凡人師匠と非凡な弟子   作:黒三葉サンダー

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妖精

「師匠、朝です。起きて下さい」

「ん……んぅ」

 

私の朝は早い。朝の5時から起きて、身支度を整えてから二人分の朝食の準備。その後師匠を起こすまでがいつもの流れです。

 

「師匠、師匠。新しい朝ですよ。希望の朝です。起きて下さい」

「んぁ……みふぁ……もうちょい……」

「……師匠。このタイミングで唐突な名前呼びは心臓に悪いです」

 

普段は落ち着いている師匠ですが、寝ている時はあどけなさが全面に出てきます。正直この寝顔をずっと見ていたい気持ちが芽生えますが、流石に弟子として師匠の起床の手伝いを放棄するわけにはいきません。

 

「……?」

 

今度は揺すって起こそうとすると、何か違和感を感じます。さっきまで気づきませんでした。けれど今なら気づけます。

少し師匠の毛布が盛り上がっているのです。

男性の生理現象……と判断出来なくも無いのですが、それにしては大きい。

 

「……!?」

「ん、んん……」

 

少し触ってみるともぞもぞと動き始め、それは師匠のお腹部分からどんどん上に上がり始める。

そして─────

 

 

 

「ぷはぁ!あはは!くすぐったいよ!」

「同感。気持ちよく眠ってたのに、少し残念」

 

 

 

───二人の小さな少女が顔を覗かせたのです。

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで?お前らはいつの間に戻ってきてたんだ」

「んーっとね、夜!」

「具体的には深夜0時頃」

「ほう。んでなんで俺の布団の中にいた?お前らは別に妖精界に家があるだろ」

「レドったら分かってないにゃ~」

「にゃ~」

「お前らふっ叩くぞ?」

 

弟子の料理を食いながら、バカ二匹へと説教をかます。

相変わらず弟子の料理は旨い。俺の好みを良く理解している証だ。

因みにバカ二匹には飯抜きだ。心なしかコイツらの視線がちょくちょくと料理へと向かっている。

 

「あの、師匠。この子たちは?」

「ん?あぁ、そういえば弟子は会うのは初めてか。このバカ二匹は俺の契約妖精だ。右サイドテールのバカがキキ、左サイドテールのバカがカイカイだ」

「バカとはなんだー!キキたちは賢いんだぞー!」

「キキに同意。バカは失礼。ぷんぷん」

 

なにやら両隣で私怒ってます的な感じで小さい腕をブンブンと振るバカ二匹。そんなうるさいバカ二匹の口に魚の切り身をヒョイっとぶちこんでやると、振り上げていた腕を下ろしてニコニコと口をモゴモゴさせ始める。

はっ。チョロいやつらだ。

 

「契約妖精?しかし妖精は契約に応じる事は無いと伺っていますが」

「そうだな。基本的に自由を好む妖精が契約を受ける事は殆ど例はない。だからコイツらが例外だ」

「ふふん!キキたちは特別な妖精だからね!」

「カイは別に普通かも。でもレドは食べ物くれるから好き」

 

契約とは魔獣や聖獣、精霊や妖精といった種族の力を借りることが出来るものだ。

これにより空を飛べたり、水中の中で呼吸が出来たり、契約相手の特徴が使えたりと様々な恩恵を得ることが出来る。しかしこれは契約。勿論こちらから一方的に力を借り受けるだけではなく、契約相手が求めた報酬や条件をクリアしなければならない。

もしこれを破れば即座に契約は破棄され、二度とその相手と契約することは出来なくなる。

 

因みに精霊と妖精の違いは純粋に強さの違いだ。ランクの違いとも言える。より高次元な存在が精霊で、身近にいるのが妖精と覚えるのが楽だ。それに精霊なんぞ一生に一度見れれば運が良いと言われる程の存在だ。そんなものがホイホイと現れることが無い以上、精霊と妖精の線引きなんて曖昧なものだ。

 

「それにしても、三年も一緒にいるのに一度も見たことがなかったのですが」

「それは多分コイツらが弟子の視界に入らないように動き回っていたからだろう。何故かは知らんが」

「えー!?キキたちはこの人がレドに変な事しないように監視してたんだよー!」

「そうそう。いわば親切心。レドに危害を加える人かどうか見てた」

「そう、だったんですか……」

 

キキとカイ(カイカイと呼ばれるのは好きでは無いらしい)の言葉に少し項垂れる弟子。まぁコイツらがそう言うのも無理はない。

何せ初めの頃の弟子は敵対心剥き出しだったし、残念ながらキキもカイも戦闘力はほぼ皆無に等しい。いざという時は誰かにでも助けを求める予定だったのだろう。

俺も戦えなくは無いが、そこまで強い訳ではないから弟子相手には一撃も当てられず終いだろう。

 

「弟子よ、もう気にするな。コイツらが今平然と顔を出していると言うことはお前にはもう害が無いとコイツらが判断したからだ」

「師匠……」

「だからそんなショボくれた顔をしているな。せっかくの飯が不味くなる。ほら、お代わりだ」

「……はい!師匠!」

「ミファ!キキも欲しい!」

「カイも~。ミファのご飯食べたい~」

「ふふ、分かりました。ちょっと待っててね」

 

弟子がキッチンへと向かうと、トコトコとバカ二匹も弟子の後をついていく。その姿はさながら母親と子供のようだ。

 

「……味噌汁も貰えばよかったぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミファ!キキたち負けないから!」

「レドはキキとカイが貰う」

「え?」

 

 


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