瑠弾のネモ   作:ホウカ

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やっと涼しくなってきましたね〜。
アリアの新刊まだかなぁ。
よう実はあと少し!楽しみ!


第17話 仕返しの時間

 

 

 

 

 

 

雨の季節だ。

梅雨の6月。殺せんせーの暗殺期限まで残り9ヶ月。

 

(…大きい…)

 

マジで、なんか大きいぞ、あのタコの顔が。

 

「殺せんせー。33%ほど巨大化した頭部について説明を」

 

おお…さすがAIの律さん。みんながイマイチ突っ込めなかったところを積極的に言っていった。

そうなのだ…今律が言った通り、先生は朝からずっと顔がパンパンに膨れているのだ。

 

「水分を吸ってふやけました。湿度が高いので」

 

生米みてーだな!

 

「雨粒は全部避けて登校したんですが、湿気ばかりはどうにもなりません」

 

そう言いながら下のバケツに向けて顔を絞っていた。

まあ、E組のボロ校舎じゃ仕方ないな。エアコンでベスト湿度の本校舎が羨ましいぜ。

 

「先生、帽子どうしたの?ちょっと浮いてるよ」

 

「よくぞ聞いてくれました倉橋さん。先生ついに生えてきたんです」

 

倉橋さんが言うように、殺せんせーがいつも被っている学者の帽子のようなものが浮いていた。

てか生えてきたってなに、髪が?

 

「髪が」

 

そう言って帽子を取ってみせるが、帽子の下にあったのはキノコだった。

 

「「「キノコだよ!」」」

 

「湿気にも恩恵があるもんですねぇ。暗くならずに明るくじめじめ過ごしましょう」

 

ーーーそう。

梅雨はじめじめ。人の心もちょっぴり湿る。今回はそんな出来事。

 

「なー。上に乗ってるイチゴくれよ」

 

「ダメ!!おいしいモノは1番最後に食べる派なの!!」

 

杉野…さすがに1番おいしい部分をせびるのはどうかと思うぞ。

まあ、傘をさしながらでもパフェを食べる茅野さんもどうかと思うがな。

帰り道、俺たちは雨が降っているため傘をさして下校していた。

俺、杉野、渚、茅野さん、岡野さん、根本さん、神崎さんの大世帯だ。

ちなみに神崎さんは傘を忘れたらしく、俺が入れてやってる…つまり相合い傘だ…!

最近神崎さんは俺への距離感が、前よりも近くなっている気がする。ボディタッチや今みたいに距離が近い時が多いからだ。仲良くなった証だろうか。

神崎さん可愛いし、せっけんみたいないい匂いするし、嫌だなぁ。

 

「ねぇ、あれ」

 

岡野さんが何かに気づき、指をさす。

 

「あ、前原じゃんか」

 

お、女子と一緒にいるぞ。しかも相合い傘で。よく出来んな、俺も今してるけどさ。

 

「一緒にいんのは誰だ?」

 

「確か…C組の土屋果穂ってやつだ」

 

「はっはー。相変わらずお盛んだね、彼は……っていうかなんで遠山が知ってるんだよ!」

 

しまった。つい反射的に答えてしまった。

でもあの女子のことは確かに知っていた。

 

「集会の時って俺ら本校舎に行くだろ?その時に連絡先を聞かれたんだ。だから知ってる」

 

「うっはー。さすがは遠山君だね」

 

渚よ。それじゃあ何がさすがなのかわからんし、褒めてるのか貶されてるのかもわからん。

 

「ほうほう。前原君、駅前で相合い傘……と」

 

げ…いつのまにか隣に殺せんせーが。なんかメモ帳にメモってやがるし。

 

「ふふっ、相変わらずゴシップに目がないんですね、殺せんせー」

 

殺せんせーのバカっぷりに、神崎さんも呆れた様子で言っている。

 

「ヌルフフフ。これも先生の務めです。3学期までに生徒全員の恋話をノンフィクション小説で出す予定です。第1章は、『神崎さんの遠山君への届かぬ想い』

 

「あは、それは何としても出版前に殺さないとです」

 

神崎さんもこんな茶番に付き合ってあげてるし。

 

「俺のはともかく…前原のは長くなりそうですね」

 

俺は自分の話題を払拭すべく、前原の話に戻した。

 

「モテるから。結構しょっちゅう一緒にいる女子変わってるし。カッコいいですしね」

 

スポーツ万能の行動的イケメン。普通の学校なら成績も上位でもっと人気者だっただろうな。

 

「それ…遠山君が言う?」

 

「え…」

 

何故か神崎さんに突っ込まれた。

 

「キンジはすぐに嫌味を言うからな」

 

根本さん…?

 

「確かに…でもきっと無自覚なんだよね」

 

岡野さんまで…。マジで何のことか分からん。

 

「あはは、やっぱりさすがは遠山君だよ」

 

あははじゃねーよ渚。分かってるなら説明してくれ。

 

 

「あれェ?果穂じゃん。何してんだよ」

 

どうやら俺が謎のツッコミをされている間に、前原と土屋が男子3人くらいのグループと話していた。

 

「あっ!!せ、瀬尾くん!生徒会の居残りじゃ…」

 

「あー、意外と早く終わってさ。ん?そいつは確か…」

 

「ち、違うの瀬尾くん。そーゆーんじゃなくて…たまたまカサが無くてあっちからさして来て…」

 

「今朝持ってたじゃん」

 

「が、学校に忘れて…」

 

すげーな。よくそんな言い訳がポンポン出てくるもんだ。てか今の状況を客観的に見ると、前原といるところを見られちゃまずかったという感じだな、あの女。

 

「あー、そゆことね」

 

どうやら前原は何か合点が生き、察したようだ。

 

「最近あんま電話しても出なかったのも、急にチャリ通学から電車通学に変えたのも。で、新カレが忙しいから俺もキープしとこうと?」

 

「果穂!お前…」

 

「違うって!そんなんじゃない!!」

 

出た!これが修羅場ってやつだ!前見た映画でもこういう場面あった!

 

「そんなんじゃ………」

 

そこから急に土屋果穂の表情がきついものになった。

 

「あのね、自分が悪いってわかってるの?努力不足で遠いE組に飛ばされた前原君。それに、E組の生徒は椚ヶ丘高校進めないし、遅かれ早かれ私達接点なくなるじゃん」

 

なんだこの女……性格悪ッ!

 

「E組落ちてショックかなと思ってさ、気遣ってハッキリ分かれは言わなかったけど、言わずとも気づいて欲しかったな……けど、E組の頭じゃわかんないか」

 

この言葉には前原も怒り浸透だ。表情が険しくなる。

 

「お前なぁ…自分の事棚に上げて…」

 

前原がそう言って詰め寄った瞬間、瀬尾とか言う男が前原の事を蹴っ飛ばした。

 

「わっかんないかなぁ。同じ高校に行かないって事はさ、俺達何したって後腐れ無いんだぜ」

 

瀬尾とその連れのような2人で前原を囲み、何をするかと思いきや、尻餅をついた前原を蹴り始めたのであった。

 

(あいつら…!)

 

 

 

「やめなさい」

 

 

 

俺が飛び出そうと思ったら、そんな言葉が聞こえて来た。やたら重量のある、重い言葉だ。

声の発信源はーーー理事長だった。

 

「りっ…理事長先生!」

 

「ダメだよ暴力は。人の心を…今日の空模様のように荒ませる」

 

「はっ…はい」

 

理事長は前原に近づき、道路が濡れているにもかかわらず片膝をつき、ハンカチを差し出した。

 

「これで拭きなさい。酷いことになる前で良かった」

 

なんだ…いいところあるじゃねーか理事長。

 

「危うくこの学校にいられなくなるところだったね……君が」

 

……は?

 

「じゃあ皆さん足元に気をつけて。さようなら」

 

「は、はい!さようなら」

 

この理事長の姿に、本校舎の生徒もペコペコのようだ。

 

「あの人に免じて見逃してやるよ間男。感謝しろよ」

 

「……嫉妬してつっかかってくるなんて、そんな心が醜い人だとは思わなかった。二度と視線も合わせないでね」

 

この女……生まれて初めて女を殴りたいと思ったわ。

と、そんなことより。

 

「前原、平気か」

 

「遠山…!…お前ら、見てたんかい」

 

前原は見られたく無いものを見られたようで、恥ずかしそうに言った。

 

「うまいよな、あの理事長。事を荒立てず、かと言って差別も無くさず。絶妙に生徒を支配してる」

 

「そんな事よりあの女だろ!とんでもねービッチだな!」

 

俺だけでなく、杉野もあの女が許せない様子だった。

 

「いやまぁ…ビッチならうちのクラスにもいるんだけど」

 

「それは違うぞ」

 

「どういうことだ?遠山。違うって」

 

「ビッチ先生はプロだから…ビッチする意味も場所も知ってるが、あの女はそんな高尚なビッチじゃない」

 

俺が杉野にそう説明するが、前原が遮った。

 

「いや…ビッチでも別にいーんだよ」

 

前原!?いいの?

まあ、前原なら分からなくもないが…。

 

「好きな奴なんて変わるもんだしさ、気持ちが冷めたら振りゃあいい。俺だってそうしてる」

 

中3でどんだけ達観してんだよ。

 

「けどよ…さっきの彼女見たろ?一瞬だけ罪悪感で言い訳モード入ったけど、その後すぐに攻撃モードに切り替わった。『そーいやコイツE組だった。だったら何言おうが何しようが私が正義だ」ってさ」

 

確かに…さっきの女は前原を責め立てる時、表情が180度変わり、とても見下した顔になった。

 

「後はもう逆ギレと正当化のオンパレード。醜いとこ恥ずかしげ無く撒き散らして。なんかさ…悲しいし恐えよ。ヒトって皆ああなのかな。相手が弱いと見たら…俺もああいう事しちゃうのかな」

 

「……」

 

それについては一概に答えを出せない内容だが、E組なら誰しもが思ったことがあるのかもしれない。

もし自分がE組じゃなかったら、E組の皆にどう接していただろうか、と。

 

ぷくううううううううううううぅぅぅ。

 

うわ!殺せんせーの顔がさらにデカくなってる!?

 

「殺せんせー!膨らんでる膨らんでる!!」

 

殺せんせーの少し大きかった程度の顔が、2倍以上に膨れ上がっていた。

 

「仕返しです」

 

「なるほど…」

 

納得だ。

理不尽な屈辱を受けたんだ。力なき者は泣き寝入りするところだが…

 

「君たちには力がある。気づかれずに証拠も残さず標的を仕留めるアサシンの力が」

 

「……ははっ。何企んでんだよ殺せんせー」

 

前原はあの屈辱を受けたにもかかわらず、その発想はなかったらしい。

 

「屈辱には屈辱を。彼女たちにはとびっきり恥ずかしい目に遭わせましょう」

 

 

 

 

 

 

 

「へー、果穂。お前いい店知ってんじゃん」

 

「パパの友達が経営してるの。私のとっておきの場所だよ」

 

「そんな事言ってよぉ。昨日の前原とも来たんじゃねーのか?」

 

「そ、そんなわけないじゃん!瀬尾くんが初めてよ!!」

 

そんな会話が響く雨の日のカフェ。俺たちは昨日の件の仕返しを試みようと、昨日の瀬尾と土屋を尾行したのであった。

実は律が2人のケータイにハッキングし、ここに来る予定を把握できたので、そこから計画が立てられた。

今はいつ出ようか、神崎さんと2人でその機会をうかがっているところだ。

 

「ごめんね昨日は前カレがみっともないとこ見せちゃって。あんな見苦しい人だとは知らなかったの」

 

「あー。E組に落ちるような奴相手にすんなよ。しかし雨の中のカフェもいいもんだな。ここだけ濡れてない優越感?昨日のアレとは大違いだな、ははははははは」

 

「きゃははは、ひっどーい!」

 

よし、今だ!遠山・神崎、いざ出動!

 

「あんのー…そこ通ってもいですかいのう。奥の席座りたいので…」

 

「その足ほんの少し引っ込めて…」

 

「はぁ?」

 

ちなみになぜ俺と神崎さんがこんな口調なのかというと、菅谷に変装マスクを描いてもらい、おじいちゃんとおばあちゃんに変装しているからである。

たった今、通ろうとした道を瀬尾が足をかけて妨害していたため、声をかけることができた。

俺たちのミッションは、瀬尾たちの視界に入ることだからな。

 

「通ろうとすりゃどきますよおじいちゃん。嫌味ったらしく口に出して言わなくても、ホラ」

 

「ど、どうも…」

 

「なんだあれ、老いぼれがこんな店来るんじゃねーよ」

 

「だーめ聞こえる〜」

 

それにイラついた瀬尾が、俺らに聞こえるように悪口を言っていた。

今ちょうどこの場面を近くの家から杉野たちが見ているはずだ。家主を矢田さんと倉橋さんがうまく抑えているらしい。ビッチ先生直伝の接待テクだな。

 

『準備OK タイミングはそっちに合わす』

 

きたな。俺らも実行するとしよう。俺は神崎さんに目で合図を送る。

 

「あなた。この近所にトイレあるかしら。100m先のコンビニにはあったけど…」

 

神崎さんがそんなトンチンカンな事を言ってきた。無論、瀬尾たちに聞かせるためだ。

 

「おいおいここで借りりゃいいじゃろが。この店の客なんだから」

 

「そうでしたそうでした。ちょっと行ってきますよっと」

 

俺らの会話はしっかりと聞かせられたようで、「やーだボケかけ」などと悪口を言われている。よし、第1段階クリアだ。

次は…

 

ガシャッ!

 

俺は机に置いてあったグラスをそれっぽく机から落とした。

その刹那、俺は目を凝らして見た。瀬尾と土屋のコーヒーカップに何かが入っていくのが。

 

「いー加減にしてよさっきから!!」

 

「ガチャガチャうるせーんだよボケ老人!!」

 

「すいませんのう…連れがトイレから帰ったら店を出ますので…」

 

よし、これで俺たちはミッションクリアだ。神崎さんからも連絡が来た。

 

「な…なんかお腹痛くなってきた」

 

「え…お、俺も……おまえ、ここのコーヒー本当に大丈夫か?」

 

「バカなこと言わないでよ!私の行きつけに!」

 

きたきた。俺がわざと食器を落としたのには理由があって…あいつらの視線を2つ一度に集める必要があったのだ。その隙に、奥田さん特製の強力下剤が千葉と速水さんから奴らの飲んでるコーヒーに向かってスナイプされたのだ。

 

「お、俺、トイレ!!」

 

「ずるい!私が先!」

 

やつらはそう言ってトイレに駆け込むだろうが…無駄だ。この店にトイレが1つしかないのも下調べ済み、そしてその1つも神崎さんが入っているからだ。

 

「ちょっ!なんで空いてないのよぉ!」

 

「ああっ、さっきのババア!」

 

やつらは焦り、店員に絡んでいるが、そろそろ頭に浮かんでくるだろう。さっき神崎さんが言った『100m先のコンビニ』という言葉が。

それに気づいた2人が傘を持って店を飛び出した。

やつらが半分くらい進んだ頃…上から木の枝が落ちてきて潰されているはずだ。

これはナイフ成績1位の磯貝、2位の前原。女子ナイフ成績1位の岡野さんたちが上で枝を切り落としたものである。

やつらは状況を把握する余裕もないまま、無我夢中でコンビニへと駆け込んでいった。

 

「ま…少しはスッキリしましたかねぇ。汚れた姿で大慌てでトイレに駆け込む。彼らにはずいぶんな屈辱でしょう」

 

確かに…殺せんせーの言う通り少しスカッとしたかな。

 

「……えーと、なんつうか、ありがとな。ここまで話を大きくしてくれて」

 

「どうだ前原?まだ自分が…弱い者を平気でいじめる人間だと思うか?」

 

俺は前原が抱いていた疑問について聞いてみた。

 

「………いや。今のみんなを見たらそんなことできないや。一見お前ら強そうに見えないけどさ、みんなどこかに頼れる武器を隠し持ってる。そこには俺が持ってない武器もたくさんあって」

 

「そう言うことだ。強い弱いなんて…ひと目見ただけじゃ計れない。それをE組で暗殺を通して学んだお前は…この先弱者を簡単に蔑むことはないだろ」

 

「ああ…ありがとな遠山。俺もそう思うよ」

 

良かった良かった。これであいつはこれから先強くなっても安心だな。いい心を持ってる。

 

「あ、やばっ!俺これから他校の女子と飯食いに行かねーと!じゃあ皆。ありがとうな!また明日!」

 

「「「・・・・・」」」

 

みんなの目が点になったことは言うまでもない。

そして後で烏間先生からは殺せんせー含めめっちゃくちゃ怒られた。




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