瑠弾のネモ   作:ホウカ

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「折木さん!私、気になります!!」

「神崎さん・・・」


第32話 才能の時間

「遠山君。鷹岡は素手対ナイフの闘い方も熟知している。全力で振らないとかすりもしないぞ」

 

ナイフを渡されたとき、烏間先生から言われたアドバイスを思い出す。

この目の前の男を倒すための。

本物のナイフを人間に向けた時、素人はそこで初めてその意味に気づき、委縮して普段の力の一割も出せなくなる。

普通なら、鷹岡が目を瞑っても勝てる勝負だろう。

 

(ナイフを当てるか・・・寸止めすれば勝ち・・・)

 

それが鷹岡の決めたルールだ。

だがこの勝負、俺と奴の最大の違いはナイフの有無じゃない。

いずれにせよ、勝負は一瞬で決まる。

 

「さぁ来い!!」

 

鷹岡が笑いながら手招きをする。完全に勝利を確信したような、そんな顔だ。

すべての攻撃をかわしてからいたぶり尽くすつもりだろう。生徒全員が恐怖し、鷹岡に従うようにするために。

俺が鷹岡にナイフを向ける。

全体に緊張が走り、静まり返る。

俺は目を閉じ、先ほどクラスメイトがされた仕打ちを思い出す。

 

(・・・良かった・・・ちゃんとあの状態に入ってる・・・)

 

戦って勝たなくたっていい。

―――殺せば勝ちなんだーーー

 

俺は出来るだけ殺気を漏らさずに近づいた。俺のことをなめている鷹岡は相変わらず余裕の表情だ。これが渚だったらそのまま勝てそうな気がするが、俺にはその才能はない。

 

(その代わり・・・)

 

俺はゆっくりと鷹岡の顔面に向かってナイフを投げる。

 

「!」

 

とっさによける鷹岡。

良かった。これくらいは流石に避けてくれて。

一度ナイフに気を取られた鷹岡の目の前に、もう俺の姿はない。

 

「!?」

 

その刹那、俺は後ろに回り込み自分で投げたナイフをキャッチする。

そして鷹岡だけに聞こえるよう耳元で冷たく囁いてやった。

 

「動くと殺す」

 

普通の学校では、絶対に発掘されることのない才能。

それは渚のような殺気を隠して近づく才能でもなければ、殺気で相手を怯ませる才能でもない。

暴力の才能でも、暗殺の才能でもない。

戦闘の才能。

 

 

「そこまで!!」

 

 

聞きなじみのある声が響き渡った。

 

「勝負ありですよね、烏間先生」

 

そう言って俺からナイフを取り上げたのは殺せんせーだ。

 

「全く、本物のナイフを生徒に持たすなど正気の沙汰ではありません。怪我でもしたらどうするんですか」

 

フン。怪我しそうならマッハで助けに入ったくせに。

 

「やったぜ遠山!」「いまのすげー!」「忍者みてーだった!」「ホッとしたよもー!!」

「さすが遠山!」

 

見ていた他のクラスメイトが次々と寄ってくる。

 

「いや・・・烏間先生に言われた通りやっただけで。鷹岡先生強いから、殺す気でいかなきゃ勝つことできないって思って」

 

「サンキューな遠山!今の暗殺スカッとしたわ!」

 

チャラ男のイケメン、前原がそう言った。

思えば前原に暴力をふるったあいつを許せなくて力を出せたようなもんだからな。

 

「「「!!!」」」

 

俺らが楽しそうに話していると、俺の後ろか荒い鼻息が聞こえてくる。

諦め悪いなぁ。

 

「このガキ・・・父親の俺に刃向かって、まぐれの勝ちがそんなに嬉しいか!」

 

俺は自分の状態を確認し、あの状態が収まっていることが分かる。

 

「確かに・・・次やったら俺が負けると思います。でもはっきりしたのは、俺達の『担任』は殺せんせーで、俺達の『教官』は烏間先生です。これは絶対に譲れません。父親を押し付けるあんたよりも、プロに徹する烏間先生の方が俺はあったかく感じます。なので・・・出て行ってください」

 

「黙っ・・・て聞いてりゃ、ガキの分際で、大人になんて口の利き方を!」

 

鷹岡が俺に対して猛威を振るったその時―――

 

ゴスッ!

 

烏間先生がすぐ駆け付け、ほんの一ひねりで倒してしまった。

やっぱり化け物だなこの人は。

 

「俺の身内が、迷惑をかけてすまなかった。後のことは心配するな。君たちの教官を務められるよう上と交渉する。いざとなれば銃で脅してでも許可をもらうさ」

 

「「「烏間先生!」」」

 

か、かっこいい。かっこよすぎる。

その後、理事長が来て鷹岡に解雇通知を渡していった。

来たときはE組を消耗させるため続投を望むかと思ったが違うらしい。

 

「暴力でしか恐怖を与えることができないのなら、その教師は三流以下だ。自分より弱い暴力に負けた時点でそれの授業は説得力を失う」

 

と言って、鷹岡を帰らせてしまった。

理事長もたまにいいことするなぁ、と思ったが、これは警告だろう。

鷹岡を切ることで誰が支配者か明確に示すための。

 

「ところでさ烏間先生」

 

金髪ギャルの中村さんがカルマを彷彿とさせる悪戯っぽい笑みで言う。

というかカルマは!?

一応新しい先生が教えに来てくれたんだからサボるなよ。

 

「生徒の努力で体育教師に返り咲けたし、なんか臨時報酬あってもいいんじゃない?」

 

「そーそー。鷹岡先生そーいうのだけは充実してたよな」

 

それに前原も乗っかった。

 

「フン、甘いものなど俺は知らん。財布は出すから食いたいものを街で言え。だがそれも・・・今日の放課後の訓練に参加した生徒だけだ!」

 

それを聞いたE組は無邪気に叫ぶ。

もしかしたらこの先生も殺せんせー同様、熱中しているのかもしれない。迷いながら人を育てる面白さに。

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン。

「にゅやッ。では、今日の授業はここまでですねぇ」

 

「「「ありがとうございました」」」

 

6時間目が終わり、放課後になった。

 

「あと遠山君。君は職員室へ」

 

「・・・はい」

 

殺せんせーはそう言って教室を出て行ってしまう。

一体なぜ?という野暮なことは聞かない。大方予想はついているからだ。

 

「おいキンジ!呼び出し食らったぞ!」

 

いつものように男口調全開の根本さんが言ってくる。

 

「それにしても、今日の鷹岡先生との対決、凄かったな」

 

「ああ、たまたまうまくいって良かった」

 

「はいはい、たまたまね。その内ナイフで銃弾を切ったりしそうで怖いよ。たまたまとか言いながら」

 

「あ、はは。それは流石に・・・」

 

とか言いつつ、あの状態ならできるかもしれない。今度やってみるか。

 

「遠山君!殺せんせー呼んでたね!」

 

「神崎さん・・・」

 

いつものようなおしとやかな笑顔で前の席の渚がどいたのを確認し、その席に座る。最近なんだか明るくなった気がする。いや、以前から暗かったわけではないが、よく話すようになってからより一層そう感じる。

 

「それよりも今日は本当にありがとね。あたしが鷹岡先生にぶたれそうになるのを防いでくれて」

 

「それは全然いいよ。俺もあいつにムカついたしだけだし、神崎さんがぶたれるところなんて見たくなかったし」

 

「え・・・?今なんて・・・?」

 

ん?何かおかしなこと言ったか、俺。

 

「だから、神崎さんがぶたれるところなんて見たくないって」

 

「な・・・なんで?」

 

逆になんでそんなことを聞いてくるんだ・・・?

 

「なんでって。そんなの可愛い顔がもったいないからに決まってるじゃんか」

 

キラッ ギラギラ スパーン

 

「あがっ」

 

俺は痛みを感じた後頭部を押さえながら悶える。

今なんか一瞬でいろんなことが起こったな。

準を追って理解しよう。

まず神崎さん。俺が聞かれたことに対して答えるとぼぼぼぼぼぼぼと顔を真っ赤にして顔を手で覆う。

次に恒例の鋭い視線。最近は怖いから見ないようにしてるけどすぐ近くにいた凛香と矢田さんから向けられて分かったし、何より隣の根本さんからも感じた。

そして最後に根本さん。持っていた教科書を丸めて俺の後頭部を叩いてきた。この一瞬でなんて早業だ。彼女はきっとすごい暗殺者になるだろう。

 

「も、もう。い、嫌だなぁ遠山君は。とりあえずき、今日は帰るね!ホントありがと!」

 

真っ赤な顔でものすごいテンパっている神崎さん。急にどうしたんだろうか。というか放課後の居残り訓練には出ないのだろうか。

神崎さんはそれだけ言うと急いで立ち上がる。だが、焦って机に引っ掛かってずっこけてしまった。

 

「痛ッ!」

 

火照っている顔を冷やすよう、首筋に手を置いていたため顔から床に落ちて行った。割とマジで心配になるレベルだ。

 

「大丈夫か?」

 

俺はすぐに駆け寄って抱き上げる。

 

「だだだだだ大丈夫。遠山君、ほんとっ。大丈夫だから」

 

抱きかかえられた神崎さんはこれでもかってくらい顔が真っ赤だ。

というか、確かに今のは相当恥ずかしかっただろうな。こけたことによって、クラスメイトからの視線が集まる。

神崎さんの顔を見ると、おでこに腫れたような跡があった。おそらく今ぶつけたところだろう。かなり痛そうだ。

 

「でもここ、痛そうだけど」

 

俺はそう言って神崎さんのおでこに触れる。

 

「ひゃっ」

 

俺に触れられた神崎さんは、目をぎゅっと閉じてブルブル震えだした。

 

「遠山君・・・遠山く・・・ん」

 

「え!」

 

俺の名前を連呼しながら気絶してしまった。脈を一応確認したが良かった、死んではいないようだ。一応頭をぶつけたから頭を動かさないようにしないと。

それにしてもなんて珍しい光景なんだ。あのおしとやかな神崎さんがこんなに取り乱した挙句気絶するなんて。

神崎さんをお姫様抱っこで持ち、俺のカバンを枕代わりにして床で横にさせる。

その時に気づいた。色々な人から向けられた殺気に。なんて殺気だ。こんなにもすごい殺気、一体どこから!!

 

「キ~ン~ジ~!!」

 

まず俺の前に立ったのは根本さんだ。艶のあるツインテ―ルを揺らしてドスドスと近づいてくる。

 

「お前はッ!本当に!いっつもいっつも!女たらしで!スケコマシで!どこへ行っても女ばっかり!」

 

ギャーギャーギャー。

文句を言いながら殴ってきた。言い方が途切れ途切れだったのはその間に一発殴っているからである。

 

「なんで根本さんが怒るんだよ!!」

 

俺は殴られるので逃げ回っていると、不注意である生徒にぶつかってしまう。

 

「ご、ごめ・・・!?」

 

その相手は猛烈に眉をつり上げて怒っている凛香だった。

よく一緒にいるため最近分かるようになってきた。凛香の表情が。

 

「凛香・・・ごめん・・・大丈夫か?」

 

「・・・・・・」

 

無言で睨むのやめて!怖いから!

やばい、マジで怖い。睨んだまま俺の手をガシっとつかんでくる。

そして反対側の手を根本さんにつかまれる。2人ともなんていう馬鹿力だ。この時だけ烏間先生の指導の良さが恨めしいぜ。

 

「速水さん・・・この男どうする?」

 

「どうしよっか」

 

恐るべし、Wりんか。

 

「ヌルフフフ。両手に花ですねぇ、遠山君。いやらしい展開に入る前にひとつ。早く職員室に来てくれませんかねぇ?」

 

「殺せんせー!」

 

ナイスタイミングすぎる!もう一生タコなんて呼びません。尊敬します!

断じていやらしい展開など入らないが、この状況は渡りに船だ。いや、渡りにタコだった。

 

 

 

 

 

 

「わざわざ教室にまで迎えこさせてすみません、殺せんせー」

 

「いえいえ。だいたい事情は分かってましたから。大方今日の勝負のことについて質問攻めされたのでしょう」

 

んー。途中まではそんな感じしたんだけどな。途中から神崎さんが気絶する上にWりんかが暴走したのでそれどころではなくなった。

 

「しかしモテモテですねぇ。先生といい勝負です」

 

「ははっ。先生にはかないませんよ。だいたい俺なんてモテてないですし」

 

そんな会話をしているうちに職員室につき、中に入る。

そこには烏間先生とビッチ先生が座っていた。いつもの光景だ。

 

「遠山君。折り入って君に話がある」

 

そう言ってきたのは烏間先生だった。

 

「何ですか?今日の鷹岡の件ですか?」

 

「それもある。まずはよくやってくれた。先ほども言ったが俺の身内が迷惑をかけて本当にすまなかった」

 

「烏間先生が謝ることじゃないです。悪いのは鷹岡ですし」

 

そう、悪いのは鷹岡だ。烏間先生には何も非がない。むしろ助けてもらったのは俺たちの方だ。

 

「そう言ってもらい感謝する。早速本題だが単刀直入に言う。遠山君、本格的に俺と一緒に教える側に回らないか」

 

「俺が教える側・・・ですか?」

 

「そうだ。君の強さが気になり、調べさせてもらった。君はもともと武偵中にいたと聞く」

 

「はい」

 

烏間先生にはまだ話していなかったのでいつかは話そうと思っていたが、先に調べてしまったらしい。

 

「こいつに各生徒の評価として聞いたのだが、君は暗殺に対して消極的らしいな」

 

こいつ、とは俺の隣にいる殺せんせーのことだ。あらら、どうやら殺せんせーによる俺の暗殺の成績は低いらしい。

 

「武偵法9条。気にしているのか、遠山君」

 

武偵法。武偵が守らなければならない法律だ。まだ中学生なので任務に出るのは本当に成績上位の精鋭たちだけだ。武偵法をちゃんと覚えていた生徒は少なかったと思う。

その中のひとつ。

武偵法9条 武偵は如何なる状況に於いても、その武偵活動中に人を殺害してはならない

 

「武偵という資格を取った君は、武偵法が適用されてしまう。中学生で資格を取れる生徒はほんのごく一部だ。流石と言うほかない。だが、そのせいで君自身がこの暗殺で力を出せない。だから俺が政府に特例として改定の手続きを試みることにした。その間だけでも教える側に回ってくれないだろうか」

 

烏間先生はまっすぐと俺の目を見ながら言う。

 

「速水さんに聞いたんだが、君は放課後いつも彼女と居残り訓練しているらしいな。彼女の成長ぶりはとても凄まじい。先生としてこんなことを頼むのは非常に情けない話だが、どうか、お願いしたい」

 

「・・・」

 

俺は、黙ってしまう。

 

「もちろん、無理なら断ってくれて構わない。頼んでいる方がおかしいというのは承知の上だ。今日の勝負のようにな」

 

何秒か沈黙が流れる。俺は迷っていた。俺なんかが教えていいものかと。

考え、結論を出す。

 

「烏間先生。確かに俺は凛香に教えていますが、それは強引に頼まれたからです。もし公式に俺が教えてしまったら、俺と烏間先生の関係や、他の生徒との間に亀裂が入ってしまうかもしれない。それだけは絶対に避けたいです」

 

これは、俺が嫌だとかそういう話ではない。

俺たちはあくまで先生と生徒だ。武偵法があるからと言って優遇されるのは違う気がする。仮にもし俺が教える側に回ったらもちろん全力でするつもりだが、他の生徒から見れば違うのだ。

こうやって先生に頭を下げて頼まれているのでさえ、本当は見られたら危うい。

 

「何より、俺なんかが何も教えれないほど、烏間先生の指導は凄いと思います。学ぶことが多いです。烏間先生が教えている限り・・・この暗殺は完遂できると思います。なので、これは俺からのお願いです」

 

俺はこの先生のようにまっすぐと見据え、頭を下げる

 

「これからもどうかご指導のほど、よろしくお願いします」

 

そう言われた烏間先生は驚いた表情を見せ・・・フッと笑って立ち上がった。

なにかが解決した、そんな顔だ。

 

「分かった。これからもビシバシと鍛えさせてもらう。それと・・・」

 

何故か急に歯切れが悪くなり何か言いずらそうな様子を見せる烏間先生。

 

「どうしたんですか?」

 

「・・・昨日のこともそうだが礼を言う。ありがとな、遠山君」

 

昨日とは、ちょうどこの場で俺が言った言葉のことだろう。

 

『E組の体育教師は烏間先生、あなたしかいないと思います』

 

礼を言われた俺は嬉しくなってしまい、思わず笑ってしまう。

―――このクラスは強くなるぞーーー

そう確信せざるを得なかったのであった。

 

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