落枝蒐集領域幻想郷   作:サボテン男爵

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番外編9 空を駆け、星に祈る

「改めて、飛行魔術の練習をしようと思うの」

 

 とある日、キャスターのサーヴァントにしてカルデア在住魔法少女である美遊は、突然そんなことを言い出した。

 

「えっと、急にどうしたの? 美遊。その問題は、もう一応解決しているはずじゃあ……」

 

 美遊の友人にして対の魔法少女であるイリヤは、突然の宣言に戸惑いながらも尋ねる。

 「人は飛べない」――飛行術式のみは成立していても、美遊本人の思い込みから彼女は飛行魔術を扱うことができない。

 その代わりに、彼女は空中に足場を作ることで空中戦に対応しているのだ。

 

『美遊様。今の方式でもある意味では、単純な飛行よりメリットはあるかと思いますが』

 

 丁寧な口調で発言したのは、美遊の魔法少女としての源である愉快型魔術礼装の妹の方――マジカルサファイア。

 一見子供のおもちゃのような外見であるが、かの万華鏡が作り上げた規格外の魔術礼装。

 内包する性能は破格の一言に尽きる。

 

「そうよねぇ……美遊のだったら、私でも足場に出来るし。カルデアからのサポートでも空中に足場を展開は出来るけど、常時って訳にもいかないでしょう? そういう意味では使い勝手がいいわよ」

 

 サファイアの言葉に同意するのは、イリヤを褐色肌にしたような外見の少女――クロエ。

 ソファにゆったりと腰を下ろし、足をプラプラさせながら会話に加わってくる。

 

 三者からの意見にコクリと首を縦に振りながらも、美遊は真面目な顔で答える。

 

「うん――そうだけど、敵もどんどん強くなっている。いろんな状況に対応できるように、私も手札のバリエーションを増やしておきたいかなって」

 

 彼女たちがカルデアに召喚されて、既に少なくない時が経っている。

 順当に齢を重ねていれば既に中学生であるが、そこはサーヴァントの身。

 肉体的な成長はない。

 

 しかしながら一度は終わりを迎えたと思った人理修復の旅は未だ続き、半ばといった所。

 先行きの見えぬ旅路ながらも、自分に出来ることをする――少女の目には、その決意が宿っていた。

 

「それに……」

 

 美遊の瞳から決意の色が、というかハイライトが消えた。

 

「幻想郷の人たち、結構空飛んでいるし……イリヤと一緒に」

 

「はうっ!?」

 

 キョドる銀髪紅眼の普通の小学生。思いっきり心当たりはあった。

 ――つい先日、幻想郷の空を妖精たちと思いっきり遊覧飛行したところだったのだ。

 美遊を置いて。

 

『ありましたねぇ、そんな事。イリヤさんったらあんなにはしゃいじゃって。私の秘蔵フォルダの中にもバッチリおさめていますとも!』

 

「ま、まあ妖精さんと一緒に空を飛ぶなんて、いつもと違ってちゃんとした魔法少女っぽい出来事だったし……ってルビー!? また隠し撮りしてたの!?」

 

「ルビー、その写真は後で焼き増ししておいて。報酬はQP払いで、ダビデ銀行に振り込んでおくから」

 

『美遊様、そこはスイスの銀行にしておきましょう』

 

 愉快型魔術礼装の姉の方――マジカルルビーが問題発言をし、イリヤが慌て、美遊が天然ボケをかまし(本人は至って真面目)、サファイアが見当違いのツッコミを入れる。

 

「カオスねぇ……」

 

 クロエはしみじみと、ため息を吐くのであった。

 

                      ◇

 

 身体強化で跳び上がり、飛行術式を発動する。

 

 ――飛べない。

 

 空中に作った足場に乗り、飛び降りる。

 

 ――浮かない。

 

 イリヤに手を引かれて空を上り、途中で手を放してもらう。

 

 ――シチュエーションに気を取られて魔術を発動し損ね、危うく地面に激突するところだった。

 

「……やっぱりうまくいかない」

 

「まあ一朝一夕でやれたら、とっくに飛べているわよねぇ」

 

 美遊のぼやきに、クロエが即答した。

 

「もうクロったら、そんな言い方してっ! ほら美遊、サーヴァントの体って普通よりも成長しにくいっていうでしょう? 私も付き合うから、一歩一歩進んでいこう?」

 

『――とはいえこれは、どちらかと言えば成長というより感性の問題ですからねぇ。要するに「人は飛べない」という思考の殻を破れるか。ある意味では、普通に成長するよりも難しい問題ですよ』

 

「美遊ってば一線を越えたらチョロいくせに、そこまでは相当に頑固な部分があるものね。苦戦しそうだわ」

 

「クロ、チョロいとか言わないで。私はあなたと違って、簡単に唇を許したりはしないの」

 

 一応言い返しながらも言葉に力がないあたり、美遊も自覚している部分はあるのか。

 クロエはやれやれと肩をすくめて見せる。

 

「私だって別に、誰でもいいって訳じゃないわよ。まっ、あんまり根を詰めても仕方がないし、ちょっと休憩しない? お節介な弓兵から、お弁当もあずかっているし」

 

『でしたらそこの軒下を借りるとしましょう』

 

 サファイアが指(?)さしたのは、博麗神社の軒下。

 彼女たちが現在飛行魔術の練習を行っているのは、博麗神社の敷地内だった。

 

 3人揃って軒下にちょこんと腰を下ろし、手を合わせて「いただきます」。

 それぞれに弁当箱を開く。

 

「……デコ弁って、私たちを完全に子供扱いしているわね。あの男」

 

 クロエが顔を顰める。

 

「私は可愛いと思うけど」

 

 クールな表情を崩さず、美遊が感想を述べる。

 

「うーん、いつもながら美味しい! でもそれだけじゃなくて、なんだか食べやすいというか、ホッとする味なんだよね……なんでだろ?」

 

「……まあ、ある意味当然よね」

 

「何か知ってるの、クロ?」

 

「さあて、ね」

 

 首を傾げるイリヤに、クロエは明後日の方向を向いて見せる。

 あからさまにはぐらかしている態度にイリヤは頬を膨らませるが、クロエは話題を変えて見せた。

 

「そういえば、私たち以外にも何人か来ているようね」

 

                      ◇

 

「なんというか、あなたの魔術ってすごく独特よね」

 

 メディアは年若い魔女・魔理沙に向けてそう告げた。

 

「そうか?」

 

「ええ、独自色が強いというか……見た目こそすごく派手だけど、内容的には薬術の類。元の材料がわからない分、私にも完全な解析は難しいわね」

 

「神代の魔女からそんなに褒められたら照れるぜ」

 

「褒めている訳じゃないし、あと魔女とは呼ばないでちょうだい。……アドバイスだったら、私よりも叔母様から貰った方がいいかもね。あちらの方が得意分野だわ。キノコが魔術の原材料って言っていたわね? キュケオーンの材料として幾らか見繕えば、何か教えてもらえるんじゃないかしら。新作のインスピレーションが欲しいみたいだし」

 

「誰かからちゃんとものを習うなんて、いつ以来だか……ところでキュケオーンってなんだ?」

 

「叔母様に聞けば、うんざりするほど懇切丁寧に説明してくれるわよ……ところであなた、服とかに興味はないかしら?」

 

 

 

 

 

 別の場所では、氷の皇女アナスタシアとJK超能力者・宇佐見董子がお互いのスマホを見せ合いながらおしゃべりしている。

 

「ほほう……自撮り鯖コンプ。歴史上の偉人変人英雄怪物との自撮りですか。なかなかに興味深い……というより羨ましい試みですね」

 

「ふふっ、そうでしょうそうでしょう。ハードルが高い相手も多いから苦労するけど、それでこそやる気が燃え上がるというもの。私、氷雪系だけど。でもあなたの弾幕の写真も面白いわね。私も宝具の撮影とかしてみようかしら」

 

「この人がエレナ・ブラヴァツキーさんですか。現存している写真や想像とは随分違いますけど、一度話してみたいですね。なんせオカルティストの祖ともいえる方――大先輩ですから」

 

「面倒見も気も良い方だから、快く引き受けてくれると思うわ。――それにしても、あなたJKという生き物なのよね」

 

「唯一無二の最強無敵の種族です」

 

「いえ、カルデアにもJKを名乗る方はいるのだけど、本物を見るとやっぱり違うのかしらって。『自撮りとかJKらしくていーじゃん!』と自撮りはすぐに了承してくれたのだけど……この人よ」

 

「どれどれ拝見っと。……コレ、JKというよりもコスプレの一種なんじゃあ? なんか巫女っぽいし、ケモミミとかも生えてるし」

 

「ええ、そうなのよ。これまではそういうものかと思っていたのだけれど、あなたを見た後だとどこか痛々しく感じるというか」

 

 

 

 

 

 また少し離れた場所では、面霊気たる秦こころと作家系サーヴァントの一騎・シェイクスピアが言葉を交わしていた。

 

「面より一個の生命として生まれ、足りぬ感情を得ようと多くのことに挑戦していく。ふむふむなるほど……無いものを求める、というのはありきたりな動機ではありますが、吾輩そういうのは大好物ですぞ!! いやまあ、好物も嫌いなものも人一倍多い身ではありますがな!」

 

 愉快そうに笑うシェイクスピアに、ポーカーフェイスを保ったままのこころは告げる。

 

「あなたは劇を通して、多くの人の感情を揺さぶる天才だと聞いた。お願い、聞いてもらえるかしら?」

 

「勿論! このような面白そうな事、逃す手はありますまい! ……いやまあ実の所、吾輩能楽の脚本というのは初めての試みなのですが、それはそれ。カルデアには日本出身のサーヴァントも多いので、何とかなるでしょう。――ところで悲劇と喜劇、どちらがお好みで?」

 

「どっちも」

 

「ハッハッハ! それは欲張りで素晴らしい!! ――ですがまあ、締め切りについては勉強させていただきたく!! ええ、何卒!!」

 

                      ◇

 

「なんかキャスターばっかりで、アーチャーな私としては疎外感を感じるわねぇ」

 

 一通り辺りを見回したクロエは、唇を尖らせながらそんなことを告げる。

 

『攻撃力の補正値は一緒ですから、そう意識する必要はないのでは?』

 

「サファイア、あんまりメタなこと言わないで」

 

『私の妹ながらサファイアちゃんは迂闊ですねー。しかし飛行魔術のコツなら、あそこにいるメディアさんにでも習えばいいのでは? 冠位こそ持ちませんが、純粋な魔術の腕前と知識ではキャスター界隈でもトップクラス。時間とリソースさえあれば割と何でもできる方ですし、小一時間ほど着せ替え人形になるのと引き換えならば、喜んで引き受けてくれると思いますよ? まあ、何でもできるとはいえ恋愛関係は無理なのですが。ってイタァイ!?』

 

 突如飛んできた魔力弾によって、地面に叩きつけられるルビー。

 一同が視線を向けると、メディアがフンと鼻を鳴らしてそっぽ向いていた。

 

「迂闊なのはルビーだよ……でもそんなに魔術に詳しいのなら、ルビーの性格も何とかしてもらえるかも?」

 

『酷いですよイリヤさん!? これまで1期、2期と連れ添い、最終的には13期くらいまでは共にあり続けるパートナーに対して!』

 

「ルビーの中では私の戦いは一体いつまで続くのかなぁ!? というか13期って、その時私何歳なの? さすがに大人になってまで魔法少女は恥ずかしいよー!」

 

『メイヴさんだって魔法少女を名乗っていたんですから、イケますって!』

 

「今日はやたらと賑やかねぇ」

 

 彼女たちの声を聞きつけてか、神社の奥から姿をあらわしたのは脇が大胆な巫女――博麗霊夢だった。

 

「あっ、すみません。騒がしくして」

 

 頭を下げる美遊に、霊夢は手をプラプラと振る。

 

「いいわよ、別に。夜だったらたたき出すところだけど。――ところでさっきちょっと見てたけど、カエルかバッタの真似事でもしてるの?」

 

「――うっ。一応、飛行魔術の練習を」

 

「うん? 空を飛ぶ練習? さっきのが?」

 

 怪訝そうに眉を顰める霊夢に、一通りの事情を説明する。

 すると彼女は納得したようにうなずいた。

 

「なるほどねぇ。じゃあカエルでもバッタでもなく、ノミだったかしら」

 

「ちょ、ノミって!」

 

 突っかかろうとするイリヤを、霊夢は手を差し出すことで制する。

 

「別に貶している訳じゃないわよ。ほら、箱とかに閉じ込めたノミは、箱の高さ以上には跳べなくなるって話があるでしょう?」

 

「あ、ああ……そういう意味で」

 

『悪い方向でのプラシーボ効果ですねぇ。思い込みによって、本来できるはずのことができなくなる。大小はあれど、よくある話です』

 

「そうね。妖怪なんかは思い込みが形になったような奴らだし、ちょっとは詳しいのよ、私」

 

「あら、だったら解決策なんかも知っているのかしら?」

 

 挑発的なクロエの言動に、霊夢はあっさりと頷いてみせる。

 

「ええ――今回の場合は一度、空の高さを知ればいいのよ」

 

「え、それって――」

 

「お弁当は食べ終わったわね……この娘、ちょっと借りるわよ」

 

 霊夢は美遊の手をとると――そのまま飛び上がった。

 

                     ◇

 

「――――っ!? ・・・・・・――!!」

 

 イリヤが下から何かを言っている。

 しかしそれは形にならず、あっさりと美遊の耳を通り過ぎていった。

 

「え、あの、ちょっと!」

 

「落ち着きなさい。舌を噛むわよ」

 

 霊夢に手をとられ、美遊は空を駆ける。

 迅い――素直にそう感じるほどに、景色は間を置かずに過ぎ去っていく。

 

「今の感覚を、体に刻みつけなさい」

 

 ――一面の森が視界を過ぎる。

 

「あなたは籠の中の鳥のままなのよ」

 

 ――湖畔と紅いお屋敷が視界を過ぎる。

 

「なにっ、を……」

 

「本当は飛べるはず。でもあまりにも長い間羽を折ったままだったから……いいえ。そもそも羽を広げたことすらなかったのかしら?」

 

 ――田園が視界を過ぎる。

 

「それっ、は――」

 

 ――人の営みが行われる箱庭のような里が、視界を過ぎる。

 

「別にそれが、悪いって言っている訳じゃないわ。自由っていうのは、必ずしもいい事ばかりではない。時には不自由が必要なこともあるものよ」

 

「……はい。私はずっと、誰かに縛られることで守られていた」

 

――岩肌に覆われた沢が視界を過ぎる。

 

「でも、籠と言う名の安寧はなくなった」

 

「私は、健やかな成長を願われて籠の中で育てられて、ささやかな幸せを得てほしいと籠の外へと送り出された。自分の全てを使って、守ってくれた人たちがいた」

 

 ――青々しい竹林が視界を過ぎる。

 

「初めて得た“自由”はどうだった?」

 

「正直、戸惑いが大きかったです……頼る人も、守ってくれる相手もいない中で一人。でも、送り出してくれた人の願いには応えなくちゃって」

 

 ――雄大な山が視界を過ぎる。

 

「内心、不安だらけでした。外のことなんか知識でしか知らない私が、ちゃんとやっていけるのかって。でも、ルヴィアさんとサファイアに出会って、イリヤに出会って、共に戦って、最初は気に入らなくて、でもいつの間にか友達になっていて……」

 

 ――どこか物寂し気な丘が視界を過ぎる。

 

「他にも、いろんな人に会いました。良くしてくれる人にも、敵対する人にも。願いと心にすりつぶされた最初の魔法少女にも、見ず知らずの私に当たり前のように手を差し伸べてくれたマスターにも。世界は残酷で、哀しくて、救われないことに満ちていて――」

 

 ――命の溢れる畑が視界を過ぎる。

 

「でもそれだけじゃないと、私は知った。守られるだけじゃなくて、守りたいと思うようになった。あたたかな陽だまりが、なくならないでほしいと願った」

 

 ――木に囲われた塚が視界を過ぎる。

 

「だから私は、戦うことを選んだ。最初は生きる糧の為だった。でも私、随分欲張りになっちゃったみたいで……」

 

 ――飛ぶ、飛ぶ、飛ぶ。幻想郷の空を、二人の少女が飛ぶ。

 流れる景色を瞳におさめながら、自分の内面にも視線を向ける。

 

「――今の私には、手放したくないものが多過ぎる」

 

「いいんじゃないの。あなたの両手は空いているんだから、好きなものに手を伸ばせば」

 

 いつの間にか幻想郷を一周したのか、二人は博麗神社の上空に戻ってきていた。

 霊夢は空中でくるりと美遊へと向き直り、両手を広げて見せる。

 

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「――えっ? あっ、私……飛べ、てる?」

 

 そこで美遊はようやく気付く。

 いつの間にか手は解かれており、自分自身で空を飛んでいたのだということに。

 

「なんで、こんな急に……」

 

「あなたはごちゃごちゃと考え過ぎなのよ。一旦頭を空っぽにして、心の赴くままにしてしまえば、あなたはちゃんと飛べるの。だって――」

 

 霊夢はとびっきりの笑顔を浮かべて見せた。

 

「人は、飛べるものなんだから」

 

                      ◇

 

『美遊様、お見事でした』

 

 夕焼けに染まりつつある境内に降りると、サファイアが美遊に語りかけてきた。

 

「サファイア……いたんだ」

 

『それはもう、ずっとお傍に。空気を読んで口を噤んではいましたが』

 

 そもそも飛行魔術はサファイアを媒介に行使されているので、当然いるのだが。

 サファイアは空気を読んで、そのことは口に出さなかった。

 

「イリヤどこに行ったのかな? クロはそこで猫みたいに丸くなって寝てるけど」

 

『イリヤ様は、お二人が境内を飛び立った後すぐに追いかけたようですが、見失って今も幻想郷の空を飛んでいるようです。連絡を入れておきましたので、間もなく戻って来られるかと』

 

「うん、ありがとう。サファイア」

 

 自身の相棒に一声かけた後、美遊は改めて霊夢に向き合う。

 

「あの、今日はありがとうございました」

 

「いいわよ、別に。気まぐれみたいなものだし」

 

「色々と、話すつもりがなかったことまで話しちゃいましたけど……その、なんでここまでしてくれたんですか?」

 

「言ったでしょう、気まぐれだって。深い理由なんかないわ。何となく、そうしたいって思っただけよ」

 

 霊夢はヒラヒラと手を振るって答える。

 

「お礼がしたいって言うんなら、お賽銭でも入れていって。もっともウチの神様も新米過ぎるから、叶うかどうかはわからないけど」

 

「……自分で言っちゃうんですね、ソレ」

 

「里の人たちには言わないようにね?」

 

「ふふ……わかりました。では――」

 

 美遊はQPを賽銭箱に投げ入れ、鐘を鳴らし、お辞儀をして手を合わせる。

 そのまま少しの間目を瞑ったまま願いを伝え、最後にもう一度お辞儀をする。

 

「……やっぱりソレなのねぇ」

 

「――? なにか作法が違いましたか?」

 

「いえ、そうじゃないけど……そういえば、なんのお願いをしたの?」

 

「――はい。人理修復がちゃんと為せるようにって、お祈りすべきかと思ったんですけど……自分のことをお願いしちゃいました」

 

 美遊はもう一度、神社へと視線を移す。

 

「今の私はサーヴァント。本来の私から分岐した影法師。……実の所私、召喚される前の状況がけっこうあやふやなんです。鏡面界へのジャンプの際に分かれた気もするし、その割にはもっと“先”の記憶も曖昧ながら持っている気がするというか……。私は今、人理修復の戦いをお手伝いしていますけど、私の本体も多分、今も戦っていると思うんです。だから……」

 

 美遊は赤く染まりつつある空を見やって、願いを口にする。

 

「『私も頑張っているから、そっちも負けないで』って。この声が届きますように。そう願いました」

 

「自分への応援って、真面目ねぇ……でも」

 

 どこか呆れが混じったような霊夢の声に、美遊は振り向き――

 

「えっ?」

 

「いいんじゃない、そんな願いでも。私は嫌いじゃないわよ……って、どうしたのよ? 呆けたような顔をして」

 

「――いえ。多分、気のせいだとは思うんですけど……夕焼けのせいかな?」

 

「なによ、もう……ってあら? あなたの友達、帰ってきたみたいよ」

 

 霊夢が空を見上げ、つられて美遊も視線を動かすと、その先には大事な大事な友達の姿。

 自分に向かって手を振っているのが分かる。

 

「もう遅いし、そっちの褐色の娘も起こして帰るといいわ。夜は妖怪の時間だから」

 

「――はい、今日は本当にありがとうございました。お姉さん」

 

 礼を告げつつ、美遊は先ほどの光景を反芻する。

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 その赤色を、よく知っているような気がして――

 

「まさか、ね――」

 

 そう呟きつつ、境内に降り立つイリヤを出迎えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

〇美遊(サーヴァント)及び美遊(本体)が飛行魔術を習得しました。

 




〇美遊・エーデルフェルト
 本来の名前は朔月美遊。蒼玉の魔法少女であり、生きた聖杯とも称される神稚児。
 経歴や一部の相手に対して向ける感情が重い。バレンタインチョコもカロリーが重い。
 「鯖としてより礼装の方が優秀なのでは?」とか言ってはいけない。


〇博麗霊夢
 「この子には、自由に生きてほしい――」
 とある母親の最後の願いを、彼女が聞き届けたのかはわからない。
 わからないが、幻想郷で最も自由な巫女は、今日も空を飛ぶ。


〇NGシーン
霊夢「肝心なのは飛べて当然と思う事っ! 空気を吸って吐くことのように! HBの鉛筆をベキッ!とへし折る事と同じようにッ……いえ、鉛筆はもったいないわね。別のものにしましょう」





 2部5章であるアトランティスも秒読み段階になってきました。ところでアトランティスとか、エレナや菫子が滅茶苦茶興味を示しそうなワードだったり。もちろん私も興味深々。型月世界のアトランティスがどのように描かれているのか、楽しみです。
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