「あーあ。今日から通常授業か」
修学旅行も終わり、休み明けの月曜日。憂鬱だ、マジで。
「修学旅行からの休み明けだもんね。やる気でないよね」
確かにその通りなんだけどな。俺の言う憂鬱は今、神崎さんと2人で登校してるこの状況も含まれている。
何でこんな美少女と登校せにゃあかんのだ。
「そういえば遠山君、昨日烏間先生から一斉送信メールきた?」
「おう」
メールの内容は『明日から転校生が1人加わる。多少外見で驚くだろうが…あまり騒がずに接してほしい』との事だった。
「…うーん、この文面だとどう考えても殺し屋だよね」
「ああ、ついに来たな、転校生暗殺者」
「転校生名目って事は…ビッチ先生と違って私たちと同い年って事かな?」
「さあ…どうだろうな」
女子だけは勘弁して欲しいな、切実に。
何やら前を歩いている岡島たちがはしゃいでいるぞ…。今日の転校生の話題だろうか。
殺し屋であろうとなかろうと、『転校生』には期待と不安が入り混じる。
どんな人で、どんな暗殺をするのか。とても興味が湧くもんだ。
「来てるかな、転校生」
神崎さんがワクワクしながらドアを開けるとそこにあったのは…
「………箱?」
縦長の真っ黒な箱が最後列の後ろに置いてあった。
俺たちよりもはやく登校して来た生徒も不思議に思って黒い箱を囲っている。
「おはようございます。今日から転校してきました。"自立思考固定砲台"と申します。よろしくお願いします」
なんか画面のところから女の子が顔が映って喋ったぞ。
…………そうきたか。
「みんな知ってると思うが、転校生を紹介する。ノルウェーから来た自立思考固定砲台さんだ」
HRの時間。念のため、烏間先生が転校生の紹介をしていた。
うん、なんて言うか…。烏間先生も大変だなぁ。
そのシュールな姿に殺せんせーも爆笑してるし。
「お前が笑うな!同じイロモノだろうが!」
思わず突っ込んでしまう烏間先生だった。
「言っておくが…『彼女』はAIと顔を持ち、れっきとした生徒として登録されている。あの場所からずっとお前に銃口を向けるが、お前は彼女に反撃できない。『生徒に危害を加えることは許されない』それがお前の教師としての契約だからな」
「……なるほどねぇ。契約を逆手にとって…なりふり構わず機械を生徒に仕立てたと。いいでしょう!自立思考固定砲台さん。あなたをE組に歓迎します!」
こうして自立思考固定砲台が俺らの仲間に加わったのであった。名前が長いから茅野あたりに名付けてもらわないとな。
「でもどーやって攻撃すんだろ」
「何が?」
HRが終わり1限の国語の授業。根本さんが俺に話しかけて来た。
「固定砲台って言ってるけどさ、どこにも銃なんて付いてないだろ?」
「ああ…多分だけど…」
カッーガシャガキィン ジャキ!
「!」
音がした方向を見てみると案の定自立思考固定砲台が箱の側面から機関銃やらショットガンやらを出していた。
うわぁ。やっぱり。武器は箱の中にしまってあったんだ。
ババババババババババババババババ
大量の玉が先生に向かって発射される。
だが、うちの先生はマッハ20で避けるか、チョークで弾をはじいていた。
「ショットガン4門、機関銃2門。濃密な弾幕ですが、ここの生徒は当たり前のようにやってますよ」
「…っ…」
痛い!痛い!黒板から弾かれた弾が俺らに被弾するんだが。
「それと、授業中の発砲は禁止ですよ」
「気をつけます。続けて攻撃に移ります」
どこが気をつけてるんだよ。このAIコミニケーション能力が欠落してるだろ。
だけど、ここからが本領発揮らしいな。
「弾道再計算。射角修正。自己進化フェイズ5-28-02に移行」
彼女は進化する。頭も体も自らの手で。
「…こりませんねぇ」
殺せんせーが顔を緑と黄のシマシマにした。これは舐めきっている時のサインだ。
あのバカダコ。相手はAIなんだぞ。
再び弾が発射され……
「!?」
バチュッと殺せんせーの指がちぎれる。
(やりやがった…)
さすがAIだな。
今のは隠し弾だ。つまり全く同じ射撃の後に…見えないように1発だけ追加していた。
「右指先破壊。増設した副砲の効果を確認しました」
暗殺対象の防御パターンを学習し、武装とプログラムに改良を繰り返し、少しずつ逃げ道を無くしていく。
「次の射撃で殺せる確率、0.001%未満。次の次の射撃で殺せる確率、0.003%未満。卒業までに殺せる確率、90%以上」
え?100%じゃないの?
ま、ここにきて初めて俺らは気づいた。彼女ならひょっとして殺るかもしれないことに。
「よろしくお願いします殺せんせー。続けて攻撃に移ります」
プログラムの笑顔で微笑みながら、転校生は次の進化の準備を始めた。
甘く見ていた…というより、認識を間違っていた。
殺せんせーにこんなあっさりと弾を当てるなんて。
今もなお発砲は続いている。
「2発の至近弾を確認。見越し予測値計測のため主砲を4門増設し、続けて攻撃に移ります」
目の前にいるのは…紛れも無い殺し屋だ。
烏間先生から聞いた話だが、この自立思考固定砲台のシステムはれっきとした最新の軍事技術らしい。
確かにこれならいずれは…と思うのだろうが、そんなに上手くいくはずがないに決まってる。
もしこの教室がそんな単純な場所なら、烏間先生やビッチ先生はここで先生なんてやっていないだろう。
1時間目の時間ずっと砲撃を続けたこの教室の床は…BB弾がぐっちゃりと散らばっていた。
これ…俺らが片すの?
「掃除機能とかついてねーのかよ。固定砲台さんよ」
村松が語りかけるが、応答がない。
固定砲台は節電のつもりなのか、画面を真っ暗にしている。
2時間目…3時間目…その日は一日中ずっと…機械仕掛けの転校生の攻撃は続いた。
俺たちからしたら授業もできない上に…あのタコがやられたら全部手柄が持って行かれるので迷惑この上ない。
そして殺せんせーも弾を避けながらも…もう攻略済みの顔をしていた。
じゃあよろしく頼みました、と。
ーーー翌日
「朝8時半。システムの全面起動。今日の予定、6時間目までに215通りの射撃を実行。引き続き殺せんせーの回避パターンを分析」
そんな事をしても無駄だぞAI。
「…殺せんせー。これでは銃を展開できません。拘束を解いてください」
そう。この固定砲台にはガムテープがぐるぐる巻きにしてあったのだ。おそらくもう銃が飛び出ないように。
「うーん、そう言われましても」
「この拘束はあなたの仕業ですか?明らかに私に対する加害であり、それは契約で禁じられているはずですが」
「ちげーよ、俺だよ」
そう言ったのは…寺坂だった。手にはガムテープが握られていた。
「どー考えたって邪魔だろーが。常識くらい身につけてから殺しに来いよポンコツ」
ポンコツ…お前が言うか。
…ま、わかんないだろ、機械に常識は。
そりゃこうなるよな。昨日みたいにずっとされてちゃ授業にならないしな。
拘束された固定砲台は画面に『通信中』の文字を浮かべた。本部に連絡でもするつもりだろうか。
「ダメですよ。保護者に頼っては」
「!」
それを見かねた殺せんせーがこの固定砲台に近づいた。
「あなたの保護者が考える戦術は…この教室の現状に合っているとは言い難い。それに、あなたは生徒であり転校生です。みんなと協調する方法はまず自分で考えなくては」
「……協調?」
「なぜ先生ではなく…生徒に暗殺を邪魔されたか分かりますか? 彼らにしてみれば、君の射撃で授業を妨害される上君が撒き散らした弾の始末に労力を使う。しかも君が先生を殺したとして…賞金は多分君の保護者に行くでしょう。あなたの暗殺は他の生徒にはなんのメリットも無いわけです」
「………そう言われて理解しました殺せんせー。クラスメイトの利害までは考慮していませんでした」
「ヌルフフフフ。やっぱり君は頭が良い。ところで…これをあなたに作ってみました」
「……?」
殺せんせーはそう言うと、ビデオのような形のものをケーブルで固定砲台に接続した。
「アプリケーションと追加メモリです。ウイルスなど入ってないので受け取ってください」
「………!……これは…!!」
「クラスメイトと協調して射撃した場合の演算ソフトです。暗殺成功率が格段に上がるのが分かるでしょう」
「………異論ありません」
「暗殺における協調の大切さが理解できたと思います。どうですか?みんなと仲良くなりたいでしょう」
「方法がわかりません」
「お任せあれ。すでに準備をしてきました」
さすが殺せんせー。もう手入れの準備はできてるってことか。
「……それは何でしょう」
「協調に必要なソフト一式と追加メモリです。危害を加えるのは契約違反ですが…性能アップさせる事は禁止されていませんからねぇ」
すげぇ…!スパナやペンチなど、様々な道具を駆使して改造してやがる。パソコンを固定砲台に繋げながらデータを取っている。なんて知識量だ、この怪物は。
「……なぜこんな事をするのですか。暗殺対象であるあなたの命を縮めるような改造ですよ」
殺せんせーは自分のことなんて二の次だからなぁ。俺たちには分かりきっているが、固定砲台にはその理由がわからないらしい。
「当然です。ターゲットである前に先生ですから。昨日1日で身に染みて分かりましたが、君の学習能力と学習意欲は非常に高い。最新の人工知能と比べても突出しています。その高性能は、君を作った保護者のおかげ。そして君の才能を伸ばすのは、生徒を預かる先生の仕事です」
本当、呆れるほどの教師バカだ、うちの担任は。
「みんなとの協調力も身につけて…どんどん才能を伸ばしてください」
お読みいただきありがとうございます!