少しずつですが、読んでくださる方が多くなって嬉しい限りです!!
「「「「「さて、始めましょうか」」」」」
………何を?
「学校の中間テストが迫って来ました」
「そうそう」
「そんなわけでこの時間は」
「高速強化テスト勉強を行います」
殺せんせーが謎に何体にも分身してたのはそう言う理由か。しかも国数社理英のハチマキまでしちゃって…テストねぇ。
「先生の分身が1人ずつマンツーマンで」
「それぞれの苦手科目を徹底して復習します」
「くだらね…ご丁寧に教科別にハチマキとか……なんで俺だけNARUTOなんだよ!!」
「寺坂君は特別コースです。苦手科目が複数ありますからねぇ」
殺せんせーはどんどん速くなってると思う。国語6人、数学8人、社会3人、理科4人、英語4人、NARUTO1人。クラス全員分の分身なんて、ちょっと前までは3人くらいが限界だったのに。
ぐにゅん。
「うわっ!!」
殺せんせーの顔がCの字に歪んだ。
「急に暗殺しないでくださいカルマ君!!それを避けると残像が全部乱れるんです!!」
意外と繊細なんだこの分身!?
「でも先生こんなに分身して体力持つんですか?」
「ご心配なく。一体外で休憩させてますから」
「それむしろ疲れない!?」
この加速的なパワーアップは…1年後に地球を滅ぼす準備なのか…?何にしても殺し屋にはやっかいなターゲットで…テストを控えた生徒には心強い先生だ。
(うっ…!)
俺の頭に痛みが走る。
これは今までで一番きつい頭痛かもしれんな。
(くるぞ…断片的だが…記憶のカケラが…)
『ふふ。うふふ。数式と図で分かったぞ。こんな易しい事を学んでいるのか』
『や…易しいか? 難しいだろ。お前、分かったフリして分かってないんだろう』
『遠山キンジ。貴様の浅知恵などすぐ見抜けるぞ。そう言って挑発し、教えてもらおうとしているのだろう。私が教えてやると思ったか?』
「ーーーっ!」
なんだ、今の会話は。今のもちょうど勉強について教えてもらっていたな。
もしかして、その時の状況と似たようなものがフラッシュバックするってことか…?
「おや?どうしましたか遠山君。ペンが止まってますよ?」
「いえ…」
とにかく、今は勉強に集中だ。
「さようなら殺せんせー」
「ヌルフフフフ。明日は殺せるといいですねぇ」
テスト勉強を終え、教室を出ると…
「…?」
この学校の理事長先生が職員室入っていくのが見えた。
「にゅやッ。こ、これはこれは山の上まで! それはそうと私の給料プラスになりませんかねぇ」
無様にゴマ擦っていた。見たくなかったぜ。渚に報告だな。殺せんせーの弱点、『上司には下手に出る』ってな。
「こちらこそすみません。いずれご挨拶に行こうと思っていたのですが。あなたの説明は防衛省のこの烏間さんから聞いていますよ。まあ私には…全てを理解できるほどの学はないのですが…なんとも悲しいお方ですね。世界を救う救世主となるつもりが、世界を滅ぼす巨悪と成り果ててしまうとは」
……?救う…?滅ぼす…?
「いや…ここでそれをどうこう言う気はありません。私ごときがどうあがこうが地球の危機は救えませんし。よほどのことが無い限り私は暗殺にはノータッチです」
「……助かっています」
烏間先生もこの先生には立場的に頭が上がらないようだ。
「この学園の長である私が考えなくてはならないのは…地球が来年以降も生き延びる場合。つまり、仮に誰かがあなたを殺せた場合の学園の未来です。率直に言えば…ここE組はこのままでなくては困ります」
「………このままと言いますと、成績も待遇も最底辺という今の状態を?」
「はい」
殺せんせーの問いに理事長は何のためらいもなく答える。
「働き蟻の法則を知っていますか?どんな集団でも20%は怠け、20%は働き、残り60%は平均的になる法則。私が目指すのは…5%の怠け者と95%の働き者がいる集団です。『E組のようになりたく無い』『E組にだけは行きたく無い』95%の生徒がそう強く思うことで…この理想的な比率は達成できる」
「…なるほど、合理的です。それで、5%のE組は弱くて惨めでなくては困ると」
「今日D組の担任から苦情が来まして。『うちの生徒がE組の生徒からすごい目で睨まれた』『殺すぞ』と脅されたとも」
……絶対渚だな、それは。多分かなり内容は捻じ曲げられているが。
「暗殺をしてるのだからそんな目つきも身につくでしょう。それはそれで結構。問題は、成績底辺の生徒が一般生徒に逆らう事、それは私の方針では許されない。以後厳しく慎むよう伝えてください」
理事長はポケットからジャラっと知恵の輪を出して殺せんせーに投げた。
「殺せんせー。一秒以内に解いてくださいッ」
「え!いきなりッ…」
急な事でテンパり、知恵の輪にさらに触手が絡まっていた。
なんてザマだ!!
「…噂通りスピードは凄いですね。確かにこれなら…どんな暗殺だってかわせそうだ。でもね殺せんせー、この世の中には…スピードで解決出来ない問題もあるんですよ」
知恵の輪を解こうと這いつくばっている殺せんせーを哀れむように、理事長は言った。
「では私はこの辺で」
「!」
いけね。つい話を聞いていたら扉から出て来た理事長にバレてしまった。
「やあ!中間テスト期待しているよ。頑張りなさい!」
「………」
とても乾いた『頑張りなさい』は…聞く人によっては一瞬で暗殺者からエンドのE組へ引き戻すだろう。聞いたのが俺でよかった。
ターゲットとしての殺せんせーはほぼ無敵だ。暗殺を完全にコントロールして支配している。
だが教師としては無敵ではない。この学校にはあの強力な支配者がいる。
椚ヶ丘学園理事長、浅野學峯。創立十年でこの学園を全国指折りの優秀校にした敏腕経営者。
成功の要因はその冷徹な合理主義。代表的な例がこのE組だ。この学校で理事長の作った仕組みからは逃げられない。たとえ殺せんせーでも。
「さらに頑張って増えてみました。さぁ授業開始です」
その残像の数は、とてもじゃないが数えきれない。
増えすぎだろ!!残像もかなり雑になってるし…雑すぎて別キャラになってねーか?
「…どうしたんだ殺せんせー?気合い入りすぎじゃない?」
「んん?そんな事ないですよ」
隣の根本さんが心配するほどの気合いの入りようだった。
きっと、『この世の中には…スピードで解決出来ない問題もあるんですよ』 という言葉が効いているんだと思う。
そのせいかおかげか、殺せんせーは動き続けて、チャイムがなった頃にはゼーハーと瀕死状態だった。
「さすがに相当疲れたみたいだな」「なんでここまで一生懸命先生をすんのかね〜」
「…ヌルフフフフ。全ては君達のテストの点を上げるためです」
「…」
…?どうしたんだ?クラスのみんなは何か言いたげな感じで目配せする。
「…いや勉強の方はそれなりでいいよな」「うん…なんたって暗殺すれば賞金百億だし」「百億あれば成績悪くてもその後の人生バラ色だしさ」
「にゅやッ!そういう考え方をしますか!!」
「俺らエンドのE組みだぜ殺せんせー」「テストなんかより…暗殺の方がよっぽど身近なチャンスなんだよ」
その考えはいけないな。
この言葉を最後に、殺せんせーは何かを閃いたっぽいし。さあ殺せんせー、腕の見せ所だぞ。
「なるほど。よくわかりました。
「?何が?」
言ってる意味が分からず俊足の木村聞く。
「今の君達には…暗殺者の資格がありませんねぇ。全員校庭へ出なさい。烏間先生とイリーナ先生も呼んでください」
「…?急にどうしたんだよ殺せんせー」「さあ…いきなり不機嫌になったよね」
E組のシステムの上手い所は…一応の救済処置が用意されている点だ。
定期テストで学年186人中50位に入り、なおかつ元の担任がクラス復帰を許可すれば差別されたこのE組から抜け出せる。だが…もともと成績下位のうえこの劣悪な環境ではその条件を満たすのは厳しすぎる。殆どのE組生徒は救済の手すら掴めない負い目からエグい差別も受け入れてしまうそうだ。
「何するつもりだよ殺せんせー」「ゴールとかどけたりしてさ」
校庭に集められたみんなは殺せんせーの一連の行動が謎のようだ。
「イリーナ先生。プロの殺し屋として伺いますが」
「…何よいきなり」
「あなたはいつも仕事をする時…用意するプランは1つですか?」
「…?…いいえ。本命のプランなんて思った通りに行くことの方が少ないわ。不測の事態に備えて…予備のプランをより綿密に作っておくのが暗殺の基本よ。ま、あんたの場合規格外すぎて予備のプランが全部狂ったけど。見てらっしゃい、次こそ必ず」
「無理ですねぇ。では次に烏間先生」
言葉を遮られたビッチ先生は殺せんせーを睨みつけるが、殺せんせーは無視して烏間先生に質問した。
「ナイフ術を生徒に教える時…重要なのは第一撃だけですか?」
「……第一撃はもちろん最重要だが、次の動きも大切だ。強敵相手では第一撃は高確率でかわされる。その後の第二撃第三撃を…いかに高精度で繰り出すかが勝敗を分ける」
なるほどね。つまり俺らの今の事態もこれに当てはまると…。
「先生方のおっしゃるように、自信を持てる次の手があるから自信に満ちた暗殺者になれる。対して君らはどうでしょう。『俺らには暗殺があるからそれでいいや』…と考えて勉強の目標を低くしている。それは…劣等感の原因から目を背けているだけです」
殺せんせーは駒のようにくるくると回りだし、数秒のうちに風が起こるほどの速さで回転する。
「もし先生がこの教室から逃げ去ったら?もし他の殺し屋が先に先生を殺したら?暗殺という拠り所を失った君達には、E組の劣等感しか残らない。そんな危うい君達に…殺せんせーからのアドバイスです」
もはや竜巻とも言えるほど風が強くなり、校庭が吹き荒れていく。
「第二の刃を持たざる者は…暗殺者を名乗る資格なし!!」
ドドドドと音を立てて校庭が平らになっていく。
「……校庭に雑草や凸凹が多かったのでね。少し手入れしておきました」
「!!」
そこは整備されて、すっかり綺麗な校庭になっていた。
「先生は地球を消せる超生物。この一帯を平らにするなどたやすいことです。もしも君達が自信を持てる第二の刃を示せなければ、相手に値する暗殺者はこの教室にはいないと見なし、校舎ごと平らにして先生は去ります」
俺は答えを分かりきっていながら思わず口を開いた。
「第二の刃…いつまでに?」
「決まっています、明日です。明日の中間テスト、クラス全員50位以内を取りなさい。
「「「!!?」」」
クラス中が驚く。今までとった事も、取ろうと思ったことのない順位なのだろう。
「君達の第二の刃は先生がすでに育てています。本校舎の教師たちに劣るほど…先生はトロい教え方をしていません。自信を持ってその刃を振るってきなさい。ミッションを成功させ、恥じることなく笑顔で胸を張るのです。自分達が暗殺者であり…E組であることに!!」
中間テスト前日。俺たちE組は殺せんせーからこれ以上ない喝をいれてもらったのだった。
殺せんせーの授業受けたい…