甘い予感がする……!
Case:レミリア・スカーレット
「なんで吸血鬼の私が、聖人由来のお祭りに参加しなきゃいけないのよ。しかも日本風に魔改造された」
レミリアは自分の背よりも高い背もたれの真っ赤な椅子に腰を下ろしたまま、憮然とした顔で立香に対して告げた。
「でも節分とかはやるって聞いたけど……」
「アレはパチェの主導よ。私は炒り豆に触ったら火傷するし、基本見ているだけ。恵方巻でも食べながら」
「恵方巻きも広がったのは、けっこう最近だったような……。レミリアって、何だかんだで日本の文化にかぶれているよね」
「郷に入っては郷に従え、って言うでしょ? 長く生きているんだから、文化も服の感覚で取り換えるのよ」
「いつも大体同じ服じゃなかったっけ?」
「ブームなのよ、今はこのデザインが。あと100年くらいしたら変わるかもね」
「ヴラドⅢ世は、『伝統がどうのと意義を唱える必要はない』って言ってたけど……」
「うぐっ……あなたねぇ。どれだけ私からチョコを貰いたいのよ」
呆れたようにため息を吐くレミリア。
立香もさすがに引き際かと考えるが、幼い吸血鬼はクスクスと笑いだす。
「――なんてね。冗談よ、冗談。はい、コレ」
レミリアが手渡してきたのは、赤い包装紙でラッピングされたプレゼント。
「チョコ!」
「私は寛容な吸血鬼なのよ。ちょっとした手慰み程度の代物だけど、まあ味は悪くない、はず……ホワイトデーのお返し、ちゃんとしなさいよ?」
「――うん、必ず」
〇ブラッディ・スカーレット
レミリア・スカーレットからのバレンタインチョコ。
紅魔館の庭にいつの間にか自生していたマンドチョコラゴラを収穫し、蛮神の心臓×5、真理の卵×5、奇奇神酒×5、世界樹の種×24を使って再臨。更にレミリアの弾幕の魔力に晒すことで鍛え上げ、錬成された一品。紅く透き通った結晶のような見た目になっており、その色合いは彼女の瞳のソレを連想させる。
『ホワイトデーを期待する』ということは、『次もちゃんと生きて帰ってきなさい』ということでもある。
Case:博麗霊夢
「あ、いたいた。立香さん、ちょっとお願いがあるんだけど」
博麗神社にて、両手に荷物を抱えた霊夢が立香に話しかけてきた。
「オレに出来ることなら」
「そんなに難しい事じゃないわ。ちょっとコレ、試食してほしいのよ」
霊夢が荷物を紐解くと、そこに入っていたのは――
「チョコ? いろんな種類があるけど――」
「ええ、ウチの新商品。その試作品よ」
立香と霊夢は隣り合って、神社の軒下に腰を下ろす。
「ほら、カルデアでバレンタインがどうのこうのって騒いでいるじゃない?」
「うん、毎年恒例のお祭りだね」
年によっては、カルデアを壊滅一歩手前まで追い込んだこともある一大イベントである。
「それってひょっとしてバレンタイン用の? でも幻想郷じゃ、バレンタインは一般的じゃないって聞いたけど」
「そうね。昔から日本文化に根差した行事ならともかく、まだまだ新参のお祭りなんでしょう? しかも外の世界でも現役の。そんなんじゃ、そうそう幻想入りなんてしないわ。そもそも幻想郷じゃ、チョコ自体流通が少ないし」
「じゃあこれは――?」
「できる巫女は常に一手先、二手先を考えて行動するものなのよ」
霊夢は得意げに、ふふんと胸を張る。
「バレンタインでは主に、チョコレートがプレゼントされると聞くわ。ということは、その原材料も大量に用意されているはず」
「うん」
「反面その原材料が必要とされるのは、主にバレンタイン前の話。準備があるから当然よね。つまり、バレンタインの後には売れ残った材料が出てくるはずなのよ」
「ふむふむ」
「となると、当然売れ残りは不良在庫になるわ。ウチだってそうだからよく分かるわ。カッパのぬいぐるみとか本気で使い道がないし。……コホン、話が逸れたわね。不良在庫なんていつまでも抱えていても仕方ないから、多少安くなっても手放したがるはず。つまりその不良在庫を安く買い入れて、こっちで再利用。珍しいお菓子として商品化しようという訳なのよ」
「なるほど、食材が無駄にならないのはいいことだね」
「でしょう? うまくチョコ文化が根付けば、来年以降幻想郷でもバレンタイン需要が生まれて、新たな商機になるかもしれないわ。稼ぎ時はいくらあってもいいもの」
若き野心――もとい捕らぬ狸の皮算用に燃える巫女であった。
「話は分かったけど、なんでオレに味見を?」
「立香さんはこの時期になると、多分世界で一番チョコを食べているグランドチョコソムリエだって聞いたのよ。だから味には詳しいでしょう?」
「……………………」
年々増えるサーヴァント。倍々ゲームのチョコレート。重すぎる贈り物。
「――うっ、頭が……」
「えっ、大丈夫? 偏頭痛かしら……ちょっと横になる?」
「ああ、うん。大丈夫」
「そう? だったらいいんだけど……それでね、良ければ推薦文とかも書いてほしいのよ。『グランドチョコソムリエ一押し!』とか『全幻想郷が泣いた!』とか。それで売り上げ倍増間違いなしよ」
「霊夢ちゃんはたくましいね」
「褒め言葉ね。ほら、あ~ん」
霊夢がチョコを摘まんで立香の口元に寄せてきて、しこたま試食させられるのであった。
〇博麗チョコセット
博麗霊夢からのバレンタインチョコ。
博麗神社にて商品化(予定)のチョコ菓子詰め合わせ。藤丸立香監修。
チョコ饅頭、チョコ最中、日本酒入りチョコ、おみくじ付きチョコ、陰陽玉を模した包装のチョコなど、内容は多岐に渡る。
レシピなどは特に残していないが、霊夢の天性の勘故か意外に味は安定しており、美味しい。
Case:蓬莱山輝夜
「季節の祭事が多いのはいい事だわ。平坦な毎日に、彩りが生まれるもの」
突然訪ねてきた輝夜は、そんな風に切り出した。
「一週間くらい前には、『一年くらい何もせずだらだらしたい~』とか言ってなかったっけ?」
「それは一週間前の私よ。……まあ永遠である以上、一週間前でも一週間後でも大して変わらないんだけど。――それよりも、バレンタインというものを聞きました」
「うん」
「地上の民は変わったことを考えるものね。という訳で、私もバレンタインチョコというものを一つ拵えてみました」
「ありがとう。――というか、料理出来たんだね?」
「多少はね? 永琳にも手伝って貰ったんだけど……ふふ、こういうのって初めてだから、ちょっとだけ照れくさいわね。では私の初めて、受け取ってください」
輝夜は頬を僅かに赤らめながら、服の袖に手を入れ、チョコを取り出し――
「待って、ちょっと待って」
「何かしら? このタイミングで止めるというのはさすがに無粋よ」
「いや、その……ソレ、どこから出したの!?」
輝夜が両手で持ち上げる、黄金の包装紙に包まれたあまりにも巨大な板チョコを指して、立香は叫んだ。
「どこって……そんなことを姫の口から言わせるつもり? もうっ///」
「今のどこに照れポイントがあったの!? というかよく持てるね!?」
「一枚天井より重いものは持ったことがないわ」
「だろうね! くっ、これは間違いなく筋力A……えっ、振りかぶっている? どうやって受け取ればいいのさ!?」
「………………漢は黙って金閣寺!!」
「ちょ、むっ――」
「はいドーン!!!!」
立香の全身を巨大な影が覆い、黄金の壁が迫り――
グレイズ、成功。
〇金閣寺の一枚天井チョコ
蓬莱山輝夜からのバレンタインチョコ。もとい新難題。
月の技術、輝夜の異能、スカサハから学んだルーン魔術、永琳の製薬技術を駆使して作り上げた巨大な板チョコ。金閣寺の一枚天井実寸サイズ。
躱すことも難題。受け止めるのも難題。食べきるのも難題。難題の三重苦。
――とはいえ大きさ以外は単なる板チョコかと思いきや、部位によって味の濃淡や甘さ、風味などに差異があり、食べ進めても飽きないように工夫されており、滋養にもよいという姫の気遣いに溢れている。
……頑張って食べきろう。
Case:八雲紫
「はい、どうぞ」
立香は紫から、キレイにラッピングされたチョコレートを受け取った。
「ありがとうございます」
「今更バレンタインのお祝いをすることになるなんて、何があるか分からないものね」
紫はそう言って苦笑する。
「あなた達にはいろいろ迷惑をかけたし、そのお詫びも込めてね。既製品だけど、その分いいものを選んでいるから」
「いえ、下手にいろいろ込められているよりはいいです」
「あなたも苦労しているわねぇ……」
「さてと――」と紫は踵を返す。
「それじゃあ他にも渡す相手がいるから、私は行かせてもらいますわ」
「はい」
「ああ、あとそのラッピングだけど……それもいいものを選んであるから、良ければ破らずにキレイに剥がして何かに再利用してちょうだい」
「はあ……分かりました」
「それじゃあ、ご機嫌好う」
〇バレンタインチョコ……?
八雲紫からのバレンタインチョコ。
超一流のパティシエによって作られた最高級チョコレート。人の技術の粋――その一角を味わうことができる。なのだが――
チョコレートの外装の包装紙をきれいに剥がせば、その裏地はとある書類になっていることに気が付くだろう。
『秘封倶楽部一日体験入部届』。
さあ、神秘と深秘、幻想を巡る冒険へ。秘封倶楽部を始めましょう。
以上、バレンタイン短編集でした。折角のバレンタインということで、ちょっとだけキャラが甘めになっているかも? 今年のバレンタインイベントも始まりますが、今回はどれだけ重いもとい個性的なプレゼントがあるのか楽しみです。