「どうも、おはようから午前9時のおやつまでの古明地さとりです。
えっ、短いって? 絆レベルが不足しているので諦めて下さい。
――さて、今回こうしてオープニングをつとめることになった私ですが、
改めまして私はサトリ妖怪――心を読む怪異です。そしてあなた方は人間です。
何が言いたいのかって?
結論から言ってしまえば、今回のお話のオチ。教訓。
世の中には、“言葉にしなければわからないこともある”ということです。
当然ですよね。あなた達は、サトリ妖怪ではないのですから。
舞台となるのは冷え込みも増してきた幻想郷――博麗神社。
あそこに温泉が湧いているのはご存知でしょうか。
アレには一応、ウチも関わっているのですが……
主に性質の悪い神様からちょっかいをかけられた結果、という意味で。
寒くなると温泉が恋しくなりますが、これはそんな季節の一幕です」
◇
「おぉー、今日は湯けむりが一段と凄いなぁ」
夕刻も近くなり薄闇が辺りを覆い始めた中、博麗神社の温泉に足を踏み入れた魔理沙は、直接肌に当たる冷気に体をブルリと震わせながら、自分の息が白く染まるのを見る。
「最近寒くなってきているから。この調子なら、雪も近そうね」
「お前の所の仙界は、季節なんて関係ないだろ。羨ましいぜ」
「植物の成長のために、最低限の四季は取り入れているわよ」
「また氷の妖精が、無駄に元気になる季節がやって来たわね」
共に温泉に入ってきた華扇に対し、霊夢が面倒くさそうに告げる。
夏でも割と元気なチルノだが、冬になるとやかましさは更に増すのだ。
神社に遊びに来ていた魔理沙と華扇、そして住人である霊夢。
3人は冬の寒さから何となく温泉に浸かろうか、という話になり早速実行していたのだった。
「でもこんな時温泉があると、ほんと便利よねぇ。すぐに入れるし、薪を使わなくてもいいし」
「相変わらず貧乏性よね、霊夢って……ってあら? 誰かいるわね」
華扇の言う通り、温泉の片隅には小柄なピンク髪の先客が一人。
「あぁぁぁー……とーけーるー」
言葉通りトロンとした表情で、悪く言えばだらしのない表情で肩まで湯に浸かっている。
「なんだ、まだいたのね」
「知り合いなの? 霊夢」
「知り合いというか、ちょっと前に『温泉に入っていい?』って聞かれたからOK出しただけよ」
「アレ? 霊夢ちゃんも来たんだね。どうぞどうぞ遠慮しないで。ドパーッっと飛び込んで!」
「飛び込まないわよ、別に。妖精じゃあるまいし」
ちなみに隣にいた魔理沙は飛び込もうかとも思っていたのだが、今の一言で自重することにした。
新たに入ってきた霊夢等3人がお湯でさっと体を洗い流し湯船へと浸かると、先客が話しかけてくる。
「ボクはアストルフォ! 『シャルルマーニュ十二勇士』の一人にして、ライダーのサーヴァント! そっちの二人ははじめまして……だったよね?」
「サーヴァントということは、カルデアから来たのね。私は茨華仙――仙人よ」
「私は霧雨魔理沙。魔法使いをやってる。『シャルルマーニュ十二勇士』って言ったらアレだったか。前に何かの本で読んだ気がするが、確かフランスの方だったよな」
「そーだよー」
「性別は……まあ今更か」
史実や伝説として記されているものと現実は違う――そんなことはよくある事だと、魔理沙は経験上よく知っていた。
「確か月に行ったことがあるんだっけか?」
「よく知ってるね」
「実は私も行ったことがあるんだぜ」
「ホント? お仲間だね!」
アストルフォは両手を頭にやり、ウサミミの真似をして見せる。
「月と言えばウサギだよねっ! こっちの月にはいた?」
「おう、ワラワラとな。一応軍人らしいんだけど、それにしちゃあ頼りなさそうな感じだったぜ」
「うーん、それは是非ともあってみたいところだね。月への特攻、もう1回やっちゃおうかな? うーん、でもできるかなぁ?」
「妖怪ウサギなら、月まで行かなくても迷いの竹林までいけば幾らでもいるわよ」
「ホント? 華仙ちゃん! よーし、早速今晩訪ねてみよっかな!」
「……ちゃん付けで呼ばれるのは結構新鮮ね。でも夜は止めておきなさい。ただでさえ迷いやすい場所なんだから、遭難するわよ」
「うへぇ……さすがにそれでカルデアに助けを求めるのは、ちょっと恥ずかしいかな。ご忠告に従い、朝になっていくことにするよ」
「ハハッ、そうしてるとなんか姉妹みたいだな。同じような髪の色だし。まあ、体形はだいぶ違うが」
「うん? 胸のこと? ボクは別にぺったんこでも気にしないけどなぁ」
キョトンとしたような表情でアストルフォは言った。
そして霊夢に対して顔を向ける。
「そーいえば霊夢ちゃんの巫女服ってかわいいよね。ボクも着てみたいなー。どこかで売ってたりするの?」
「私の? ……作ってるのは霖之助さんだから、頼めば用意してもらえるとは思うけど。魔法の森の近くの香霖堂って分かるかしら?」
「わかんないっ! でも探検ついでに探してみるよ」
「霊夢、あなたねぇ……簡単に部外者に神社の正装を勧めるものじゃないでしょ?」
「いや、そういう華仙だっていつだか着ていたような気がするんだが」
「アレは緊急的な措置よ、魔理沙。あなたも探すなんて言っているけど、大丈夫なの?」
「ヘーキヘーキ! ヒポグリフがいるからね、ヒトっ飛びだよ!」
「ヒポグリフ……確かすごく珍しい幻獣の名前だったかしら。良ければ見せてもらえないかしら」
「いーよ! じゃあさっそく――」
「ちょっと、温泉の中には喚ばないでよ! 毛だらけになったら嫌だし」
今にも喚び出しそうなアストルフォの様子に、霊夢は慌てて釘をさす。
続いて魔理沙が話題を口にする。
「そういえば、伝説ではあらゆる魔法を打ち破る魔法書を持っているってあったけど……本当か?」
「あぁ、
本来の宝具の名前は全くの別物だがアストルフォはそれを忘却し、性能を十全に発揮できていない状態であった。
「へぇ、本当にあったのか。そりゃあ一度拝見させてもらいたいもんだぜ」
「別にいいよー」
「安請け合いは止めておきなさい。こいつに貸したら返ってこないわよ」
喜色を顔に浮かべる魔理沙だったが、霊夢が半眼でピシャリと突っ込む。
「別に返さないわけじゃない。死ぬまで借りているだけだぜ」
「うーん、ボク一人の話ならそれでも良かったかもだけど、今はマスターのサーヴァントだからちょっと困るかな。というかドロボーはいけないよ。ドロボーは」
尚アストルフォ自身は死んだ後も幻獣を借りパクしている疑惑が持たれているのだが、生憎とこの場にそれを指摘する者はいなかった。
「マスター……あの藤丸ってやつのことだよな? そんなに大事なのか?」
「もちろん。大好きだよ!」
「し、正直なやつだぜ……」
魔理沙はオープンな発言に若干顔を赤らめながら、湯船に口をつけブクブクと。
霊夢も僅かに顔に赤みがさしているのが見て取れる。
そんな二人の様子に、華扇は呆れた顔になる。
「まったく……熟練の異変解決者でも、恋愛沙汰には初心なのねぇ」
「今日も一緒に温泉に行かないかって誘ったんだけどね! 残念ながら用事があるって、フラレちゃったんだよ」
「その、それって一緒に入るって意味? よく一緒に入ったりしているの?」
霊夢からのもじもじとした問いかけに、アストルフォは「ウン!」と頷く。
「頻繁にって訳じゃないけど、たまにね。一緒に流しっことかしてるよ!」
「そ、そう……進んでいるのね、カルデアって……」
堂々とした言い分に、俯いてしまう巫女であった。
「……あー、その、なんだ。あいつのどこがそんなにいいんだ?」
年頃の少女相応に興味はあるのか、魔理沙にしては珍しい話題を進んで口にしてみせる。――というより、普段彼女の周りにこういう会話をする相手がいないだけかもしれないが。
「んー……全部?」
「いや、全部ってお前……もっとほら、いろいろあるだろう? 顔がいいとか、金持ちだとか」
「結構現金よね、魔理沙って」
「現実的と言ってくれ」
「そーだねー。正直良いところを上げだしたらキリがないというか……好きだから好きっていうのが一番しっくりくるかな?」
「……そんなもんなのか?」
「人を好きになるのに、そんなに難しい理由っているかな? 一緒にいたら心地よくて、心がポカポカする……そんな経験ない?」
「それは、まあ……霊夢、お前はどうだ?」
「答えに困ったからって私に振らないでよ」
きっぱりと切り捨てられた魔理沙はたじろぎながらも、質問を新たにする。
「そういえば前から気になっていたんだが、どうしてお前らサーヴァントは藤丸に従っているんだ? お前はまあ、好きだからっていうのはあるんだろうが……あいつ、別に強い訳でも特別な訳でもないだろ? それなのにとんでもなく強いやつ等が従っているのは、私の目には奇妙に映るんだが……やっぱり魔法の契約とか」
「うーん、きっぱりと否定するようで悪いけど、従っているっていうのはちょっと違うかな。少なくともマスターには、ボクたちを従えているなんて考えは少しもないよ」
アストルフォはパチャパチャと湯面を揺らしながら、手を振って否定する。
「マスターとサーヴァントの関係性は多様だし、一言では言い表せない。相手によって友達だったり、王様だったり、上司だったり、先生だったり、姉だったり、母だったり、ペットだったり……」
「ちょくちょく変なのが混じっている気がするわね」
「アハハ……癖の強い面子ばかり集まっているからね! 相手に対する畏敬や尊敬を忘れず、かといって友情や親愛・理解も放棄せず、“人間としてのあるがまま”を示し続ける――そんな人だから、みんなちゃんと応えるし、共に戦っているんだよ」
しかし魔理沙はまだ、どこか納得がいかないような表情だ。
「でもさ、結局“共に戦う”っていっても実際に戦うのはお前たちサーヴァントなんだろ? その部分に、思うところはないのか?」
「うーん、確かにマスターは戦力という意味じゃ弱いよ。サーヴァントはおろか、そこらの魔獣相手にも戦えない――でもさ、それでもマスターはずっと戦っている」
アストルフォは両手を椀にして湯を掬い上げ、そこに映る自分の顔を見る。
「弱いって言うんなら、ボクだってサーヴァントの中じゃ弱い方だ。剣の扱いでも、マスターの護り方でも、戦術眼でもボクより上の相手はごまんといる。――でもだからこそ、少しは分かることもある。弱いまま――
「それは……」
「想像できる? 文字通り指先一つ、瞬き一つで自分を容易く殺せる相手の前に、身を晒し続けるその怖さが。自分のミス一つで――いや、ミスなんて何一つしなくても当たり前のように負けて、死よりもよほど恐ろしい目にあうかもしれない。滅びの瀬戸際に立つ世界が、本当に終わりを迎えるかもしれない。自分の行動と世界の存亡が、文字通り一つになっている。それがマスターの立っている――立たざるを得なかった戦場なんだよ」
「………………本当に、地獄みたいな現実ね」
思うところがあったのか、華扇は視線を落としながら呟いた。
「そうだね、地獄だ。
ウインクしながら言い切って見せるアストルフォ。
そんな様子に魔理沙は毒気を抜かれたように、ちょっと悔しそうに唸ってみせる。
「――何というか、すごいんだな。乙女として完全敗北した気分だぜ」
「え? エヘヘ、そうかなぁ? そんな風に褒められたらちょっと照れるなぁ」
顔を赤らめながらニヤついてみせるアストルフォ。
そんな様子さえ様になるのだから、敗北感も募るというものだ。
「ところで霊夢。さっきからなんだか顔を顰めているようだけど、どうかしたの?」
突如華扇が、そんな事を言った。
「いや、そのね……」
霊夢は自分でもよく分からないというように、額に人差し指を押し当てている。
「なんだかさっきから、私の直感が現状に対して妙な違和感を訴えているというか……」
「違和感って、ただ温泉に入っているだけだぜ? のぼせて霊夢の勘もバグったか?」
「直感かー。最近はカルデアでもただの直感は需要が落ちて、オリジナルスキル化の風潮が強いからねぇ。モードレッドも騎士王様を見ながらソワソワしてたよ」
「よく分からない内部事情は置いておいて、何か異変の前兆かしら?」
「それだったらもっとはっきり分かると思うのよねぇ……うぅーん」
華扇からの指摘にも、首を傾げるばかりの霊夢。
そんな様子にアストルフォは手をポンと叩いてみせる。
「ああ! ひょっとしてボクが体に巻いているタオルとか? そういえばマナー違反だとか前に聞いたことがあるような……」
「別に私は気にしないわ」
「華仙だって包帯巻いたままだしな」
「うーん、何かしら。保存食を作る手順に何かミスがあったとか……」
「なんだ、本格的な冬に向けての備蓄か? 珍しい事もあるもんだぜ」
「蓮子から教わったのよ。旅が長かったからか、そういうの詳しいのよね。後はカルデアの赤い人からもコツを教わったりもしたし」
「だったらこの冬は博麗神社に行けば安泰だな!」
「タカリは止めなさい。うーん、何かもやもやするわねぇ」
「ここまではっきりしない霊夢は珍しいわね」
考えてみれど答えは出ず。
結局そのまま、一番最初から温泉に浸かっていたアストルフォは帰ることとなった。
「じゃーね! 今日はありがとう!」
「湯冷めしないようにねー」
タオルを体に巻いたまま脱衣所へと向かうアストルフォの姿は、すぐに見えなくなる。
その後も頭を捻りながらも結局面倒くさくなり、持ってきていたお酒で酒盛りを始める3人であった。
〇アストルフォ
シャルルマーニュ十二勇士の一人で、ライダーのサーヴァント。セイバーバージョンも存在する。基本理性が蒸発しており、時折とんでもないポカをやらかす。見た目は美少女。善良なマスターにはやたらと懐く。ちなみにアストルフォは、博麗神社の温泉を混浴だと思い込んでいる。
何もおかしなことなどないっ!!(強弁
うん、まあこういうこともありうるよね? ってお話。人とは思い込みと見た目が大きな生き物なのです。魔理沙は大事な物を盗まれてしまいました。そう、乙女としての矜持です。
それはさておき、待ちに待った2部5章も秒読み段階。箱開けも終了したので、待機状態。ちなみに82箱でした。後は東方サイドでも、ニコニコ静画で漫画の連載が何本か始まったのがうれしかったり。あずまあやさんの新鮮な華扇がまた見れる。