進め!知恩大学超常現象調査研究会   作:パイン村

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誰も読んでないのに結局続いた。


FILE:02 ある呪いについての考察 前編

 呪いで人を殺したら犯人は殺人にと問われるのだろうか。

 勿論、答えは否である。たとえ、本当に呪い相手が死んだとしても科学的に立証できないためである。

仮に呪ったという証拠があっても現代司法はそれを証拠とは認めない。

 だが、過去をみればこの国では呪いで人を呪い殺した、呪われたという記録は数多く存在する。

また、人を呪うという行為がが犯罪でなくなったのも近代のことにすぎない。

 古くで言えば、飛鳥時代の皇族、長屋王。彼が聖武天皇の第一皇子であった基皇子を呪い殺したという密告がなされそそれによって朝廷より軍勢が差し向けられた

追いつめられた長屋王は自死しせざるを得なかった。

 また、明治では東京奠都のおりに明治天皇が讃岐の崇徳上皇の陵墓を訪れ、この国に呪いをもたらさないよう、その霊を鎮めたという。

 だが、明治の近代化とともに呪いの類いは迷信とされ、国家の認めるものではなくなった。

 しかし、それは呪いが存在しないという理由ではなく。

西洋諸国がそう扱っていた、科学的に証明しようがないため法律にそんな概念をもちこめばいくらでも恣意的に運用できるから、といった理由にすぎない。

 特に後者はそうして呪ったと言いがかりつけられ失脚した有力者が数少なくないことを考えればそんな概念は維新の立役者たちも早々に葬り去りたかったのだろう。

 

 だからね、呪いがないという証明はどこにもないのだよ。

 

 というのはいつかの会長の言である。

僕自身、呪いがあるのかと聞かれれば多分ないと答えるとおもう。

 だが、しかしだ。世の中では愛が世界を救うのだの恋が世界変えるのだのというような言葉が氾濫している。

人の思いは強い力なのだという。

 もし、これらの言葉が本当なら、逆説的に憎悪や憎しみには世界に破滅と苦しみを与える力があるのではないか。

人を本当に傷つけ苦しめる力が。

 まあ、こんなものはただの妄想で戯れ言なのだが。

 さて、長くなってしまったが僕がなんでこんなことを考えているのかといえば、現在、我らが超常現象調査研究会に呪いから助けろと要求する暴徒が侵入しているからである。

 

「あのだからですね、ここはあくまで呪いや幽霊といった超常的な現象の原因等を調査、研究するサークルでして。除霊とか呪いを解くとかはできないんですよ」

 

 僕はできる限りにこやかつ穏やかな空調で穏便のことをすまそうとするが....

 

「うっせーな、さっさとなんとかしろつってんだよ、ぶち殺されてーのか?」

 

 そんなこと全く気づきもしない金髪でアホほど顔中にピアスを開けているいかに僕不良でーすという眼前の男。

後ろには如何にも無理や付き合わされている感じの気の弱そうな黒髪の青年がいる。後ろの青年は流石にまずいと思ったのか不良君を止めに入った。

 

「葛城さん?あまり強く言うのは...」

「てめえは黙ってろ」

 

 どすのきいた声で、脅されると青年は黙り込んでしまう。どうやら、目の前の不良は葛城というらしい。

青年の方にはもうちょっと頑張ってほしかったが、今ので震えあがっている僕が言えることではないだろう。

 事の発端は一時間ほど前。この男達がわけのわからないことを喚き散らしながら部室に乱入してきたのだ。

 呪われた、仲間が殺された、なんとかしろ。あと呪った相手を呪い返せとか。自分でやってくれと言いたいのだが、言ったらぶん殴られそうだ。

 幸いというべきか、間が悪いというべきか、今日は週二回のサークル定期集会で会長以外のメンバーは全員集まっていった。

 しかし、皆、僕にすべてをぶん投げ知らんぷりだが。

 御子、本読むふりしてこっちチラチラみんな。というか見ているなら助けてください。

 工藤は、....ダメだ。微動だにせず空気と化そうしてる。

 クソ、チャラい見た目してるくせに何の役にもたたねえ。

 仕方ない、ここは自分でなんとかするしかない。ここはきっぱりと無理だとハッキリ言うんだ!そうじゃなければ面倒ごとになることだけは間違いない。

 

「そう言われましても、ご期待に沿うのは難しいかと。神社とか寺院にご相談された方が....」

「あん?」

「すいませんなんでもありません。出来る限りご協力させていただきたいと思います」

 

 彼の気にさわったようで葛城とやらの機嫌は目に見えて悪くなった。逆らえば何をされるかわからん。

 うん、断るとかむりだ。怖いもん。一般ピーポーの僕に不良くずれの相手とか無理だから。こんなときに会長はなんでいないのか。

とそんなことを考えたからか、噂すればなんとやら部室の扉が開き我が会長が悠々と部室に入ってくる。

 

「いやー!ごめん、ごめん!ちょっと話題のタピオカティーなるものを買っていたら遅くなってしまったよ。

 なんでも、巷じゃ胸にこの飲み物をのせてのめるか試すタピオカチャレンジ成るものが流行っているそうじゃないか。

 学内でも屈指の大きさをもつ御子君ならできるんじゃないかと思ってねえ」

 

 そういって会長は持っていた袋からタピオカティーを取り出してくる。部室内の様子をみて何一つ気にすることなく自分がしゃべりたいことだけをしゃべる。

 さすがというか、なんというか、会長は会長だなぁ。

 

「あ?なんだ、てめぇ人が話しているのがわかんねぇのか?」

 

 話を遮られたのがご不快だったのか、葛城は会長にメンチを切ってくるが会長は全く動じることなく御子の方に駆け寄る。

 

「君なら絶対にできる!さあ、その胸でニュートンに勝つんだ!」

「やめて香ちゃん?それ、下手したらセクハラだから。最近こういう部活動での行為も問題になるのよ」

 

 今まで一言もしゃべらなかったくせに会長が相手となるとよく口が回りますね。

 会長、そんなやつに屈ってはいけません。御子ならなんやかんやでおしきればいけます。去年のミスコンもそうでした。

 そして、我々男子の夢を!リアルタピオカチャレンジを今ここに。失敗しても成功しても最高だから。むしろ失敗した方が服が透けて....。

 

「うーん?そこまでいうのなら仕方ない、今回は諦めよう。じゃあ君たち一緒に....」

「無視すんじゃねえ糞アマァ!」

 

 相手にすらされなかったのがよほど腹に据えかねたらしく、葛城は会長から袋を奪い、中身をぶちまける。

 それをみていた僕らは一斉に顔から血の気が引いた。あいつ、アホなのか!あの会長に相手に、命が惜しくないのか!?

 葛城についてきた青年の方はどうやら会長のことを知っていたようで彼から距離をとることで、無関係を主張していた。

 一方僕の仲間はといえば、御子はなにも言わずに長机の下に隠れ、工藤は神か仏にすがっているのか手を合わせ祈り始めた。

 そして僕はというと早々にすべてを諦めた。こういうときは経験上なるようにしかならないからだ。流れに身を任せた方が無難である。

 見れば、葛城某はよせばいいのにタピオカティーの入れ物を踏みつけ会長を挑発していた。

 

「ふん、これに懲りたらあぁぁぁぁー!」

 

 葛城はの言葉はすべてを言い終わる前に悲鳴へと変わった。会長が足を思いっきり蹴って転倒したからだ。

 そして、会長はそのまま部室にあったモップを葛城に突き付け立ち上がれないようした。

 

「てめえ、よくも!ぜってえ許さねぇからな!」

 

 葛城は抵抗するも完全に制圧されており立ち上がることもできない。

 

「ぴーぴー、うるさいね。葛城淳也君、教育学部教育学科の葛城淳也君?」

「な、なんで俺の下の名前を?」

 

 葛城、いや純也君はいきなり自分の下の名前が呼ばれ恐怖の色を見せた。どうやら、本当に会長のことも知らずにここにやって来たらしい。

 

「あんまり、騒ぐと私も出るとこでるからね。今度君のお父上、府議選出るらしいじゃあないか。週間誌のネタにでもされそうだねぇ?」

 

 会長の口から出される話を聞き葛城くんは顔を青くする。その脅迫内容よりなぜそれを知っていると言いたそうな顔だった。

 会長は学内随一、いや、京都随一の情報通である。学内の生徒の顔や名前、住所、おろか、人間関係、その他もろもろをすべて知っていると言われている。

 それこそが学内で会長が恐れられるもっとも大きな要因であり、だから彼女に好き好んで関わろうとする人間はほとんどいない。

彼女の機嫌を損ねようものなら社会的な死が待っているからだ。

 なんでそんなことを知っているのか。それを知るものはいない。

 噂よれば会長はじつは公安のスパイなのだとか、会長の実家が私設諜報組織を持っているとか言われているが、全くもってどれも眉唾物の話である。

 実のところ、この人の存在こそ一番の超常現象かもしれない。

 

「さてでは何をしに来たか知らないがさっさとお引き取り願おう。私はこれからまた、タピオカティーを買いにいかないといけないし。あっ、お金は勿論弁償してもらうよ?」

 

 そういって会長は葛城のポケットをまさぐる、財布を探しているようだ。

 

「まってくれ!俺が悪かった!でも本当に困っているんだ!このままじゃあ俺は呪い殺されちまう!」

 

 こいつ余計なことを!こいつの口を塞ぐべきだったと後悔したが、すでに時おそし、それを聞いた会長は実に楽しそうな顔をしていた。

 

「へえ?呪いねえ、実に面白そうな話じゃあないか」

 

 どうやら、タピオカチャレンジはお預けになりそうだった。

 

 

✺✺✺✺✺✺✺✺    

 

 

 そんなわけで、僕たちは葛城くんとその友達、堀越敬矢君からその呪いとやらの話を聞くことになった。

 会長曰く「呪いを実際に受けた人間の調査なんてなかなかできないからね」だそうである。

 

「で、その呪いとやらで、もう三人も死んでいると?」

「ああ、進一も寛治も卓郎もあいつやられちまった」

 

 話を整理するとだ。

 今から1ヶ月前、こいつらを含む仲良し五人グループで四条烏丸の路地裏にある、とある廃屋で深夜、肝試しをしたそうなのなのだ。

そこは、確実に出ると有名な心霊スポットらしく、五人は軽いノリで入ってしまったらしい。

 一見、普通の民家なのだが奥には奇妙な祭壇が鎮座しているらしい。なんでも五人はそれを壊してしまったらしい。

 それから次々と事故や事件でそのうちの三人がなくなり、次は自分達の番だとここに相談きたらしい。

 なんというか呪いというよりは祟りといった方が正しい気もする話だ。

 

「ふーん。じゃあ、もうのこっているのは君達だけなんだ」

「ああ、後は俺とケイだけだ。頼む死にたくないんだ、助けてくれ!」

「僕からもお願いします」

 

 よほど、切羽待っているのかさっきまでの威圧的な態度は鳴りをひそそめ葛城は堀越と一緒に頭を下げた。

 

「まあ、なんとも自業自得的な話だね。で、ちょっと聞きたいんだけどあいつって誰?」

「え?」

 

 その質問は予想外のものだったらしく葛城は答えに窮した。

 

「なんのことだよ、俺はそんなことを…」

「いやいや、さっき自分でいったじゃないあいつにやられるって。

 

 それにさっきから君は呪い殺されるとか言ってるけど、普通さ、神様とか奉られているのものにはさ祟られたって言わないかい?

 …君さ、実は自分を呪った相手に心当たりがあるんじゃないの?」

 

「俺が嘘ついてるってのかよ!」

 

 会長の言葉に葛城は明らかに狼狽していた。

 その態度が逆に会長の言葉が真実であるという可能性を高めた。

 

「やめてください、僕たちは何も嘘何てついてません...。ただあまりにも異常な事態に冷静にしゃべれなくて、...ですよね葛城さん」

 

 堀越はそう言い、葛城の顔をじっと見つめた。葛城は「チッ」と舌打ちをした後吐き捨てるように言った。

 

「ああ、そうだ」

 二人の弁明を聞いた会長は、二人を一瞥すると何かを考えるような仕草をした。

そしてどこか二人を馬鹿にしたかのような口調でこう言った。

 

「まあ、君達が何を隠そうといいんだけどね?痛い目に会うのは君達だし」

 

 会長の顔はどこか二人を嘲笑らっているようにも憐れんでいるようにも見えた。

 

「なにも隠してねえよ」

 

 そういいながらも葛城の顔には大量の汗がにじんでいた。会長はそれ以上追求せず、部室にあった適当な神社仏閣のお札を二人にに渡した。

 

「今日のところはそれをもって帰りたまえ。どこまで効果があるかわからないがないよりましだろう。あとは調査が進んだら連絡するから」

 

 そういって大量のお札を持たされた葛城くんは不安そうかつ不満そうだったが連絡先だけおいて帰り、堀越も一礼だけすると逃げるように去っていった。

 

「うさんくせー。ほっときましょうよ。なんにせよ自業自得でしょう。あいう奴はいなくなった方が世のためですって」

 

 葛城がいなくなったとたん工藤が流暢に話はじめた。こいつ…。

 

「私も賛成です。大体、呪いなんて。偶然知り合い三人が近い時期になくなったというだけよ。

 そういう偶然に変に理屈つけようとするから呪いなんて妄想を作り出すんです」

 

 御子とか関わりたくないと語気を強めていう。まあ、当然だろう暴力に訴えかけるような人間を助けたいと思う訳がない。

 しかし、そんなのは意にも介していないであろう会長は楽しそうに笑う。

 

「この国では、人間の命は地球よりも重いんだよ?人道主義者の私としては困ってる人間を助けるのは当然さ」

 

 いつから、あなたが人道主義者になったんですか。多分今さっきですよね。

 

「それにだね、御子君?現象をただ偶然と片付けるのは科学的じゃないんじゃないかな?

 事象がただの偶然なのか、法則に基づいて起きたものなのか、調査をしてみないと分からないと思うけどもね」

 

 会長の言葉に御子はばつが悪そうに黙ってしまった。工藤も苦笑しているし、このままだと調査をする流れになることは必定。であれば、やることは一つ。

 

「あっ、そうだ今日はこれからバイトがあったんでした。それではまた来週」

 

 厄介ごとからは逃げるが勝ち。そうして部室を出ようとすると後ろから強い力で両腕が捕まれた。後ろを見ると工藤と御子が笑顔で僕の腕を掴んでいた。

 

「貴方、バイトなんてしていなかったでしょう?逃げようとしたってそうはいかないわ」

「剣児、友人というのはいつだって苦しみを分かち合うものだろう?」

 

 こいつら、人を道連れにすることしか考えてねえ!糞、何てサークルだ。

 

「放せ!大体、この前は僕一人だったから今度はお前らの番だろうが」

「そんなルールはこのサークルにはない。残念だったな」

 

 工藤は悪辣な笑みを浮かべる。そんな様子を見ていた会長がこちらに近づいて来る。

 

「じゃあ、今から彼ら肝試しをしたという廃墟に行くとしようか」

 

 会長は僕ら三人を見回すとそういった。僕は会長のその言葉に脱力し、完全に逃亡は諦め、呪いの調査に付き合うことにした。

 

 

✺✺✺✺✺✺✺✺    

 

 

 僕らは大学からバスを乗り継ぎ、四条烏丸へとやってきた。

 ここは京都の中心的な繁華街であり、祇園祭の宵山のときなどは人混みで身動きすらとれないほどだ。

 すでに空は暗くなっていたが京都の繁華街というだけあって四条烏丸の交差点には人があふれかえっている。

 問題の廃墟は商店街を入った少し先の脇道にあるというが、こんなににぎやかな場所の近くそうしたものがあるとは信じられない。

 

「少子高齢化で、誰も住まなくなった廃墟も増えているからね。今時はどこに廃墟があってもおかしくないさ。

 それにここには多くの建物があるがその中の全てがどうなっているかなんてわからないだろう?」

 

 まあ、たしか会長の言うとおりだ。

我々の隣を通り過ぎてい人々がどんな人かなんてわからないのと同様、僕たちは自分たちが住むこの街に何があるのかというのをすべからく知るわけではない。

それにそんなこと誰も興味すらないだろう。

 

「えっと、葛城が言うにはここを進んだ先ですね」

 

 工藤がスマホのアプリで地図を見ながら言う。

 そうして工藤の言葉に従って進んでいくと、大通りからそれほど離れているわけでもないのに街灯も少ない通りに出た。

 そして、暗がりの中、その家はあった。

 

「ふーん?これが呪われた言えねえ?見たところ普通の一軒家にしか見えないけど」

 

 御子はどこかあきれたように言う。だが確かに僕にもその家は普通の一軒家にしか見えなかった。

 しいていえば、京都中心部にもかかわらずそれなりの広さの一軒家であったことが引っ掛かるくらいだ。

それ以外は現代的な一軒家で特段変わったことは何もない。

 

「でも、人がすまなくなって結構立ってそうだけどな。ガラスは割られてるうえに落書きだらけだぜ」

 

 工藤は目を細めていった。確かにその言葉の通り、家は荒れ果ていた。

庭には草がぼうぼうに生えているし、窓ガラスは無事な場所を見つける方が難しい。行政は何をしているのかといいたくなる。

 

「じゃあ、葛城君の話じゃ鍵は開いているらしいし、早速行くとしようか」

 

 会長はそんな荒れ果てた状況を期にもせず、実に楽しそうにその家の敷地に侵入していく。

この家の所有権等がどうなっているかは知らないが、確実に不法侵入にあたるのは間違いないだろう。

 もちろんそれを気にする会長ではないのだが。

 葛城の証言の通り、家は鍵は掛かっておらず、何が阻む事もなく楽々と僕らはこの家の中に入ることができた。

しばらくの間、家を探索したものの必ず出るという話とは裏腹に荒れ果てこそいるものも特段何かが起きるということはなかった。

 

「なんだ何もないじゃない。何が必ず出る家よ、呪いの原因の家のこれなんだし、やっぱり呪いなんてただの妄想だったのよ」

「そう結論を出すのは早計だよ。まだ、全部の部屋を見たわけじゃないし、それに一番大切なものを我々は見ていない」

 

 会長はそう御子の言葉を否定し、まだ探索していない部屋を指し示す。ほかの部屋で見つからなかった以上、おそらくそこにあるのは...

 

「祭壇ですか」

「うん、その通りだ」

 

 僕の言葉を聞いた会長は手をたたき拍手をする。何かを祀っていたという祭壇。葛城によればそれこそが彼らが呪われた原因だという。

 

「一体何を祀っているのだろうね。人を呪う神、うん、実に面白そうだ」

 

 全く何も面白くないが、会長はとても楽しそうである。そんな会長に皆、若干引きつつ、目の前の扉を見る。

特段、何の変哲のない扉だが、その向こうにあるものを思うとなかなか開けられない。

 ほかのメンバーも同じようで皆扉の前で立ち止まっていた。会長はそれすらも楽しんでいるようだったが。

 

「さっさと開けなさいよ」

「そうだぞ、こういうのはお前の役目だろう?」

「いやだよ、いつからそんなの決まったんだよ」

 

 平気で人の嫌がることを率先してやるこいつらは一回地獄に落ちればいいと思う。

 

「早ーく、開けようよ」

 

 ヤバい、会長がしびれを切らしてきたようだ。そろそろ、開けないと何が起きるかわからない。

仕方がないので僕は扉に手をかける。そして、慎重に扉を開けると、ひどい匂いが鼻を突いた。

例えるなら生ゴミが腐ったかのような強烈な匂い。そして、匂いの発生源に集っていたのだろう、大量の羽虫が部屋から出てきた。

 

「うわ!」

 

 ついそんな、情けない声をあげてしまう。つい後ろを見てしまうが、皆、匂いのせいでこちらを気にする余裕もないようだった。

 恐る恐る、部屋のなかを見る。

 嫌な予感はしていた。普通、大量の生ゴミがあろうとこんな強烈な匂いはしない。

 だから、当然、部屋の中央には異常な物体があった。

 

 それは、死骸だった。

 

 幸いにしてというべきか、人間のではなくおそらく大型犬のものだろう。おそらくとつけたのはかなり腐乱していて、本当に犬なのか確信が持てなかったからだ。

 僕は一旦扉を閉める。

 

「どうしたんだ、何があった?」

 

 工藤が部屋の中の様子を聞いてくる。僕は込み上げてくる吐き気を抑え、なんとか部屋の様子を話す。

 

「犬の死骸があった。かなりグロいし、匂いも…それは今さらか。なんにしろ覚悟して入った方がいい」

 

 僕の話に会長を除く皆は顔をしかめ、後ずさった。そりゃあそうだ。犬であれなんであれ腐乱死体など好き好んで見たいものではない。

なぜか目を輝かしている会長は例外中の例外だ。

 

「呪われた家に、謎の死骸か。俄然、面白くなってきたじゃないか。それじゃあ、いこう!」

 

 会長はなんでもないことのように扉を開けた。そして、再び強烈な臭いが鼻をついた。

 皆が部屋の中に入るのを躊躇するなか、会長は迷わず部屋へと入る。

 

「ふーん?これが例の祭壇か」

 

 僕も会長に続き部屋と入る。先ほどは犬の方に目をとられて気づかなかったが部屋の奥には確かに祭壇といわざるおえないようなものがあった。

 壁には小さなといっても家の中にあるものとしては大きいが、社のようなものがあった。

 そしてしめ縄で社とこちらがわが区切られており社としめ縄をはさんで布が引かれた小さな机があった。

 おそらく供え物をおくためのものだろう。誰がおいたのか、腐敗しきって水分すら残っていない果物の残骸がおかれていた。

 何よりも気味が悪かったのが、社の後ろの壁に書かれた紋様だった。それは大小様々の不揃いでいびつな黒い丸だった。

 むき出しのベニヤ板に墨かなにかで書いたのだろう。

 僕にはそれが何かの目に見えて仕方がなかった。数百、数千の目がこちらを覗いている。

そう想像したがすぐに頭の片隅に追いやる。馬鹿馬鹿しい、これはただの落書きにすぎない。

 

「あらあら、彼らがやったのかな社が破壊されてるね」

 

 会長の言うとおり社は壊れていた。扉は破壊され、扉を封じていたと思われる錠前も床におちている。

 神体が祀られていたと思われる空間にはもうなにも残っていない。

 

「神体もないってことはここにはもうなにもいなのかもね。そう古い神様でもなさそうだけど」

「なんでそう思うんです?」

 

 会長は僕の疑問、言葉でなく手で社の土台に彫られた紋様を差した。それは花だった。

 花を紋様としたものだった。見たこともないがこの神様の神紋だろうか。

 

「多分、これ月下香だよ。形からして間違いない。で、月下香というのはね、フィリピンとか亜熱帯の花でね日本では咲いていない。確か日本に入ってきたのは江戸時代後期だよ」

 

 なるほど、江戸後期以降では神様としてはかなり新しい分類だろう。

 

「っていうことは、なんかしらの新興宗教の祭壇ってことですか」

 

 道理で気色悪いわけである。神式を模していることからして、江戸末期から戦前くらいのものだろうか。

 

「なんで江戸後期で新興宗教なのよ。もうに二百年近く前でしょ?十分古いと思うけど」

「新興宗教ってのは伝統宗教にたいして、歴史が浅い宗教をいうのさ。町の名前もなっている有名教団だって設立は江戸末期だが、いまだに新興宗教だ。

 それに江戸後期の花だからってこの神様の生まれが江戸後期と決まったわけでもないしな」

 

 それに今ここで問題にすべきなのは、歴史の浅さよりもカルト臭漂うこの祭壇だろう。

 

「結局なんの神様がまつられていたんですかね?」

「さあ?でももしかしたら夜にまつわる神様だったのかもね、月下香はその名の通り夜にしかさかない花だから」

 

 夜にしかさかない花。なぜかその会長の言葉が強く耳に残った。特になにか意味を見いだしたわけでもないのに。

 

「しかし、誰がこんなことをしたんだ。もう神様もいないのに、生け贄を捧げるなんて」

 

 工藤は犬の死骸を見ながら呟く。言われてみれば犬は部屋の中央におかれており神様に捧げられたものと見えなくもない。

 

「それは多分違うんじゃないかな」

 

 会長が死骸を見ながらそういった。死骸は腐敗しきっておりとても長時間見ていられるものではなかったが会長はものともせず、それどころか落ちていた箒の柄でツンツンとさわり始めた。

 

「犬とはいえ、あまり仏様を冒涜するものではないわ。で、香ちゃんはなんでそれが生け贄じゃないと思うの?」

「仏様なんて、これはただの遺体にすぎないだろ?科学は魂を認めていないんだから」

 

 御子がなにかいたそうな顔をしたが、ただ黙って会長の言葉を聞いてうつむいていた。

 

「会長、あまり御子をいじめるものじゃないですよ。で、これが生け贄じゃなければなんだというんですか?」

 

 最初の言葉が気にくわなかったのか、御子がこちらをにらんでくる。せっかく、助け舟だしたのに。

だからこいつはかわいくないのだ。会長はその様子をみて笑う。

 

「ふふっ、ああ、すまないあまりに君たちがかわいいものだから。あまりにらまないでくれたまえよ。

 せっかくの美貌が台無しだよ。で、これがなんかのか問われれば死骸としか言いようがないね」

「…会長、トンチやってるんじゃないですよ」

 

 会長はいたずらが成功した子供用に笑う。本当にこの人が何を考えているのかわからない。

 

「すまないね、言葉足らずだった。まず、生け贄じゃないのは明白だよ。だって生け贄だったらそこの机に供えるだろう?」

 

 そういって会長は祭壇の前の机を指し示す。確かに犬の死骸くらいなら乗りそうであるが…。

 

「それはただ面倒だっただけでは?結構な重量ありそうですし」

「こんな大型犬をわざわざ連れてきて、今さらそんな手間を惜しむかな?それにだ、この犬ここで殺されている」

 

 そう言って会長は箒のつかを使い犬を転がしそのお腹を見せる。そこには深々と刺さった折り畳みのナイフがあった。

 

「見てみたまえ。ここの畳、血でベッタリじゃないか。ここに飾れていた神がどのようなものか知りはしないが神道では血も死も、穢れで神域に持ち込んでいいものでじゃない。

 仮にも神式を模しているのにそんなこと生け贄を捧げる人間がするかな?」

 

 会長は首をかしげ聞いてくる。じゃあこ犬はなんのために殺されたというのか。生け贄でもなければわざわざ殺す必要なんて。

 

「悩んでいるようだねぇ?でも、生命への殺傷なんて、時に合理的理由何てないものさ。強いて言うとしたら刹那的な快楽のためかな?」

 そういって会長はまた、犬の死骸の一部を箒の柄で指し示した。まるでそこを見ろというように。

 そこにはまだ茶色い毛が残っていた。しかし、所々がおかしい。黒い斑点があるのだ。

 なんだ、と思ったが近くに落ちていたものをみてすぐその正体に気づく。そこに落ちていたのは煙草だった。

 

「ひどい…」

 

 御子がうめくように呟いた。煙草の火を動物に押し付ける、明らかに外道の所業だった。

 

「見てごらんよ、足が変な形になっている。抵抗しないように、逃げないようにこうしたんだろうね。手の込んだことだ。

 でも私がこの犬が生け贄じゃないといった理由もわかっだろう?生け贄ならこれだけ痛め付ける必要はない。....これはどうみても痛め付けることが目的だ」

 

 あの会長ですらなにか思うところがあったのか最後の言葉は少し語気が強かったように感じた。僕の勘違いかもしれないが。

 しかし、生け贄じゃないというなら誰がこんなことをと、考えたとき一人の男の顔が浮かんだ。

 そうだ、最近間違いなくここに来た男がいたではないか。

 

「君も気づいたようだね?そうだ、これをやったのは葛城君たちだろう」

 

 いかにもという男だったがここまでのクズだったというのは想像の埒外だった。

通りで会長に問い詰められたた時、狼狽わけだ。

 

「彼は最初から何かを隠していた。呪われたなんて自覚があったのだって本人たちに呪われるようなことをした自覚があったからだろうさ。

 いや、それとも面と向かって言われたのかな?呪ってやるとでも」

「言われたって誰にですか。まるでここに第三者がいたような言い種ですが」

「ああ、多分いただろうね、見たまえここのはしら縄かなにかの傷がある。そう古いものじゃあない。

 恐らくここに誰かを縛って一部始終を見せていたんじゃないかな。ほら、この犬には首輪がある、飼い犬だったんだろうさ。

 さて、ここからは仮定だが、もしここに縛られていたのがこの犬の飼い主で自分の愛犬が殺される様子を見せつけられたらどう思うかな?

 呪い殺してやる位は思うんじゃないかな?」

 

  会長の言葉に想像してしまう、その状況を。自分が見ている前で殺される愛犬。縛られ、なにもできない無力な自分。

 そしてそれを嘲笑うクズたち。許せないだろう。きっとどんな手段を使ってでも悪魔と契約むすんだって彼らに復讐してやる。

 そう思ってもおかしくない。

 

「さて、もうここには用はないね、むしろこれからあの葛城とかいう男を問い詰めなければね。これはどう考えても立派な犯罪だ」

 

 動物愛護法違反、それに監禁罪も犯している可能性もある。であれば、彼は立派な犯罪者である。

 どうせ、この家も肝試しなどではなく使い勝手のよい隠れ家としてでも使っていたのだろう。

 呪われて当然、そういわれても仕方ないだろう、これは。

 会長は、鞄からスマホ取り出すと葛城に電話をし始めた。

 

「あ、出てくれたね。....調査は終わったよ。君たちがここでやったことも大体推察はついた。....そういう、言い訳はいいから。

 とにかく、呪いの調査は続けてやるからほんとうのことを話せ。

 ....そうだね。四条河原町の丸井の世界地図の前で待っているからはやく来るんだ。君に拒否権はない」

 

そう言い終わると、会長は電話を切ってしまった。会長は電話を鞄にしまうとこちらを向きいつものように笑顔でいった。

 

「それじゃあいこうか」

 

 言いたいことはあったがとにかく一秒でも早くこの場を去りたかった僕は黙ってその会長の言葉にしたがった。

 工藤も御子も一言も発しなかったところを見ると、きっと僕と同じ気持ちだったに違いない。

 

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