2日目の班別行動が終わり…俺たちは今旅館にいる。今ちょうど温泉を出たところだ。ボロい旅館のくせに割には温泉の質最高だったぜ。
男湯の暖簾をくぐると、何やらゲームコーナーに人が集まっていた。
「うおお…どーやって避けてるのかまるでわからん!」
「恥ずかしいななんだか…」
「おしとやかに微笑みながら手つきはプロだ!!」
そこで意外にもゲームをしてたのは神崎さんだ。相当な腕らしく、杉野が大げさにリアクションをとっている。
「すごい意外…神崎さんがこんなにゲーム得意だなんて」
画面を見ていた矢田さんも感心している様子だった。
「…黙っていたの。遊びができてもウチじゃ白い目で見られるだけだし…でも、周りの目を気にしすぎてたのかも。服も趣味も肩書きも逃げたり流されたりして身につけていたから自信がなかった」
神崎さんは過去の自分を哀れむように言った。
「でも、今日遠山君に言われて気づいたの。大切なのは中身の自分が前を向いて頑張ることだって」
どうやら今回の件が自信につながったようだな。
頰を赤くしてうっとりした表情で言った神崎さんだが、相変わらず手先はプロだ。
「すっげ〜…」
根本さんは画面に近寄り開いた口が塞がらない状態だ。
神崎さんの意外な一面。さらわれた時根本さんと何か話したのか?なんか2人の空気が軽い。
さらわれて災難にあった2人だったが、それを通して仲良くなったようだな。
烏間先生の話によると、ほとんどの狙撃手達は仕事の難度を見て断り、唯一受けた腕利きも途中で辞退したそうだ。なので京都での狙撃計画は今日で終わりらしい。
「そういえば君の班は今日トラブルに遭って暗殺ができなかったらしいな」
「はい…神崎さんと根本さんが不良の高校生に拉致されました」
「ああ、大方の事情はヤツから聞いている。全員無事で何よりだ」
「はい、暗殺者なのにターゲットに助けられちゃいましたね」
「悔しいが…ヤツには感謝しなくてはな」
そんな俺と烏間先生のやりとり。
どうやら殺せんせーは俺がやったことを烏間先生に言っていないらしいな。一応その場にいたみんなには俺がやっつけた事は他言無用にしてもらったが、バレるのは時間の問題だな。
烏間先生は突然「そういえば…」と、何かを思い出したように言った。
「君は殺し屋に興味があると言っていたな。本来よくないことがだが、特別だ。今回依頼した者の資料でよければ見るか…?」
あー。なんか疲れててすっかり忘れてた。そう言えばそんなことも言ってたな。
実際どちらでも良かったが、ここで断るのは気が引けるので、見せてもらうことにした。
「これが今日依頼した人物だ」
昨日見そびれた写真を見ると……
「えっ」
(…私は…一発の銃弾…)
エメラルドの髪色。ヘッドホンをつけたショートカット。無感情、無表情が似合う顔の少女。
(また、記憶が……?)
頭がズキンと痛む。
「どうした?」
「いえ…こんな女の子もやっているんですね、殺し屋」
「ああ。彼女の腕は凄いぞ。世界の狙撃手の中でも五本の指に入る。だが、それほどの腕前を持ってしても…奴には敵わなかった」
「……」
「本当に奴を殺せる殺し屋などいるのだろうか…」
「……きっとE組なら殺れます。なので烏間先生、帰ってからも指導お願いします」
それだけはE組が殺ると思う。いや、絶対に殺ってみせる。
「ああ…今までよりもビシバシ行くぞ。とりあえず修学旅行はこれ以上君らに負担はかけられん。ここから先は自由時間だ。思う存分楽しむといい」
「烏間先生!卓球やりましょうよ!遠山も!」
どうやらここには卓球台があるらしく、磯貝と三村が卓球をやるよう誘ってきた。
「いいだろう…強いぞ俺は」
烏間先生も乗り気なようで、俺らは温泉卓球に勤しむのであった。
「しっかしボロい旅館だよなぁ。寝室も男女大部屋2部屋だし。E組以外は個室だそーだぜ」
温泉卓球で見事俺から勝利した三村が旅館を見渡しながら愚痴をこぼした。
クッソ…トランプに引き続き卓球も負けるとは…また奢るはめになってしまった。
「いいじゃないか。賑やかでさ」
さすがクラス委員の磯貝。良いこと言った。
俺らが大部屋に着くと、中では何やら小さい円になって紙とペンを持ってはしゃいでいた。
「おお!磯貝、三村。そして目玉の遠山!やっときたか!」
目玉…?何俺、そんなあだ名つけられてんの?
泣きそうだわ。
それにしても、なんだ?前原のやつ。嫌な予感しかしないんだが。
「お前ら、クラスで気になる奴いる?」
うげぇ。俺の苦手な話題じゃん。
俺らが来る前にみんなで投票かなんかしたらしく、堂々の一位は根本さんだった。理由の欄には顔・性格・男口調によるギャップなどと書いてある。
まあ可愛いよな…そりゃ。ちなみに2位は神崎さんだ。
「大丈夫、この事は俺らだけの秘密だ。みんな言ってんだ。逃げらんねーぞ」
でしょうね!
「気になるやつか…ま、好きとかじゃないんだけどな、女子の中だったら1番いいと思うのは片岡かな」
磯貝君? い…言うの!?
「2人は学級委員だしな。そこは大体予想ついてたわ。問題はお前だよ、遠山!」
「え…何が…」
「分かってんだろ、女子も気になってるやつ多いと思うぜ?」
「あー確かに!」
木村君まで…?
「班決めの時よォ、こいつ女子にばっか誘われてやんの。俺の班の不破さんも遠山入れたがってたし」
「「「マジでか!!?」」」
前原を含め他の男子からは驚きの視線を向けられる。
「しかもお前の班、矢田に倉橋に神崎に根本って…全員優良物件じゃねーか」
紙をもう一度見たらランク順に上から根本さん、神崎さん、矢田さん、倉橋さんだった。俺の班の女子ってこんな猛者だったのか。
というかなんだ…?みんなして座布団持ってきて…?
「「「死ねェ!」」」
男子全員から座布団を投げられた。理不尽…!
「なんだってんだっ!」
「このモテ男め…!」「イケメンめ!」「女泣かせめ!」
こいつらァ…寄ってたかって投げやがって。痛い痛い!今日のヤンキーのやつよりも痛い!主に心が!
渚や磯貝は苦笑いで混じってるけど、前原や岡島はガチじゃねーか!あと何故か竹林も!
しばらくしてみんなゼエゼエ息を切らし…座布団集中砲火は収まった。殺せんせーは普段こんな気分なのかね?
「で…誰なんだよ…気になってる奴は…?」
前原っ!しつこッ!
「えーっと、気になってる奴は…正直いないッ…!」
これでどうだ…?
「…………あ?」
え?
「そりゃあ遠山……自分に見合う女子がいないってことかァ!」
「あがっ」
再び座布団を投げられた。もうなんなのよ今日は!顔面に当たって痛いし!
「分かった。百歩譲ってその意見は許してやろう。じゃあ1番可愛いと思う女子は誰だ…?」
可愛い女子だと…?
「正直E組の女子は全員可愛いと思うが…強いて言うなら…」
俺がそれを言おうとしたちょうどその時
「ちょ〜っと待ったぁぁ!」
襖が全開に開いた。そこに立ってるのは根本さんと神崎さんだ。ランキングツートップのお二方が何の用だろうか、男子部屋に。
「どうしたんだ?2人とも」
「遠山君。ちょっと時間いいかな?今日回ったところのまとめで、聞きたいことあるんだけど…」
「女子の大部屋に来てくれキンジ。女子にはもう許可取ってあるから」
「え…あ…分かった」
若干断ろうか迷ったが、今の状況からすれば助け舟なので、乗る事にしよう。
「すまん前原、また今度な」
2人に腕を引かれるようにして、部屋から出るのであった。前原の表情が怒りに変わっていたことはきっと勘違いだと信じて。
「今日回ったところのまとめだっけか…何か俺もプリント持ってきた方が良かったか…?」
「いや…必要ない。さっきの嘘だから」
「え……」
「ごめんね遠山君。女子部屋で満場一致で遠山君を拉致することが決まってね」
なんで?今日自分たちがされた事を俺にもやろうと…?
助け舟のつもりが泥舟だったか…?
「それはだいぶタイムリーな話だな…。そういえば、拉致された時本当に何もされなかったか…?」
「ああ…キンジがやっつけてくれたしな」
「うん…凄くカッコ良かったよ、遠山君。何で普段本気を出さないのかな?」
「え…それは…」
しまった…今更ながら口止めだけして言い訳を考えていなかった。
「ま…神崎さん。それについては今度たっぷり聞かせてもらおうよ。とりあえず今は…」
根本さんが襖を開ける。
「おっ、来たね〜王子様」
「ごめんね〜遠山君。ちょっとだけ顔貸してね」
ちょうど目の前にいる中村さんと片岡さんが喋りかけてきた。
女子も男子と同じように円になって話している様子だった。
俺は円から少し離れたところに座る。
「どうしたんだ?みんなして」
「ああ…今みんなで恋バナしてたんだ」
男女ともに全く同じことをしていたので俺はつい笑ってしまう。
やっぱりこの時期は恋愛が盛んな思春期だからしょうがないのか。
「ぶっちゃけ、遠山君は好きな子とかいないの?」
「ブッ」
いきなりなんて事聞きやがるんだ中村さん。ぶっちゃけすぎだ。
「男子からもしつこく聞かれたが、何でそんなに俺の好きなやつに興味あるんだ?」
「そりゃあ、遠山君がテレビに出てる俳優とかよりもカッコいいからでしょ」
「何言ってんだか…」
殺せんせーに勉強と一緒に眼も診てもらった方がいいんじゃないか。マジで。
「好きな奴だっけか……男子にも言ったが、いない」
俺のその言葉に、様々なリアクションをとる女子たち。
つまらなそうな中村さん。ホッと胸をなでおろす矢田さん倉橋さん不破さん。チラリと目を逸らす速水さん。微笑む神崎さん。期待はずれという顔の根本さん。
「じゃあ、1番可愛いと思う女子は?これなら答えれるっしょ?」
ふむ。
まあそれなら答えてやってもいいか…?
「誰って言うと思う?」
「え〜どうせ根本さんか神崎さんでしょ?なに…まさか私とか…?」
中村さんは半分ふざけ、半分期待という様子で言う。
「そのまさかだ。中村さんだよ、俺が1番可愛いと思ってるのは」
「「「!!!」」」
「えっ…ちょ……はぁ?」
よし。予想通り中村さんは顔を真っ赤にしてテンパっている。
女版前原、撃破。
「って言う冗談はさておき……やっぱりそれも決められない。可愛い人多すぎるんだよな、この教室」
男子の時は言おうとしたが、やっぱりここでは言えない。本人の目の前だからな。
それを聞いて各々ホッとしたようなリアクションを取っている中、中村さんが睨んできた。
「てめぇ、遠山!そんなの嘘って分かってたのに騙されちまったじゃねーか!」
中村さんは自分の下に敷いていた座布団を手に取り、投げた来た。
痛い!
「確かに、今のは遠山君が悪いよね」
片岡さん!?
「乙女の心を弄ぶなんてサイテー」
岡野さん!?
「この際だから、たっぷり痛めつけておくべき」
速水さんまで!?てか君そんな事言っていいの?射撃教えてあげないよ?
と思う俺の心の声は届かず…みんなして俺を囲んで……ま!まさか!
「「「殺れぇ!」」」
また座布団の集中砲火。もう勘弁してくれ…。
「明日最終日かぁ。楽しかったな修学旅行。みんなの色んな姿見れて」
女子にこってり絞られた後、俺は男女から食らった座布団集中砲火の傷を癒すべく、廊下の窓からから月を見ていた、根本さんと一緒に。
「………」
「どうしたんだ?さっきの事なら悪かったって」
「そう思うんなら座布団を投げないで欲しかったよ。ま、それはともかくちょっと思ったんだが、修学旅行ってさ、終わりが近づいた感するじゃんか。暗殺生活は始まったばかりだし、地球が来年終わるかどうかは分からないけど、このE組は絶対に終わるんだよな。来年の3月で」
来年の3月。そこまでには絶対に地球が爆発するか殺せんせーが死ぬ。
「……そうだな」
「みんなの事もっと知ったり、先生を殺したり。やり残す事ないように暮らしたいって思ってな」
だが先生を殺す、と言うことは単純なことではないはずだ。
大量のお金がもらえる達成感?いやいや違うな。
今日の拉致だって俺の介入がなかったら殺せんせーが助けてたはずだ。つまり殺せんせーといるのが楽しく感じたり、感謝してからでは危ういんだ、この暗殺は。
きっと時間が経てば経つほど、殺した時に残るものは……
「なんだ?キンジのくせに。ま、とりあえずもう一回くらい行きたいな、修学旅行」
「………ああ」
次回、転校生が…!?