落枝蒐集領域幻想郷   作:サボテン男爵

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仕事が繁忙期に入ったり、別短編に手を出してみたり、Sイシュタル実装に伴う金融危機(ヴィーナス・ショック)に陥ったり、久々にポケモントレーナーデビューしたりと色々ありましたが、今日も何とか生きています。
※微多重クロスネタがちょっとだけあります。
 あと今回から、セリフの間に行間を入れています。


番外編8 ぐーやのカルデア訪問

 数多の竹が生い茂り、霧に覆われた迷いの竹林。

 来るものを惑わせる天然の迷路にして迷宮――そんな中にある、ぽっかりと開けた空間。

 竹林から切り離されたようにも見える一角に建つお屋敷の名は、永遠亭。

 

 その門の前に立つのは、3人の女性。

 彼女たちの中で最も背の高い妙齢の女性が呟く。

 

「ここがあの女のハウスですね」

 

「……ソレ、言ってみたかったんですか?」

 

 抑揚の少ない声で聴き返すのは、褐色の肌を持った青髪の少女。

 もっとも本気で疑問に思った訳ではなく、ただ何となく聞いてみたという風情だった

 

「言わずに済めば、それに越したことはなかったのですが」

 

 それでも律儀に返す辺りに、女性の生真面目さを感じさせる。

 

「静謐さんにはお世話になりました。私、商家の娘ですからこの手の探索は心得がありませんので。さすがは本職のアサシンといったところでしょうか」

 

 3人目の和装の少女が、ここまでの道筋を見つけ出した青髪の少女の手腕を称賛する。

 

「曲がりなりにも、山の翁を襲名した身ですので」

 

 嘘偽りのない称賛を受けとめつつも、少女は理解していた。

 目の前ではにかむ年下の少女が、状況次第では訓練した自分すらも上回る追跡者と化すことを。

 

「しかし迷いの竹林、でしたか。踏破など考えず、丸ごと焼き払うのが一番早かったのですが……」

 

 悩まし気なため息を吐く妙齢の女性に、和装の少女も眉尻を下げる。

 

「ここには“雀のお宿”があるとの噂を聞きました。単なる噂話ならばそれで良いのですが、万一事実だった場合紅閻魔先生に白い目で見られることは明白。『竹林ごと雀たちを焼き払えば、その中の一匹はちょうどいい焼け具合になるとは大胆な調理法を覚えまちたね。ならばその腕前を披露してもらうでち』などと詰め寄られ、次回のヘルズキッチンが最上位どころか、底なし地獄モードに確変してしまうやも」

 

「料理教室、でしたか。私には縁のないものでしたが……そんなにも苛烈なものなので?」

 

 自分の手のひらに目を落としながら呟く褐色肌の少女の問いに、和装の少女は頭に生えた角を萎らせる。

 

「尊敬と苦手意識は同居するものだと、教えて下さった方です」

 

「呪腕さんにとっての、初代様のようなものでしょうか」

 

「かもしれません」

 

「お二人とも。世間話はまたの機会でいいでしょう。今はこちらです」

 

 女性は静かに――それでいて耳に残るように声をあげる。

 

「“あの女”の話になると、何やらマスターが不審なご様子。事情を聞き出そうと詰問したり甘やかしたりも致しましたが、口は堅く。ここは一つ鬼となってでも話を聞かねばと覚悟を決めようとしましたが、幸い寸前にマシュさんから話を伺うことができました」

 

「――ええ、ええ。私の見ていないところでますたぁに唾つける輩がいるとは。変にこねくり回さず素直に気持ちを伝える点は評価しますが、それはそれ、これはこれ。捨て置くことはできません!」

 

「私は、別に……独占とか考えてはいませんけど。ただ傍にいて、撫でたり手を握ってくれればそれでいいなぁって。皆さんが行くというから、ついてきましたけど」

 

 早くもチームワークが崩壊しそうな温度差があるものの、その点を指摘する者はおらず。

 3人は永遠亭へと足を踏み入れる――

 

 

 

 

 

 

 

「え? 姫様なら出かけているわよ。カルデアに」

 

                       ◇

 

 日課の周回を終えた立香がマイルームへと戻ると、何ということでしょう。

 そこにはベッドに腰かけて、仔スフィンクスと戯れる月のお姫様の姿が。

 

「あら、お帰りなさい。精が出るわね」

 

「ぐーや」

 

 蓬莱山輝夜は手をひらひらと振るって応え、手に持ったボールをポンと放ると仔スフィンクスがそれを追いかけていく。

 ……よくよく見ればあのボール、蓬莱の玉の枝に生る実にも見えるが、多分気のせいだろうと立香は確かめるのを止めた。

 

「どうしてここに?」

 

「暇だったから遊びに来たのよ」

 

 長年屋敷に籠っていたと聞いていたが、とてもそうとは思えない気軽さとアグレッシブさだった。

 

「それにしても、私も結構な珍品コレクターだと思っていたけど……ここも色々あるわねぇ」

 

 お姫様は近場に会った二つのぬいぐるみ――ミニクーちゃんとヴィイを手に取る。

 

「これなんか、魔法の森の魔法使いに見せれば興味を持つんじゃないかしら?」

 

「そうなの?」

 

「多分ね。あっ、これなんて似合うかしら」

 

 シグルドから貰った眼鏡をかけて見せる輝夜。

 元の美貌も相まって、非常によく似合っていた。

 

「うん、可愛いよ」

 

「素朴な感想ねぇ」

 

「えっと、ごめん?」

 

「悪いって訳じゃないわよ。着飾った言葉で誉め立てられないのは、逆に新鮮だわ。あなたらしくて良いしね。――それにしてもこの眼鏡、原初のルーンが刻まれているのね」

 

「わかるの?」

 

「ばぁやから手解きを受けたから」

 

 ばぁや――スカサハのことかと、かのケルティック・クィーンの顔を思い浮かべる。

 

「ところで気になっていたんだけど、これって宇宙服?」

 

 輝夜が指さした先にあるずんぐりむっくりとした魔術礼装を確認し、立香は頷く。

 

「ちょっと前に宇宙人に攫われて、星に墜落した時に……」

 

「そっかぁ……これまでも色々冒険してきたみたいだけど、ついに宇宙まで行っちゃったのねぇ」

 

「行っちゃったんだよなぁ……」

 

 宙と星を駆け、銀河そのものを相手取った冒険を思い出しながら、クスリと笑う。

 

「というか、普通に信じるんだね」

 

「私だって、一応宇宙人だし。本格的に宇宙人っていうには、ちょっとご近所さん過ぎる気もするけど。良かったらお話してくれるかしら?」

 

「かしこまりました。お姫様」

 

「うむ、苦しゅうない。近う寄れ」

 

 ちょっと時代がかった言い方に二人して笑い、旅の話を始めるのだった。

 

                      ◇

 

 蒼輝銀河での冒険を語り終えた後、輝夜の「カルデア見物をしてみたい」との声を受け、立香は彼女を連れたってマイルームを出た。

 

 まずやって来たのは――

 

「ここがカルデアの地下図書館です」

 

「へぇ……これは壮観なものね」

 

 輝夜は言葉通り、興味深そうに図書館の中を見渡す。

 

「地上の人々が築き、紡ぎあげてきた歴史と言葉の殿堂。月ではこの手のものは、効率化として大部分がデータ化されているから……」

 

「ここの本も、元はほとんどがデータだよ。紫式部が魔力で実体化しているんだ」

 

「そうなの? よほど本という“形”に意味を見出しているのね。以前紅魔館の大図書館にもお邪魔したことがあるけど、これだけの本に囲まれると不思議とワクワクとした気分になるわ」

 

 ――正確には“お邪魔”というより“勝手に侵入した”なのだが、生憎とこの場にそれを指摘する者はいなかった。

 

「――ってあら? 噂をすれば――というやつかしら。珍しい先客がいるようね」

 

 輝夜の視線を追うと、そこにいたのは宝石のような羽を生やした、赤い服の金髪の少女。

 

「フランドール? と、クレオパトラも……」

 

 ちょこんと椅子に座り本を広げるフランドールの前に立つのは、レザースーツで身を纏った美女――クレオパトラであった。

 

「あっ、立香だー!」

 

「あらマスター、今日もうだつが上がらない顔立ちね。あなたも勉強かしら? 非才かつ凡庸な身であっても研鑽を怠らないのは良い心掛けです。しかし詰め込み過ぎは返って逆効果……適度な休憩と栄養補給は忘れないように」

 

 相も変わらず、ナチュラルに相手を罵倒しながらも心使いを忘れぬ女王様であった。

 

「あら、あなたは……むむむ」

 

 クレオパトラの瞳が輝夜を捉えると、口を小さくへの字に曲げる。

 

「なかなかの美気(ビューラ)をお持ちのようね……私ほどではないけれど。わ た し ほ ど で は な い け れ ど!!」

 

 クレオパトラの周囲にキラキラと光の粒子が舞い踊り、それを目にしたフランドールが「わぁっ!!」と両手を合わせる。

 

「なんだか私の周りにはいないタイプねぇ」

 

「妾はクレオパトラ七世フィロパトル。その身からにじみ出る高貴さ――あなたもやんごとなき身であると見受けますが……」

 

「蓬莱山輝夜よ。幻想郷じゃ身分なんて目もくれない連中ばかりだけど、よくわかったわね」

 

「ファラオたるもの、人を見る目は重要ですから」

 

「ところであなた“も”って言ってたけど、そっちは勉強してるの?」

 

「うん! 帝王学ってやつ!」

 

 フランドールが元気のいい返事をし、クレオパトラが補足する。

 

「どうにも最近、エリザベートに付いて回ってチェイテ城で色々と勉強しているらしくて……正直あの娘にまともな教育が施せるとは思えませんが。一応彼女も知能指数や教養自体はあるのですが、行動でその全てを台無しにした挙句ミキサーにかけているというか」

 

 心当たりがあり過ぎる表現だった。

 

「もっとも教師役を果たすことで学ぶこともあるでしょうから、そういう意味ではよい関係なのかもしれませんが。私も彼女とは幾らか縁がある身なので、その関係から本日の教育係を請け負っている次第です。……いつまでも城の上にピラミッドを置いたままにしている負い目もありますし。いえ、負い目というのは語弊がありますね。どけようにもその権能が私にはなく、そもそも上から姫路城とやらが重なってきた以上動かしようがないですから」

 

 あらゆる意味でどうしようもない話である。

 

「しかしあなたが勉強ねぇ。吸血鬼の妹は気が触れているって聞いていたけど……こうして顔を合わせるのは初めてだったかしら。捗っているの?」

 

「それなりかなー。今はちょっと休憩中だけど」

 

「休憩ついでに、簡単なクイズなどで教養を身につけさせているところです。マスターたちも一緒に受けてみるかしら?」

 

「あらあら、私がお題を出される側とは珍しい事ね」

 

 輝夜は面白そうに、クスクスと笑みを浮かべる。

 

「それでは……俗に言う“世界三大美人”とは一体誰のことを指すのでしょう?」

 

「はい!! 本で見たことがある! 楊貴妃、クレオパトラ、小野小町でしょ!」

 

 手を上げはきはきと答えるフランドールであったが、クレオパトラはゆっくりと――見せつけるように首を横に振る。

 

「いいえ、その答えでは及第点は上げられませんわね」

 

「えー? なんでー!?」

 

「小野小町が入るのは、日本特有なんだっけ?」

 

 ふくれっ面のフランドールの疑問に立香が応え、輝夜も相槌をうつ。

 

「そうねぇ……確か他には、ギリシャ神話のヘレネや中国の虞美人、フランスのマリー・アントワネットが加わる事があったかしら」

 

「パイセンかぁ……確かに美人ではあるけども」

 

 最も頭に“残念”がつくのだが。本人の前ではとても言えないが。

 ちなみにヘレネの方も、アーチャーのパリスと深い関係にある人物である。

 当然マリーも比較的初期からカルデアに召喚されているあたり、美の巣窟とも言えるかもしれない。

 しかしそれらの答えに、クレオパトラはやれやれといわんばかりに肩をすくめる。

 

「まったく……それでも人類史の最先端を行くマスターですか! いつまでもそんな古い答えに囚われているなんて、私の秘書として勉強不足と言わざるを得ません。ここは一つ、私手ずから説くと致しましょう。そう、最先端の世界三大美人とは即ち――」

 

 クレオパトラが荒ぶるファラオのポーズをとり、クワッ! と目を見開く。

 

「一人目――第一再臨の妾!

 二人目――第二再臨の妾! 

 三人目――第三再臨の妾!

 

 これぞまさに最新にして真なる世界三大美人!! ――ああ、世界が美で満たされる」

 

 うっとりとしたように瞳を閉じ、周囲にはより一層輝く美気(ビューラ)がキラキラと舞い踊る。

 それを見ていたフランドールは「なるほどなー!」と納得顔に。

 

「……ねえ、間違った知識で洗脳するの、放っておいていいの?」

 

「放っておいたらダメかなぁ?」

 

 げんなりと肩を落としつつも、どうやってクレオパトラに今の答えを修正させるか頭を巡らせるのだった。

 

                     ◇

 

「……疲れた」

 

 何とかクレオパトラを宥め褒めて言いくるめ、最終的にはカエサルに頼ってフランドールに正しい知識を伝授した後、立香と輝夜はカルデアの廊下を歩いていた。

 

「ある意味、私が出す以上の難題だったわね」

 

「とりあえず、食堂で一旦休もうか」

 

「あら、楽しみね……ってあれ? この声は確か――」

 

 輝夜が急に立ち止まり耳を澄ませると、やがて一つの部屋を指さす。

 

「あそこは――レクリエーションルームだね」

 

「へぇ、ちょっと寄ってみていいかしら?」

 

「勿論」

 

 二人がレクリエーションルームの戸を開くと、そこには見知った二人と見知らぬ一人ががコタツに入ってゲームに取り組んでいる最中だった。

 

「むっ、マスターではありませんか。少々お待ちを――すぐに片づけます。……早苗、援護を」

 

「了解しました! ミラクルパワーを見せてあげます!」

 

「いやぁ~、初めてとは思えないプレイっぷり。こりゃ似たようなのを相当やり込んでいたと見たッスよ」

 

「一番得意なのは運ゲーですけどね」

 

「それはそれは……ラニさんと麻雀でもさせてみたいっスねぇ」

 

 白銀の髪をポニーテールにまとめた女武者、巴御前。

 象頭の被り物をしたふくよかな女性、ガネーシャ。

 そして早苗と呼ばれた緑髪の少女。

 

 宣言通り彼女たちはすぐにゲーム上の敵を倒したらしく、ゲーム機をコタツの上に置く。

 

「お待たせしました。何か巴にご用でしょうか?」

 

 キリっとした凛々しい佇まいで立香に尋ねる巴御前。ただし足はコタツの中である。

 

「ちょっと知った声が聞こえたものだから、寄らせてもらったのよ」

 

「うおっ、純和風美少女キター! いやぁ、マスターも相変わらず隅に置けないっスねぇ」

 

 からかうように笑うガネーシャに、立香は曖昧な笑みを浮かべて肩をすくめて見せる。

 客観的に見て自分の周囲に、所謂美女美少女が多いのは事実であった。

 ――その内面はともかくとして……

 

「あっ、こんにちはマスターさん。お邪魔しています。輝夜さんもこんなところで会うとは思いませんでした」

 

 礼儀正しくペコリと頭を下げる緑髪の少女。

 

「えーと、緑の方の巫女さん?」

 

「覚え方が雑!?」

 

「いや、ちゃんと喋った事がなかったから……」

 

「それもそうですね。コホン、それでは改めまして――私は守矢神社の風祝、東風谷早苗です。よろしくお願いします」

 

「うん、よろしく。今日は遊びに来たの?」

 

「私の方から誘わせてもらいました」

 

 問いかけに答えたのは巴御前。

 

「げえむの心得があるとは聞いていたので、その内共にぷれいしようと以前から約束していたのです」

 

「ふーん、あなた神社の方はいいの?」

 

「今日はオフです!」

 

「ああ、それで見慣れない格好なのね」

 

「外で着ていた私服を久々に引っ張りだしたんです。幻想郷にはちょっと合わないので仕舞いっぱなしでしたけど」

 

 両手を広げて見せる早苗。白を基調としたセーターがよく似合っていた。

 

「でも最近は、里でこの手の洋服がちょっと流行しているみたいなんですよね」

 

「そういえば、この間うどんげが服を買って来てたわね」

 

「ヴラドⅢ世が趣味で作っていた分を放出していたから、ひょっとしてそれかな?」

 

 いつのまにやら針仕事がしっかり板についた領主様なのであった。

 

「そういえばおっきーは?」

 

 このメンバーの中に見慣れた刑部姫の姿がない事を疑問に思い、立香は尋ねる。

 

「ああ、何でも山童たちとサバゲーをやるとかで出かけてるっス」

 

「次回は巴も混ぜてもらう予定です」

 

「だったら妖怪の山に来るんですね! その時は是非ウチの神社にも寄ってください」

 

「ええ、そうさせてもらいます。ガネーシャ神、あなたも一緒にどうでしょう?」

 

「いやぁ~、ボクは遠慮しておくっスよ。おっきーがアウトドアに転向した以上、ボクこそがインドア派の最後の砦っスからね!」

 

 ニハハと笑うガネーシャ。

 後でパールヴァティかカルナに報告しておいた方がいいかと、立香は悩んだ。

 

「――ところでソレ、面白いのかしら?」

 

 輝夜がひょいっとゲームの画面をのぞき込む。

 

「ええ、久しぶりなのもありますが、ゲームのグラフィックってここまできれいになっているんですね。ちょっと驚きました」

 

「この業界、移り変わりが早いっスからねぇ。ちょっと目を離すと見違えるというか」

 

「それにカルデアって、シミュレーターっていうのもあるんですよね? それを使えば、空想上でしかなかったVRゲームだって……」

 

「まあ確かにやれそうっスけど、ボクはこうやってコタツに入ってスナックを齧りながらゲームするのが好きっスね。今ならサーヴァント化して腕が増えてるんで、プレイの邪魔にもならないっスから! みかんを剥きながらゲームも余裕!」

 

「サーヴァントになって自慢するのがそこなんだ……」

 

 4本腕を自慢するガネーシャ。パールヴァティが見たら目を細めて眉尻を上げそうだった。

 

「でも、そうなんですよねぇ……」

 

 早苗が眉を寄せて悩まし気な表情を浮かべる。

 

「コタツに入ってぬくぬくゲーム三昧。手元にはジャンクなスナックと甘い炭酸ジュース。冷蔵庫には、赤い人が持ってきてくれた小洒落たスイーツもありますし、私、堕落しちゃいそうです。この誘惑は、菩提樹の下で覚者に迫ったというマーラのソレにも匹敵することでしょう」

 

 仏陀が助走をつけて説法しに来そうな言葉だった。

 

「今誰か呼びました?」

 

「ううん。エミヤがお菓子を作ってるってよ」

 

「そうですか。じゃあ失礼しますね」

 

 ひょいっと顔を出した幼女形態のカーマに一声かけると、彼女は小走りで食堂の方へと向かっていった。

 

「しっかしあの皮肉屋なアーチャーにお菓子作りなんて可愛い特技があるとは、ボクの目をもってしても見抜けなかったっス。こりゃ“アッチ”でも集ればよかったかな?」

 

「巴も同じアーチャーとして見習いたいところですが、お知り合いなので?」

 

「まあ、昔ちょっとばかりっスね。今日はロールケーキだったな~。ふわふわな生地と甘くても糖分控えめな生クリームがグッドなんスよねぇ」

 

「私としては、餡子なども入っていればさらにプラス評価です」

 

「わっ」

 

 いつの間にか会話に加わってきた声。

 立香が背後を振り向くと、そこには眼鏡をかけた学生服の文学少女の姿が。

 謎のヒロインXオルタ――通称えっちゃんである。

 

「こんにちはマスターさん。甘味的な会話が聞こえたので顔を出してみました」

 

「えっちゃん……どうしたの? そのずだ袋? サンタにでもなったの?」

 

「というかソレ、なんか中でもぞもぞ動いてないかしら」

 

 立香がえっちゃんが肩越しに背負うずだ袋について指摘すると、輝夜が不審げに眉を顰めた。

 

「ちょっとばかりハンティングに行ってきました。その戦利品です」

 

 ハンティング……夏の無人島……振り下ろされかけた聖剣。

 

「えっと、山をビームで更地に変えたりしてないよね?」

 

「マスターさんは、時々おかしなことを言いますね。ヴィランだって狩りの作法くらい心得ています。そんな真似をするのは、お腹を空かせたXさんくらいです」

 

「あ、ウン。だったらいいんだ。――ところでハンティングって何を?」

 

「……秘密のハントでしたが、マスターさんには特別に見せてあげましょう」

 

 えっちゃんが蠢く袋に手を突っ込み、中の獲物を取り出すと――

 

「ゆっくりしていってね!!」

 

 なんか喋る生首が出てきた。

 

「えっ・・・・・・・・・・・・っと?」

 

「アレ? ゆっくりじゃないですか」

 

 絶句する立香だったが、早苗が意外というようにその正体を指摘する。

 

「はい、銀河保護法で保護されている珍生物……こんなところでお目にかかれるとは思っていませんでした」

 

「その……ユニヴァースにもいるの、ソレ?」

 

「はい。“ゆっくリウム”なる数ある謎粒子の一種から構成された希少生物。かつてダークラウンズの下請けを勤めていた男も言っていました。『俺の故郷にもゆっくりはいますよ。地球とは比べ物にならないくらい、大きなヤツがね!』と。風の噂では、蒼輝銀河のどこかには惑星サイズのゆっくりも存在するとかしないとか」

 

 ――あのカオスな宇宙なら、本当にいてもおかしくないなぁと立香は考えてしまったのだった。

 

「でもそのゆっくり? っスか? ソレどーするんスか? 新素材の実装は勘弁っスけど」

 

 ガネーシャからの当然の指摘。それに対してえっちゃんはあっさりと――

 

「割ります」

 

「――!??」

 

 ゆっくりの表情が固まった。蠢いていた袋もピタリと止まった。

 

「えっと、それはまた如何様な理由で?」

 

 おずおずといった具合の巴からの問いかけ。

 

「ゆっくりの生態の多くは謎に包まれていますが、こんなスペース伝説(※都市伝説の宇宙版)があります。――曰く、『やつ等の中身にはとても上質な餡子が詰まっている』と」

 

「………………えっと、マジで?」

 

「マジです」

 

 堂々と言い切るえっちゃん。

 

「……あの、そのような噂話で頭をかち割るのはさすがに無体なのでは」

 

「ウニだって生きたまま割って食べるでしょう。それに昔の偉い人は言いました。『和三盆を以て貴しとなす』と。この子達の甘味は、世と私のお腹の礎となるのです」

 

「神霊廟の主が全力で首を横に振りそうね……」

 

 ゆっくりは目を見開いたままプルプルと震えていた。

 その様子を見かねたのか、輝夜はえっちゃんに近づきずだ袋を取り上げ――

 

「あっ……」

 

「やるんならこいつからにしなさい」

 

「――!!!」

 

 輝夜が白髪の少女のゆっくりをえっちゃんに押し付ける。

 早苗は「あ、アレ妹紅さんの……」と呟き、生贄とされた白髪のゆっくりは絶句するばかりだ。

 

「――では早速。邪聖剣ネクロカリバー、チェーンソーモード起動」

 

「なんでわざわざスプラッタな方向にもっていくの!?」

 

 ウイィィィィン!! と重低音を上げるネクロカリバーを目前に晒され、ゆっくりは慄きアワアワと震える。

 これじゃ餡子が飛び散るし、もし餡子じゃなかったら文字通り惨劇現場になりかねない。

 

「えっちゃんステイ! 和菓子なら今度奢るから!」

 

「……アマゾネスで新作和菓子の詰め合わせなど見かけたのですが」

 

「わかったからその物騒なの仕舞って!」

 

「あと、兎のお団子屋さんもなかなかのものでした。10ダースで手を打ちましょう」

 

「多い、3ダース」

 

「6ダースで」

 

「5ダースでどう?」

 

「いいでしょう。それではご馳走になります……フフッ」

 

「(アレ……ひょっとして最初から狙ってたんじゃないっスかねぇ)」

 

 えっちゃんの微笑を見たガネーシャは、そんな事を考えるのだった。

 

                      ◇

 

 結局その後はゲーム大会となり、ギュウギュウ詰めのコタツで遊んだ後輝夜と早苗はゆっくり達を連れて幻想郷へと帰っていった。

 

 そしてそれから少しして、入れ替わるように帰ってきた3人組の姿が。

 

「ますたぁ、あなたのきよひーがただいま帰りました! ところであの女狐はどこに!?」

 

「えっと、玉藻? キャット? それとも藍さん?」

 

「月の姫とかいうふぁんしーな女です!」

 

 バタバタとなだれ込んでくる源頼光、清姫、静謐のハサンを立香は出迎える。

 

「さっき帰ったけど……」

 

「入れ違い、みたいですね」

 

「あの竹林、帰る際にも迷うとは……やはり自刃してカルデアに即刻退去すべきでしたか」

 

「それは止めて」

 

 さらりと怖い事をいう頼光に、立香は静止の言葉をかけておく。

 

「……失礼致しました、マスター。子の前で使うべき言葉ではありませんでしたね。私ともあろうものが……今回は縁がなかったものと考えましょう」

 

「えーと、3人とも? 一応、ぐーやから伝言を預かっているんだけど……」

 

「「「???」」」

 

                       ◇

 

「『恋愛沙汰云々を考えるのなら、私よりも先に警戒すべき相手がいるんじゃない?』――そんな言葉にのせられて、わざわざ私のところまで来たっていうの?」

 

 呆れたように、小さな唇から漏れるため息。

 背丈よりも大きな椅子に座り、頬杖をつくのは幼き吸血鬼――紅魔の王。

 レミリア・スカーレットであった。

 

「あのねぇ……アンタら恋愛脳(スイーツ)ってやつなの? 頭から生えた角は甘ったるい飴細工か何か? まったく、人理を守るサーヴァントがこんな有様じゃ、立香の奴も苦労するわね」

 

 呆れとも罵倒ともとれる言葉を聞きながらも、清姫へと目配せをする頼光と静謐のハサン。

 清姫は小声で二人に伝える。

 

「(……嘘は、ついていないようですね。ますたぁに対して恋愛感情の類はないようです)」

 

「(となると、月の姫の見当違いか敢えて誤情報を伝えたか……どちらにせよ、杞憂で終わったのならばそれに越したことはありません)」

 

「(そもそもマスター、あんなに小さな子が対象内なのでしょうか?)」

 

「(マスターにその気がなくとも、纏わりつく虫は出てくるものです)」

 

 紅魔館に足を運んでの事情聴取だったが、少なくとも良い意味で無駄足にはならなかった。

 そのことに3人は一先ず胸をなでおろすのだった、が……

 

「大体ねぇ……()()()()()()()()()()()()()2()()3()()()()()1()()()()()()()()()1()()()()()()()()()()()()()()()()? その程度をいちいち色恋沙汰に持ち上げるなんて、人間は暇っていうか……」

 

「「「………………………………」」」

 

「ん? なによ、黙りこくってこっちをじっと見て? え、なにその怪しい笑みは?」

 

「恋愛感情がない事に嘘はない……嘘はないのですが、これはどこでコロリと転んでしまうか分かりませんね」

 

 清姫が扇子を構える。

 

「ええ、ええ――芋虫が蛾になって我が子の周りを飛び回る前に、予防が必要と見ました。最近マスターを訪ねても姿が見えないことが少なからずありましたが、こういうことだったのですね」

 

 頼光が鞘から怪しく光る刃を抜き放つ。

 

「……えーと、じゃあ私も。毒入りの紅茶とか、興味ありますか?」

 

 静謐のハサンが後ろで手を組み、小首を傾げてみせる。

 

「幻想郷では、こういうのを“弾幕ごっこ”と呼ぶのでしたね!!」

 

 頼光が刀を一閃すると同時に、雷が紅魔館に落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――事の顛末を話せば、この日寝室を失ったレミリアが不貞腐れた顔で立香のマイルームに足を運ぶことになるのだが……それはまた別のお話。

 




〇蓬莱山輝夜
 月のお姫様。時々カルデアに遊びに来ている。立香に冗談交じりで「蓬莱の薬、いる?」と聞いてみたりもしたが、「もう間に合っています」と返されて目を丸くしたり。

〇東風谷早苗
 現人神で風祝。巴から魔力で動くゲーム端末を貰ったりもしたが、神奈子から「ゲームは1日1時間まで!」と取り上げられたりしたとかしてないとか。

〇クレオパトラ
 スタンド使い系ファラオ。多分jojoに出てもそこまで違和感がない。

〇溶岩水泳部
 源頼光、清姫、静謐のハサンの3人からなるチーム。主に愛の力を原動力とし、物理法則を覆したりもする。

〇えっちゃん
 えっちゃんは悪属性(確信

〇ゆっくり
 謎の生物。ユニヴァースにもいるとか。乱獲→厳選の危機を免れた。

〇竹林ごと雀たちを焼き払えば~
 昔“美味しんぼ”でこんな感じのがあったので。あっちは鹿だったと思いますが。




 前回から間が空きましたが、今後の更新は結構不定期になるかと思います。基本、ネタが浮かんだ時に投稿という形になりますので……
 永琳のウン億歳設定も相当だなーと思っていましたが、ウン十億年を“ひと昔前”扱いする女神様がでてきた件について。年齢のインフレが始まってしまう!!

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