遅くなってしまいすみません!
「ねぇ…今日もいるのかな」
おう。今日もいるぞ、君が隣に。なんで俺は毎日神崎さんと登校する事になってるんだろうな。昨日同様学校の最寄駅で待たれてたし。
まあ神崎さんが言ってるのは固定砲台のことだろうけどさ。
「多分…」
「烏間先生に苦情言いたいよね。固定砲台と一緒じゃクラスが成り立たないって」
教室に入り、固定砲台を見ると……何か違和感を感じる。
「……ん?なんか体積が増えてるような…」
「おはようございます!遠山さん神崎さん!」
「「!!!」」
なんか箱全体に制服姿の女の子が映っているんだが。
しかも昨日のように無表情・無感情ではなく、仕草、笑顔など可愛らしいものがある。
「親近感を出すための全身表示液晶と体・制服のモデリングソフト、全て自作で8万円!」
なんか後ろにタコが現れたぞ。
殺せんせー…あんたいらん機能までつけてるんじゃ…しかも8万て…。
「今日は素晴らしい天気ですね!!こんな日を皆さんと過ごせて嬉しいです!!」
「豊かな表情と明るい会話術。それらを操る膨大なソフトと追加メモリ。同じく12万円!!」
転校生が…おかしな方向へ進化してきた。
「先生の財布の残高…5円!!」
このエロダコ…!やっぱり頭おかしいわ…!
「庭の草木も緑が深くなっていますね。春も終わり近付く初夏の香りがします!」
なんかムード音楽流れてるし。
「たった一晩でえらくキュートになっちゃって…」
その100倍くらいえらくキュートな根本さんが言うなって。
クラスの大半はこの固定砲台の変貌に驚いているようだ。
「何ダマされてんだよおまえら。全部あのタコが作ったプログラムだろ」
「寺坂…」
「愛想が良くても機械は機械。どーせまた空気読まずに射撃すんだろポンコツ」
寺坂がそう言うと、液晶に移った女の子の背景は暗くなり、俯いてしまった。
「………おっしゃる気持ち、分かります。寺坂さん。昨日までの私はそうでした。ポンコツ…そう言われても返す言葉がございません」
あーあ。泣いちゃった。これも殺せんせーのプログラムだろうが、なんか可哀想に見えてきたな。
「あーあ、泣かせた」
「寺坂君が二次元の女の子泣かせちゃった」
「なんか誤解される言い方やめろ!!」
ぱっつん前髪学級委員の片岡さんと、ぽっちゃり系原さんも可哀想だと思ったようで、寺坂を責めていた。
「いいじゃないか2D…Dを1つ失う所から女は始まる」
竹林それ初ゼリフだけどいいのか!?
「でも皆さんご安心を。殺せんせーに諭されて…私は協調の大切さを学習しました。私の事を好きになっていただけるよう努力し、皆さんの合意を得られるようになるまで…私単独での暗殺は控える事にいたしました」
おお…さっきの悲しい表情から一変、いい笑顔だ。
「そういうわけで仲良くしてあげてください。ああもちろん、先生は彼女に様々な改良を施しましたが、彼女の殺意には一切手をつけていません。先生を殺したいなら、彼女はきっと心強い仲間になるはずですよ」
なんでもできるな殺せんせーは。機械までちゃんと生徒にするとはな。
その後、固定砲台は菅谷が答えられなかった問題を表示してあげたり、体の中で芸術品を作ってみせたり、
矢田さんに花を作る約束をしたり、千葉君を将棋で倒したりと…思いのほかクラスで人気だった。
「…しまった」
ん?何やら殺せんせーが焦った顔をしている。
「?何が?」
「先生とキャラがかぶる」
「「「被ってないよ1ミリも!!」」」
その後、片岡さんの提案で、呼び方について議論されて、不破さんが『律』と名付け、安直ながら満場一致となった。さすが不破さん、また今度ジャンプについて語ろう。
改めて、律もクラスに加わった放課後。
俺は速水さんと射撃訓練をやっていた。速水さんは静かなので俺と似たような部分があり、存外一緒にいて居心地が良いのである。
「それにしても、律、上手くやっていけそうだね」
「まあ人気だったな、変わってからは。だけど、どうかな…」
「…?」
「寺坂の言う通り、殺せんせーのプログラム通り動いているだけだろ?機械自体に意思があるわけじゃない。律がこの先どうするかは…あいつを作った持ち主が決める事だ」
「それってどういう……ん?」
速水さんが言葉を途中で紡いだのは、見たことない人たちがE組の校庭に上がってきたからだ。
おそらく生徒が全員下校した時間を見計らってきたのだろう。
現に今いるのは俺と速水さんだけだ。
「行ってみよう速水さん。音を立てずにな」
奴らは教室に入っていき、俺らは廊下で聞き耳をたてる事にした。
「こんばんはマスター!おかげさまでとても楽しい学校生活を送っています!」
「…ありえん」「勝手に改造された上に…どう見ても暗殺と関係ない要素まで入っている」
「今すぐ分解だ。暗殺に不必要なものは全て取り去る」
責任者のような人がそう言うと、律の解体作業が始まった。やっぱりこうなったか。
「こいつのルーツはイージス艦の戦闘AI。人間より早く戦況を分析し、人間より速い総合的判断であらゆる火器を使いこなす。加えてこいつは卓越した学習能力と、自分で武装を改造できる機能を持つ」
「こいつがその威力を実証すれば…世界の戦争は一気に変わる…と」
学者たちが律の機能や利便性について語り合っていたが、1つ気がかりな言葉があった。
(戦争だと…?)
なるほどね。その規模のことに山を合わせてるなら百億円なんてついでで、この教室は最高の実験場というわけか。なんせもし律が殺せんせーを殺した場合…世界中のテロリストが喜んで律を買いにくるだろうからな。
それは困るが…今は律が前の状態に戻ることの方が困る。なので、俺は前に出て行くとしよう。
「ちょ…!遠山!」
「戦争が何だって?」
速水さんが止めようとするが、無視無視。
「……!何だね…君は!」
「ああ、ここの生徒ですよ。それより…なんだかやばい話をしていましたけど…」
「君には関係ない事だ。気にしなくていい」
「でも…この話が表に出回ったらやばいですよね?言っちゃおうかな」
「ふっ…こんな子供の言う事なんか誰が信じると言うのかな」
「ちゃんとケータイで録音してたので…言質はあるんですけどね…」
「!」
もちろんこれはブラフだ。都合よく録音なんてしてるわけない。
「その言質を使ってに私たちに何がしたいのかね?」
「その固定砲台をこのままにして欲しいんです」
「それは乗れない相談だ。どう見ても暗殺に不要な要素が多すぎる。今後は改良行為も危害と見なしてもらう。それに…本当は録音なんてしていないのだろう?」
気づかれたか…。
「録っていますよ」
「じゃあその音声を流してみたまえ」
「………」
「はっはっは。やっぱりか。子供が大人をからかうものじゃないよ」
相手にブラフもばれたところで、研究者はまた解体作業を進めた。これで律はバキバキと部品を取られ、元の体積に戻ってしまった。
「おはようございます皆さん」
次の日の朝、律の表情は最初と同じ無表情になっていた。
「生徒に危害を加えないという契約だが…『今後は改良行為も危害とみなす』と言ってきた。君らもだ。彼女を縛って壊れでもしたら賠償を請求するそうだ」
烏間先生はそう言って寺坂からガムテープを取り上げた。
「開発者の意向だ。従うしかない」
「開発者とはこれまた厄介で…親よりも生徒の気持ちを尊重したいんですがねぇ」
烏間先生のその言葉に…殺せんせーも困り顔だ。
「攻撃準備を始めます。どうぞ授業に入ってください殺せんせー」
ダウングレードしたってことは…また始まってしまう。あの一日中続くハタ迷惑な射撃が。
そして箱が光りーーー
「「「!」」」
また機関銃が出てくると思ったが、出て来たのは綺麗なピンク色の花だった。
「花を作る約束をしていました……殺せんせーは私にボディーに、計985点の改良を施しました。そのほとんどは…開発者が『暗殺に不必要』と判断し、昨日の夜に削除・撤去・初期化してしまいました」
計985点て…よく殺せんせーの給料でそれだけできたな、逆に。
「ですがそこで遠山くんに助けられて、消される前に関連ソフトをメモリの隅に隠すことができました」
「…素晴らしい」
これは殺せんせーにも予測できなかったらしく、珍しく驚いている。
「ちなみに遠山君はどのようにして律さんを助けたのですか」
わざわざ聞く必要ないって殺せんせー。恥ずかしいから。
「殺せんせーが改良した律に俺と律がチャットできるように接続したんだ。そうすればいざという時俺が律に何か頼めるからな」
「はい…そして昨日の解体中、『開発者たちから時間を稼ぐから、お前が必要だと思うデータは消される前に隠せ』と送られてきて、実行できたのです」
「そうだ。昨日偶然学校に遅くまで残っていたからな。開発者たちを見かけてやばいと思ったんだ」
「なるほど。つまり律さん、あなたは仲間の助言とともに、自分の意思で産みの親に逆らったということですね」
「はい。こういった行動を『反抗期』と言うのですよね。律は悪い子でしょうか…」
「とんでもない!中学3年生らしくて大いに結構です!」
殺せんせーは顔に丸のマークを浮かばせた。
こうして、E組の仲間が1人増えた。これからは29人で殺せんせーを殺すんだ。