月に1度の全国集会。俺らE組には…気が重くなるイベントだ。
「渚く〜〜ん」
そう声をかけて来たのは、この前駅で渚を馬鹿にしてきた2人組みだ。
「おつかれ〜」
「わざわざ山の上から本校舎に来るの大変でしょ〜」
「「ぎゃはははははは」」
E組の差別待遇はここでも同じ。俺らはそれに長々と耐えなければならない。
校長のお話でも…
「…要するに、君たちは全国から集められた選りすぐられたエリートです。この校長が保証します…が、慢心は大敵です。油断してると…どうしようもない誰かさん達みたいになっちゃいますよ」
あはははははは。
こんな胸糞悪い話の何が面白いのか、E組以外の生徒は大声で笑いだす。
「こら君達笑い過ぎ!校長先生も言い過ぎました」
校長もおちょくってるようにしか聞こえないように言うし。
「渚、そういやカルマは?」
「サボり」
「は?」
「集会フケて罰食らっても痛くもかゆくもないってさ。成績良くて素行不良ってこういう時羨ましいよ」
た、確かに!?
ま…悔しいことにこの差別待遇は効果的なんだと思う。3年E組以外の一流高校大学の進学率はめっぽう高いらしいからな。
悲しいかな、人間は…差別し軽蔑する対象があった方が伸びるのかもしれない。
この手を考えた校長…いや、理事長は相当いい性格をしてやがる。
ガララッ。
生徒会からの発表の途中で烏間先生が入ってきた。
全校の前では紹介していないため、他の生徒に「誰だあの先生?」「シュッとしててカッコいい〜」などと言われている。
確かに烏間先生ってかっこいいよな。内面もさ。俺もああいう風になりたいなぁ。
烏間先生は教員のところへ行くなり、他の先生に挨拶している。
「「烏間先生〜」」
E組のパツ金美女中村さんと、ゆるふわ天然美女の倉橋さんが烏間先生にナイフケースを見せていた。
「ナイフケースデコってみたよ」
「かわいーっしょ」
それを見てギクリとした烏間先生は青ざめた表情で2人に近寄っていった。
「…ッ! 可愛いのはいいがここで出すな! 他のクラスには秘密なんだぞ暗殺のことは!!」
「「はーい」」
これを見た他のクラスからは嫉妬の声が聞こえてくる。
『可愛いのはいい』これを否定せずに怒ってくれる。本当に良い先生だと思う。
こんな人が防衛省にいたら日本の未来は明るいな。
「なんか仲よさそー」「いいなぁー。うちのクラス先生も男子もブサメンしかいないから」「しかもE組って遠山君いるし」「噂によるとモデルやってるらしいね」「イケメンだよね〜」
は…?俺…?じゃないよな?でもE組の遠山って俺しかいなよな?モデルとかイケメンとか言ってるからきっと人違いだ。前原あたりと間違えたんだろう。それか磯貝か。
ガララッ
烏間先生に引き続きビッチ先生も入ってきた。あんたら入るんなら2人一緒に入れよ。
「ちょ…なんだあのものすごい体の外人は」「あいつもE組の先生なの?」
他のクラスからはビッチ先生の入場によりどよめきがが聞こえた。
そして何をするつもりなのかこっそりと渚のところに近づいてきた。
「渚。あのタコの弱点全部手帳に記してたらしいじゃない。その手帳おねーさんに貸しなさいよ」
「えっ…いや、役立つ弱点はもう全部話したよ」
「そんなこと言って肝心なとこ隠す気でしょ」
「いやだから…」
「いーから出せってばこのガキ。窒息させるわよ」
ビッチ先生はそう言うと、渚の顔を自分の胸に押し当てた。
「苦しっ…胸はやめてよビッチ先生!!」
この行為に他クラスの男子がびっくり仰天だ。男子中学生には刺激が強いっちゅーに。
「…はいっ。今みなさんに配ったプリントが生徒会行事の詳細です」
なんか生徒会から出し物でもあるのか?というか俺にまだプリントがきてないんだが。
「え?」「俺らの分は?」
他のE組もそのようだ。
「すいませんE組の分まだなんですが」
学級委員の磯貝君が生徒会にプリントを要求する……まさかと思うがこいつら…。
「え?無い?おかしーな…。ごめんなさーい!3-Eの分忘れたみたい!すいませんけど全部記憶して帰ってくださーい!ホラ、E組の人は記憶力も鍛えた方がいいと思うし!」
ははははははははは
校長に引き続き今度は生徒会のやつの言葉に全校が爆笑の渦に包まれた。だからこんな胸糞悪いことの何が面白いんだか。
「何よこれ…陰湿ねえ」
ビッチ先生がそう言った時だった。
ブワッ!
ババババババババババ!
俺らの手にはプリントが握らされていた。
こんなことができるのは…
「磯貝君。問題ないようですねぇ。手書きのコピーが全員分あるようですし」
「殺せんせー…」
「あ、プリントあるんで続けてくださーい」
「え…あ…うそ、なんで!? 誰だよ笑いどころ潰したやつ! あ…いや、ゴホン。では続けます」
どうやら予定外だったらしく、生徒会のやつはつまらなそうだ。
案の定殺せんせーは烏間先生にクドクド怒られている。
「あれ…あんな先生さっきまでいたか?」「妙にでかいし関節が曖昧だぞ」
他のクラスも殺せんせーの存在に気付いた様子だった。あんな奇妙な体の人がいたらそりゃ驚くだろうに。
「しかも隣の先生にちょっかいを出されてる」「なんか刺してねーか?」
もちろん暗殺は人に見られてはいけないので、ビッチ先生は烏間先生に連れていかれた。
「はは、しょーがねーなビッチ先生は」
今のやりとりが面白かったらしく、前原を起点にE組の生徒が何人か笑った。
他クラスの生徒の様子を見てみると、E組みのくせに気にくわない、そんな感じだった。
「先行ってるぞ、遠山!」
薄情者杉野はそう言って先に行ってしまった。
「えっ…あ…待っ…」
「ねえねえ遠山君って誕生日いつ?」「今週暇ならカラオケ行かない?」「あーじゃあ私とはカフェ行こうよ」「とりま、連絡先交換しよー?」
どうしてこうなった?まさか集会直後、他クラスの女子にこんなに…写真を一緒に取るように言われたり、盗撮されたり、買い物や遊びに誘われたり、連絡先を交換するように言われるなんて。
(参ったなぁ…勘弁してくれ…)
俺はそこにいたみんなに謝りながらその集団を無理やり抜けて、本校舎を出た。
(よし…これでもう追ってこれまい…)
「!」
出た先で、渚がまたあの2人組みに絡まれていた。全く、ここの生徒は。ガツンと言ってやろうか。
「殺そうとした事なんてないくせに」
ゾクッ。
なんだ今のは…?殺気…?
渚が出したのか…?
ちょうどこの光景を見てた烏間先生も驚いている様子だった。
E組の差別待遇ひどい…