」

「軽いわよ、私の腰は――それこそ風のように。なんだか早苗から珍しいものがあるって聞いたんだけど、どうにも要領を得なくて」

 

 神奈子の言葉に霊夢は首を傾げ、『ああ』と手を打つ。

 

「アレのことね。今は裏庭の方に行っているけど……ああ、戻ってきたわよ」

 

 霊夢が指をさした方向に目を向けると、そこにはずんぐりむっくりとした影。

 ウィーンという静かな稼働音と共に姿を現したのは、紅白の小さなドラム缶じみた機械。

 

「アレです、神奈子様!」

「早苗があれだけ騒ぐからスーパーロボット的なのを想像していたけど、どっちかといえば星間戦争に出てきそうな代物ね」

「アレはアレで趣があるんです!」

 

 2本のアームが伸び、箒と塵取りで器用に掃除をしている姿が見て取れる。

 

「何というか、ハイテクなんだかアナログなんだか」

「いちいち見に来るなんて、神様って暇なのね。羨ましいわぁ」

「私には、今のあなたの方がよほど暇に見えるんだけど」

 

 ロボットがせっせと掃除をしている傍ら、霊夢はのんびりとしているのだ。

 

「これでも頭の中は目まぐるしく動いているのよ。記念館の物販の構想とか」

「とてもそうは見えないけど……ところであのロボは?」

「蓮子から『数シーズン前の中古品だけど、一部家事の代行くらいはできるから。安いし』ってお勧めされたから買ってみたのよ。正直ちょっと疑ってはいたけど、実際よく働いてくれてるわ。おかげで私も妖怪退治がはかどるし」

 

 霊夢が指先に霊力弾を灯らせクイッと動かすと、ロボットの後ろをちょこちょことついてきていた三妖精の足下に着弾し彼女らはキャーキャーと騒いでいた。

 

「妖怪連中にとっては災難な話ね」

「その子のことが気になるんなら……ほら、マニュアル」

「おっと」

 

 霊夢が放り投げた冊子を受け取り、神奈子が開くと早苗も横から覗き込んでくる。

 

「えーと、『全自動巫女代行ヴォロイド・HKRI-06』。掃除からお茶くみ、簡単なお守り作成まで……何このニッチな需要」

「あうんさんもすごく微妙そうな顔で見ていましたもんねぇ」

「ああ、ここに居ついた神獣だっけ? 外でもロボット掃除機が寺やら神社の掃除をやっているところはあったけど……否定はしないが、こう神様的にはね?」

 

 当のHKRI-06は霊夢に近づいていき、催促するようにアームを動かす。

 霊夢も事を察したようで、すっとお茶を差し出すとヴォロイドはそれを受け取る。

 そして頭部がパカッと空いたかと思うとそのまま注ぎ込んだ。

 

「えっ、何? お茶まで飲むの?」

「神奈子様、ここに書いていますよ。『HKRI-06はマナとカテキノイドのハイブリッド式。定期的に美味しいお茶を与えて下さい』って」

「何よカテキノイドって」

「お茶に含まれる成分をエネルギーとして活用しているようですね。これは画期的です!」

「物理法則が仕事してないんだけど」

「幻想郷では常識は捨て去るものですよ?」

 

 割り切り過ぎて脱線気味の風祝に、神奈子は頭を抱えるしかなかった。

 

「というかこんなあからさまなロボを持ち込んで、紫のやつは何も言わなかったの?」

「ああ、何でも『ほら、実際オーバーテクノロジーは幻想みたいなものだし。SFってスペース・ファンタジーでしょう?』だって」

「サイエンス・フィクションよ! あの賢者、身内判定に走りやがったわね!? 本人はどこに行っているのよ!?」

「蓮子とどっか出かけているわよ。お土産買ってくるって言っていたから楽しみねー」

「あの神はあの神で神社をホイホイ空けるなんて……新米だからって、自覚が薄いのかしら? そんなんじゃその内信仰が尽きるわよ」

「心配してくれるなんて、お山の神様は優しいわねぇ。でも信仰は存在にはあんまり関係ないって言っていたわ。確か単独顕現(偽)だとかのスキルで」

「ズルくない?」

 

 信仰をあんまり必要としない神と、大して関心がない巫女。

 案外相性はいいのかもしれなかった。

 

 ――バサリと羽ばたく音が境内に響く。

 一同が空を見上げると、そこには見知った顔の烏天狗が一羽。

 

「こんにちはー! 清く正しい文屋です」

 

 射命丸文は境内に降り立ち一礼する。

 

「おや、お山の神様。こんな貧乏神社に如何なる御用で? 騒動を起こす準備なら是非とも取材したいところですが」

「誰が貧乏よ」

「私は真実を著すのが仕事なので」

「ちょっとした確認事項よ。そういうあなたは――」

 

 ――キィィィンという、幻想郷ではあまり聞かない音が境内に響く。

 一同が空を見上げると、そこには見慣れぬ装甲OLの姿が。

 

「神奈子様! 空からパワードスーツが!」

「……私の知る幻想郷はどこに行ってしまったのかしら」

 

 目を輝かせる早苗に、神奈子はげんなりと返した。

 

「こんにちはー! エーテル宇宙からの使者――正義のセイバー・XXです。レンコはいますか? とりあえず辞表は破り捨てておいたので、その顛末を話しに来たのですが。一人祀られて神様(ニート)生活なんて、私は認めません!」

「蓮子なら出かけているわよー」

「む、さては襲げ――ゲフンゲフン。上司の来訪を察知して逃げ出しましたか。仕方ありません。帰ってくるまで待たせてもらって……むむっ、あなたは!?」

 

 XXは文の姿を視界に収め、肩を震わせながら指をさす。

 

「スペース天狗衆のAYAYA!! まさかこんな辺境の地に身を隠していたとは……」

「えっ、私は確かに文ですが、どちら様でしょう? お目にかかるのは初めてですよね?」

「ふん、そうやって鳥頭を装って……ですが私の刑事の直感(尚Eランクである)を誤魔化すことは出来ません! あなたの書いた偽ゲーム記事でどれだけのキッズが地獄を見たことか。――総プレイ時間2時間の私のゲームデータの仇、今こそ取らせてもらいます!」

「なんのことかは全く存じませんが、とりあえず正義ではなく完全な私怨ということはよく理解できました」

「あー、バグ技に走っちゃった訳ですか」

 

 早苗が察したというように呟く。

 一方文は首を捻りながらも、素直な感想を口にする。

 

「――というか2時間くらいなら別に何でもないでしょう」

「何をっ! 2時間あればどれだけのコスモヌードルを作れると思っているんですか!?」

「いや、知りませんよ……って撃ってきた!?」

「あなたの首には懸賞金もかかっています。あの金ぴかが『おのれおのれおのれ!! セイバーを嫁に出来るシークレットルートの開放と聞いて試してみれば、男のセイバールートとは!! この駄記事のライターは、我直々に銀河の藻屑としてくれるわ!!』と言ってたんまりと。ちなみに金ぴかは私がスペースデブリにしておきましたので、悪しからず。――さあ、おとなしく私の臨時収入の糧となるのです!」

「私もいろんな異変を取材してきましたが、ここまで訳の分からない且つ理不尽な急展開は初めてですよ!? 何で品行方正かつ真面目に仕事をしている私がこんな目に――!?」

「あ、行っちゃいます!? 神奈子様、追いかけましょう! パワードスーツの戦闘なんて早々見られるものありません!」

「ごめん早苗。わたし疲れたからちょっと帰っていい?」

 

 皆が飛び立ち、ヴォロイドの稼働音だけが静かに響く境内。

 霊夢はマイペースにお茶をすすりながら呟いた。

 

「みんな、本当に自由でいいわねぇ」

 

                      ◇

 

「あ、おかえりー。遅かったね? あれ、何かいい事あった?」

 

 ホクホク顔の早苗に、諏訪子が尋ねる。

 

「ええ! 宇宙刑事からサイン貰っちゃいました!」

「ロボを見に行っていたんじゃなかったっけ? 神奈子は――うん、なんかお疲れさまな様子だね?」

「引っ掻き回される側って、こんなに大変なのね……」

 

 しみじみと神奈子は漏らすのだった。

 そのままドカッと腰を下ろすと、諏訪子から手渡されたお茶を一気飲みする。

 

「それで、あー。話を最初に戻すけど、ロボだったわね? 確かに高性能そうではあったけど、それがどうしたっていうの? 別に霊夢の仕事が幾らか楽になっただけでしょう」

「まあ確かにそうなんですが……問題の本質はロボじゃないんですよ。羨ましいですけど。めっちゃ羨ましいんですけれども」

「二度も言うんだね」

「何度だって言います。ですが事は信仰のシェア獲得に関わってくるんです」

「信仰だって? あそこの神も巫女も、信仰には大して興味がなさそうだったろう?」

 

 神奈子は両手を広げ、余裕をアピールする。

 

「それにウチには、本格稼働したロープウェイがある。参拝客も順調に増えているし、不真面目な神社相手なら問題はないはずよ」

 

 正論である。正論ではあるのだが――早苗は首を大きく横に振る。

 

「――それが霊夢さん、実はテレポーテーション装置の導入を検討しているらしくて」

「…………………………はい? 今なんて?」

 

 神奈子は本日何度目かになる問い返しを実行した。

 

「テレポーテーション装置、瞬間移動、空間ゲート。呼び方は色々ですが、とにかく距離の概念を0にする代物です」

「は、ちょ、えっと。なんでそんな話に……あっ。まさか売っているの? そのアマゾネス・ドットコムとやらに」

「どうにもそのようで。蓮子さん曰く『星間ゲートならともかく、人里と博麗神社を繋げるくらいなら中古で格安のがあるわよ。エーテル宇宙的には産廃品の、10万円くらいの中古車のイメージで』――ということらしく」

「ふーん、そんなのがあるんならもうロープウェイどころの話じゃないよね?」

「はい。実質博麗神社と人里はお隣さんということに」

 

 沈黙が室内に満ちた。

 

「……暢気な霊夢さんは『里に行くのが楽になるわねー』くらいにしか考えておらず、未だ自分が手に入れたカードの大きさに気付いていません。ロイヤルストレートフラッシュが揃っているのにその意味を理解していない、ポーカー初心者のようなものです。ですがその価値に気付いたが最後。霊夢さんは博麗神社の利益拡大の為、一気に動き出す事でしょう」

「それはそれで勝手に自滅してくれる気もするが」

 

 ダメな時の霊夢は放っておいても失敗するという経験則だった。

 しかし早苗はドンと床を叩く。

 

「甘いです! 私たちも日進月歩で技術を進歩させていますが、霊夢さんはワープしてスペースオペラ的な超技術に手を伸ばしてしまったんですよ! ――遺憾な話ですが、もうロープウェイ一つでマウントをとれる時代は終わりました。神奈子様だって外の技術革新の前に、零落寸前までいったのをもう忘れたんですか!?」

「それを言われたらぐうの音も出ないんだけどね」

「――霊夢さんが本格的に動き出す前に、こちらも対策を打つ必要があります。諏訪子様、例の方々は?」

「もうとっくに来ているよ。今は隣で待ってもらってる」

「そう言えば、確かに妙な気配を感じるが……早苗?」

「技術には技術で対抗するしかありません。――先生、お願いします!」

 

 その言葉を待っていましたと言わんばかりに、ピシャリとふすまが開けられる。

 ――そこに立っていたのは一人の偉丈夫。

 スーツ姿にマントを羽織り、その右手は機械と化した男性。

 

「お初にお目にかかります、レディ。私はニコラ・テスラ。天才です」

 

 威風堂々、大言壮語。男は神を目の前にしつつも、まるでひるまず言い張った。

 

「その名は天才発明家の――まさかカルデアのサーヴァントか?」

「その通り。科学の徒ではありますが、今はカルデアに身を寄せております」

「テスラ博士は現代社会の基盤と言ってもいい電気技術の第一人者。必ずや力になってくれるはずです」

 

 早苗が悔しそうに拳を握りしめる。

 

「残念ですが、私ではあの超技術に対抗するためには知識も技術も足りません。――若いころ、将来神になるからって左団扇でいたりせずもっと勉強しておくべきでした。いえ、今でも十分若いんですが」

「幼なじみの(ライト)君もよく窘めていたもんねぇ。『おいおい東風谷、神になるとか妄想してないで将来に備えて自分を磨きなよ』って」

「何、早苗君。勉学は今からでも遅くはない。私もサーヴァントであるが、今なお日々この知性に磨きをかけ続けている。進み続けることこそが、天才たる証なのだ」

「ふむ……私は八坂神奈子。一先ずは歓迎させてもらおう」

「聞き及んでいます、レディ。風の神でもあると――それ即ち、雷電に深い関係を持つということ。そんなあなたが雷電の普及を目指すのは、まさに自分の権能を削りかねない行為。――にも関わらず雷電の力を人の手に収めさせようとは、この天才をもってしても感服するばかり。故に私としても、あなた方の力となるのは吝かではありません」

「いえ、全くの無関係とは言わないけど雷神云々は私にはあんまり関係ないというか……ごほん、まあその話は良いです」

 

 ぶっちゃけ神奈子は技術革新の神にシフトしていくつもりなのだが、その辺りはわざわざ言わずといいかと思いなおす。

 

「それで、あなたは我々の力になってくれると言いますが、具体的にはどのような?」

「あなた方守矢神社は現在、核融合炉の開発に着手していると聞いています」

「ええ、その為に地獄の烏に神の力を与え、要としています。未だ研究段階の話だが……」

「純粋科学ではなく神の力が入っているあたり思うところはありますが、今後解決していける問題。一先ず横に置いておきましょう。あなた方は、今現在人類にとって幻想である技術の核融合炉を、この幻想郷にて完成させようとしている。なるほど着眼点はいい。実現すれば、この幻想郷を十分に賄えるだけの雷電が生み出されることでしょう。――ですが、それでは足りない」

 

 断言するテスラに、神奈子は『ほう』と目を細める。

 

「するとあなたは、何が足りないと?」

「雷電の力は一か所に留まるだけでは意味がない。その恩恵があまねく人々に届いてこそ、なのです。そこで登場するのが、せか――」

 

「世界システムですね!!」

 

 テスラの決めセリフに、早苗が堂々と割り込んだ。

 

「えーと、早苗? それは?」

 

 固まってしまったテスラを横目に気まずいものを感じながらも、神奈子は尋ねる。

 肝心の早苗はまるで気づいた様子はないのだが。

 

「はい! 簡単に言えばテスラ博士が考案した、フリーエネルギー理論と無線式の送電システムです! 実現すれば世界中のどこにいようと、電線なしで電気を扱える凄い技術なんですよ!」

「そんな事が可能なの?」

「ある意味では、核融合炉以上に幻想で終わってしまった技術です。――でもこの幻想郷という環境と、その発明を推し進めていた張本人が揃えばあるいは……」

 

 視線を向けられ、テスラが再起動する。

 

「あー、うん、まあ大雑把に言ってしまえばそういうことです、レディ。――セリフをとられて悔しいとか、紳士は考えたりしませんとも、ええ」

「なんかウチの早苗がゴメン。それで、その実用化の目途が立っていると?」

「今現在も、真・世界システムの理論構築と実験を進めているところです。何、しがらみの多かった生前に比べれば融通の利く状況。我が道筋は輝かしい交流の光によって照らされている! いずれはノーリスク、ローコスト、ノー直流、ノーエジソンが夢ではなく現実のものとなることでしょう。ハッハッハッハッハ!! 全ての道は交流に通ず!!」

 

 高笑いするテスラに、神奈子は『ふむ』と考え込む。

 現在の核融合炉事業を一から見直す必要がある案件ではあるが、実現すればメリットは計り知れない。

 技術革新の神ではなく、もっと新たな分野の神となることすら可能かもしれないほどに。

 

 しかしその光景を眺めていた諏訪子が、ポツリと呟く。

 

「でもさー」

「ハッハッハ、何かな? あまり魅力的ではないレディ?」

「脛蹴るよ。――そもそも幻想郷は、まだ電気文明じゃないんだよね」

「……………………なんですと?」

 

 テスラの高笑いが収まった。

 

「いやさ、核融合炉の開発を進めていたわたしたちが言うのもなんだけど、そもそも幻想郷では電気を資源にするって発想がないんだ。核融合炉の実現は結構長期のスパンを想定していたから、その間に普及を進める予定だったんだけど。その辺り、博士はどう考えていたのかなって?」

「むう、なるほど。その問題点があったか……いやしかし、逆に言えば送電線に慣れ親しんだ環境よりも真・世界システムを受け入れやすい、とも考えられるか? 雷電が人の文明に与える恩恵は現代社会を見れば一目瞭然。あとはいかにして、最初に浸透させるかだが――」

 

「ハハハハハ!! 無様だなミスター・すっとんきょうぅぅぅ!!」

 

 テスラが現れたふすまの影から姿を見せたのは、全身スーツの筋肉質の獅子頭。

 

「むぅぅぅ!? 亀のように縮こまっていたかと思えば、今更何をしに出てきた!! この凡骨がぁ!!」

「トーマス・アルバ・エジソンである!! 貴様は天才ではあるが一人よがり! 事前にこの地のリサーチをしておかなかったのもその証! 大衆への普及はこの私がもっとも得意とするところである! 第一、なぁぁぁにがノー直流、ノーエジソンだ!! それこそ夢物語だろう!!」

 

 ――実際、発明王としてのエジソンの知名度は一つの基盤となりうるほどの強固さを誇る。

 なのだが、神奈子は獅子頭を一瞥すると早苗へと視線をむけ、一言。

 

「――で、早苗。このエジソンを名乗る不審者は誰?」

「さあ? てっきりテスラ博士のペットかと」

 

「うぉぉぉぉぉぉい!?」

 

 ライオンが吼えた。

 神奈子はやかましそうに耳を塞ぐ。

 

「正真正銘の、エジソンその人である! 何ならこの直流電流でサインを焦がし書いて見せるが!?」

「それは結構。というかエジソンが獅子な訳がないでしょう」

「フハハハハハ!! 無様はどっちだ凡骨!! 格好つけてそんな顔を選ぶからだ!!」

「うっさいわ!! レディ、これには大きな事情があるのです」

 

 ~ライオンヘッド説明中~

 

「――ふむ、まあ理由は分かった。何故獅子頭なのかの説明にはなっていなかったが」

「それはまあ……趣味? それよりも、(直流)電気文化の普及ならばこの私に任せていただきたい。一年もあればこの幻想郷を(直流)電気文明へと塗り替えて見せましょう。これが計画書です」

「ほう、既に具体的なモノが出来上がっているとはプラス評価ですね。ふむふむペラリペラリと……………………あの?」

「何でしょうレディ?」

「ここに人員の現地登用の項目がありますが……」

「おお、それですな! 我が配下の機械化歩兵団も投入するつもりですが、やはり現地民と共に働いてこそ理解は得られるというもの。無論、何か問題があるなら聞きます」

「それは素晴らしい考えです。ですがうん、まあ何というか……()()()()()1()()2()0()()()()()()()()()()()()()?」

「……………………はて、何かおかしなことでも?」

「あなたの常識が一番おかしいのよっ!?」

 

 神奈子はエジソンを蹴飛ばした。

 転がる筋肉質の大男。なお、筋力ランクEである。

 

「そーいやあなた、告訴王とか呼ばれていたわね!? こんな労働時間論外に決まっているでしょう!?」

「落ち着いてください、レディ。私のように一日三食とっていれば無問題!! そもそも幻想郷に確たる法律がない事は確認済!! ヤッタネ、エジソン大勝利!!」

「法がないからこそ自制が必要なんでしょーが!!」

 

 仮にこの場に幻想郷の騒動に詳しい第三者がいれば、『お前が言うな』と神奈子に告げたかもしれなかった。

 

「というかよくよく考えたら――いえ、考えるまでもなく民間レベルで神秘が大暴落した戦犯みたいなものじゃない、あなたは!!」

「確かに、あの辺りの時代が決定的な節目だったと今なら思うよねぇ。人工の光が地上を覆って、それまで余裕こいていた神々もどんどん地上から撤退してさ。まさに神の時代から人の時代に移る、最終局面だったよね」

「ふむ、確かに我々は神を地に引きずり落とした。しかしそれが人の世の発展に必要だと信じたからこそ」

「うむ! まあぶっちゃけると、あの時代に我々がやらずともいずれ誰かがやっただろうしなぁ……。ならば私と社員の利益と生活の為、真っ先にやるのは自明の理」

「む、それは――否定できない話ですね。私たち神も、今の姿にこだわるのではなく変化を迎える必要があったということでしょう。――よし!! 神を撃ち落とした者達と、一旦は落ちるところまで落ちた神! 今日はその辺りも含めて語り明かすとしましょう!! ――それこそが、新たな神の在り方を求める私の糧にもなるでしょうから。早苗、お酒とつまみをお願い!」

「あっ、はい。ただいま!」

 

                      ◇

 

 ――尚、後日の一幕。

 

「え? テレポーテーション装置? アレねぇ……なんだか文明レベルがどうとかで、私には売れないんですって。残念ねぇ……」

 

 博麗の巫女は、大して残念そうでもなくそう語ったのであった。




〇東風谷早苗
 守矢神社の風祝。奇跡を起こす少女にして、現人神。特技は常識のダストシュート。

〇八坂神奈子
 守矢神社の表の祭神。山の神で、風の神。現在は幻想郷における産業革命を推し進めており、技術革新の神への方針転換をはかっている。

〇謎のヒロインXX
 宇佐見蓮子の元上司。本人は現在でも上司のつもり。辞表? 知りませんね。

〇ニコラ・テスラ
 雷電博士。電気を飛ばすアーチャー。交流信奉者。現在は真・世界システムの開発を進める。

〇トーマス・エジソン。
 発明王にして告訴王。あと大統王で、ライオンヘッド。得意技は技術の民間普及と数の暴力。

 

 アプリゲーム東方キャノンボールのOPが公開されましたが、予想以上にいい出来でした。というか香霖の謎の強キャラ感w 仮に香霖堂がショップ枠なら、ついに霊夢が香霖堂でちゃんと買い物する日が来るのか……まああくまで二次創作ゲームなのですが。
 FGO勢としては、東方LOST WORDも気になるところ。あっちの方がFGOに近そうですから。
 何にせよ、東方シリーズもこれまで以上に入口が増えることに。私も二次創作から入った口ですが、これからもいろんな幻想郷が増えていくんでしょうね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。