四条河原町は四条烏丸と同じく京都の中心的な繁華街であるというのは多少語弊がある説明だろう。
名前からわかる通り、同じ四条通りに属するこの地域は長いアーケード商店街を形成しており、それこそが京都の繁華街に当たる。
特に河原町は丸井や高島屋などの大型百貨店が居を構えており、京都でショッピングに出掛けるのならまずここだろう。
そんな人が行き交う河原町の交差点僕らはその一角にそびえる丸井京都店の正面入り口にあるブロンズ制の世界地図の前に僕らはいた。
蒲萄の装飾の上に五大陸が描かれたこの世界地図は元々、この地にあった阪急百貨店にあったもので建物を引き継いだ丸井が残したものである。
三十年近くの歴史を持つ、京都では定番の待ち合わせスポットである。
そのため、もうすぐ丸井の閉店時間だというのにも関わらず世界地図の前にはスマホ片手にたむろっている人間が多くいた。彼らも誰かを待っているのだろう。
「来ますかね?」
工藤が横断歩道の方を見ながら呟く。確かにあんな男が素直に呼び出されてくるとは思えなかった。
「来るさ。彼にとってもうすがれるのは我々だけだろうからね。部室に来たときに彼の鞄を見たかい?
なかなかにすごかったよ。京都中の神社仏閣のお守りが結びつけあった。きっと僕らのところに来る前にすがり付いたんだろうね。それでもなんの効果もなかった」
なるほどだから、どうしようもなくなってうちみたいなオカルトサークルに頼ったのか。だからあの時、僕の神社仏閣にたよればという発言に大層お怒りだったわけだ。
「で、まだ続けるんですか?助ける価値がある人間だと思えませんが」
「馬鹿だなぁ、白石君、神でもない唯人である我々が人の価値何て決められるわけじゃないか。
それに五人と一匹じゃあまりに釣り合いがととれていないよ。何より見殺しにするのは気が咎めるだろう?」
そう言われればそうだが、だと言ってなにもしないのはそれこそ気が咎める。
「さっきも言ったがあれは間違いなく犯罪だよ。であるならあとは警察の仕事さ。安心したまえ、どうやってでも自首させる」
いつも飄々とした口調の会長の最後の言葉はとても冷たいものをはらんでいた。
この人がこういうときはかならずそうなる。それはオカルトでもなんでもなく会長はやりとげると決めたら絶対にやる人だからだ。
こういうときの会長ほど恐ろしいものはない。
「来たようだぞ」
横断歩道を見ていた工藤が呟いた。確か見てみると、横断歩道を歩く葛城の姿が見える。
どうやら観念したのか、大人しく会長の指示に従ったようだった。だが僕はその葛城よりも気になったものがあった。
いや、気になった人物がいたというべきか。葛城の後ろぴったりとくっついているような暗い雰囲気の青年がいた。
知り合いだろうか、そう思ったその時だった。
地面が大きく揺れた――。
「何!?地震!?」
御子の叫び声が聞こえる。周りの人々もパニックになる。そして揺れとともに轟音が聞こえ、葛城がいた、道路が消えた。
いや、消えたのではない正確に言えば落ちたのだ。
陥没事故、地下水脈による浸食や地下の工事によって地面が陥没する事故があることはしっていたが目の前で起こるなんて思ってもみなかった。
おそらくあれでは助からないだろう。結局、葛城は僕らがなにかをする前に新たな犠牲者となってしまった。
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あの事故から一夜明け、観光都市でもあり、日本でも有数の人口を誇るこの街で起きたあの出来事はメディアを大きく騒がしていた。
なんでも地下工事の地下水対策のミスということらしいが僕はあまり納得していなかった。
何故ならあれほどの大事故にも関わらず死者は葛城一人しか出ていなかったからだ。
事故の規模と死者数が合わないものそうだが、それ以上に奇妙なのは葛城の後ろにいたはずの青年が見つかっていないことだ。
あの距離にいれば間違いなく彼も巻き込まれていたはずである。にもかかわらず彼の痕跡は何一つ見つかっていない。
いや、それどころか、メディアで流されている事件当時の監視カメラの映像にはあの時、あそこで写っていたのは葛城、唯一人だった。
あの青年は僕の幻覚だったとでもいうのだろうか....いや、それとも......
「おい、なにスマホとにらめっこしてるんだ」
「うわっ!....って工藤か。ビックリさせるなよ」
大学の学食であの事件の続報がないかスマホをいじっていた僕は突然かけられた声につい過剰に反応してしまった。
そんな僕をみて工藤はあきれるようため息をついた。
「はぁ....。お前、その記事。まだ気にしてたのか?」
そういって工藤は僕のスマホを除きこむ。確かにそこにはあの陥没事故についての記事が表示されていた。
「もう忘れろよ。あれは唯の事故ってことになったんだし、それにどうであれ、自業自得だろうさ。お前が気にすることじゃねーよ」
確かにそうだろうがだからといって納得できるほど、僕は大人ではなかった。
「まあ、確かにすぐは忘れられねえよな。この前もあんな件があったし」
その言葉に窓から落ちていく人影が頭のなかにフラッシュバックする。結局、今回もあのときも自分なにもできなかった。
そもそも、唯の大学生の僕に何かを期待する方が間違ってる。
大体、うちのサークルは胡散臭い噂や都市伝説に適当な自説をのべたり、実際にいって軽い検証をして遊び呆ける軽いサークルだったはずなのだ。
なのに、なんでこんな。僕は皆でワイワイできればそれでよかった本物なんてこれっぽっちも望んでなかったというのに。
「白石、お前さあ....」
工藤がこちらをじっと見つめてくる。もしかしたら、心配させてしまったのかもしれない。
考えれば入学時のオリエンテーションで意気投合し、友人となってからこいつとの付き合いも長くなる。
僕の心情を理解するなどこいつにとって分けないのかもし....
「いつ、御子に告白するの?」
「ごっぼ、げほ、げぼ!....なにいうんだ突然 !」
あまりに予想外の発言だったために僕は盛大にむせる。
「だってお前がさ、サークルに入った目的って御子だろ?」
「お前なあ、みんながみんなお前みたいに色欲だけで動いていないの。大体、研究会に入ったのはお前に騙されたせいだ」
工藤は僕のその言葉を聞いて何がおかしいのか笑い始めた。
「嘘は言っちゃあダメですよ白石さん。お前、が入るのを決断したのは一回生一の美人、市川御子がいると聞いてだったからだね。
それ聞いた瞬間、お前、目のいろ変わったもん。入学式で見かけたときも目を奪われてたもんなあ」
「勝手なこというな!大体、お前と知り合ったのは入学式のあとだろ!なんで僕が御子を見ていたなんて....」
そこまで言った時に自分のミスに気づき、顔が赤くなる。それを見た工藤は実に楽しそうにニタァと笑った。
「ほほう、適当に言ったんだが、嘘から出たなんとやら。いってみるもんだなあ」
「言葉の綾だ!大体だな、あんな外見だけの中身どぶ川の女誰が好きになるって言うんだ」
「へえー、人のことそんな風に思ってたのね、あなた」
後ろから聞こえてきたその声を聞いた瞬間、僕は凍り付いた。なぜならその声は今話題に上っていた人物のものだったからだ。
ゆっくり後ろの方を振り向くと、そこには仁王立ちで腕を組む一人の黒髪の女性がいた。つまり、市川御子である。
「いや、違うんですよ、御子さん。そう、言葉の綾という奴で」
「知力もなければ語彙力もないのね、貴方。言葉の綾に言葉の綾が重なるってどんな状況なのかしら?」
御子はこちらをゴミを見るような目で見つめてくる。工藤はというと、学食の窓から外を歩いている女子を見つめ、あの子は40点だな下種なことを言い始めている。
僕に助け舟を出す気は全くといってないらしい。
今の彼女達に四股していることを密告してやろうか、こいつ。
「まあ、貴方が私をどう思うと、どうでもいいわ。羽虫の思考なんて私には関係ないもの」
人を自然に虫呼ばわりしていることに抗議したいが、今何か言えば確実火に油。
折角鎮火仕掛けているところに劇物を持ち込むなどという馬鹿な真似はすべきではない。
「そんなことよりもあなた達、こんなところでぼーっと食事している場合じゃないわよ」
そういえば、こいつは昼食は確か、コンビニ弁当で済ましているから、大抵中庭で食べている。
学食にはまず現れないレアキャラのはずだ。それがここにいるということ十中八九、あの人から指令ということで。
「察しがついたようね。説明の手間が省けるわ。香ちゃんから伝言よ、今すぐ部室に集合。
来なければ君たちのパソコンのハードディスクの中身が流出することになるって」
僕と工藤はそれを聞いた瞬間、御子を置いて全速力で学食が出て、部室に向かった。
✺✺✺✺✺✺✺✺
部室の前につくと、僕と工藤は扉を力強く開けた。
「会長!?いくら何でも会長でも僕たちのパソコンのハードディスクを同行するとか不可能ですよね!不可能だといってください!」
「そうです、いくら何でもそれは人道に反します!人権侵害ですよ!」
僕と工藤は他のサークルに聞かれることなど考慮せず、全力で叫ぶ。
これだけは問いただしておかないと僕はこれから一生、この人に逆らえなくなってしまう。
ハードディスクの中身を握られるなど命を握られているのに等しいのだから!
「なんだい、そんなことを聞くためにそんな息も絶え絶えになってきたのかい?相変わらず君達は面白いねぇ。
安心したまえ、ただのジョークだ。ボクは君のパソコンにどのような画像が保存されているのかということくらいしか知らないよ」
その言葉を聞いて僕は安堵する。そうかいくら人外のごとき会長でも、人のパソコンを自由自在に操れるわけが...なんでこの人、僕のハードディスクの中身知ってんの!?
「あの会長?画像云々も冗談ですよね、冗談に決まってますよね?」
「さあ、どうだろうね?というかそれよりも気にすることがあるだろう?」
そう言って会長は、部室の奥の席に目をやるように誘導する。
今、僕のはハードディスク問題以上に気にすることはないのだが、ここで会長に逆らうとそれこそハードディスクの中身が流出しかねないので、大人しく従う。
そこには、昨日葛城とともにこの部室を訪れた堀越敬矢がいた。昨日見た時よりも気のせいかやせており、顔は間違いなく青白くなっていた。
明らか憔悴していた。まあ、無理からぬことではある、知り合い四人がすでにこの世を去り、残るのはもう自分だけなのだ。
いつ、自分の番が廻ってくるのか気が気ではないだろう。
「家で閉じこもっていたところは説得して来てもらったんだ。彼が最後に狙われているのは間違いないし、色々と聞きたいこともあるからね」
どうやって家を突き止めたとか、説得の内容とかは聞かない方がいいんだろうなあ。というか聞いたら行方不明になりそうだ。
そんなことを考えていると部室の扉が開く、見ると息を少し切らした御子がそこにいた。
「貴方たち、私を置いていくんじゃないわよ...。」
御子は、部室を見渡し、堀越の姿を確認すると、全てを察して大きなため息をついた。
「なるほどね、調査続行ってこと...、で何からするの、香ちゃん?」
「うん、まずは彼に正直にすべてを話してもらうことからかな?
全貌が分からないと何をしていいかわからないからね、話してくれるよね?君だって助かりたいだろう?」
会長のその言葉を聞いて先ほどから動きもしなかった堀越がビクッと体を震わせた。
「僕は悪くない!全部、アイツらが!アイツらがやろうって言いだしたんだ!僕はいくら何でもやりすぎだって止めたんだ!でもアイツらは!だから加藤に...」
堀越は堰を切ったように叫び始めた。その言葉は自分の責任を否定する物で聞くに堪えなかった。
何よりも完全に常軌を失っており、話している内容も何が言いたいのか理解できない。
その時、会長がバンッと強く机をたたいた。
「ボクたちは、君の弁解を聞きたいわけじゃないんだ。何があったのか、どうしてこうなったのかが知りたいんだ。順序だててゆっくりと分かりやすく話してくれるかな?」
会長はやさしく、しかしどこまでも冷たい声で言った。堀越はその言葉を聞いた瞬間、震え、数刻のあとゆっくりと口を開いた。
「僕たちには、...死んだ四人と僕には加藤っていう高校時代からの共通の知人がいたんだ。
この加藤って奴は...何て言えばいいかな。何をするにもどんくさいというか...不器用な奴だったんだよ。...葛城さんはそんな加藤をからかって」
「つまり、いじめてたんだ」
御子は堀越がどうにかに誤魔化そうとした事実を突きつけた。堀越は一瞬、じろっと御子を見たが、ため息をつくと小さくうなづいた。
「そうだよ、僕らは加藤をいじめていた。...僕だっていやだったんだ。でも断ると僕が...」
「君の心情なんてどうでもいい。さっさと続きを話たまえ」
いまだ、責任逃れに熱心な堀越の話の会長はご立腹のようで、目に見えて機嫌が悪い。
まあ、聞いてて気持ちの良い話ではないだろう。何よりここは自己弁護の場ではないのだから。堀越は目を伏せ、うなだれる。
「それでも加藤は黙って我慢してた。きっと、高校を卒業したら逃げられる、もうかかわることもないだろうと思っていたんだ。
でも現実はそんな風に都合よくはならなかった。高校卒業後に加藤は家の近く知り合いの喫茶店に就職したんだ。
だけど、運悪く葛城さん達がその喫茶店を見つけてしまったんだ」
辛い虐めにも耐え、ようやく解放されたというのに地獄がまたやってきたのはその加藤君とやらの絶望は推し量ることすらできないだろう。
終わりが見える地獄から終わりの見えない地獄へ、そこで培われた憎悪は想像すらできない。
「それからは毎日嫌がらせですよ。それでも、加藤は耐えてました。他の店員に迷惑をかけないように自分ひとりで抱え込んで。
耐えてた、...でも、もう一か月以上前になるんですか。
嫌がらせで商品をもってる加藤の足を引っかけるなんてことをやってたんですが、乗ってた珈琲が不幸にも葛城君に思いっきりかかりましてね。」
あの不良オーラ全開の葛城なら確実に切れただろう。たとえ自分が悪くてもあの手の人間は容易にそれを他人に押し付ける。
「もちろん、葛城さんは大激怒しましたよ。それで、加藤に飼ってた犬と一緒にあの場所に来いったんです。そのあとのことは言うまでもないでしょう?」
堀越はどこか他人事のようにいう。自分だってその場にいたにもかかわらず。
「そう睨まないでくださいよ。僕だっていやでしたけど邪魔をすればこっちがどうなるかわからなかったんですから。
で、初めは加藤を縄で縛って蹴ったり殴ったりしてたんですが、葛城さんが突然『お前が殴られるだけじゃお前は分かんねえよなあ?
だってお前いくら俺たちが高校時代から優しく指導してやってんのに何も変わらなかったもな?』何て言いだして、加藤の犬を持っていたナイフで刺したんです」
無茶苦茶である。何の論理性もない、ただただ自分の感情の赴くまま、刹那的快楽を得るために振るわれる暴力。
まさしく、外道、鬼畜の所業といわざる負えない。呪われるのも当然といえるだろう。
「で、肝心かなめの君たちが呪われたというのがそのあと話なのかな?」
「...ですよ。この期に及んで隠し事なんてしませんし、ちゃんと話しますから聞いててください」
「だといいのだけどね」
堀越は立ち上がり会長に反論でもしようとしたのだろうが、それでがどれほど恥知らずの行為であるか気づいたのだろう。黙って会長を一瞥すると再び椅子についた。
「......犬への所業を見て、今まで怒ることもなくただただ、暴力を耐えていた加藤はその時、初めキレました。
一瞬とは言え葛城さんがひるんだほどに。葛城さんはその態度が気に入らなかったらしく、加藤の縄をほどいてあることをさせました。
あそこに祭壇があったでしょう?あれ、噂じゃあ触ったら死ぬと言われてまして、ですから葛城さんたちもあれには一切触りませんでした。
だからこそ葛城さんは加藤こう持ちかけました。あそこの社にある中身を取って来いと。
不幸なことにというべきか幸いなことというべきか鍵は壊せそうにもありませんでしたが、扉自体は腐っていて容易に開けれそうでしたからね」
なるほど、じゃあ彼らがいたときまでは御神体はあの社にあったわけだ。神様がいる場で暴行など罰当たりなことこの上ない。
「それで、加藤は言うとおりにしてなかの....何て言えばいいんですかね。気味の悪い木彫りの人形みたいなものを取り出したんです」
「ほう、人形?個人の邸宅なら鏡とかが一般的だが人形とは珍しいね。どんな人形だったんだい?」
会長が変なところに食いつく。相変わらずこの人のつぼが僕にはわからない。多分他の人もわからない。
「どんなって、...へったくそな人形でしたよ。頭と胴体しか彫れてないし彫ったあとがまるわかりな。
そのせいか妙に顔が気味が悪かったのを覚えてます。目玉が不揃いのうえ口が歪んでたせいでしょうね」
「とても、みょうちくりんな神様ね。あまり奉りたいとは思えないわ」
御子はそういうが、鰯の頭も信心からという。人間、なんかしらのいわれ、理由でもあれば何でもありがたって、よろこんで拝むものである。
とそんなことを考えていると会長のようすが妙なことに気がついた。いつもの飄々とした態度は消え、何かを思い出しているような、考え込んでいる風だった。
「どうしたんです会長?」
工藤もそんな会長のようすが気になったのか心配した様子だ。
会長はよほど考え込んでいるらしく、工藤の言葉にも反応しない。仕方がないので後ろから肩を揺らしてみる。
「わっ!って白石君。女子の肩をさわるなんて君もなかなか積極的だねぇ~」
「ちょっ!なにいうんですか僕は会長があまりにも考え込んでいるので現実に引き戻そうと....」
「変態」
その様子をみていた御子が小さく呟いた。誰が変態だというのか。この程度で変態なら思春期男子はすべからく性犯罪者である。
「....続きいいですか?」
堀越がどこかあきれたように、少し怒ったように聞いてきた。まあ、目の前でこんな下らないやり取りが行われれば無理もない。
「話が脱線してごめんね。今度は邪魔しないので早く続きを」
堀越は一瞬疑うような目をこちらに向けたが、すぐに切り替え、あの廃墟の話のつづきをはなし始めた。
「それで加藤は、その人形を葛城さんに見せました。でも、葛城さんに犬を解放する気なんてはじめからありませんでした。
人形を持った加藤を突き飛ばすと持ってたナイフで...何度も、何度も...犬をさしました。そのあとですよ、多分僕らが呪われたのは」
堀腰は一瞬、目を閉じ、苦々しい顔をする。なぜだか葛城が犬を刺した下りだけはとても苦しそうだった。
よほど、言いたくないのか思い出したくないのか。しばらく間をおいたあとようやく喋りだした。
「それを見た加藤の叫び声はすごいものでした。まるで地獄から響いてくるような、怒りのこもった声にならない叫び声でした。それをうるさく思ったのか仲間の一人が加藤を殴ろうとしたんです。そのときでした、部屋のものが宙に浮いたんです」
「「は?」」
突然、現実場馴れした話を聞かされて変な声を出してしまう。それはあまりに信じられない話だった。
「あのね、何をバカなことをいってるの。ものが空中に浮くなんてあるわけないでしょ?
世の中のものには重力ってものがあるのよ。それに逆らって浮くなんてそんなことが可能な訳じゃない」
「でも現実に起こったんだからしょうがないだろう!」
御子がバカにしたような態度で、いうものだから堀越も喧嘩腰で反論する。
「まあ、あり得るとしたら巨大なコイルでもこっそり設置して磁力で浮かしたとか?」
工藤まで馬鹿げた仮説をいい始めた。そんな巨大なコイルなどあの家になかったし、大体....
「浮いていたのはほとんどの皿とか木で金属のものはなかったとおもいます。大体あの部屋に金属製のものなんてほとんどなかったでしょう?」
工藤は皆から反論を受けたのがよほど恥ずかしかったのかだまりこんでしまった。
「大体、幽霊なんですから何でもありなんですよ。きっと反重力でも発生させたんですよ」
「じゃあ、私たちにはどうしようもできないわ。だってそれって負の質量を生み出せるってことでしょう?
場合によっては反物質すら産み出せるわそんな存在どうしようもできないわ」
御子の無駄にインテリぶった返答に堀腰は苦笑いするしかないようで肩をすくめていた。
「おい、自分の知識をひけらかすのはいいが全然つうじてないぞ」
「ちゃんと理解もしないで反重力とかいうからよ。どいつもこいつも正しい理解もせずに科学用語を使いすぎなのよ」
こいつは文学科の癖に何に怒っているのか。アホなのか、アホなんだな。
「文学科だからこそ言葉は正しく使いたいし使わせたいの。あと、アホはあんたよ」
「なんで考えてたことが!!」
「それなりの付き合いだからね、それ位できるわ」
こいつ本当に超能力者かなんかなのでは?
「で、君たちはそのポルターガイストをみて情けなく逃げたのかい?」
会長は僕らの討論などなかったかのように堀腰に話のつづきを聞き始めた。ポルターガイストの科学的考察には興味はわかないようだ。
「いえ、葛城さんは怯みこそしましたがすぐに建て直して加藤に殴りかかりましたよ。まあ、当たりませんでしたけど」
「さっき、加藤君はどんくさいとか言ってなかったけ?」
「ええ、普段の加藤なら避けることなんてできなかったでしょう。でもその時の加藤は浮きましたから」
御子はあきれたような顔になる。ポルターガイストに人体浮遊まで加わればそんな顔になる気持ちもわからなくないが。
「浮いた!なるほど、それは興味深い、もしかしてそのまま消えたとか!」
「ええ、その通りですよ。お前ら全員呪い殺してやるといって加藤は空中に浮いたままどこかに消えました」
ポルターガイスト、空中浮遊と続いてついに空間消失ときた。呪いですら信じがたいというのに。
会長はとてもたのしいそうだが、ここまで来ると乾いた笑いしかでない。
「あなたふざけてるの?」
「もう四人も死んでるんですよ。ふざけられるわけないじゃないですか」
御子と堀越はついに互いをにらみ合う。御子の言い分もわからないではない。僕自身容易には信じがたい話だ。
「まあ、ポルターガイストや空中浮遊、空間消失の考察は今は右におこう。今回、考えるべきなのは呪いは実在するかどうかだからね」
そっちに話がそれたの貴女が興味深々だったせいですけどね。
「馬鹿馬鹿しいわ、薫ちゃん呪いなんてあるわけない。思考が現実に影響を与える何てあり得ない」
御子はB級ホラー映画で序盤に死ぬ科学者みたいなことを言い始める。御子さん、死亡フラグですよ、それ。
「そうかい?物理の世界には観測者効果ってのがあるときいたよ。観測者の存在いかんで、結果が変わると言うやつ。それは思考が現実に影響を与えている一例なのではないかな?」
「それって、観測者の意識の有無が結果に影響を及ぼしているとはまだわかってなかったはずだけど」
「わかってないってことは可能性はあるってことさ」
会長はなぜか勝利を確信したようでガッツポーズを決める。一方で御子は会長の論理の飛躍についていけず完全に諦めモードに入っている。
こいつはなんだかんだ押しに弱いのでいつも結局会長に押しきられるのである。
「まあ、なんにせよ、待っていたらわかることじゃないですか今まさに呪われた対象がいるわけですし」
工藤は堀腰を見つついう。確かにその通りだ、もし、呪いが実在するとしたらこいつは長く見積もってもおそらく数日の命である。
何故ならこいつらが呪いを受けて1ヶ月で、四人死んだのだ。大体一人一週間の計算だ。そして、葛城が死んでから一日、残りは長くて六日である。
「なんですか、僕をじっとみて、まさか僕をモルモットにでもしようっていうじゃないでしょうね」
「まさか、まさか。一応は助けると言ったんだ最善は尽くすさ」
「だといいんですけど」
堀越は明らかにこちらを警戒していた。まあ、今の会話を聞けば無理からぬことだ。
それに会長はともかく、御子や工藤は加藤への所業を聞き堀越を積極的に助けようという気持ちは失せているだろう。
実際、ぼくもこのまま外に放り出してもよいのではないかと少しは思っている。
「あと、一応加藤君の連絡知っていたら教えてくれるかな。あと出来れば顔写真とかも」
「一応教えますけど無駄ですよ。葛城さんたちが何度もあいつの家におしかけてまで所在を確かめようとしましたがあれからいまだに行方不明です」
「ふーん?君達はじゃあ加藤くんがあの家で消えてから一度も彼を見てないんだ?」
「....」
会長の問いに堀越を返答をしなかったが、その沈黙と怯えた顔が答えを雄弁に語っていた。
「見たんだね?それも多分、みんなが死んだ現場の近くで毎回」
「....ええ、そうですよ。加藤は毎回、あいつらが死ぬ度にその近くに、いえ、僕たちが見える場所に現れました。自分が犯人だと誇示するように」
「でもたしか、今回もそうだけど四人の死因はすべて事故なんでしょう?」
御子の言うとおり、他の三人も今回の葛城同様、全くの偶然に不運な事故に巻き込まれて死んだとしか思えない死因だったという。
「まあ、少なくとも三人は。たしか一人目が、自宅で火事を起こして焼死。原因は煙草の不始末だったとか。二人目はたしか工事現場の足場崩れてそれに巻き込まれました。
二回とも僕らは近くに居ましたがその度に加藤の姿が近くに現れましたよ。追いかけてもすぐ消えましたが...これが加藤の写真です」
「なるほどねえ。もしかしてもう、加藤くんはこの世の人間じゃないのかもねえ」
会長が写真が写された堀越のスマホ受け取りながら不吉なことを言い始める。それは加藤がもう、人間ではない何かになったといっている風で。
「怨念で人間をやめるなんてそう、珍しい話じゃないじゃない?例えば日本国にあだなす大魔縁となった崇徳上皇とか、はいこれ」
「そういう話ならたしかたくさんありますけど、ありがとうございます。......」
僕は会長からスマホを受けとるとそこに写った写真をみてやっぱりという感想を抱く。そこに写ったのは僕が葛城の事故の時に見た男だったからだ。