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「イアン殿ーーーーー!」
少女は不自然な姿勢で抱かれたままイアンの着水地点へ叫んだ。そしてゴドリックの顔を見上げて言った。
「降ろして、旅人さん」
ゴドリックは彼女の顔に急に現れた張りつめた表情に目を奪われた。少女は抜け出すように彼の腕から降りると、川岸に立ってまたイアンの名を叫んだ。彼は水中で手足を振り回し盛大な水しぶきを上げている。それを見ながらゴドリックは素早く帽子を頭に乗せた。
「あの男、泳げないのか」
ゴドリックの言葉に少女はハッとして振り向き、そしてまた溺れるイアンに声を送った。
「イアン殿ーーー!しっかりーーーーー!」
彼女はそっと片足を持ち上げて、その先を川面に浸けようとしていた。その小さな肩をゴドリックが掴む。
「どうするつもりだ?!」
「早く助けに行かないと!平気よ、こう見えて泳ぐの得意だから……」
「ばか、落ち着け」
ゴドリックはなおも行こうとする少女を押さえたまま、水しぶきに向かって声を上げた。
「川は浅い!足が付くぞ!」
「あっ」
少女も自分がどうやって助けられたかを思い出したようだ。
水しぶきは止み、男が腰から上を出して立って肩で息をしていた。少女が気遣わしげに声を上げる。
「イアン殿、お怪我はありませんか?!」
「大事ありません!」
男の嬉しそうな大声に、少女は全身から力を抜いてホッとした。
「よかった……」
少女は囁くように言うとゴドリックに振りかえって明るい笑顔を向けた。
「旅人さん」
ゴドリックをまっすぐに見上げて少女は言った。
「もう平気よ、ありがとう。だから……」
「おいそこのお前、余所者だな!」
少女の声を遮ったのは川の半ばを渡る途中のイアンの怒声だった。杖をゴドリックに突き付けている。
「とっとと姫から離れんか!」
ゴドリックはまだ少女の肩を掴んだままだった。少女は慌ててゴドリックから離れる。
「貴様は一体何者だ!」
イアンの目は怒りに燃えていた。ゴドリックは杖の動きに注目し左手をだらりと下げ、帽子のつばをぐいと引き下げた。彼の杖は剣と同じように鞘に納めてベルトに吊るしている。
「この方はわたくしを助けて下さった旅の方です!親切にして頂いたのです!」
イアンの質問に答えたのは少女だ。ゴドリックは彼女がさっきまでとはまるで違う雰囲気を纏っている事に気付いた。背筋を伸ばして物を言う姿には能天気な子供っぽさは何処にも無く、大人びて凛とした佇まいを持ち「姫」と呼ばれるに相応しかった。
「姫を助けた?」
「そうです、イワン殿」
岸まであと少しの所で男が体勢を崩した。深みに足を取られたのだ。ゴドリックは咄嗟に腕を伸ばし、杖を突き出したイアンの手を掴む。そしてそのまま後ろに倒れるように筋肉質な体を引っ張り上げた。
「大丈夫ですか?!イアン殿!」
少女は岸にしゃがむイアンに近づくと、自らもしゃがみ込んだ。男は鷹揚に笑った。
「はっはっは、姫、これしきの事どうという事はありません」
そんな二人を見るゴドリックは問題がちょっと複雑である事に苦みを感じた。彼女はイアンが現れた時に、彼の腕の中で確かに身を竦ませた。イアンが誘拐者なのだと直感したが、少女の献身ぶりは本物だ。誘拐者を相手にした態度とは思えない。
男の身分は高いようだ。彼の服は見る影もなくずぶ濡れだが、むき出しの両腕に光るバングルや腕輪に指輪、そして杖を差したベルトのバックルは黄金に輝き精緻な装飾が施されている。それらは彼の地位と豊かさを現していた。
イアンが立ち上がり、ゴドリックに近づいた。笑顔だ。ゴドリックは帽子のつばを引き下げ顔が影になるようにする。彼の背はゴドリックと同じくらいだが若干筋肉質で、日焼けした浅黒い肌に短い顎ひげ、金色の髪を後ろに垂らしていた。
「さっきは助かった。しかも姫の危ない所も助けてくれたそうだな、感謝するぞ」
「なに、それには及ばないさ」
「これはほんのお礼だ」
イアンはゴドリックの話を全く聞かない様子で、杖を持った右手の指から緑の石が嵌った金の指輪を一つ抜き取り差し出した。ゴドリックはチラリともそれを見ずに相手の顔を帽子の影から見据えた。
「そら、持って行くがいい」
男は指輪を乗せた手をゴドリックの鼻先に持っていく。笑顔の眉の端がぴくぴくと痙攣している。
ゴドリックが少女に目をやると、うつむき加減だった彼女はばっと顔を上げて明るい笑顔を向けた。
「旅人さん、わたしこの方と一緒に行くからもう大丈夫だよ!ばいばい!」
ゴドリックは元気よく手を振る少女と笑顔の男を見比べると、短くため息をつく。そして突き付けられた指輪の乗った手を置き去りにして素早く三歩下がった。つばの影から琥珀の目でイアンを睨み据える。イアンの笑顔は怪訝な表情に変わり、すぐに怒りを現した。
「貴様、何のつもりだ?」
「さてね。なあ、あんたずぶ濡れで随分寒いだろう」
「何?」
「お姫さんは服乾燥魔法がお得意だそうだぜ。乾かしてもらえば?」
「要らぬ世話だ!」
ゴドリックは怒鳴るイアンの腰を指さして言った。
「その杖をお姫さんに返してやれって言ってんだよ」
イアンのベルトには右手に持つのとは別の杖が差してあった。彼の肉厚な体に押されて今にも折れてしまいそうな白っぽく華奢な一振りだ。
「……貴様には関係ない!」
それが少女の杖なのだと言外に認めていた。
「なんだ、やっぱりテメーが誘拐魔か。安心したぜ」
明るい声をあげたゴドリックは、話が単純になってホッとしていた。少女の杖をこの男が持っているから誘拐したと言うのは早計に過ぎるが、彼は深くは考えていない。勘だ。それは幸いにもやはり言外に肯定された。
「抜かせ!」
イアンがゴドリックに杖を向ける。ゴドリックはさらに距離を取った。
「だめーーーーーーーーーー!」
少女がゴドリックとイアンの前に割り込む。少女はゴドリックに背を向け、両腕を広げていた。ゴドリックを庇おうとしている。
「おい、何してんだ危ないぞ」
少女は聞かなかった。杖をゴドリックに向けるイアンに語りかける。
「イアン殿、止めて下さい。この人は関係ありません」
彼女は再び大人のような態度で言った。
「我らの邪魔をしようとしているのだから黙らせなければいけません」
イアンの陰惨で好戦的な笑みに彼女は怯むことなく答えた。
「この人はわたくしの恩人です。あなたも先程助けられた筈」
「見逃せ、と?」
「このように身元も分からぬ旅人を倒したとて、イアン殿の名にどのような栄誉が加わりましょう。どうか……」
「そうですなぁ。私は貴方が黙ってついてきてくれるとおっしゃるなら、その小物を見逃しましょう」
少女は胸の前で小さな拳を震わせ、目には追い詰められた光が浮かび、そして擦れた声で返事をした。
「……わかりまひぃやぁぁぁぁあああああ!!」
返事の途中で少女は空中に浮いた。ゴドリックが彼女の後ろから両脇に手を差し込んで一気に持ち上げたのだ。
「おい、何で俺が負ける前提で話を進めてるんだァ、ああん?!」
ゴドリックが言葉と共にその場を回転し、掴まった猫のような姿勢の少女は胴体を遠心力に引っ張られて水平近くの角度を取ってくるくると回った。
「ひ~ぇ~」
ゴドリックは停止するとしゃがんで、自分の正面から逸れる位置にそっと少女を下ろした。同時に、呆気にとられてたイアンが我を取り戻す。
「貴様、また気安く姫に触りおってーー!」
イアンはしゃがんだゴドリックに杖を向ける。しかし再度少女がふらつく足で割り込んだ。
「この人を傷つけたら、貴方とは行きません!」
イアンは少女の顔を少し眺めると、大きく息をいて杖をベルトに差し、腕を組んだ。
それを見届けてから体ごと振り返った少女の真剣な顔を、ゴドリックは面白くなさそうに迎えた。助けようとした年端もいかぬ少女が彼をイアンよりも格下だと決めつけ、あまつさえ庇った事が彼の矜持を傷つけていたのだ。
「平気だと言ったのも、自分からあの野郎についてこうとしたのも、俺に戦わせない為なんだな。……俺の方が負けるから」
少女は剣を見てゴドリックが<決闘者>だと見当をつけたのだ。ゴドリックはそう思った。<決闘者>を自称する好戦的な魔法使い達の間では、使いもしない剣を身に着けるのがトレンドだったからだ。少女が頷く。
「やってみなくちゃ分からんだろ、どんだけ強いってんだ」
少女は食らいつくように猛然と喋りだした。
「強いよ、誰も敵わないくらい強いよ、ばーん、ぼーんて反則ギリギリの魔法まで使っちゃうの!今まで何人も大怪我をしてるし注意した騎士団の人もやっちゃった事があって大変だったんだから!それで3連続だもん、旅人さんには敵わないよ、だからあの方とは闘っちゃ駄目!」
いつの間にか襟を掴まれて激しく揺すぶられるゴドリックには、彼女の必死の感情は伝わってきたものの話の中身がほとんど汲み取れず、瞬きをして聞き返した。
「3連続?……どういうことだ?」
「強いの!」
「3連続王者ということであろう」
ヴィヴィーが突然沈黙を破った。
「そう、それ!」
「なんのだよ」
「決闘大会に決まっておるじゃろう」
「ああ?……ヘルガ姫の婚約者を決めるためのか?」
「うん、それ!」
少女の頷きにゴドリックは腑に落ちなかった。何でそんな男がこんな少女を誘拐する必要があると言うのか。
「大会の規則を冒すような魔法で何人もの重傷者をだし、グリフィンドールの騎士にも怪我を負わせた。凶悪で強い男じゃのう」
「……それだけじゃないの」
少女はそう言っておきながら話すのを躊躇って、ゴドリックの顔を上目で窺った。
「話しな」
なおも言いにくそうに少女は喋り出した。
「イアン殿は、ゴドリック・グリフィンドールと決闘した事もあるって……」
「なにィっ」
ゴドリックは思わず声を高くした。それが本当なら正体に気付かれてしまうかも知れない。剣からため息が漏れる。
「狼狽えるでない」
「う狼狽えてねえよっ」
彼は少女に向き直って聞いた。
「確かなのか?」
少女はコックリ頷いた。
「そう言ってた」
ゴドリックはそれを見て今度はイアンに声を投げかけた。
「あんた、ゴドリック・グリフィンドールとやりあったそうだな」
イアンはニヤリと笑って答えた。
「ああ、あの“叔父殺し”ゴドリックとな!血縁殺しという大罪に罰を与えてやろうと思ったのだよ」
「……一対一で?」
ゴドリックは帽子のつばを引き下げながら聞いた。
「ぅ、もちろん!いい所まで追い詰めたが逃げ足が速くてなぁ、取り逃してしまった。確かに“百人殺し”“人食い獅子”などと呼ばれるだけあって強かったが、言われる程でもなかったぞ。はっはっはっはっは!」
高笑いするイアンの顔を目を細めてじっと見るゴドリックに、ヴィヴィーが小声で尋ねた。
「どうじゃ?」
ゴドリックは首を振った。いくら見てもイアンの顔に覚えは無かったが、注意するに越したことは無い。彼は気休めに、すでに深くかぶってる帽子のつばを両手で引っ張った。
イアンはゴドリックが怖気づいたと見て高笑いをし、鷹揚な口ぶりで話しだした。
「余所者、止めておけ。何もお前が弱そうだから言うんじゃない。婚約者同士の事柄に他の男が首を突っ込むのは野暮と言うものじゃないか。だから退けと言ってるんだ」
その言葉にゴドリックは口を不敵な笑いに歪ませ、ゆっくりと立ち上がると左手をだらりとぶら下げた。決闘の時、まだ相手が杖を持たぬ内はこの姿勢を取るのが彼の常だった。
「旅人さん!」
少女の声をよそにゴドリックはイアンを見据えた。
「へっ誘拐犯のクセに何が野暮だ。いくら婚約者だからってな……こん、んん?」
ゴドリックの認識に齟齬が生じた。彼は素早く傍らの少女を見ると、また正面のイアンの顔を見る。彼の視線が顔ごとイアンと少女の横顔の間を激しく往復した。少女は俯き加減にしていたが、ゴドリックがじっと見続けるとチラ、と上目を寄越した。ゴドリックがなおも見つめると、とうとうコクンと頷いた。
「はぁ~~~~~あぁ?!」
ゴドリックは我知らず腹の底からの声を発した。どう見ても少女とイアンは婚約者として釣り合ってない。少女の方は婚約者と言う言葉すら早すぎる年頃だ。
「なんだ、分かっていなかったのか。大会の優勝者であるこの俺は、ヘルガ姫の婚約者でもあるのだ」
「知ってるよ、優勝するとヘルガ姫の婚約者になる資格が貰えるんだろ!それが何でこの子と婚約して……」
ゴドリックは素早く少女を見下ろし、凝視した。少女はまだ上目で見つめていたが、少し顔を赤くしてさっきよりも答え辛そうにもじもじとしていた。彼女の代わりにヴィヴィーがため息交じりに答えた。
「この娘がヘルガ姫じゃ。今更何を狼狽えておる」
ゴドリックは跪いた。そして顔を少女と同じ高さに合わせて見つめた。少女は茶色の瞳を半ば伏せ、緩やかに波うつ柔らかい金髪にうつむき加減の顔を半ば覆って名乗った。
「ヘルガ・ハッフルパフです。ごめんなさい……」
ゴドリックには何故彼女が謝ったのか分からなかったが、何で彼と同い年である筈の、40人の男に求婚される勝手に絶世の美女だと想像していたヘルガ姫が幼い子供の姿でいるのかという疑問の前では意識されない問題で、彼がヘルガ姫の隅々を凝視して彼女を余計にもじもじとさせてしまっている事もヴィヴィーに叱責されるまで意識していなかった。
「こらっ淑女をじろじろ見るでない、このたわけが!」
我に返ったゴドリックは赤いヘルガ姫の頬を目の当たりにしてすぐに謝った。
「悪い……つい」
「ううん、いいよ、別に」
彼女は両手を擦り合わせながら目を逸らして答えた。
「そういうわけだ、余所者ぉ!」
イアンの声に我に返ったゴドリックはヘルガ姫の意外さに戦いを忘れている自分を見出して少し落ち込んだ。
「もう邪魔をするなよ、旅を続けたいならな。さあ参りましょう、姫」
ヘルガ姫はイアンを見上げ、一瞬だけゴドリックを横目で見た。そして真っ直ぐに立つと凛としてイアンに言った。
「イアン殿、考え直してください。街に戻りましょう。こんな事をしても誰も認めてはくれません。あなたの名声に傷がつくだけなのですよ。」
「ここまで来て何を」
イアンは鼻で笑った。
「認めない者などいる筈が無い。私は資格がある事を力で証明してきたのだ。あなたの婚約者と言う資格をね」
彼は細めた目で彼女を見下ろして答えた。ヘルガ姫は声を高くした。
「正式なものではありません!わたくしが認めていないのですから」
「そう、貴方さえ認めて下さればいい。ですから私の里に貴方をお連れするのです」
そしてイアンの向けた笑顔はいっそ残忍と言えるものだった。
「あなたも認めざるを得ないようにする為にね」
ヘルガ姫はいつの間にか手を胸の前で握り、背は丸まってしまいそうだった。それでも顔を上げ、毅然として言った。
「わたくしは認めません」
イアンは大きくため息をついた。
「姫、お戯れは十分でしょう。お忘れですかな、その小物を見逃す事と引き換えに貴方は私について来ると言ったのですよ?」
ヘルガ姫は痛みを感じたように唇を引き結び、目を伏せた。重ねた両手で縋るように首飾りを握る。
「戯れてんのはてめえだ」
低く唸るような声が聞こえた瞬間、ヘルガ姫はゴドリックの腕の中にいた。
ゴドリックは抱き寄せたヘルガ姫をイアンの視線から遮るように、片膝をついたままで半ば背を向けている。
「ヘルガ姫」
囁く声に、ヘルガ姫は驚きに瞬くのみだった。
「あんたは本当の勇気を持っているんだな」
ゴドリックの表情は帽子の影と垂れ下がった髪の毛で見えない。そして彼は、はっきりと言った。
「ここからは任せな」
その声は押しこめられた感情でひずんでいた。ヘルガ姫には見上げるその姿が倍に大きくなったように見える。彼が立ち上がる様子は、夏の雨雲が瞬く間に空を覆う光景を連想させた。
「余所者ォ!」
ゴドリックが振り返ると、イアンは憤怒のままに杖でゴドリックを指した所だった。
それを受け止めるように、彼は帽子の影から琥珀の目を向ける。
すると、イアンは唐突に全身を濡らす水の冷たさを意識した。
ゴドリックの雰囲気は一変し、縄張りを侵された熊が立ち塞がったかのような不動の圧力と獰猛な気配を発散している。
「おい」
その声は静かだが、かえって眼差しの激しさを際立たせた。
「俺を認めさせてみろ」
イアンは即座に認識を改め精神を引き締めた。
向かい合う男は侮ってはならない凶悪な敵だと彼の本能が警告している。まだその手に杖を握っていないのにも関わらず、攻撃的な意思が空間を伝播してイアンを牽制していた。
「どうした!」
ゴドリックは吠え、イアンは呪文を唱えた。
「エクスパル……」
ヘルガ姫は風を切る音を聞いた。
イアンの呪文は最後まで唱えられなかった。
彼の杖が「パシッ」と言う音と共に主の手から弾き出されて宙を回転しながら舞う。
ゴドリックの杖先がまっすぐにイアンへ向けられていた。彼の<武装解除>の魔法が呪文を伴わずに発動したのだ。
イアンは驚愕した。
まだ若いと踏んでいた帽子の男がこれ程の威力の無音呪文を放った事は想像を超えていた。それを使いこなすには相当な熟練を必要とし、素質のある者がただそれだけの為の長い訓練を経なければ確かな効果を伴う無音呪文を使う事は出来ないのだ。
その一瞬を畳みかける追撃の呪文がはっきりと唱えられる。
「ステューピファイ 麻痺せよ!」
魔法の赤い光がイアンを襲い包み込んだ。
彼は一つ大きく痙攣し、手を前に突き出したまま後ろに倒れ込んだ。杖が後を追うように草むらに落ちる。
二人の魔法使いの決闘は、三つを数えぬうちに終わった。川のせせらぎとヒバリの鳴く声が突然鮮明になる。黄色い蝶が倒れたイアンの腹の上に止まって、ひらひらと飛び立った。
ヘルガ姫は口を大きく開けてそれを眺めていた。その頭がわしゃわしゃと撫でられて見上げると、ゴドリックが胸を張り目を輝かせまさに得意満面で見返している。さっきまでの迫力は微塵もない。彼は自分の胸に親指を突き付けて言った。
「ほーれ見ろ。俺の方が勝ったぞ!」
「このたわけ……」
ヴィヴィーのため息が春の陽気に混じっていった。