「それでは改めまして――あけましておめでとうございます。先輩!」
「フォーウ!」
朝――青い振袖を身に纏ったマシュとフォウ君が立香のマイルームを訪れ、元気よく告げた。
「うん、あけましておめでとう」
「はい。昨晩一緒に年を越した際にも言わせて貰いましたが、やはり元旦の朝にはこの挨拶が相応しいと思いもう一度ご挨拶を、と」
「みんなでどんちゃん騒ぎだったもんね」
「フォフォウフォウ、フォーウ」
「カルデアベースは閉鎖空間なので、こういった季節ごとの行事は積極的に取り入れなければ、感覚がズレていってしまいますからね」
「季節ごとのイベントは、放っておいても勝手に始まる気もするけど」
「それは……確かにそうですね。人理修復が始まった時は、あんなに頻繁に変……いえ、独特な特異点が数多く発生するなんて思ってもみませんでした。まさに『事実は小説より奇なり』。本やデータベースの知識だけからでは計り知れなかったことばかりです」
カルデアの歴史に刻まれ、あまりの特異性から外部に対しては秘匿される特異点の数々。
時計塔や国連のお偉方が知ればまずカルデアの正気を疑い、次に自分の正気を疑い、最後には世界の正気を疑わざるを得ないような有様だった。
昨年も色々あったなぁ、などと立香は遠い目をする。
「それでもまた、1年を終えることができました。昨晩は紅閻魔先生の年越しそばも、大変絶品でした。レミリアさん一押しの納豆かき揚げのトッピングはチャレンジでしたが、あちらも美味しかったです」
「日本人でも納豆は、食べ慣れていないとダメって人も多いからね」
「そのように聞きます。でもこうしてチャレンジする機会があるということは、とても幸運なことだと思うのです」
「うん、そうだね。――おっと、じゃあそろそろ行こうか?」
「はい!」
「フォウ!」
◇
元旦――普段は人が訪れることの少ない博麗神社にも、この日ばかりは参拝客で人だかりができる。
「とは言っても、ここ数年は守矢神社にも人が流れているのよね。特に最近はロープウェイなんてものも作ったくらいだし。まっ、それでも書き入れ時には違いないわ。挨拶も早々で悪いけど、稼ぐわよー! 今年はカエサルさんにプロデュースしてもらっているし、早苗たちには負けないわ!」
「えっ、ちょっ」
やる気を漲らせて去っていく霊夢を見送った後、立香とマシュは見つめ合い、互いに頷いた。
「カエサルには、後で釘を刺しておこう」
「それがよろしいかと。何だかんだで暴利を貪るような真似はしないと思いますが……それにしても、人里からは離れた神社でも元旦ともなればここまで賑わうものなのですね」
境内を見渡せば、博麗神社しては珍しいレベルで人が集まっている。
同時に屋台や出し物なども、多く開催されていた。
「カルデア育ちの私としては、この光景はとても新鮮なものです」
「俺だってそうだよ。妖精や妖怪が屋台を開いているなんて光景は、見られるものじゃないからね」
いい匂いが漂ってくる屋台に目を向ければ、人に混ざって妖精、河童、妖怪兎などの面々が店主をしているのが見て取れる。
「――もしかしたら気づかなかっただけで、こっそり人間社会に紛れ込んだ人外もいたのかもしれないけど」
「そうですね。巴さんや小太郎さんのような例もありますし、外見や力にはあらわれないくらい薄く人外の血が混じった人もいる――そういうこともあるのかもしれません。そう考えれば、神秘も案外身近な場所にあるのかもしれませんね」
「いつか、そういう人に出会うこともあるかもしれないね。じゃあ参拝も終わった事だし、屋台巡りをしよっか」
「はい。フォウさんもお鼻をヒクヒクさせて待ちくたびれています」
「フォウッ!?」
◇
「おや、あちらにいるのはアルトリアさんですね」
マシュの言葉につられていくと、屋台の一つに青い王様がいた。
「おはようございます。こちらの屋台では何を?」
「マスターにマシュ、それにフォウも。ええ、ここで扱っているのは――」
「焼き八つ目鰻よ! あなた達もどうかしら?」
羽の生えた妖怪の少女――ミスティア・ローレライが声を張り上げた。
「美味しいし、目にいいの。これを食べていれば、あなたも眼鏡が取れるかもしれないわよ? ……ってあら? 今日は眼鏡、かけてないわね。ひょっとして双子さんだった?」
「いえ、マシュ・キリエライト本人で間違いありません。デミ・サーヴァントになった今眼鏡はファッションなので」
「そうなの? 変なの」
「……変」
肩を落とすマシュの頭をポンポンと撫でながら、立香は苦笑した。
「君は確か夜雀の……鰻は良く見るけど、八つ目鰻は珍しいな」
立香は脳裏に、グロテスクともとれる外見を思い浮かべる。
「普通の鰻は、八つ目鰻が旬じゃない時期に扱っているわ。最近は鰻もよくとれるようになったし」
「ほほう……こちらの八つ目鰻もなかなかの味。普通の鰻もいずれ食してみたいところですね」
瞳の奥をキラリと輝かせるアルトリアに、立香はふと思い出したことを口にする。
「そういえばイギリスの方にも、鰻のゼリー寄せって料理があったね」
「ゼリー寄せ、ですか? それは美味しいのでしょうか?」
「オレも食べたことはないからなぁ」
「ふむ、今度キッチンカルデアの方に頼んでみますか」
「私も興味あるわね。ゼリーならスイーツ感覚で出せるかもしれないし、レシピを調べてみようかしら?」
実態を知らない者の発言だった。
そこで気を持ち直したマシュが口を開く。
「それにしても、お祭りで焼き八つ目鰻は珍しく感じます。いえ、私はこのような場自体珍しいのですが……やはり焼き鳥などの方がメジャーに感じますが、どのような経緯でこのお店を?」
「その焼き鳥を撲滅するためよ!!」
ミスティアは激怒した。
「鳥系妖怪たるもの、遠い同胞たちが紅提灯の下にいつまでも並べられているのを、黙って見続ける訳にはいかないわ! 故に私は立ち上がったのよ! あと普通にお金稼ぎもだけど」
「はあ……同胞の為、ですか。心意気は買いたいところですが、牛も魚も豚も鳥も何でもwelcomeな私としては悩ましいところ」
「ガウェインのマッシュポテトは?」
「………………………………ええ、食べますとも、ええ。配下の騎士が誠心誠意作ってくれたものです。残しはしません、ええ。あとマスター、あまり意地の悪い質問は控えて下さい」
「ごめんなさい」
「あ、でも……」
マシュはミスティアの熱意に押されながらも、ふと思い出したことを呟く。
「同じ雀属性でも、紅閻魔先生は普通に鶏料理もされていたような……」
「昨日も鴨蕎麦だったしね」
「なんですってー!? そんな奴鳥妖怪の風上にも置けないわ! 会ったら私がとっちめてやるわ!」
「難しいんじゃないかなぁ……」
◇
続いて辿り着いたのは、何やら奇抜な屋台。
「えっと、これは……」
マシュも何とも言い難い表情で目を伏せる。
「ほう、マスターにマシュ殿。ははは、華やかな装いで何より。普段から険しい戦いも多い。今日くらいはゆるりとされるとよかろう」
「フォウッ!」
「おやおや、フォウ殿も一緒であったか。この時期ばかりは、その毛皮が羨ましく感じるというもの」
声をかけてきたのはアサシンのサーヴァント・佐々木小次郎。
容姿端麗な凄腕剣士なのだが、今は何故か店主として店番をしていた。
「あの、小次郎さん。この屋台は……」
「うん? ああ、もちろんレプリカ故に心配無用。何、商品化への交渉はカエサル殿が済ませておる。いやはや、ゴルゴーン殿にまで話を通す弁舌、まさに魔法の如くと言うべきか」
小次郎のあずかる屋台はお面屋ならぬ仮面屋。
アマデウス、サリエリ、ゴルゴーン、アシュヴァッターマン、サンタム、ムジュ〇の仮面など、多種多様な仮面が並べられていた。
「えっと、なんでこんな屋台に?」
「カエサル殿から話を持ちかけられたのでな。生前は畑を耕し、刀を振るうしかしてこなかった故、このような経験も一興と思ったまで。拙者も仮面系サーヴァントの先駆けとして縁を感じたというのもあるでござるが」
尚、彼自身は本来別に仮面など被っていなかったりする。
「はあ……確かに“佐々木小次郎”という仮面を被っているという意味では、仮面系サーヴァントであるのかもしれませんが……」
「はははっ! これは正月早々、マシュ殿から一本取られてしまったでござるな!」
「そういえば千代女が少し前に、『あんまり“ござるござる”って使わないでほしいでござる』って言ってたよ。忍としての品位が疑われるって」
「ほう……? そのようなことを。かのくノ一とはあまり関わりがなかったでござるが、これは一度積極的に絡んでみるべきか……?」
「すーみーまーせーんー」
小次郎と話しこんでいると、抑揚の少ない声で少女が話しかけてきた。
付喪神――秦こころである。
「おっと、いらっしゃい。どの品をご所望かな? 麗しきお嬢さん」
「とりあえず右から左まで、全部」
「なんとぉ!?」
豪快な大人買いであった。
◇
歩いていると見知った妖精が屋台に立っているのを見かけ、声をかける。
「こんにちは、チルノさん。……あの、このお店は一体」
「カエル釣り!」
ある意味では、先ほどの仮面屋以上に異様な光景であった。
小さな桶の中に張られた水の中にプカプカ浮かぶのは、氷漬けのカエルたち。
「ヨーヨー釣りの亜種かな?」
「フォーウ……」
フォウ君が桶の淵によじ登り、凍ったカエルをツンツンとつつく。
「そう! この時期にカエルなんてレアでしょ? だから人がいっぱい集まると思ったんだけど……こないのよね。なんでだろう?」
腕を組んで小首を傾げるチルノ。
何というか、景品のラインナップ故としか言えなかった。
というかこの凍ったカエル、針を引っかける部分がなかった。
しかしどんなものにも需要というのはあるもので……
「カエルと聞いて!!」
ぬっと姿を表したのは、長い黒髪の美女。
「お竜さん! ということは……」
「当然僕も一緒だよ。新年あけましておめでとう」
白いスーツの男性・坂本龍馬も苦笑しながらついてきた。
その隣でお竜さんはしゃがみ込み、桶の中を覗き込んでいる。
「ほほう……初めて見るカエルだな。幻想郷の固有種か?」
「ふふん、このカエルの良さが分かるとはなかなかできる女ね! こゆーしゅ? ってのは分からないけど、池で捕ったのよ」
「どのあたりにある池なんだ?」
「案内してもいいけど……あそこ、大蝦蟇がいるのよね。アタイも前に一回飲み込まれたし。いずれリベンジするんだけど!」
チルノの言葉にお竜さんは瞳を爛々と輝かせた。
「ほう、大蝦蟇! 聞いたかリョーマ! すぐ行くぞ! 今から行くぞ! ぐずぐずしていたら誰かに先を越されるかもしれない!」
「あの大蝦蟇をやっつけるって言うんなら、案内してあげるわ。今こそアタイの力を思い知らせる時!」
「って君、屋台はいいのかい?」
「どうせ誰も来ないしっ!」
元も子もない発言であった。
◇
立香とマシュ、それにフォウ君は近くの屋台で買ったおでんを手に、臨時で用意されているベンチへと座った。
「この時期は温かいものが嬉しいですね。大根に良く味が沁み込んでいて、とてもおいしいです。先ほどの屋台の店主さんも私と然して年齢が変わらないように見えましたが、この腕前は称賛するしかありません。ええっと……名前はなんておっしゃっていましたっけ?」
「美宵ちゃんって言ってたかな?」
「ああ、そうでした。聞いたはずのばかりなのに、なんで忘れていたんでしょう?」
首を傾げながらもおでんを堪能していると、二人の女性――否、女神が連れたって歩いてくるのが目に入った。
「エレシュキガル! と、隣の人は……」
変わった格好の女性であった。いや、カルデアにいればさほど目立ちはしないだろうが。
“Welcome hell”と書かれた黒いTシャツに、チョーカーからは鎖でつながれた三つの惑星じみた球体が見て取れる。
「あらマスター、それにマシュ。ご機嫌用……って災厄の獣も一緒なのね」
「フォーウ?」
「へぇ……随分と面白い獣がいるわね」
赤い髪の女性が、フォウ君をひょいっと抱きかかえる。
ゆったりとして手つきで背中を撫でると、白い獣は気持ちよさそうに目を細める。
「いい毛触りね……ペットにしたいくらい」
「ちょっと、間違っても地獄に連れていこうなんて考えないでよね? 下手したら一気に羽化しかねないのだわ」
「ふふ……それはそれで見てみたい気もするけど、あなたの手前止めておきましょうか」
彼女はフォウ君をベンチの上に戻すと、改めて立香たちに向き直る。
「初めまして、私はヘカーティア・ラピスラズリ。地獄の女神よ」
「藤丸立香、カルデアのマスターです」
「私はデミ・サーヴァントのマシュ・キリエライトともうします。こちらはフォウさんです。よろしくお願いします」
立香たちが普通に挨拶を返すと、ヘカーティアは珍しいものを見るように目を丸くした。
「あの……どうかしました?」
「いえね、普通の人間は地獄の女神なんて言ったら顔を顰めるものだから、あなた達の反応はちょっと新鮮なのよ」
「まあ、最近は女神様の知り合いも増えたので……」
カルデアにも女神系サーヴァントは多く召喚されている。
“純粋な女神”となるとレアなケースだが、それでも珍しいというほどでもなくなっていた。
「あらあらそれは……幸運なのか、凶運なのか。普通の人間なんて女神一柱と遭遇した時点で致命傷でしょうに、随分と細い橋の上を渡っているのね?」
「自覚はあります」
女神や神霊といった存在の感覚は独特だ。
動機そのものは人間と似通っていても、過程や手段、目的とする結果は『どうしてそうなった?』と首を傾げる場合も多い。でも――
「色々と迷惑な女神様もいますけど、悪い女神様ではないですから。それに――」
「それに?」
「エレシュキガルと楽しそうに話していたあなたも、多分悪い女神様じゃないです」
「あら」
ヘカーティアは口元に手を当てた。
そしてニヤニヤと、面白そうに口元を歪める。
「なるほどねぇ……こうやって女神を口説いてきたのかしら。女神にちゃんと向き合う人間なんて、早々いないものねぇ。私も悪意が薄いと評されたことはあっても、悪い女神じゃないなんて言われたのは初めてだわ。あなたもこの態度にやられた口かしら? エレシュキガル」
「な! ななななな何を!! 私はメソポタミアにおける冥界の管理者、そんなに安い女神ではないのだわ! ってちょっとマスター! 見所がある人間なのは確かだから、そんなに寂しそうな顔しないでちょうだい!?」
クール然とした態度を崩しアワアワとしだしたエレシュキガルにヘカーティアはクスクスと笑って見せる。
そんなコントのようなやり取りもひと段落ついた後、マシュが二柱の女神へと尋ねる。
「ところでお二人は、一体どのようなお話を?」
「ちょっと共通の目的について、意見交換を」
ヘカーティアの返答に、エレシュキガルも頷く。
「緑化の話なのだわ」
「緑化っていうと、あの冥界に花を咲かせたいっていう……」
「ええ、ヘカーティアも彼女の管理する地獄に、生命溢れる自然を定着させる事業を予定していると聞いたの。私もこれまでいろいろ試してきたけどうまくいかなかったから、その辺りついて討論をね。“三人寄れば文殊の知恵”って諺もあるでしょう? 時には異なる見識を取り入れることも大事なのです」
「三人じゃなくて二人だけどね。もっとも私は、一人でも三人分みたいなものだけど」
この時はこの言葉の意味がよく分からず“三人分働いている”程度に考えていたのだが、後々彼女が文字通り三つの体を持っていると知る事になるのであった。
◇
二柱の女神と別れ屋台巡りを再開している最中、立香たちは声をかけられた。
「やっほー、カルデアの少年! 楽しんでる?」
黒い中折れ帽を被った少女。元放浪者にして博麗神社の新神――宇佐見蓮子であった。
隣にいるのは――
「こんにちは、蓮子さん。それに紫さん――いえ、“今は”メリーさんとお呼びした方が?」
「ええ、そっちでお願いするわ」
金髪の少女――マエリベリー・ハーンは柔らかく微笑んだ。
「蓮子さん、今日はこっちにいたんですね」
立香からの指摘に、蓮子は「さすがにね」と微苦笑する。
「まだまだ神様としては未熟だし自覚も薄いけど、こんな日くらいはちゃんとするわ。もっとも、神様としての振舞いなんてろくに分からないけど。……いくら何でも邪神どもの真似をするわけにもいかないし」
普段はあちこちをふらふらと見て回り博麗神社にいないことも多かったが、特別な日には自重して戻ってくるようだった。
「去年はあなた達にはいろいろと迷惑をかけたしお世話にもなったけど、今年もよろしくお願いするわね」
「いえいえ、大変ではありましたけどおかげで新しい縁もできましたから」
「はい、先輩の仰る通りです。失うものも多い分、こうした縁は大切にしていきたいと思っています。……こちらの状況も不安定且つ不透明ですので、いつまでクロスロードを維持できるかは分かりませんが」
「そうね。でも今くらいは、穏やかな夢を見ましょう。その程度は許されるはずよ」
穏やかでたおやかな笑みを浮かべるメリー。
八雲紫を半端に知るものが見れば「え、誰?」となり、親しい者が見れば根底にある慈愛は同質だと納得する――そんな微笑みであった。
「おお、メリーが何か大人っぽい」
「そりゃあね、蓮子。あなたと別れてからの話を照らし合わせた感じだと、私の方がだいぶ長く生きているみたいだし」
「濃密さじゃ私の方も負けてないと思うんだけどねー」
軽口を叩き合う少女二人を微笑ましく思いながらも、立香は気になっていたことを訪ねる。
「そういえばメリーさん、賢者を降りるつもりだって言ってましたけど……」
「ああ、その話ね。なしになったわ」
メリーは深々とため息を吐く。
「私も色々とやらかした訳だし、幻想郷の管理者としての権限を大幅に縮小して、今後は一住人として幻想郷に関わっていくつもりだったわ。その為に他の賢者たちにも話を通していたんだけど……」
やれやれといったように首を横に振る少女。
「あいつら――私が請け負っていた仕事の引継ぎの話になった瞬間手のひらを返して。やれ『我々には君が必要だ』とか、やれ『賢者としてあなた以上に相応しい者はいない』とか。いっそ藍に全部任せようかとも思ったけど、顔を青くして『私に紫様の代わりなどつとまりません!』って泣きついてくるし」
「え、ええっと……参考までにどんな仕事を?」
「メインは幻想郷の結界の管理――あとは細々とした雑務全般よ。人妖のバランスの調整とか、治安維持とか、幻想郷の資源の流通状況の把握及び調整とか、外の世界の裏の組織とか神秘勢力との折衝とか……他にもまあ、適時いろいろと」
雑務全般――言い換えれば中身が不透明な、誰もやりたがらない(ぶっちゃけめんどい)仕事をまとめて振られているのだった。
「メリー、あんた……幻想郷って、一つの組織としてみると結構不安定だったのね」
「……急に辞められたら仕事が回らなくなる人材の典型ですね」
「まあ時間はあるわけだし、のんびり藍を仕込みながら徐々に仕事の引継ぎをしていくつもりよ」
「是非とも藍さん以外にも、仕事は分担して振り分けて上げて下さい」
「そう? 参考にさせてもらうわ」
聞き入れながらも小首を傾げるメリー。
なまじ自分でやり切れてしまっていたが故の弊害だった。
「それにしても、もう年の移り変わりか。昨年も慌ただしい1年だったわね。そういえば外で元号が代わって、初めての新年でもあるのよね」
「えっ? 元号が代わった?」
立香は思わず聞き返していた。
「えぇ……そう言えば話していなかったかしら? 外の世界の日本で、去年の内に元号が新しくなったのよ。名前は――」
◇
「令和、か……」
マイルームでベッドに座りつつ、立香は自分の手の甲に刻まれた紋様を見ていた。
「何となく令呪に似ているのは、奇遇ですね」
「そうだね」
横に座ったマシュの言葉に、ぼんやりと頷く。
「先輩? どうかされましたか?」
「うん――いや、ちょっとね」
ベッドの上に、ポンと背を投げ出す。
「オレたちの世界は漂白されて、文明が消え去った。――でもあの出来事がなければ、今頃オレがいた日本も新しい時代を迎えていたのかって、そう考えたら不思議な気持ちになって」
「………………」
「今頃家族や友達と一緒に、新たな時代を祝っていたのかなって、そう考えちゃってさ」
「フォーウ……」
「新たな時代を迎えることが、必ずしもいい事なのかはわからない。忘れるもの、捨て去るもの、過去に埋没していくものも、きっとあるんだろう。迎える時代が、必ずしも輝かしいものであるとは限らない。でも――」
立香は、身を起き上がらせる。
「それでも、生前のサーヴァントのみんなが……ううん。それ以外の多くの人々が築き上げてきたのが、オレたちの世界なんだ。その先に待つものが例え停滞や破滅だとしても、先人たちが築き上げオレたちが生きる“今”を、“無為”だとか“失敗”だとか、断じたくはない。理屈も理論も伴わない感情論かもしれないけど、みんなから託されたバトンを次の世代へと繋いでいきたい。いずれオレも“過去”の側になるんだろうけど――むしろそれを誇らしく思えるように、生きていきたいんだ」
「先輩……はいっ! 不肖マシュ・キリエライト。今後ともマスターのメインサーヴァントとして、身の回りのお世話からクエストまで、共に頑張らせていただきますっ! ですから――今年も1年、よろしくお願いします」
「うん、オレこそ一人じゃ何もできないマスターだけど、こちらこそよろしくお願いするよ」
「フォフォウ!!」
カルデアの灯は未だ消えず、足掻き続ける人々はいる。
その行き先に、幸あらんことを。
〇八つ目鰻
気になってちょっと調べてみたら、旬は11月~2月ごろ。
でも文花帖からの描写では冬眠するようにも描かれている。
うん! 細かい事は気にせず今の時期はミスティアも扱っているということで!
〇ヘカーティア・ラピスラズリ
地獄の女神。地球・月・異界の地獄を管理しそれぞれの世界に体を持つ。
変なTシャツと呼ばれることも多いが、エレシュキガルは「なかなかいいセンスをしているのだわ!」とそのファッション性に一目置いている。
〇奥野田美宵
人里の酒場“鯢呑亭”の看板娘で、詳細不明。
ただしその胸元はぐだ子に匹敵するポテンシャルがあると断言できる。
〇メリー
現在は八雲紫の姿とマエリベリー・ハーンの姿を使い分けている。
メリーになるのは基本オフの時で、相手によって変える。
〇カエサル
「別に、幻想郷の経済を牛耳ってしまっても構わんのだろう?」
男は赤い背中越しに、皮肉気な声を響かせた。
「令呪をもって命ずる。自重せよ、セイバー」
あけましておめでとうございます。また新たな年を迎えることになりました。
久しぶりに小さいころ住んでいた地域に初もうでに行ったら、昔通っていた小学校が跡形もなくなっていました。こうやってまた一つ、幻想が増えていくんだなぁとしみじみ。
fate関連も東方関連も、ますます世界観が広がりつつあります。衛宮さんちの今日のごはんのゲーム化はさすがに笑いましたがw そんな世界の中に、これからも浸っていけますようにと。
それでは善き1年を――
まあ私は開幕で爆死でしたけどね!!
ランサー福袋、エレちゃん1/4の壁をまたもや越えられず。