瑠弾のネモ   作:ホウカ

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第2話 野球の時間

 

 

俺らに与えられた任務は…来年までにこの先生を殺すこと。成功報酬は百億円!

 

「ね、渚。杉野、今朝暗殺失敗したんだって?」

 

「うん」

 

1限開始前、前の席の渚とその隣の茅野。そして俺の隣の席の根本さんとグレネードの一件で話すようになり、今は4人でだべっている。

杉野は確か自己紹介の時に野球が好きって言ってた、元気のいいやつだったっけ。

話を聞くと、野球のボールに対先生BB弾を埋め込んで、庭の椅子に座って新聞を読んでいた先生に投げたらしい。しかし殺せんせーはボールが届くまで暇だったらしく、用具室までグローブを取りに行ってそのボールをキャッチしたらしい。

いやいや化け物すぎるだろ。

 

「それからあいつすっかり元気なくしてさ」

 

「あんなに落ち込むことないのにね。今まで誰も成功していないんだから」

 

渚と茅野が心配そうな顔で杉野を見る。

殺せない先生。ついたあだ名が「殺せんせー」

 

 

 

今日の授業が全て終わり、放課後。座りっぱなしが疲れて背伸びをしていると、烏間さんが入ってきた。

 

「どうだ。奴を殺す糸口はつかめそうか?」

 

どうやら殺しの算段がついたか聞きにきたらしい。

 

「無理ですよ烏間さん」

 

「速すぎるってあいつ」

 

学級委員の磯貝と、その後ろの席の三村が交互に言う。

 

「今日の放課後の予定知ってる?ニューヨークまでスポーツ観戦だぜ。マッハ20で飛んでくるやつなんて殺せねっすよ」

 

三村が半分愚痴のように言っていた。

 

「その通り、どんな軍隊にも不可能だ。だが君達だけはチャンスがある。奴はなぜか君達の教師だけは欠かさないのだ。放っておけば来年の3月、奴は必ず地球を爆発させる。削り取られたあの月を見れば分かる通り…その時は人類は1人たりとも助からない」

 

烏間さんはみんなの方を向き、強い口調で言った。

 

「奴を生かしておくには危険すぎる!この教室が奴を殺せる現在唯一の場所なのだ!」

 

落ちこぼれクラス俺らE組に与えられたのは…地球を救うヒーローになるチャンス。けど分からない。なんで先生が地球を爆破しようとしているのか。どうしてそんな時に…俺らのクラスに担任としてやってきたのか。

 

 

 

次の日の放課後。

 

俺は殺せんせーからの課題が遅れてしまい、居残ってやっていたら、もう教室は俺と隣の席の根本さんだけになってしまった。根本さんはこんな美少女で、かなり頭がいいのになんで俺と仲良くしてくれるのか。あとなんでE組にいるのか。

だが分からないところがあったら親切に教えてくれるので、とても助かっていた。俺の勘違いじゃなければ、俺が課題に目を向けているとき、ずっと顔を見られていた気がするが…。

 

先生に課題を出しに行くと…何やら杉野と話している様子だった。邪魔したら悪いので、校舎の陰に隠れて話が終わるまで待つことにした。

 

「磨いておきましたよ杉野君」

 

そう言って昨日の対先生野球ボールを渡していた。

 

「殺せんせー。何食ってんの?」

 

「昨日ハワイで買っておいたヤシの実です。食べますか?」

 

飲むだろ普通。

 

「飲むだろ普通」

 

杉野も俺と同意見のようだ。

 

「昨日の暗殺は良い球でしたね」

 

どうやら昨日の朝の時の話をしているようだ。

 

「よく言うぜ。考えてみりゃ俺の球速でマッハ20の先生に当たるはずがねー」

 

「君は野球部に?」

 

「前はね」

 

「前は?」

 

「……部活禁止なんだ。この隔離校舎のE組じゃ。成績悪くてE組に落ちたんだから…とにかく勉強に集中しろってさ」

 

「それはまたずいぶんな差別ですねぇ」

 

杉野は3年に進学する前までは野球部にいたらしい。だが、エンドのE組に来てしまったら、部活をさせてもらえない校則だ。

 

「…でも、もういいんだ」

 

杉野は持っていた対先生用ボールをポンポンとお手玉しながら、自分を哀れむように語る。

 

「昨日見たろ?遅いんだよ、俺の球。遅いからバカスカ打たれてレギュラー降ろされて、それから勉強にもやる気なくして、今じゃエンドのE組さ」

 

「杉野君」

 

杉野の言葉を遮るように、殺せんせーはキメ顔をして言った。カッコよくない。

 

「先生からアドバイスをあげましょう」

 

先生は「ヌルフフフフ」と笑い、杉野に襲いかかっった。

おい!生徒には危害を加えないんじゃねーのか!

一応証拠に使えると思い、ケータイのカメラで撮っていると、反対方向から渚が来た。

 

「思った以上に絡まれてる!?」

 

渚は急いで近づいて行った。

 

「何してるんだよ殺せんせー! 生徒には危害を加えない契約じゃなかったの!?」

 

渚は俺が思った事をそのまま言うが、殺せんせーはスルーし

 

「杉野君。昨日見たクセのある投球ホーム。メジャーに行った有田投手を真似ていますね」

 

「…!」

 

杉野は驚いた表情になって殺せんせーを見る。(口を触手で巻かれているため声が出せないが…)

 

「でもね、触手は正直です」

 

そう言って触手をほどき、杉野を地面に下ろした。

 

「彼と比べて君は肩の筋肉の配列が悪い。真似をしても彼のような豪速球は投げられませんねぇ」

 

なるほど。それでさっき襲ってるように見えて杉野の筋肉を調べてたのか。

 

「な…なんでそんな事断言できるんだよっ…」

 

渚が不思議そうに言うと…

 

「昨日本人に確かめて来ました」

 

そう言って渚に新聞を見せていた。

確かめたんならしょうがない。

 

「その状態でサイン頼んだの!?そりゃ怒るよ!」

 

おそらくさっき杉野にしたような感じの絡まり方でサインを頼んだのだろう。そりゃ怒られるわ。

 

「…そっか。やっぱり才能が違うんだなぁ…」

 

「一方で」

 

先生は杉野の発言を切り裂くようにピシャリと止める。

 

「肘や手首の柔らかさは君の方が素晴らしい。鍛えれば彼を大きく上回るでしょう」

 

「…!」

 

「いじくり比べた先生の触手に間違いはありません。才能の種類はひとつじゃない。君の才能にあった暗殺をしてください」

 

「殺せんせー…」

 

そう言い残して職員室に戻るため歩き出した。

 

「肘や手首が…俺の方が…俺の…才能か…」

 

杉野は自分の手首や肘を見たり触ったりして感銘を受けている。

 

おそらく先生は…杉野を思ってわざわざニューヨークに行って来たのだろう。

渚も同じことを思ったのだろうか、先生に確認しに駆け寄っていった。

なので俺もすっかり忘れていた課題提出のため、近づくことにした。

 

「先生はね、渚君。ある人との約束を守るために君たちの先生になりました。私は地球を滅ぼしますが、その前に君たちの先生です。君たちと真剣に向き合うことは…地球の終わりよりも重要なのです」

 

お…?なんか珍しく真面目な話をしてる…?

 

「…殺せんせー」

 

「採点スピードを誇示するのは分かるけどさ、ノートの裏に変な問題書き足すのやめてくんない?」

 

「にゅやッ!ボーナス感あって喜ぶかなと…」

 

いやいやむしろペナルティだろ。

渚も課題の提出をしていたらしく、課題のノートを受け取っていた。

 

 

「そんなわけで、君達も生徒と暗殺を真剣に楽しんでください、渚君と遠山君」

 

渚がハッと振り返る。

 

「…バレてたのか」

 

「ええ、君が来た時から分かっていましたよ。課題の提出ですねぇ」

 

俺もノートを提出すると5秒ほどで帰ってきた。とても5秒で書いたとは思えないほどの文字の量だ。なんか変な落書きあるし。懲りてないなこの生物。

 

「それと…先生の危害として証拠が取れなくて残念でしたねぇ」

 

「…!」

 

「先生動画撮られて恥ずかしかったので遠山君のケータイにタコのシールを貼っておきました」

 

…化け物め!とてつもなくダサいシール貼りやがって!

 

「だが君の先生を社会的に殺す作戦は他の生徒とは違い面白かった…君は証拠集めなどに向いていますねぇ」

 

ふん。そう思ってくれるならありがたい。そっちは俺の本命じゃないし、そう思わせておくのが得策だ。

 

「そうなんですよ。俺こういう風に気配消すの得意なんですよ。陰が薄いから」

 

多少自虐ネタも含めて言ったが、先生が笑いもせずにこっちをまっすぐ向いた。

 

「…いいえ。君の技術はそういう類のものではありません。君はE組で唯一…足音がない。その上君の先生への銃撃も明らかに手を抜いている」

 

俺の心臓が跳ね上がった。

 

「渚君の手前、これ以上は何もいう気はありませんが…先生としては本気できて欲しいですねぇ。君が生まれてから何をしてきたのかも、気になるところです」

 

なるほどな、なんもかんもお見通しってわけか。

こいつは、思った以上に化け物だ。スピードもそうだが洞察力、そして今渚の前で中途半端に言うことによって、渚に俺のことを聞かせようとしてるのだ。要は交渉術、そして頭も回る(普段はバカだが)。

何故だ。どうしてそこまでして本気で殺して欲しい?

 

「ま…君達じゃまだまだ暗殺の方は無理と決まっていますがねぇ」

 

ーーー俺らの先生は

超スピードと万能の触手、そしてキレる頭を備えていて、正直殺せる気がしない。

ーーーでも不思議と俺らを殺る気にさせる、殺せんせーの暗殺教室はちょっと楽しい

 

 

 

 

 

「ところで遠山君…! さっき先生が言っていたのは、どういう事なの?」

 

…この問いに、俺はなんて返そうか迷っている。だが、今はまだ知らせる時じゃない。いや、実は俺自身もよく分かっていないことの方が多い。

だから俺はーーー

 

「ああ。実はウチの親が武偵をやってて、昔銃を持たされてたんだ…」

 

武偵ーーー 武装探偵、通称「武偵」

武偵とは犯罪に対抗して設立された国家資格で、武偵免許を持つものは武装を許可される。警察とは違い、金さえ貰えばなんでもするいわば「便利屋」だ。そして武偵を作り上げるために学校も存在する。

 

「えっ!それって僕らの中でかなりの即戦力なんじゃ…」

 

「いや。俺は射撃も格闘も下手くそだったし、もうそんなことはしてないから、今は関係ない」

 

そう。ここはきっぱりと否定しておく。

 

「烏間さんに言っておいた方がいいんじゃ…?」

 

「わかった。そのうちそれとなく言っておく。だが渚。このことはクラスのみんなには内緒にしておいてくれないか。不用意に目立つこともしたくないし、銃を持った過去があるなんてみんなに知られたら、野蛮な目で見られるだろ?」

 

目立ちたくないとか言いつつ渚を助けた時は思いっきり目立っちまったがな。

 

「うん。わかった、約束する。僕は凄いと思うし、他のみんなもそう思うだろうけど、そこは遠山君の意見を尊重するよ」

 

「ああ、助かる」

 

「そっか。でも、いいな〜。僕も射撃とかナイフ術とか、もっと上手くなりたいなぁ」

 

「何言ってんだ。ーーーお前は…っ…!」

 

暗殺の才能を持っているだろ。だが決して言わない。

何故なら、さっきもらったノートの付箋に…『君も気づいているでしょうが、渚君には暗殺の才能があります。ですが言わないように!! 言ったら課題を10倍に増やします!!』と書いてあったからだ。

おそらくあのタコに考えでもあるのだろう。課題が10倍になるのもやだし。

 

「…?」

 

「お前は、上手くなると思うぞ、射撃。というか、誰でも練習すれば上手くなる」

 

「あはは。そうだね、練習頑張るよ」

 

なんかフォローになってないことを言っちまった。

 

出来ることなら捨ててしまいたい俺の戦闘の才能。そして、隣を歩くこいつは暗殺の才能。そして、この場を見ていたもうひとつの才能が、これから活躍することを俺たちはまだ知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 




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