第1話 暗殺の時間
空から超生物が降ってくると思うか?
映画やドラマだったらいい出だしかもな。その超生物が地球を脅かし、地球を救うために主人公が立ち上がる。そして超生物を倒し、英雄になってハッピーエンド…。いい流れじゃないか。
だが俺、遠山キンジはそんな役割はごめんだ。なぜなら現実のそれはきっと残酷で、大変に違いない。そんな役回りをするくらいなら力を出し惜しみしてでも影でひっそりと生きていたい。なので俺は、超生物なんか見たくもないし、戦いたくもない。
なのにこのクラスは……
「起立!」
日直の潮田の声が教室に響き渡る。それと同時に生徒たちが立ち上がり銃を構える。
「気をつけ!!礼!」
ーーーバババババババババババババッ
礼と同時にクラス全員による先生を狙う一斉射撃が始まった。
「おはようございます」
それらの弾を全部高速で避けながら挨拶するのは俺らの担任の先生だ。黄色くて丸いふざけた顔、フニャフニャで曖昧な関節。そして2メートルを超える大きい体。これを超生物と呼ばずしてなんと呼ぶだろうか。
「発砲したままで結構ですので出欠を取ります。磯貝君」
ーーーバババババババババババババババッ
こう言いながらも、クラス全員の一斉射撃を避けているのである。
「すいませんが銃声の中なのでもっと大きな声で」
そう言って名簿順に名前を呼んでいく。
「…遠山君」
「はい」
俺はみんなの銃の技量に合わせながら発砲する。あくまで初心者っぽく、バレないように。
なにせ俺はーーー
「遅刻なし…と、素晴らしい!先生とても嬉しいです」
「速すぎる!!」「クラス全員の一斉射撃でダメなのかよ…!!」クラスメイトが先生がやってのけたことに対して阿鼻叫喚している。
「残念ですねぇ。今日も命中弾ゼロです。数に頼る戦術は個々の思考をおろそかにする。目線、銃口、指の動き。一人一人が単調過ぎます」
一斉射撃が終わった後は先生からのアドバイスタイムだ。
「もっと工夫しましょう。でないと…最高速度マッハ20の先生は殺せませんよ」
「本当に全部避けてんのかよ先生! どう見てもこれただのBB弾だろ?」
前席にいるやんちゃ系イケメン男子、前原が文句を言った。
「当たってるのに我慢してるだけなんじゃねーの!?」 「そーだそーだ」
前原の言い分に便乗してクラスメイトが責め立てる。だが、そんなものは、次の一瞬でかき消されるのであった。
「では弾を込めて渡しなさい」
そう言って前原の隣の席、岡野さんの銃を取る。
(…こいつはさっき、全て避けていた。一発も当たっていない)
それはきっと俺だけがわかる、スーパースローモーションの世界だ。
「言ったでしょう。この弾は君たちにとっては無害ですが…」
引き金に手をかけ、引く。
ーーーブチッィィ
被弾した触手は床に落ち、ピチピチと動いている。
「国が開発した対先生特殊弾です。先生の細胞を豆腐のように破壊できる。ああ、もちろん数秒あれば回復しますが。だが君たちも目に入ると危ない。先生を殺す以外の目的で室内での発砲はしないように」
そう言うと、顔の色を緑と黄色のボーダーにして(っていうか顔の変色?きっも!)言うのであった。
「殺せるといいですねぇ。卒業までに。それでは銃と弾を片付けましょう。授業を始めます」
椚ヶ丘中学校3-Eは暗殺教室。始業のベルが今日も鳴る。
「そこで問題です木村君。この四本の触手のうち仲間はずれは?」
今は英語の授業中。この怪物先生は触手を使い、分かりやすく授業を進める。今は木村に問題を投げかけていたところだ。
なんで俺らがこんな状況になったのか。
「ね…キンジ。昼だけど出てるね、三日月」
今話しかけてきたのは隣の席の根本さん。髪は青色のツインテール。そして顔はお人形さんのような美少女である。
そして俺は…このようないわゆる『美少女』が苦手だ。
根本さんに言われた通り指の先を見てみると、三日月がくっきりと浮かんでいた。
ーーー3年生の初め、俺らは2つの事件に同時にあったーーー
「月が!!爆発して7割方蒸発しました!!我々はもう一生三日月しか見れないのです!!」
そんな世界的なニュースが流れた。そして驚くことに…
「初めまして。私が月を爆発させた犯人です。来年には地球もやる予定です。君たちの担任になったのでどうぞよろしく」
まず5・6ヶ所ツッコませろ…クラス全員がそう思ったに違いない。
「防衛省の烏間という者だ。まずはここからの話は国家機密だと理解頂きたい。単刀直入に言う、この怪物を君たちに殺してほしい!」
………は?
みんな目が飛び出たようなリアクションをしている。もちろん俺もだ。
「…え、なんすか?そいつ攻めて来た宇宙人か何かすか?」
クラスメイトの男子(三村って言ったっけ?)が質問すると、怪物は真っ赤になって怒った。
「失礼な!生まれも育ちも地球ですよ!」
「詳しいことを話せないのは申し訳ないが、こいつの言ったことは真実だ。月を壊したこの生物は、来年の3月、地球をも破壊する。この事を知っているのは各国首脳だけ。世界がパニックになる前に…秘密裏にこいつを殺す努力をしている」
俺たちにも分かりやすく説明してくれた後、ポケットからナイフのようなものを出した。
「つまり…暗殺だ」
そしてそのナイフを怪物の頭めがけて振るうが、当たらない…。一瞬で移動したように見える。
「だが、こいつはとにかく速い!殺すどころか眉毛の手入れをされている始末だ!丁寧にな!」
確かに烏間さんの眉毛がどんどん整っている…。
「満月を三日月に変えるほどのパワーを持つ超生物だ。最高速度は実にマッハ20!」
なるほどね…少なくとも銃弾よりは遥かに速いと…。
「つまり、こいつが本気で逃げれば、我々は破滅の時まで手も足も出ない!」
「ま、それでは面白くないのでね。私から国に提案したのです…殺されるのもごめんですが…椚ヶ丘中学校3年E組の担任ならやってもいいと」
何で!?
「こいつの狙いはわからん。だが政府はやむなく承諾した。君たち生徒に絶対に危害を加えないことが条件だ。
理由は2つ、教師として毎日教室に来るのなら監視ができるし、なによりも、30人もの人間が…至近距離からこいつを殺すチャンスを得る!」
パァン!
「!」
どうやら俺がこの怪物との出会いを思い出していたら、誰かが発砲したらしい。
「中村さん…暗殺は授業の妨げにならない時にと言ったはずです。罰として後ろで立って受講しなさい」
「すいませーん。そんなに真っ赤になって怒らなくても」
中村さんはいたずらがバレた子供みたいに謝っていた。
何でこの怪物がうちの担任に?どうして俺等が暗殺なんか?そんなみんなの声は、烏間さんの次の一言でかき消された。
「成功報酬は百億円!…当然の額だ。暗殺の成功は冗談抜きで地球を救う事なのだから。幸いなことにこいつは君たちをナメきっている」
烏間先生がそんな事を言っていると、この怪物の顔が緑のシマシマになった。
「見ろ!緑のシマシマになった時はナメている顔だ 」
どんな皮膚だよ!?
「当然でしょう。国が殺れない私を君たちが殺れるわけがない。最新鋭の戦闘機に襲われた時も…空中でワックスをかけてやりましたよ」
だからなぜ手入れする!?
「その隙をあわよくば君たちについて欲しい。君たちには無害でこいつには効く弾とナイフを支給する」
烏間先生が支持をし、防衛省の人たちが多種多様な銃と、ナイフを持ってきた。好きな型でも選べと言う事だろうか。
「君たちの家族や友人には絶対に秘密だ。とにかく時間がない。地球が消えれば逃げる場所などどこにもない!」
「そういうことです。さあ皆さん、残された一年を有意義に過ごしましょう!」
これが俺たちとこの怪物の出会いだった。
キーンコーンカーンコーン。
どうやら俺が回想している間に、授業が終わったようだ。
「昼休みですね。先生ちょっと中国行って麻婆豆腐食べて来ます。暗殺希望者がもしいたら携帯で呼んでください」
ドシュッ!
マッハ20だからええと…四川まで10分くらいで行けるのか…確かにあんなものミサイルでも落とせないわな。
どうやらそう思ったのは俺だけじゃないらしく、クラスメイトもどよめいている。
「しかもあのタコ飛行中にテストの採点までしてるんだぜ」
「マジ!?」
「うん。俺なんてイラスト付きで褒められた」
「てかあいつ教えるのうまくない?」
「わかるー。私放課後暗殺に行ったついでに数学も教わってさあ。次のテスト良かったもん」
「ま…でもさ。しょせん俺らはE組だしな。頑張っても仕方ないけど」
そう。タコ型の超生物で暗殺のターゲットなのに、あの先生はなぜか普通に先生してる。俺らも同じ。即席の殺し屋であるのを除けば普通の生徒だ。
けど…俺らE組は少しだけ普通と違う。
「…おい渚」
俺が飯の準備をしていると、前の席の潮田が寺坂に声をかけられていた。
「ちょっと来いよ。暗殺の計画進めようぜ」
「…うん」
何か引っかかるな。しかも寺坂と後ろの吉田、村松は授業に対してもやる気を示さない。いわば不良ってやつだ。潮田と仲が良いとは思えないな。
「キンジ!ご飯食べよ!」
隣から根本さんが誘ってくれるが、俺はそれを承諾してからトイレに行くフリをして潮田と寺坂たちについて行った。
裏庭を出た階段のところで、「暗殺の計画」とやらの作戦会議をしていた。俺はバレないように近づき、言質をとっていた。
(こいつら…マジかよ…)
どうやらこいつらの作戦は、渚に改良したBB弾のグレネードを持たせて、ナイフを持って近づかせて、爆発させるらしい。そんなことしたら潮田は火傷する上に吹っ飛ばされた影響でどこか痛める可能性が高い。
話の途中に、E組に来たことへの絶望や、他のクラスへの嫉妬もあり、何とまあここまで捻くれたもんで。
だがその後に潮田は先生と遭遇し、少し話した後、様子が変わっていた。どうやら本気でやるらしい。
昼休みは終わり、午後の授業がスタートして約5分ほど経った。
「お題にそって短歌を作ってみましょう。ラスト七文字を『触手なりけり』で締めてください。書けた人は先生のところへ持って来なさい。チェックするのは文法の正しさと触手を美しく表現できたか。出来た者から今日は帰ってよし!」
「先生しつもーん」
「何ですか茅野さん」
「今さらだけどさあ、先生の名前なんて言うの?他の先生と区別する時不便だよ」
俺の隣の席の根本さんに引けを取らず背の小さい茅野楓…だっけ?確かに気になるな。呼びずらいし。
「名前ですか…名乗るような名前はありませんねぇ。なんなら皆さんでつけてください。今は課題に集中ですよ」
「はーい」
そう言い終え、先生の顔が薄いピンク色になったその刹那。
ガタッと音を立てて、潮田が席を立った。
後ろの席から確認できたが、こいつは紙の後ろにナイフを隠し持っていた。
(なるほど…ナイフでカモフラージュか…)
おそらくそのまま接近して爆発する手はずなんだろう。
一歩、また一歩と、潮田が足を進めるにつれて、クラスの奴らが持っているナイフに気づく。
殺る気かーーーと
怪物の目の前にたち、ナイフを振るう…がしかし、当たり前のように手首を掴まれ止められてしまう。
「…言ったでしょう。もっと工夫を」
潮田はそのまま先生に抱きつくように体重をかける。
(やめろ潮田…!そんなことをしたらお前は…!)
気がついたら俺は席を立って走っていた。そして潮田の首飾りのグレネードをちぎり、潮田と先生の間に入り、グレネードを俺と先生の間に挟みーーー
バァァァン!
グレネードをが爆発し、耳が痛くなるような爆発音が響いた。
「ッしゃあ!やったぜ!!百億いただきィ!」
「ざまぁ!!まさかこいつも自爆テロは予想してなかったろ!!」
「ちょっと寺坂!渚に何持たせたのよ!」
潮田の隣の席の茅野が焦ったように寺坂に聞く。
「あ?おもちゃの手榴弾だよ。ただし、火薬を使って威力をあげてる。三百発の対先生弾がすげえ速さで飛び散るように」
「なっ…!」
「人間が死ぬ威力じゃねーよ。俺の百億で治療費くらい払ってやらァ。何故か突っ込んでいった遠山の分もな」
痛てててて…。あれ?そんなに痛くない?火傷もない?それになんだ?俺と潮田をおおうこの膜。先生とつながって…
「実は先生月に一度ほど脱皮します。脱いだ皮を爆弾にかぶせて威力を殺した。つまり月一で使える奥の手です」
そう言って天井に張り付いている先生の顔は、顔色を見るまでもなく…真っ暗。ど怒りだ!
「寺坂、吉田、村松。首謀者は君らだな」
「えっ、いっ、いや…!渚が勝手に…!」
その瞬間、ボッっと教室に強い風が吹いたと思ったら先生がみんなの家の表札を手に持っていた。今の一瞬で持って来たっていうのか…!
「政府との契約ですから先生は決して君たちに危害を加えないが…次また今の暗殺方法できたら…君たち以外には何をするか分かりませんよ」
持っていた表札をバラバラと落とし、真っ暗の顔を強張らせて言った。
「家族や友人…いや、君達以外を地球ごと消しますかねぇ」
5秒間でみんな悟った。地球の裏でも逃げられないと。どうしても逃げたければ…この先生を殺すしか!!
「なっ…何なんだよテメェ…!迷惑なんだよぉ!いきなり来て地球爆破とか暗殺しろとか…迷惑な奴に迷惑な殺し方して何が悪いんだよォ!!」
寺坂はさっきの威勢は何処へやら…腰が抜けたようで泣きながら訴えていた。
違う寺坂。こいつが言いたいのはそうじゃない。
寺坂の訴えに対し、先生は顔に○のマークを浮かばせて
「迷惑?とんでもない。君達のアイディア自体はすごく良かった」
そう言って渚の頭に触手を置いた。
「特に渚君。君の肉迫までの自然な体運びは百点です。先生は見事に隙をつかれました」
確かに、俺も少し寒気がした…。それくらい潮田はうまかったんだ。
「そして遠山君。君はおそらく寺坂たちの作戦に気づいていて渚君を守った。その正義感も大したものです」
先生がそう言うと、潮田を含め、クラスのみんなは驚いていた。
「ただし!寺坂君達以外は渚君を、渚君と遠山君は自分を大切にしなかった。そんな生徒に暗殺する資格はありません!」
今度は顔を紫にして×のマークを顔に浮かばせて言った。
そして全員の方を見て
「人に笑顔で、胸を張れる暗殺をしましょう。君達全員、それが出来る力を秘めた有能なアサシンだ。ターゲットである先生からのアドバイスです」
マッハ20で怒られて、うねる触手で褒められた。異常な教育が俺達は嬉しかった。この異常な先生は…俺らの事を正面から見てくれたから。
「さて問題です遠山君。先生は殺される気など微塵もない。皆さんと3月までエンジョイしてから地球を爆破です。それが嫌なら君達はどうしますか?」
俺らには他にすべき事がたくさんある…が、この先生なら殺意さえも受け止めてくれるだろう。
「その前に先生を殺します」
「ならば今殺ってみなさい。殺せたものから今日は帰ってよし!」
俺らは殺し屋。標的は先生。
「殺せない…先生…。あっ!名前!『殺せんせいー』は?」
名前で悩んでいた茅野が大きな声で提案する。
殺せんせーと俺らの暗殺教室。始業のベルは明日も鳴る。
「遠山君…!ありがとね。本当は嫌だったんだ。大丈夫だった?」
「ああ…無事だ。潮田こそ大丈夫か?」
「あ…うん、大丈夫!ところで名前…色々と家庭の事情があって…『渚』って呼んで欲しいな。無理にとは言わないけど…」
「あ、そうだったのか。分かった。これからもよろしくな、渚」
「うん!こちらこそよろしく!」
にっこり笑顔で言う渚の顔は…うーん、女にしか見えん。髪も長いし。まあそこら辺も含めて『家庭の事情』なのかもしれないしな。
「ところで、殺せた人から帰ってよしって…あれ見てよ」
席に戻り、前の席の渚が殺せんせーを指差して言った。
それに対して、俺も苦笑いするしかなかく…。
「今撃っても表札と一緒に手入れされるだけだな。帰れない…」
きっとクラス全員が思った事だろう。
そして今日渚と仲良くなることが出来て、嬉しかった。
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