地球に選ばれた家族~夏季休業で帰省中、冬の駒王町に転移させられガイアメモリが生えてきた~   作:しゃしゃしゃ

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「ただいまー…」

「あ! 先輩お帰りなさい♥ 」

 扉を開けるとギャスパーが笑顔で駆け寄ってきた。

「ギャスパー…あ、そういえば帰ってくるの今日だったか」

「はい。それで、えっと…ただいま、です」

「ああ、おかえり。ギャスパー。そういえばゼノヴィアは? まだ帰ってないのか? 」

 僕がゼノヴィアのことを気にした素振りを見せると、ほんの少しギャスパーの顔が曇った。気づかないふりをして靴を脱ぎ、買ってきた食材を冷蔵庫に入れに行く。そんな僕の後をギャスパーがちょこちょこついてくる。
 可愛い。

「ゼノヴィア先輩は…その、ちょっと帰ってきたときに駅で色々あったので、今日はアーシアさんに付き添ってイッセー先輩の家に泊まるって言ってました」

「ふーん…その話も気になるけど、つまり今日はゼノヴィアの奴は帰ってこないってことか」

 さりげなく今日は朝まで二人きりでいられるということを示す。

 ギャスパーがハッと目線を上げる。瞳にほのかな欲望の色が灯る。

「そ、そうですね…今日は、僕と先輩の二人だけ…です」

 パタン、と冷蔵庫の戸を閉めてギャスパーの方を振り向く。顔を少し赤らめて、もじもじと落ち着きがない様子。よっぽどお預けが辛かったものと見える。


「ギャスパー…」

「先輩………♥」

 そっとギャスパーの頬に手を添え、唇を重ねる。僕も、ギャスパーも久々の味と感触に息遣いが荒くなり、舌を吸い嬲り唾液を絡めて、離れていた日々を埋めるように強く交わる。

「んぐッ…」
「んむっ…♥ 」

 貪るようなギャスパーの唇。
 舌の動きを止めないまま、頬から手を離し、数週間ぶりのギャスパーの体を撫でる。

 どれほど僕を求めていたのだろうか…。

「ふは♥ あっっ♥ (先輩とちゅうするの気持ちいいっ♥ )」
 
 線の細い上半身に比べて、肉付きのいい下半身。

「あ………っ♥ (いつもよりずっと感じちゃう…♥ )」


 サラサラでいい匂いのする綺麗な髪の毛。
 それでもこうして抱きしめてしまえば分かる男の子な肩と胸。

「んぁ…(抱きしめられるの、好きぃ…♥ )」


「ギャスパー、おかえり」

「えへ…先輩ぃ♥ (がまん、しないといけないのに……っ)」

 ギャスパーの体が震え、腰が引かれる。

 とぷっ、とぷっ、と音もなく液体が流れ出て、彼の下着を濡らす。

 弛緩した体を支え、引き寄せる。


「………ごめんなさい。ずっと、先輩とちゅうしたくて…我慢できなくて……♥ 」

 蕩けるような笑みを浮かべ、上目遣いで謝ってくる。
 ギャスパーの健気さがたまらなかった。

「ああ、もう、まったく…しょうがないなぁ 」

 にやにやと笑顔で返す。別に怒るほどじゃない。

 戦闘時でもないし、改造人間としての感覚は常人よりちょっと上程度に抑制しているわけだが、それでも会ったときからギャスパーの発情した匂いはプンプン香ってきていた。ギャスパーが我慢できずに出しちゃうことくらい予想できていた。

 むしろそこまで健気に僕を愛してくれるギャスパーに興奮が募るばかりだ。
 

「先輩…♥ 」

 ギャスパーはそわそわとした様子で、ズボンの上から手を添わせてきた。

「(先輩の○○○…♥ 久しぶりの本物の○○○♥ )」

 甘い吐息を吐き、膝立ちになってズボンに手を掛ける。
 当然のように彼のスカートの真ん中は持ち上げられてちょこんと凸ってる。
 可愛い。

「―――はぁぁ…んっ…♥ えっと、その、あの、じゃあ…いっぱいご奉仕しますね♥ 」

 ギャスパーは


―――パタン―――

 
『おっと、ずいぶん先の未来までお見せしてしまったようです。忘れてください』


(前編3000字弱、後編10000字強)



「始業式のヴォルテックス」
第0話前編「Vの衝撃/首領、撃沈! 」


 

 

 とある島の秘密施設で、二人の男が会話をしていた。

 一人はドラゴンを思わせる意匠の兜をかぶった、威厳と強大なオーラを纏った老人。

 一人はだぼっとしたパーカーを着て、へらへらとした笑みを浮かべた冴えない男。

 

 

 

「こうして見つめ合ってるのもなんだし、ちょっと話しようかね。

 といっても、僕があんたに話せることなんてせいぜい思い出話しかないけどさ」

 

「………」

 

 

 

 

 

 世界征服、というものがある。

 文字通り、世界を征服してしまうことであり、悪の秘密組織の採取目標に掲げられることの多いものだ。

 

「なぁカイザー、実は僕はこの世界の住民じゃないんだぜ」

 

「………」

 

 

 世界征服を掲げる悪の秘密組織として有名どころはやはり『ショッカー』だろうか。番組の冒頭ナレーションでも「世界征服を企む悪の秘密結社である」と紹介されている。

 

 ショッカーの世界征服のプロセスは

①優秀な人材を改造し改造人間を生み出す。

②改造人間で世界中を襲う。

③混乱に乗じ大統領など世界中の要人と改造人間を入れ替える。

→→世界はショッカーの思い通り。

 というものだ。

 

 とても大掛かりで、組織力と資金がなければやっていけないだろう。改造手術とか一体いくらかかるんだという話だ。

 

 

「夏休みで地元に帰る新幹線に乗っていたはずなのに、気が付いたら公園に佇んでた。その上で僕には『地球の記憶』を生み出す力が備わってた」

 

「………」

 

「カイザー、そんな訳の分からない状況で僕が何を思ったか分かる? 僕は『利用されたらどうしよう』と思ったんだ」

 

「………」

 

 

 

 世界征服を目指す悪の秘密組織は大抵作戦を練っても正義のヒーローに作戦をぶち壊しにされる。

 

 そんな悪の組織を見て、『自分ならもっとうまくやれる』と考えた経験がない人間はそうはいないだろう。

 

 だが、大人になって「よし、世界征服してやる! 」と行動する人間はいない。それはなぜか。

 

 単純に世界征服にロマン以外の何かを見いだせないからだ。

 

 

 

「僕の尊敬する人の言葉だがね、『生まれに見合わない力を持っていれば力しか見られない』。力を持つ者はどう足掻いても権力者に利用されて力に見合った働きを強要される、自分ではない他人のために力を使うことを強いられる。僕はそれが嫌だった」

 

「“この世界”が半端な力の持ち主は骨の髄まで利用される世界だってのは知ってたからね。力があれば何をしても許される世界だってのもさ。

 

 だって、強ければテロに加担しても正義の味方みたいな顔が出来るんだからな、この世界は」

 

「………」

 

 

 世界征服というのは金がかかる。それに、「世界征服します! 」と言って協力してくれる人間が一体どれだけいるだろうか。支配するためにはどうしたって金と人が不可欠だというのに。

 

 

 

 大義がなければ人は動かないし、金がなくても人は働いてくれない。そもそも何のために世界征服をするのか。

 

 

 「平和な世界」を作るためか。

 自分を崇め奉らせるためか。

 支配者階級になりたいのか。

 大金持ちになって贅沢がしたいのか。

 人類の黒幕として、裏から世界をコントロールしたいのか。

 

 

 

 

「そういうのはカイザー、あんたにもわかるだろ? 権力の怖さとか、力を持つことの優位性とか。それでも僕一人じゃ力をつけるも何もなかったからね。こっそり勢力と兵隊を作ることにしたわけよ、あんたの秘密結社以上にあくどいこともやってね。

 当然といっちゃ当然。なんせ時間がなかったからさ。法律とか倫理観とかぶっちぎりまくったから、社会から隠れる必要があったのよ」

 

「………」

 

 

 少なくとも、贅沢がしたいだけなら世界征服なんてする必要はない。それができるだけの資金があれば、いくらでも贅沢できるだろう。

 

 世界征服を達成して、全人類の隷属化を果たしたとして、それは悪の組織が人類の“飼い主”になったということに他ならない。

 

 飼い主であるから、人類(ペット)の世話はしないわけにはいかない。

 

 食事の用意や、トイレの世話、病気の予防接種や健康管理、遊びに付き合ったりもしてあげなければいけない。

 

 人類(ペット)のことがよほど好きでなければ、飼い主でいるのはうんざりすることだろう。

 

 

 

 

「そんでまぁ…ゴロツキをダイヤモンドに変えたり、犬や猫を人間に変えて食ってみたり、人間を大量生産して従順に働くよう脳改造を施したり…あ、カイザーも部下を手ずから改造手術して怪人にしたりしたんだっけ。それもやったなぁ………」

 

「………」

 

「脱水症状で死にかけたり、脳みそパーン! しそうになったり、ワイヤーで上下に切断されたりもしたなー…」

 

 

 

 そもそも、世界征服のうまみとはなんだろうか。

 

 世界を支配したからといって、好きなことができるわけではない。逆に支配した相手から揉め事を持ち込まれて裁定を求められ、誰よりも公平中立であることを要求され、気に入らなくても弾圧や処刑は出来ず、無理にやれば反抗される。それが『世界征服』。

 

 

 世界中から美男美女を集めたり、世界の美味・珍味な食べ物に舌鼓を打ったり、そういうこともできるかもしれない。

 

 だがそれは今の時代、金さえあれば出来てしまうことでもあるのだ。世界征服なんてしなくても、世界征服できるだけの権力と資金力があればできてしまうことなのだ。

 

 

 

 

 

「そういえばカイザーは愛する人とかいるの? 僕も人の心は検索できないから、カイザーの愛情を向ける先とかは分かんなかったんだけど。

 僕はね、いるよ。愛してるの。一号っていうの。ああ、一号って名前ね

 元々は失敗作だったんだけど情が出ちゃって…今じゃすっかり心を奪われちゃった、てワケ。

 『すごく好きな人のすごく好きな人になれた幸せ』だね。彼女を思うだけで心の奥がほわっとして、とっても幸せな気分になるんだ。日々の食事とか、そういう、なんでもない日常も好きな人がいると全然違うよ。家族っていうのとはまた違ってさ。まぁ、僕の家族は実家ごと存在しなかったから今さら比べられないけど」

 

「………」

 

 

 

 さて、そんな『世界征服ってロマンだけど、割に合わないよなぁ…』な世界征服を企む悪の秘密組織が、この世界には存在する。

 

 

 

「ざっくり…4ヶ月ちょっと? それが僕がこの世界に来てからの時間で、僕が勢力を増大させた時間なわけだ。……半分ぐらいは海外で一号を生き返らせるために頑張ってたから実質2ヶ月ぐらい? それはともかく、この質問は単純に好奇心で聞いてみるものなんだけど…」

 

「………」

 

 

 およそ50年前に組織され、人知れず悪の行為を世界中で行ってきた秘密結社。国際刑事警察機構(ICPO)などにその存在を気取られることなく、慎重に慎重を重ね勢力を増し、世界征服のため戦力を整えて、そろそろ日本から征服しようかと企んでいた恐るべき悪の一団。

 

 

「50年かけて築いてきた組織をこんな若造に奪われるのは一体どんな気分かな? <カイザー・ヴォルテックス>首領さま? 」

 

「………」

 

 

 その名も『渦の団(ヴォルテックス・バンチ)』。

 首領であるカイザー・ヴォルテックスを頂点に、『四覇将』と呼ばれる幹部たち、魔物や獣人、人間の異能者や改造人間。黒づくめの戦闘員たちまで存在する冗談のような悪の巨大組織である。

 

 

 

「お父、さん。そろそろ、いいと、思う、よ? 」

 

「おう、それじゃ僕のものになる組織の連中にご挨拶といきますかね。冠ちゃん、カイザーの移動よろしくね」

 

「うん。まかせ、て! 」

 

 

 

 その悪の秘密組織が今、終わりの時を迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

 




後編に続く。
(9:00に予約済み)前日譚へのリンクはそっち。


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