朝、紅魔館にて――
『昨夜はお楽しみだったね!』
藤丸立香は決意した。スクリーン越しに小悪魔的な笑顔を浮かべるロリの皮を被った天才に、帰ったら頭グリグリせねばなるまいと。
「先輩、昨日別れた後に何かあったんですか?」
「ちょっとわたしのお話に付き合って貰っただけよ」
キョトンとするマシュに対し、レミリアがティーカップに口づけしながらすまし顔で答える。
「そうなのですか。私もお話してみたかったですが……」
「フフ、それはまたの機会にね。それにしても、マシュは素直ねぇ。ウチの妹とは違って」
「うー、お姉さまだって運命だのなんだの回りくどい事ばっかりなくせに」
「己をさらけ出す場を弁えているというだけよ。わたしの場合はね」
「太陽の下とか?」
「さすがに体の中身までさらけ出す気はないわよ」
和気あいあいとした(?)朝食の中、メイド長の咲夜が声をかけてくる。
「藤丸様、お茶のお代わりはいかがですか?」
「あっ、いただきます。料理もとても美味しいです」
「イングリッシュ・ブレックファストですね。咲夜さんは英国の出身なのですか?」
「ふふ、それは内緒ということで。ちなみにお嬢様は、日本食もお好きなのですよ。特に納豆とか」
「納豆! 日本独自の発酵食品でしたね。私も特異点とは言え何度か日本に行ったことはありますが、未だ口にする機会はないんです」
「では明日の朝食にでも準備いたしますわ」
「ちょっと咲夜、あんまり主の個人情報をペラペラ話さないものよ?」
「あら、これは失礼いたしました。お嬢様」
そう言ってはにかむ咲夜の顔を、立香はまじまじと見つめた。
「あら立香、そんな穴が開くようにウチのメイドを見て、どうしたの? ひょっとして惚れたかしら?」
「な!?」
「いや、そうじゃなくてさ……ちゃんとメイドさんなんだなぁって」
驚くマシュを傍らに、立香はカルデアでの情景を思い出す。
「カルデアにもメイドのサーヴァントは何人かいるんだけど、何というかこう……ね?」
タマモキャットとか、メイドオルタとか。正直言って、イロモノであった。
「ちょっと! キャットはちゃんと仕事はするわよ! そりゃあまあ、言動と行動がちょっとアレなのは認めるけど……」
「まあ、カルデアでは猫がメイドをしているので? 文字通り猫の手ということでしょうか……それでもウチの妖精メイドよりは仕事ができるかもしれませんが」
「ちょっと咲夜、あなたさすがにアイツらに対する評価が辛辣過ぎない?」
呆れ顔のレミリアに対して、マシュが注釈を入れる。
「ちなみにキャットさんは、正確にはタマモキャットという名称でれっきとした……い、一応人型のサーヴァントです。ところどころ猫っぽいパーツがあるのは事実ですが」
「かけ声は『わん!』で、主食はニンジンだけどね」
「何そのキメラ」
『あははー、彼女も大概よくわからないサーヴァントだよね。っていうか彼女って明らかにコヤンスカヤと――』
『ええいっ、やめんかい技術顧問! 人が敢えて考えないようにしていたことをっ!』
喧噪の中朝食は終わり、改めて情報をまとめ、本日の行動方針を組み立てる。
『まずは幻想郷なのですが……有り体に特異点と言ってしまっていいでしょう』
腰に手を当てながら、スクリーン越しのシオンが語る。
『……とはいえ我々の知る特異点とは、些か事情が違うようですが。少し前、特異点とは人類史という巻物についた染みと説明したのを覚えていますか?』
「うん、大奥の時だよね」
ビーストⅢ/Lによるカルデアへの直接干渉は、立香の記憶にも新しかった。
半面、その対にして既に討伐済と言われるビーストⅢ/Rに関しては、何故かあやふやなのだが。
『その言い方を少しもじるのならば、幻想郷は“人類史という染め物を構成する柄の一つ”と言ったところでしょうか。信じがたい事ですが、特異点でありながら人類史と絶妙に融和している。つまり、その特異点は修正される必要性が全くない。もっとも幻想郷は、我々の汎人類史とは別の枝葉の汎人類史に属しているようなので、そもそもこちらが手を出す事自体お角違いというやつなのですが』
神妙な顔つきのシオンの言葉を、ダ・ヴィンチちゃんが引き継ぐ。
『カルデアが遭遇したケースでは、セイレムやルルハワに近いところがあるね。現代において地続きでありながら、ある種の独立した法則を持った異界でもある。レミリア君の話では“幻と実体の境界”と“博麗大結界”からなる二重結界によるものらしいけど……いやはや、これは紛れもなく天才の仕事だよ。そちらの世界でも所謂幻想郷の外は、崩壊前のこちらの汎人類史と然して変わらない文明のようだ。当然神秘の衰退具合も同様なんだけど、幻想郷の内は外から神秘が失われれば失われるほど、その神秘を色濃くしていく。こちら側の魔術師たちからすれば、垂涎ものの環境だろうね』
立香自身はそもそも異様にマスター適性が高かった以外は魔術に縁もゆかりもなかった身。故にその感覚はよく分からなかったのだが――
『要するにパソコン関係の技術を極めるんだったら、原始時代がいいか、現代がいいかって話だよ。幾ら本人に神がかり的な才能があるとしても、そもそもそれを発揮できる環境がなければ全くの無意味なんだ』
「なるほど」
簡潔に、わかりやすい説明だった。
『もっともわたしクラスの天才なら、例え原始時代でもパソコンから作れるかもだけどねっ!』
簡潔に、わかりやすいドヤ顔だった。
『おっと、アトラス院の驚異のテクノロジーも甘く見てもらっては困りますよ?』
「いや、張り合わなくていいから。むしろ脅威で戦々恐々だから」
立香自身、以前から“アトラス院には世界を滅ぼす技術”があると聞いていたのだが、正直実感はなかったのだ。あのぐだぐだな一件が起こるまでは――
『ちょっと話が逸れちゃったけど、幻想郷が特異点ってことはこれまでとやり方自体は変わらないってことだよ。なんせ人類史において君たちほど、多くの特異点をさ迷い歩いた者はいないだろうからね!』
「つまり、行き当たりばったりってことだね!」
『もちろんこちらでもバッチリサポートはします。その為の機材の搬入も終わりましたからね』
「ああ、あのアンテナですね?」
マシュが言うように、一晩立つ内に紅魔館のクロスロード付近には、アンテナ機器が運び込まれていた。コード付きで。
『うん、通信の仲介の為のものだよ。無線は便利だけど、安定性においては有線に軍配が上がるからね。“空間的に繋がっている”からこそできる、今回限りの裏技だけど。これで通信もバッチリさ! それに、案内人も貸してもらえるんだったよね?』
「ええ、ウチの門番の美鈴をあずけるわ」
「最近ちょっとたるみ気味なので、こき使って上げてください」
にっこりと微笑んでくる咲夜だったが、何故かゾワリとしたものを感じてしまった立香であった。
『あー、あとちょっと、いや、結構重大なことで言っておかなきゃいけない事があるんだけど……』
急にダ・ヴィンチちゃんが神妙な顔になり、口を開こうとするが――
『う~ん、いやゴメン。やっぱ今はなし。もうちょっと確証が得られてから話すことにするよ』
「はあ……? 分かりました」
マシュが訝し気な顔になる。然もありなん。この天才が言いよどむのはそれなりに珍しい事だった。
『おっと、もう一つ! こっちに迷い込んでいた妖精メイドたちだけど、無事にそちらに返し終わったよ。咲夜君、数は合っていたよね?』
「はい、間違いありませんわ。ただ……」
『うん、何か問題があったかな? 空気が合わなくて体調を崩したとか?』
「問題というか、むしろこちらとしては好ましいことだったのですが……そのことで、後で少々相談させていただいても?」
『? OK、時間がある時に声をかけてくれたらいいよ。それと……』
ダ・ヴィンチちゃんは立香に視線も戻し、ちょっと困ったような顔で舌を出す。
それだけで立香は、何やら嫌な予感に駆られてしまった。
『なんか昨晩の内に、食堂の掲示板に“幻想郷案内板”なるものが張り付けられていてね。それを見たサーヴァント達が、そっちに行っちゃったみたいなんだ。こう、割とゾロゾロと』
カルデア所属の偉人英雄怪物悪人。多種多様な彼らだが、妙な共通点がある。
祭りとなると、意外にノリがいい――
◇
紅魔館を出た後、立香とマシュは門番である美鈴に案内され人里へと向かっていた。
ちなみにエリザベートはフランドールに懐かれているため、一緒にお留守番だ。
「いやぁ~、この手のお仕事は久しぶりですねぇ~!」
緑を基調としたチャイナ服を着た女性――美鈴はそう言って大きく伸びをする。
立香は天に突きあげられた白く、健康的な腕をついつい目で追ってしまう。
「うん、眩しい光景だ」
「先輩?」
「いや、何でもないよ」
「はぁ? ところで美鈴さんも、妖怪なのですよね?」
「はい、これでも結構紅魔館勤めは長いんですよ」
「失礼ですが、人間と瓜二つと言いますか……答えていただけるので良ければでいいのですが、一体なんの妖怪なのでしょう?」
「その質問久しぶりにされますね~。何をかくそう私は――」
「おや、マスターにマシュではありませんか」
美鈴の言葉を遮るように、爽やかな声が響いた。
目を向ければ、白い甲冑に身を纏った男が立っている。
「ガウェイン!」
「カルデアの方ですか?」
「はい、円卓の騎士の一人で、頼りになる騎士です。こちらに来られていたんですね」
「ハハハ、トリスタン卿が真っ先に向かったので、放っては置けぬと追ってきた身です。恥ずかしながら見失ってしまったのですが……」
しかしその割には、にこやかというか、機嫌が良さそうだった。
「ガウェイン、何かいい事でもあった?」
「おや、わかりますか? 実はこの度、運命の出会いというものをしまして」
時折怪しい言動があるものの、基本清廉潔白な彼がこのような言い回しをするのは珍しかった。
「私のスキル、聖者の数字についてはご存知ですよね?」
「勿論。太陽が出ている間は能力3倍なチートスキルだよね?」
第6特異点では散々苦しめられたのだから、忘れたくとも忘れられるものではなかった。
「ええ、チートかどうかはさておき私としても自慢のスキルなのですが、近頃少々問題が」
「何か不具合でも起こっているのでしょうか? でしたらダ・ヴィンチちゃんに相談して――」
「『あのスキル微妙に使いにくくね?』と悪評が立っているのです! カルデアでっ!」
マシュの言葉を遮り、ガウェインはクワッと目を開いて吼えた。
「やれ『クラス相性のいいクエストでは陽射しがない』だの、やれ『いちいち陽射しのフィールドか確認して選出するの面倒臭い』だの……モードレッド卿に至っては『おぉ日和見騎士じゃないか』などと揶揄してくる始末! うまいこと言っているつもりですかアレはっ!!」
「え、ええっとそれはお気の毒と言いますか……」
「失礼――少々声を荒らげてしまいましたね。ですが、それも今日まで――私は出会ったのですよ! ベストパートナーに!」
その声と共に、彼の後ろからひょっこりと小柄な影が姿を現す。
「えっと、サニーミルクです。あなたがカルデアのマスターさん?」
オレンジがかった金髪の女の子。フランドールより僅かに背は低いだろうか?
その姿を認めたマシュは――
「ガウェイン卿――最低です」
「何故ですっ!?」
「以前モードレットさんが、『あいつは若ければ若いほどいいとか言ってるんだぜ』なんて仰っていたときは何かの冗談かと思っていましたが、まさか事実だったとは――これは“アルトリア円卓会議”において議題として提出させてもらいます」
「誤解です! いえ、若ければいい方がいいのは事実なのですが……ともかくそう、彼女の能力の話です!」
これまでの話を静観していた美鈴が、合点がいったというように声をあげる。
「彼女は日の光の妖精で、太陽の光を操る力を持っているんですよ」
「光を曲げたりもできるよー」
「ということは――」
「そう、彼女の力があれば聖者の数字は常時発動状態! 今後の人理修復においても、一層力になれるというものです! 私は彼女を従者として迎えるつもりです。ええ、決して容姿に釣られた訳ではありませんとも。この出会い――まさに運命。言ってみればFate/stay sun!!」
「まって、それは色々不味い気がする」
○紅美鈴
紅魔館の門番兼庭師。中国出身らしい。武術の達人であり、その観点からはアサシン。気の操作と陣地作成(庭)からキャスター。彼女自身が紅魔館の盾という意味でシールダー。後は名前のみが判明しているEXクラス・ゲートキーパーの適性もあるかもしれない。実は紅魔勢では一番のスタイルを誇るとの噂が。種族については、ぶっちゃけぬえ以上に正体不明な気がしなくもない。
○ガウェイン。
円卓の一人であり、太陽の騎士。EXTRAでは真面目な騎士ロールプレイをやり通したが、CCCではっちゃけキャラ崩壊と数々の迷言を生み出した。宝具ガラティーンの柄には疑似太陽が収まっており、太陽を苦手とする妖怪の天敵。
○サニーミルク
俗に言う光の三妖精の一人。日の光を操る程度の能力を持つ。三妖精の中ではリーダー的立場ではあるが、うん。これ以上は言わぬが花。光を屈折させることもできるので、理論上はエクスカリバーの極光も曲げられる。多分キャパオーバーか、本人が焦って失敗しそうな気がするが。
○アルトリア円卓会議
増えに増えまだ増える余地がありそうなアルトリア系列サーヴァント。最早彼女たちだけで円卓を囲める勢いであり、アルトリアによるアルトリアの為のアルトリア会議。ゲシュタルト崩壊しそうだ。
○Fate/stay sun
その日、太陽ゴリラは日の光の妖精と出会う――
なお、カルデアには陽光がなかったため契約解除になった模様。
部下の迷言に青王がアップを始めました。
○氷室の天地12巻
作者さんの骨折も無事回復され、最新巻発売!(催促感
強キャラ感漂いながら残念なことになった竜造寺君、ぶっちゃけ見た目がキリシ○タリア。
クスリと笑える小ネタがウリです。
今更ですがこの作品、FGO世界線側から東方世界線に関わっていくというスタイル。なので視点はFGO寄りになりがちです。あとFGOのイベントを意識しているので、本編には関係ないキャラの掛け合いや寸劇も混じっていく予定。今回のガウェイン&サニーミルクがすでにそれですが。あとキャラの掛け合いですが、神話や史実関係から行くと私の知識不足が響きそうなので、能力や性格面からの掛け合いになることが多そう(汗
あと作品の比重が落枝蒐集領域幻想郷に偏っているので、タイトルをそっちに変更するかもです。