ネモが出てきて嬉しい。
修学旅行暗殺計画。
2日目と3日目の班別行動時にプロの狙撃手が狙撃を行う。殺せんせーはそれぞれの班を順番に回って付き添う予定。各班は狙撃手の配置に最適なスポットへ誘い込むべし。
「…1日目ですでに瀕死なんだけど」「新幹線とバスに酔ってグロッキーとは…」
殺せんせーはロビーのソファーで真っ青になってぐったりとしている。こんな弱点があったとは。渚に報告だ。
「大丈夫?寝室で休んだら?」
ナイフを顔に向けて振り下ろしながら岡野さんが言った。若干発言と行動が合ってないぞ、岡野さんよ。
「いえ…ご心配なく。先生これから1度東京に戻りますし。枕を忘れてしまいまして」
「「「あんだけ荷物あって忘れ物かよ!!」」」
全く…なんで今だにこの先生を殺せないんだか…ん?
何やら神崎さんもカバンを漁っているぞ?
「どうした神崎さん。忘れ物か?」
「実は…日程表を無くしちゃって」
「神崎さんは真面目ですからねぇ。独自に日程をまとめてたとは感心です。でも安心を。先生手作りのしおりを持てば全て安心」
「それ持って歩きたくないからまとめてるんでしょうが」
思わずツッコんでしまった。
「確かにバックに入れてたのに…どこかに落としたのかなぁ」
「え」
移動日の今日は新幹線とバスで京都に着き、後はこの『さびれや旅館』に泊まるだけの予定だ。旅館での手続きを終え、みんな部屋に移動し始めていた時…根本さんの声が聞こえた。
「ん…どうした根本さん。この資料は殺し屋のリストだからあまり生徒には見せたくないのだが…」
資料を見ていた烏間先生の後ろを通った時、根本さんが思わず声を上げたようだった。
「ああ…すまん烏間先生。す、凄い殺し屋がいるな…って」
なんか咄嗟に出たような言い訳を言って誤魔化している。
普段男口調だがクールな根本さんが驚くなんて。そっちの方が気になったので、見てみることにした。
「烏間先生、俺も興味があるので見せてもらってもいいですか?」
それを聞いた瞬間根本さんの顔色がサァーと真っ青になる。
「全く君達は…まあここで見ていた俺も悪い。あまり口外しないように」
「はーい」
(どれどれ…一体何を…)
「!」
レキという名前。ドラグノフ狙撃銃。絶対半径2051m。気になる点はたくさんあるが、一番驚いたのは年齢だ。
(…俺と同い年じゃねーか…!)
まさかE組以外の同い年でもう国家機密レベルの依頼を頼まれる奴がいるなんて。
別の資料のせいで顔写真が隠れていたため、その資料をどかそうとするが、根本さんに抑えられる。
「なんだよ…根本さん」
「キンジもう部屋に行こう。烏間先生も忙しそうだし、もうみんな移動してる」
見渡すと、ロビーにいるのは俺たち3人だけだった。
「それもそうだな。すみません烏間先生。興味が湧いたので是非また見せてください」
「ああ…あまり見せたいものではないのだがな…」
それはそうと根本さんは何であんなに焦っていたのだろうか。気になるな…。
「根本さん、さっきなんであんなに驚いていたんだ?やっぱり年齢が俺らと一緒だったからか?」
「あ…ああ、そうだ。本当にすごいよな。もうその歳で殺し屋やってるなんてさ」
ん?…また誤魔化したっぽい…?
「だよなぁ…ドラグノフ狙撃銃って確か対先生用の銃の中にモデルにしたやつがあったよな…?それにしても絶対半径2051ってやばくないか?」
「………どういう意味だ?絶対半径って」
「ん?ああ、確実に当てれる距離って意味だろ。E組もそのうちそのレベルの狙撃手になったりしてな」
「確かE組で一番射撃がうまいのは…千葉君だっけ」
「ああ…男子の中じゃ圧倒的だ。女子は速水さんが上手い」
「ああ、速水さんね。キンジがよく射撃教えてる子ね。なんで千葉君じゃなくてキンジなんだろうな」
そうだ…発端は俺が速水さんの前で抜群の射撃をやったことだった。俺としては遊びでやったことだけど。凄いって思われちゃったんだよな…。
「ああ…ちなみに本気を出せば射撃が一番上手いのはキンジってことは…知ってるぞ。もしかして速水さんにそれを知られたのか?」
「知ってたのか…。もう全くおっしゃる通りでございます。根本さん…どうかこのことは内密に…」
「ああ、分かっている。キンジが暗殺も勉強も手抜きなことは、誰にも言うつもりはない。でもあの中間テストはふざけすぎだろ…」
暗殺も…?勉強も…?
「何のことだ…?暗殺は射撃以外苦手だし、勉強は中間テストの合計点はクラスでワースト3に入るくらいだぞ?」
「言う気がないなら別にいいけど…」
「…?」
中間テスト…まさか俺が出題の変更された範囲だけを解いて、残りは適当に埋めて全教科50点に揃えた事を知っているのか、根本さんは。
まあ隣の席だし、見えたのかもしれないな。
いくら理事長にムカついたとはいえ、真剣にやってる生徒がいる中、あんな事やるもんじゃなかった。
修学旅行2日目・3日目は班別行動だ。依頼者した狙撃手に各班は最適なスポットへ誘い込む計画だ。
「でもさぁ〜京都に来た時くらい暗殺の事忘れたかったよね〜。いい景色じゃん、暗殺なんて縁のない場所でさぁ」
俺ら7人班が町の商店街を歩いている中、倉橋さんが周りを見渡して言った。
「そうでもないぞ、倉橋さん」
「遠山君…?」
「ちょっと寄りたいコースがあったんだ。すぐそこのコンビニのところ…」
そこには坂本龍馬と書かれた看板があった。
「坂本龍馬…ってあの?」
「あ〜、1867年龍馬暗殺。『近江屋』の跡地ね」
さすが優等生カルマ。年も覚えてるなんてな。
「さらに歩いてすぐの距離に本能寺もあるぞ。当時とは場所は少しズレてるけどな」
俺の下調べに女子のみんなは驚いていた。
「…そっか。1582年の織田信長も、暗殺の一種かぁ」
優等生のカルマに続き、神崎さんも納得した様子だった。
「このわずか1キロぐらいの範囲の中でも、ものすごいビックネームが暗殺されてる。知名度が低い暗殺も含めれば数知れず。ずっと日本の中心だったこの街は…暗殺の聖地でもあるんだ」
「なるほどね〜。言われてみればこりゃ立派な暗殺修行だね〜。さすが遠山君だよ」
暗殺を忘れたがってた倉橋さんもご満悦の様子で良かった。
そして、暗殺の対象になってきたのは…その世界に重大な影響を与えるだろう人物ばかり。地球を壊す殺せんせーは典型的なターゲットだ。
(……っ!…また頭痛か…!)
来るぞ…形容しづらい、記憶っぽいものが…!
『俺も別に見たい場所なんかないけどな。初日は寺とか神社を最低3つは見て回って後でレポートを提出しなきゃいけないんだ。だからこれから結構歩くぞ。いいな』
『今のサイレント・オルゴの任務は、その情報を元に、ある人物を暗殺することだ』
『それだけじゃ済まない気がするのよ。×××やモリアーティのやろうとしている事は。もっと取り返しのつかない…その文明後退とセットになって、世界を激変させてしまうような事になるわ、きっと…………まあ、これはあたしのカンだけど』
(……っ……やっと治ったか)
また断片的だったが…今回は3つとも今までとは違った感覚だった。だが、3つとも今の話の流れとマッチしてる気がする。本当によくわからない。
それに……いや、今はもういい。旅行を楽しもう。
あれからしばらく歩き、今は神崎さんが提案した暗殺場所、祇園にいる。
「へー、祇園って奥に入るとこんなに人気ないんだ」
確かに今矢田さんが言った通り、静まり返っているな、この場所。
「うん、一見さんのお断りの店ばかりだから。目的もなくフラッと来る人もいないし、見通しが良い必要もない。だから私の希望コースにしてみたの。暗殺にピッタリなんじゃないかって」
「さすが神崎さん下調べ完璧!」
「じゃ、ここで決行に決めよっか」
カルマも賛同し、満場一致で神崎さんのコースに決まった。
「ホントうってつけだ」
「なんでこんな拉致りやすい場所歩くかねぇ」
「…!…え?」
突然の事に矢田さんが声を上げる。
こいつら…電車ですれ違ったあの集団か?
それに今の『拉致』って言葉。俺たちをさらう気か?
「………何お兄さんら?観光が目的っぽくないんだけど」
さすがカルマ。体格が一回りいいのでおそらく高校生だろうが、物怖じせずに出ていった。
「男に用はねー。女置いておうち帰んな」
ガァン!
「ホラね渚君。目撃者いないとこならケンカしても問題ないっしょ?」
おいおい…今とんでもないことしなかったか、こいつ。
いきなり1人潰したぞ。しかもやり方がエグい。下から顎を掌底し、両目の中に人差し指と中指を引っ掛け、電柱に後頭部をぶち当てる。明らかにケンカ慣れしてんな。
(カルマ一人で乗り越えれるか…?)
そう思ったのもつかの間、カルマは後ろから鉄の棒のようなもので後頭部を殴られ、気絶してしまった。
「ホント隠れやすいなココ。おい、女さらえ」
「ちょ何…ムググ」
根本さんが口を押さえられ捕まってしまった。隣を見ると渚が殴られて気絶している。
残りは俺、矢田さん、神崎さん、倉橋さんか。
「倉橋さん、矢田さんちょっといいか」
俺は相手が神崎さんを囲んでいるうちに位置的に逃げやすそうな2人に指示を出す。
「2人はここから逃げろ。10分ほどしたらまた戻って来てくれ。戻る時はよく注意してな。絶対に2人一緒に行動してくれ。あと殺せんせー連絡しておいてくれ」
状況が状況のため早口で簡潔に説明する。
「えっ…じゃあ根本さんと神崎さんは…?」
「そこは大丈夫だ。俺に任せ…」
「何コソコソ喋ってんだ!」
そう言って1人のやつが俺に襲いかかってきた。
「2人とも!早く行け!」
矢田さん倉橋さんはそれと同時に走り出した。
暗殺で鍛えたからきっと追いかけられても逃げれる筈だ。ま、そんなことはさせないがな。
「逃すかよっ!」
そう言って走ろうとしたやつのテンプルに意識を刈り取る一撃を放つ。
そいつは壁に衝突し、気絶してしまった。
カルマが気絶させたやつが1人、俺が気絶させたやつが1人、根本さんと神崎さんを押さえてるやつで2人…あとは1人。一対一のタイマンになった。
「お前、今の動き…相当つえーな?」
どうやら動きが良かったらしく、向こうのリーダーらしいやつに褒められてしまった。
「……」
「何シカトこいてんだ……よ!」
そう言いながら襲いかかってきた。ったく…喋りながら攻撃するなよな。舌噛んだらどうすんだ。
相手は休む暇なく俺に拳や蹴りを繰り出すが…俺はそれを全て避けるかいなすかして回避した。
防戦一方に見せて、途中途中相手の胸に軽く拳を当てる。これはいつでもカウンター出来るという合図だ。
「テメェ…この状況で遊んでやがるな…?」
どうやら相手も圧倒的な力の差に気づいたらしい。
さて、どうやって女子を助けようか。
「は…ハッハッハッハッ。テメェがつえーのはよく分かった。だがな…先に女を捕まえた時点でこっちの勝ちは決まってるんだよ」
「やっぱり持っていたのか…」
リーダー格の男はポッケから光り物を出した。ナイフだ。それを女子2人に近づけて言う。
「こいつらを傷つけられたくなければ、今すぐ後ろを向け」
うわぁ。出たよまさに人質を取った犯人が言いそうな常套句。
俺は言われた通り後ろを向く。どうやら殴り合いをしている間に10分経ったらしいな。2人が気配を消してこちらの様子を伺っているのがわかる。
「そいつの後頭部に思い切りいいのぶち込んでやる。流石に頭をやられたら起きてられないだろう」
リーダー格のやつはカルマを叩いた鉄の棒を持って…
バキィッ!
俺の後頭部を殴ってきた。
「ぐっ…」
俺は前のめりに倒れてしまう。
突然目の前に現れたのは……高校生だ。
俺らより一回り大きい身体。未知の生物の襲撃だった。
「みんな!大丈夫!?」
矢田さんと倉橋さんが帰ってきたようだ。
俺が殴られて、気絶したフリをした後…やつらは車に乗って逃げた。車のナンバー隠してやがったな。多分盗車だし、どこにでもある車種だ。犯罪慣れしてやがる。
旅にトラブルはセットとはいえあまりにでかすぎるトラブルに、矢田さん倉橋さんが涙目で途方に暮れているが…俺には助ける手立てが浮かんでいた。
トラブルはつきものですよね。