地球に選ばれた家族~夏季休業で帰省中、冬の駒王町に転移させられガイアメモリが生えてきた~ 作:しゃしゃしゃ
―――パン!
部室に乾いた音がこだました。音の発生源は俺の頬からだ。
叩かれた。俺は部長に頬を平手打ちされた。
部長の顔は険しい。
「何度言ったらわかるの?ダメなものはダメよ。あのシスターの救出は認められないわ。」
アーシアを助けられなかった俺は、一度学校へ赴き、事の詳細を部長へ報告した。
報告したうえで俺は、あの教会へ行くことを提案したんだ。
もちろんアーシアを助けるためだ。でも部長はこの件に関しては一切関わらないと言ってきた。
だけど納得できない俺は部長に詰め寄り、そして叩かれたわけだ。
初めて叩かれた頬が予想以上に痛かった。特に心が。
俺に期待してくれた部長を裏切るのはつらいけど、それでも譲れないものがある。
「なら、俺一人でも行きます。やっぱり儀式ってのが気になります。堕天使が裏で何かするに決まってます」
「あなたは本当にバカなの? 行けば確実に殺されるわ。もう生き返ることはできないのよ。それが分かっているの? 」
部長は俺を諭すように冷静さを振る舞いながら俺に言ってくる。
「あなたの行動が私や他の部員にも多大な影響を及ぼすのよ! あなたはグレモリー眷属の悪魔なの! それを自覚しなさい! 」
「では俺を眷属から外して下さい。俺だけであの教会に乗り込みます」
「そんなことができるはずないでしょう! あなたはどうしてわかってくれないの!? 」
初めて部長の激昂している姿を見た気がする。
俺、部長には本当に迷惑かけっぱなしだな………。
でも、部長、ごめんなさい。
「俺はアーシア・アルジェントと友達になりました。アーシアは大事な友達です。俺は友達を見捨てられません! 」
「………あの子は元々神側の者。私たち悪魔とは根底から相いれない存在なの。いくら堕天使側に降ったとしても、私たち悪魔と敵同士であることは変わらないわ」
「アーシアは敵じゃないです! 」
「だとしても、私にとっては関係のない存在だわ。イッセー、彼女のことは忘れなさい」
すっと朱乃さんが近づいて部長に耳打ちをする。
なんだ、何かあったのか? 朱乃さんの報告を聞きさらに顔が険しくなっている。
部長は俺をちらりと一目見た後、今度は部室にいる部員全員を見渡すように言った。
「大事な用事ができたわ。私と朱乃はこれから少し外へ出るわね」
―――ッ!
「ぶ、部長、まだ話は終わって―――」
言葉を遮るように、部長は人差し指を俺の口元へ。
「イッセー、あなたは『
俺は部長の問いを静かに肯定し、頷いた。
「それは大きな間違いよ。『兵士』には、他の駒にはない特殊な力があるの。それが『プロモーション』よ」
プロモーション?
なんだ、それは。
「実際のチェス同様、『兵士』は相手の陣地の最深部へ赴いた時、昇格することができるの。『
なんてこった! じゃ、じゃあ、俺は木場の『
「あなたは悪魔になって日が浅いから最強である『女王』へのプロモーションは負担がかかって、現時点では無理でしょう。でも、それ以外の駒になら変化できる。心のなかで強く『プロモーション』を願えば、あなたの能力に変化が訪れるわ」
すげぇ!
その力に俺の神器を合わせれば、あの神父を殴り飛ばすくらいはできるかもしれない!
「それともうひとつ。神器について。イッセー、神器を使う際、コレだけは覚えておいて」
部長が俺の頬を撫でてくれる。
「―――想いなさい。神器は想いの力で動き出すの。そして、その力も決定するわ。あなたが悪魔でも、想いの力は消えない。その力が強ければ強いほど、神器は応えるわ」
想いの力が神器を動かす…。
そうか、俺の願いが強ければ、こいつは動いてくれるんだな。
「あなたは強くなれる」…そう言い残して部長は朱乃さんと共に魔方陣からどこかへジャンプしてしまった。
「兵藤くん」
木場が呼び止める。
「行くのかい? 」
「ああ、行く。行かないといけない。アーシアは友達だからな。俺が助けなくちゃいけないんだ」
「………殺されるよ? いくら神器を持っていても、プロモーションを使っても、エクソシストの集団と堕天使を一人で相手にはできない」
わかってる。
んなことはわかってる。重々承知だ。
「それでも行く。たとえ死んでもアーシアだけは逃がす」
「いい覚悟、と言いたいところだけど、やっぱり無謀だ」
「だったら、どうすりゃいってんだ! 」
怒鳴る俺に木場はハッキリと言ってくる。
「僕もイク」
「なっ………」
俺は予想外の木場の一言に言葉を失う。
「僕はアーシアさんをよく知らないけれど、キミは僕の仲間だ。部長はああおっしゃったけど、僕はキミの意志を尊重したいと思う部分もある。それに個人的に堕天使や神父は好きじゃないんだ。憎いほどにね」
………こいつはこいつで、アーシアみたいに何かの過去があるんだろうな。
「部長もおっしゃっていただろう? 『私が敵の地陣地と認めた場所の』って。
部長は遠回しに認めてくれたんだよ。じゃなければ、キミを閉じ込めてでも止めると思うよ」
木場は苦笑する。確かにそれで俺のプロモーション発現条件が揃う。
………部長。ありがとうございます!
ここにいない部長へ感謝を奉げている俺のもとへ、小柄な少女が一歩前へ出る。
「……私も行きます」
「小猫ちゃん? 」
「……二人だけでは不安です」
小猫ちゃぁぁぁぁぁぁん! 無表情で何を考えているかわからないけど、その内に秘められた優しさに触れられた気がしたよ!
「感動した! 俺は猛烈に感動しているよ、小猫ちゃん! 」
「あ、あれ? ぼ、僕も一緒に行くんだけど………? 」
放置された木場が何とも寂しげに笑顔を引きつらせている。
わかってるよ、木場。感謝してるぞ。
困ったイケメンって、なんか、ちょっとかわいいとか思ってしまった。
よし! これならいける! いけるぞ!
「んじゃ、三人でいっちょ救出作戦といきますか! 待ってろ、アーシア! 」
こうして俺達三人は教会へ向かって動き出した。
―――“裏駒王”、(暫定)作戦室。
「原作通り、兵藤一誠と木場祐斗、塔上小猫の三人は教会に向かい始めました」
「リアス・グレモリーと姫島朱乃は冥界と通信中。この後はおそらく教会に向かって待ち構えている下級堕天使三人と交戦すると思われます」
「よし、探知されないよう教会付近に待機させるのは人造悪魔兵士以外だ。恐姫、戦闘員は使えるか」
「はい。元“渦の団”構成員の脳改造は17時間前に全て完了。稼働試験でも問題はありませんでした」
「コネクタ手術は」
「はいはーい! それはナイちゃんと初ねぇが共同研究した新型コネクターを施術済みだよー」
「………初耳なんだが? 」
「完成したのが昨日だし。初ねぇ、説明シクヨロ」
「…簡単に説明すると新型コネクターは刺すメモリを選ばない、メモリ使用者が初めに登録したメモリ以外も使うことができるコネクター。お父さんのネオガイアドライバーの解析結果をもとに実用化して見た試作品」
「それはすごい発明だけどぉ…副作用とかぁ、あるんじゃないのぉ? 」
「イエス!
「具体的には? 」
「…私のウイルスをもとに調整した毒素中和微生物が新型コネクターの定着に使われているんだけど、それがまず強靭な肉体でないと定着前に負荷に耐えられず使用者が死亡する」
「うわあ…」
「…それに適合できたとしても施術を受けたものは新型コネクターから分泌される微量消滅毒素が溜まっていき、平均して一年ほどで命が尽きる。他にもメモリの精神汚染の影響を受けやすくなったり思考が単純化するだろうって実験結果が出てる」
「これが検証データね。ちなみに検証実験はオールド・ドーパントじゃなくて、ナイちゃん謹製ガジェットのオールドウェーブ照射でやったから数値は確実だよ」
「………ちょっと待って、この子たち私の兵士の世話係じゃない。いつの間に攫ったの? 」
「アハ、ごめんごめん。適当な人間がいなかったから、つい」
「僕としては、竜子がただの作業員の顔とか覚えているのが驚きだったんだが。え、それ当たり前なの? 」
「「「「「「当たり前でしょ? 」」」」」」
「わお、さすが元は一つ。ハモリがすげぇな。
それはさておき、じゃあその新型コネクタ手術を施した戦闘員を教会周辺に配置。配置前に消臭剤ぶっかけるのを忘れるなよ。鼻の利く猫又ちゃんが居るからな」
「数、は? 」
「とりあえず現場配置は30人。教会正面と裏手に2:1で配置…メモリがなんでもいいなら、インビジブルメモリを持たせて待機中は消えてもらって、僕らが登場するのと同時に変身解除、どーん! が面白いか…? 」
「それいいわね。兵舎の方にマスカレイドメモリの自爆機能を解析搭載したインビジブルメモリがあるけどそれ使う? 」
「竜子ちゃん、ナイスッ! 確かロードメモリもあったよね。それも持たせて。おちょくった後は30体のロード・ドーパントで作った穴で悠々と帰っていくアレやりたいから。………オーバーロードでリザードマンの集落制圧しに行ったときのあれみたいな! あれ、あれ、あのマーレが「元気でいてください」とか煽りにしか聞こえないようなこと言って帰っていったようなあれ」
「長い! でも分かる! 絶対びっくりするよ、あいつら! 」
「お父さん流石流石ぁ」
「…やんややんや」
「どーもどーも。
はい、それじゃ各員持ち場にゴー。」
「はーい、初ねぇ 恐ねぇ配置する戦闘員の最終チェック協力して」
「…わかった。ラボから持ってこさせるからちょっと待ってて」
「その前に姉さま方、私の兵士たちを勝手に実験台にしたことについて何かないのですか………? 」
「私は今回、念の為の人造悪魔兵士の指揮官なのよねえ…
「うん。心、頑張っちゃうよぉ! 」
「心、お姉ちゃん、頑張っ、たら、敵みん、な、燃え尽き、ちゃう、よ? 」
全員が去って、一息つく。
「賽は投げられた、か…」
準備は万端。
情報収集は『地球の本棚』と冠ちゃんの“Gネットワーク”のダブルで完璧に行っている。
今この時、原作に登場しない僕のような未知の力を持った転生者・転移者が介入することはほぼありえない。
原作通りに事は進み、原作通りに事態は収束しようとしている。
だが油断はできない。できるわけがない。
いくら情報収集をと言ったって、全人類を絶えず監視するようなものではないし、地球の本棚は『人の心の中までは検索できない』。
だから、例えば憑依転生者がいた場合はそれを見抜くことができない。よくあるのだと、ヴァーリとかレオナルドか。彼らがどこぞの憑依オリ主に内面すり替わっていたとしても僕には見抜くことができない。
レオナルドだと最悪だな。
異空間に関わる魔獣を生み出してそこで戦力を増やすかもしれん。『地球の本棚』の弱点に、異空間の情報はインストールされないという点があるわけだし。
僕は4ヶ月で勢力をここまでにしたが、僕よりも有能でチートな輩が現れたらあっさりと抜かれるかもしれない。
怖い。
あー、杞憂だったら最高なんだが、楽観して全てを失ったら最悪だしな。
それじゃ、僕も準備して向かうとしますかね。
「あ、そうだ」
〔DOWNLOAD complete〕
「ジーン・アップグレード」
【変身】
遺伝子書き換え、肉体変換。
塚土筬→郷秋敏。
改造手術で手をつけた部分には触れず、表皮情報のみにアクセス。情報操作。
「ほいっと」
はい。謎の組織『GAIA』のボス。「郷秋敏」の完成。
僕本来の顔だからまぁ…色々反応に困る微妙さの顔だけど、ここにちょちょいとメイクを施して………。
ほい、ちょっと影のあるどこにでもいそうでどこにもいない、特徴のない特徴的な印象に残る顔面のできあがり。
服は、パーカージーンズに、家族おそろいの黒マント着用で、怪しげな雰囲気演出、と。
取り出したるは、才古銃~♪
「ロード」
引き金、ぐっ。
「ロード! 」
マダオボイスと共にメモリのエネルギーを抽出した光弾が発射され、表の駒王町への道が生まれる。
さぁ、遊びの始まりだ。
長くなってしまった……。レイナーレさま登場まで行けなかった…。
次回全編sideイッセーで顔合わせとなります。
そんでもって、第一巻終了ですかね。
第二巻のvsライザー・フェニックスのゲーム
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参加する?
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観戦する?
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全く関わらない。