「分かったでしょ?サマンサとキャリーのエロトークの中に難しい単語は1コも無いわ」
今はビッチ先生による英会話の授業。かなりエッチな海外のドラマを見せられている。
「日常会話なんてどこの国もそんなもんよ。周りに1人はいるでしょう?『マジすげぇ』とか『マジやべぇ』だけで会話を成立させる奴。その『マジで』に当たるのがご存知『really』木村、言ってみなさい」
マジでか。そんなマジすげえやついるのか。
「リ、リアリー」
「はいダメー。LとRがごちゃごちゃよ。LとRは発音の区別つくようになっときなさい。私としては通じはするけど違和感はあるわ」
しかしすごく分かりやすいなこの授業。これはビッチ先生を入れて正解だったなあのタコ。
「言語同士で相性の悪い発音は必ずあるの。韓流スターは『イツマデモ』が『イチュマデモ』になりがちでしょ。日本人のLとRは私にとってそんな感じよ。相性が悪いものは逃げずに克服する!これから先発音は常にチェックしてるから」
そしてビッチ先生は一呼吸置いてから言うのであった。
「LとRを間違えたら…公開ディープキスの刑よ」
「しっかしヒワイだよなビッチ先生の授業は」
隣の席の根本さんがそんなことを呟いた。
6時間目の授業を終え、今は放課後の時間。本当は早く帰りたいが、速水さんの射撃訓練に付き合うため教室に残っている。まあ帰ってもやることないしな。
「下ネタ多いし、アレ中学生が見るドラマじゃないよな、キンジ」
「だな」
俺もそういう系の話題は苦手なので、あんまり直視できなかったんだよな。
「でもアレはアレで分かりやすいよな。海外ドラマはいい教材だって聞いたことあるし」
というか海外ドラマを見た時…もうほとんど違和感なく理解できた。恐るべきビッチ先生の授業。
「潜入暗殺専門だから話術も上手いしな。だけど間に挟む経験談で絶対にキンジがモデルとして使われるのはなんでなんだ?」
「それな…マジで勘弁してほしいわ」
実は毎回ビッチ先生の体験談が挟まれるたび、俺が前に立たされ、誰かを抱いたり、お姫様抱っこさせられたりするのだ。今日は矢田さんが俺の犠牲となり、というか俺も犠牲となり、お姫様抱っこをさせられた。
そのあと矢田さんは顔を耳まで真っ赤にして授業中ずっと突っ伏せてたし。
「あと正解でも不正解でも男女関係なく公開ディープキスされるし」
そういえば今日前原がされてたな。ほぼ痴女じゃんか、あの先生。
ま…そういう問題点はたくさんあるが…生徒たちに興味を持たせる技術に長け、経験を活かした実践的な授業は実にお見事なもんだ。
彼女が殺しに来てくれて殺せんせーもさぞ嬉しいことだろう。
「遠山。今日は山の奥の方でやろうと思う」
いけね。どうやら速水さんをだいぶ待たせてたらしい。少し不機嫌だ。
「じゃあな根本さん。これから速水さんと射撃の練習に行ってくる」
「あ……うん。じゃ…」
ん?何か言いたげだったか?まあいいや。
根本さんが下校し、教室は俺と速水さんの2人きりとなった。
「ねえ遠山。あなた、根本さんと付き合ってるの?」
「はい…?」
いきなり何言っちゃってくれてんのこの子は。
「な、な訳あるかッ!」
「そう。彼女とっても可愛いし、好きになったりしないの?」
どうしたんだ今日の速水さんは。普段こういう系の会話しないのに。
「可愛いとは思うが…俺は顔で判断しない!それ以前に付き合うとか付き合わないとか分からないし!」
「ふーん。さすが遠山。前原くんと大違い」
「なんでそこで前原が出てくるんだ」
「彼…顔がいいからって女子を食べ物みたいにして。少し苦手なのよ。前に元カノとのいざこざがあった時、殺せんせーに言われたから仕方なく協力したけど、本当はやりたくなかったわ。遠山はそうならないでね」
怖ッ!意外と毒舌なのか…。
「ところで…」
なんだ?さっきの冷徹な表情から一変、今度は顔を少し赤くして照れた表情になったぞ。
「前々から言おうと思ってたけど、なんで私だけ遠山のことを呼び捨てにしてるの。よければ遠山も…私のことを呼び捨てにしてくれない…?」
「別になんだっていいだろ呼び方なんて」
「じゃあ呼び捨てで呼んでよ」
「分かったよ…速水、これでいいか?」
「凛香……」
はい?
「凛香って呼んで」
「そんなのどっちだっていいだろ」
「じゃあ凛香って呼んで」
さっきもこの作戦引っかかんなかった?俺。
「分かったよ…凛香。よろしくな」
俺がそう呼ぶと速水…いや、凛香はパアァァと表情を明るくし、とても嬉しそうにした。
可愛すぎだろ…そんな笑顔できたのか…!
「ところで…なんで根本さんって遠山のことキンジって呼んでるの?」
ふむ。
確かに、言われるまであまり意識はしなかった。
廊下を歩きながら、考えてみる。
「呼びやすいんじゃないか、キンジって」
そういえば、彼女の下の名前も『りんか』確か書き方はカタカナで『リンカ』だっけか。
(根本…リンカ……)
俺は何か頭に引っかかりのような違和感を感じる。
(なんだ…?)
だが、心当たりがない。思い出せるようで思い出せない、そんな感じだ。
俺が思い出せない嫌な感じに見舞われている中…目の前の職員室からビッチ先生が出てきた、ーーーと思ったその瞬間ーーー
「ーー!」
ビッチ先生がいきなりワイヤートラップで吊るしあげられた。それも首を巻いている、相当危険な体勢だ。
なんで学校に…どうしてビッチ先生を…?
そんな考えは一旦置いておき、今はビッチ先生を助けなければ。
そう考えた瞬間ーーー俺の視界が、鮮明になる。脳の回転スピード上がるのが分かった。そして、力が湧いてくる。
「!」
この教室に来てから、本当に不思議なことだらけだ。月の破壊から始まり、謎の超生物。この学校の制度も…暗殺教室も。
(……だが、1番は自分についてだ……)
俺はビッチ先生を助けるべく、思い切り駆けていき、手に持っていた『モノ』でワイヤーを切断し、ビッチ先生が落下しないように抱きかかえた。
「ほう。まさか本物のナイフを持っている生徒がいるとは…いい動きだ。それにしても…驚いたよイリーナ。教師をやっているお前を見て」
(…英語…?)
「子供相手に楽しく授業。生徒たちと親しげな帰りの挨拶。まるで…コメディアンのコントを見てるようだった」
そう言ったのは、ビッチ先生の知り合いっぽい外国人だった。
「……!師匠……」
師匠ときたか。
「何をしている」
この騒ぎを聞き立てて、職員室から烏間先生が出てきた。
「女に仕掛ける技じゃないだろう」
「……心配ない。ワイヤーに対する防御くらいは教えてある」
「何者だ?」
「…これは失礼。別に怪しいものではない」
見た目からして十分怪しいと思うが。
「イリーナ・イェラビッチをこの国の政府に斡旋した者…と言えばお分かりだろうか」
「…! 殺し屋屋ロヴロ!」
「烏間先生、知ってるんですか?」
「遠山君…。彼は腕ききの暗殺者として知られていたが現在は引退。後進の暗殺者を育てるかたわら、その斡旋で財を成している殺し屋屋だ」
なるほど、それで殺し屋屋か。暗殺者になんて縁が無かった日本にとって貴重な人脈な訳ね。それでなんでここに?
「ところで殺せんせーは今どこに」
ロブロはどうやら殺せんせーに用事があるらしい。
「上海まで杏仁豆腐を食いに行った。30分前に出たからもうじき戻るだろう」
「フ…聞いてた通り怪物のようだ。来てよかった、答えが出たよ。今日限りで撤収しろイリーナ。この仕事はお前じゃ無理だ」
「…?ずいぶん簡単に決めるんですね。彼女はあなたが推薦したんじゃないんですか?」
「ガキが…現場を見たら状況が大きく変わっていた。もはやこいつにこの仕事は適任ではない。正体を隠した潜入捜査ならこいつの才能は比類ない。だが一度素性が割れてしまえば、一山いくらのレベルの殺し屋だ」
確かに…ビッチ先生はいわゆる初見殺しのスタイルだ。そして大抵の場合は初見で殺れるのだろう。
「挙げ句の果てに見苦しく居座って教師のマネゴトか。こんなことさせるためにお前を教えたわけじゃないぞ」
「…そんな!必ず殺れます師匠!私の力なら…」
「ほう。ならば…こういう動きがお前にできるか?」
…速い!
今の一瞬でビッチ先生の背後に回り押さえつけた。
「お前には他に適した仕事が山ほどあり…この仕事に執着するのは金と時間の無駄だ。ここの仕事は適任者に任せろ。2人の転校生暗殺者の残る1人が…実戦テストで驚異的な能力を示し、投入準備を終えたそうだ」
相性の良し悪しは誰にでもある。それこそまさにさっきのビッチ先生の授業のLとRなのだろう。
「半分正しく、半分は違いますねぇ」
そう言ったのはビッチ先生とロブロの間に割って入った殺せんせーだった。帰ってくるの速いなぁ。
「何しに来たウルトラクイズ」
「ひどい呼び名ですねぇ烏間先生。いい加減殺せんせーと呼んでください」
ちなみに今殺せんせーの顔は◯と×のマークが入っている。だからウルトラクイズなのだろう。
「確かに彼女は暗殺者としては恐るるに足りません。クソです」
「誰がクソだ!!」
「ですが、彼女という暗殺者こそがの教室に適任です。殺し比べてみればわかりますよ。彼女とあなた、どちらが優れた暗殺者か」
どうやって比べるかは分からないが、ビッチ先生が適任なのは俺も同意なので、なんとかE組の教師を続けて欲しいと思う。
先程、ロブロ対イリーナ先生の暗殺勝負のルールが殺せんせーにより説明された。期間は明日いっぱいだそうだ。
今、俺と速水さんは狙撃の練習をするため山に入るところだ。
「ところで遠山」
「なんだ、はや…凛香」
「あなた、なんで本物のナイフなんて持っているのよ」
そうだった。いかんいかん、そういう設定だった。
「ああ…殺せんせーの暗殺に役立つかと思ったんだ」
「………」
「どうしたんだ?ナイフはもう危ないから持ってこないようにするって」
「…なんで嘘つくのよ」
「嘘?何が嘘なんだ…?」
「私、さっき見えたんだけど、あなたがカバンから取り出したものは対先生用のナイフだった。そうでしょ?」
「!」
カマかけられた。速水さんは狙撃の目だけではなく、動体視力もいいらしい。
「さっきのワイヤー、もしかしてそれで切ったの?」
「……そうだ」
見られていた以上、変に嘘つくのも逆効果だ。なので正直に言うことにした。
今言われた通り、俺は対先生用ナイフで、普通のロープを切断したのだ。ロブロからは勘違いされていたが。もちろん、普段からできるわけではないが。
「どんだけ化け物なのよ…」
やってのけたことがおかしすぎて呆れられてしまったようだ。
「遠山は確か2年生の後半に編入してきたよね。射撃の腕といい、今日の動きといい、もしかして殺せんせーの暗殺のために派遣された殺し屋なの…?」
「いや、それは断じてない。本当にただの『偶然』だ」
確かビッチ先生が来た時も同じこと聞かれたっけか。
それについては本当に身に覚えがないので、きっぱり否定した。
「本当…?」
「本当だ」
凛香が疑り深い目で俺を見てくる。さっき嘘をついてしまったから信じれないのだろう。
しばらくの間沈黙が訪れる。
「それは本当ですよ速水さん」
「「!」」
俺ら2人は第三者の声に驚き、その声のした方を見ると、そこには殺せんせーが立っていた。
「殺せんせー…」
「彼にも人に言えない事情がある。なので多くは言えませんが、その話については先生として責任を持って言えます。彼は殺し屋でもなんでもない、3年E組の生徒です」
「殺せんせーは遠山の事を知ってるんですか」
「ええ、もちろんです。教師ですから」
生徒一人一人の事をしっかりと調べてあるってことね。それについて今度聞かないとな。どこまで知っているか。
「じゃあ、なんで遠山はこんなに強いの。それだけは教えてほしい」
「それは今はまだ、言えませんねぇ。遠山君の口から聞けるまで待ってみてはどうでしょうか。でもね速水さん…ひとつだけ言っておきましょう。今までの彼の行動を振り返ってください。渚君のグレネードを使った暗殺の時に彼を助け、イリーナ先生が来た時はクラス内がいい方向に動くように発言し、修学旅行の時は拉致された生徒の現場に1人で向かい…さっきも迷うことなくイリーナ先生を助け出した」
「………!」
「つまり、遠山君は正しい力の使い方を知っているという事です。暗殺には消極的であるものの、彼は本校舎の生徒とは程遠い内面を持っています。どうかそれをお忘れなく」
そう言うと殺せんせーは俺の近くまで寄って来た。
「ヌルフフフフ。それにしても遠山君、君の力に気付くものがまた1人として気づきましたねぇ」
ほっとけ。
「渚君、イリーナ先生、修学旅行の時に拉致された根本さんと神崎さん、そして速水さんと言ったところでしょうか」
「渚に関してはあんたが口を滑らせたんだろ…」
とはいえ確かにまずいな。着々と増えてしまっている。
「私からすればE組で1番怖くない生徒は君ですがね。いつか前線に出てくる日が来るといいですねぇ」
そう言うと、殺せんせーはマッハのスピードで飛んでいってしまった。
本当、騒がしい先生だな。
何はともあれまたさっきのような沈黙になってしまった。どうしようか。
「遠山…色々疑って悪かった」
「いや…大丈夫だ」
「私…もっと強くなりたい。遠山みたいに、かっこよくなりたい。だから、射撃を教えて」
速水凛香の進路はこのとき決まった。
そしてーーー
この日を境に覚醒し始めるのであったーーー
読んでいただきありがとうございます。