「磯貝!?そのセリフまだアニメで言ってないよ!?」
「やめろ鷹岡!!」
俺たちの様子を見ていたのか、烏間先生が走ってグラウンド内に入ってくる。
「大丈夫か前原君!怪我は!?」
「へ・・・へーきっス」
腹部を押さえている前原君に向かって烏間先生が確認をとる。
「ちゃんと手加減してるさ烏間。大事な俺の家族だ。当然だろ」
「いいや・・・」
鷹岡の肩を触手が抑える。
その後ろにはブワァ、と真っ黒にって激怒している殺せんせーがいた。
「あなたの家族じゃない。私の生徒です」
「「「殺せんせー!」」」
この状況で殺せんせーが来たことにより、全員が安堵の声を漏らす。
だが、鷹岡は殺せんせーを前にしても余裕の表情だ。
「フン。文句があるのかモンスター?体育は教科担任の俺に一任されているはずだ。そして、今の罰も立派に教育の範囲内だ」
政府との約束を盾に、鷹岡はそんな詭弁を垂れる。
先生がルールを破ってしまっては信頼が落ちる。この前イトナに嵌められた時と同じだ。
「短時間でお前を殺す暗殺者を育てるんだぜ。厳しくなるのは常識だろう?それとも何か?多少教育論が違うだけで・・・お前に危害を加えてない人間を攻撃するのか?」
他人のことを価値観の違いや見解の相違で否定してはいけない。そう言っていた殺せんせーは黙り込んでしまう。
怒りながらも・・・その言葉を聞き入れるしかなかったのだった。
「12!13!14!15!おいお前ら!妥協するなよ!!!」
殺せんせーと烏間先生が言いくるめられてしまい、鷹岡による授業が始まった。
お菓子をくれていた時とは打って変わり、鬼のような顔つきだった。
(・・・これでは生徒が潰れてしまう・・・)
殺せんせーが超生物としてコイツを消すのは簡単だが、それでは俺たちに筋が通らない。
誰もが間違っていると思っていても、鷹岡には鷹岡なりの教育論がある。
この問題を解決する方法は・・・烏間先生に同じ体育の教師として鷹岡を否定してもらうことだ。
「そもそもこんな時間割!放課後に生徒と遊べなくなるじゃないですか!!」「そーよそーよ!私の買い物で荷物持ってくれる男子がいなくなるわ!!」
ギャーギャーと、グラウンドの端こちらを見ている殺せんせーとイリーナ先生の声がする。
・・・・・・間違いだらけだな、ここの教師は。
「じょっ・・・冗談じゃねぇ・・・」「初回からスクワット300回とか・・・死んじまうよ」
もうかなり息を上げながら菅谷と岡島がぼやく。
当然の話だ。もうスクワットの数は50を超えている。普通の中学生であればに厳しいに決まっている。
「烏間先生~」
倉橋さんが涙目でそう言ったとき、鷹岡が睨みながら詰め寄った。
「・・・!」
鷹岡が目の前に立ち、怯えた表情になる倉橋さん。
「おい。烏間は俺達家族の一員じゃないぞ。おしおきだなぁ・・・父ちゃんだけを頼ろうとしない子はっ」
鷹岡はそう言うと、右手で握りこぶしを作った。
俺が止めようとしたが・・・俺よりも適任な人が動き出していたので任せることにする。
ガシッ
「それ以上・・・生徒たちに手荒くするな。暴れたいなら、俺が相手を務めてやる」
「烏間先生・・・!」
恐怖で怯えてた倉橋さんの表情が一変する。
やっぱり頼りになるな、この先生は。
烏間先生に手を掴まれた鷹岡は一瞬焦った様子を見せたが、また余裕の表情に戻る。何か手段がある・・・そんな顔だ。
「言ったろ烏間?これは暴力じゃない、教育なんだ。暴力でお前とやり合う気はない。やるならあくまで教師としてだ」
そして俺たちの方に振り向く。
「お前らもまだ俺を認めていないだろう。父ちゃんもこのままじゃ不本意だ・・・そこでこうしよう!こいつで決めるんだ!」
「・・・ナイフ?」
こちらに振り向いた鷹岡は対先生用のナイフを持ちながらそんなことを言ってきた。
「烏間。お前が育てたこいつらの中でイチオシの生徒を一人選べ。そいつが俺と戦い一度でもナイフを当てられたら・・・お前の教育は俺より優れていたのだと認めよう。その時はお前の訓練に全部任せて出て行ってやる!男に二言はない!」
その言葉を聞いて嬉しそうにするE組。
だが次の言葉を聞いた瞬間、その表情が一瞬で消えた。
「ただしもちろん、俺が勝てばその後一切口出しはさせないし・・・使うナイフはこれじゃない」
対先生用ナイフを地面に落とし、出してきたのは本物のナイフだった。
「「「ほ・・・本物!?」」」
「殺す相手が俺なんだ。使う刃物も本物じゃなくちゃなァ」
こいつ、間違いなく狂っている。俺たちはただの中学生だぞ。
俺がそう言う前に烏間先生が先に口を開く。
「よせ!彼らは人間を殺す訓練も用意もしていない!本物を持っても体がすくんで刺せやしないぞ!!」
「安心しな。寸止めでも当たったことにしてやるよ。俺は素手だし、これ以上ないハンデだろ」
(なるほど、いかにも鷹岡が使いそうな手だ)
おそらく軍隊で教えていた時もこのやり方で、始めてナイフをもってビビりあがる新兵を素手の鷹岡が叩きのめしてきたのだろう。
『ナイフでも素手の教官にかなわない』
その場の全員が格の違いを思い知り、鷹岡に心服するようになるはずだ。
「さぁ烏間!ひとり選べよ!嫌なら無条件で俺に服従だ!生徒を見捨てるか生贄として差し出すか!どっちみちひどい教師だなお前は!」
「「「・・・!」」」
ほらよ、とナイフを渡された烏間先生が俺達を見まわす。
どうやら迷っているようだ。
仮にも鷹岡は精鋭部隊に属していた男だ。
訓練3ヶ月の中学生の刃が届くはずがない。
その中のわずかに『可能性』がある生徒を、危険にさらしていいものかと。
烏間先生の視線に大半が目をそらしている中、俺のほかに2人ほど目をそらさなかった人物がいた。烏間先生がその人物のもとへ歩み寄る。
「・・・速水さん、殺る気はあるか?」
「「「!!!」」」
妥当だった。凛香は射撃、ナイフともにダントツの成績だ。
「返事の前に俺の考えを聞いて欲しい。地球を救う暗殺任務を依頼した側として・・・俺は君たちをプロ同士だと思っている。プロとして君たちに払うべき最低限の報酬は、当たり前の中学生活を保障することだと思っている。だからこのナイフは、無理に受け取る必要はない。その時は俺が鷹岡に頼んで、『報酬』を維持してもらうよう努力する」
「・・・?」
ナイフを差し出された凛香はその刃の先を見るなり、ブルブルと震えだした。
もしかしたら自分が頼まれるかもしれない。話を聞きながらそう思っていただろう。
ナイフを差し出されるまでは殺る気だったと思う。
だが、いざナイフを目の前にして全身に走る緊張感。吹き出す汗。真っ白になる頭。
その様子を見かねた烏間先生が、静かにうなずく。
「当たり前だ。本物のナイフを見て・・・そうならない方がどうかしている」
烏間先生はそう言うと、俺の方を見る。
「できるか、遠山君」
「・・・」
誰よりも真っすぐ見てくれる目。俺はこの目が好きだ。こんなに真っすぐ目を見てくれる人はそうそういない。
立場上、俺らに隠し事もたくさんあるだろう。けど、この先生が渡すナイフなら信頼できる。
前原に暴力をふるったこと。神崎さんと倉橋さんにも危害を加えようとしたこと。俺は目を閉じて先ほどの光景を思い出す。せめて一発返さないと気が済まない。
「やります」
ナイフを受け取り、鷹岡のもとへ向かう。
昔から俺はこうだった。武偵中の時も、友達の身に何かある度に突っかかって。何度も怪我をしたし、何度も死にかけた。だが、それでも憧れのあの人のようになりたい。
(・・・昔、俺を助けてくれたあの女性のように・・・)
ある日爺ちゃんに、いきなり武偵をやめるように言われて必死に勉強してこの中学校に来たけど、まさかこんなことになるとはな。
全員が見守る中、鷹岡の前に立つ。
「おやおや・・・さっきの生意気なやつか。お前にはどっちみち説教をする予定だったんだ、ちょうどいい」
鷹岡は俺を見るなりそう言うのであった。