私達はフィーロちゃんに乗って、村の避難所に到着した。
入り口では盾の勇者様と共に来ていた騎士さん達が見張りをしていた。
「じゃあ、おねーちゃん行くね」
「うん、ありがとう、フィーロちゃん」
「武器の人、よろしくね!」
フィーロちゃんはそう言うと、ものすごい勢いで盾の勇者様のところに戻っていった。
「大丈夫ですか!? 二人ともひどい怪我だ……!」
「私は大丈夫ですから、ソースケをお願いします!」
ソースケはひどい状態だ。
両手両足は呪いの炎で焦げており、真っ黒である。
盾の勇者様達との戦いでの怪我もある。
私は不安でいっぱいだった。
「二人とも、十分酷いです。さあ、中に入って。男性の方は私達が運び込みます」
「ありがとうございます……」
私とソースケは兵士さんに連れられて、避難所の治療院に運び込まれた。
「これは酷い! 二人ともかなり強い呪いに侵されています!」
治療師さんは信じられないものを見るかのように私達を見る。
「特に、その男性の両手両足は酷い。どうしてこんな事になったんですか?」
「その、ソースケが呪いの装備に侵されていたみたいで……」
「呪いの装備……? どうしてそんな物を?」
正直、状況は良くわからない。
ただ、あの竜を象った禍々しい短剣が、ソースケをおかしくしていた事だけはわかった。
「さ、さあ……? 盾の勇者様の見解なので、私には良くわからないです」
「ふむ、とりあえず、この村に備蓄してあるありったけの聖水で浄化してみましょう。もちろん、お嬢さんの分も確保しますのでご安心を」
「私のことは良いので、ソースケをお願いします!」
治療師さんは首を横に振った。
「いいや、お嬢さんがそんな怪我だと、お連れさんが目覚めた時に心配しますよ。お嬢さんも治療に専念なさい」
「は、はい……」
私は治療師さんの指示に従う事にした。
ふと、ステータス魔法でパーティの状況を確認すると、槍の勇者様はじめとしたメンバーの体力がゴッソリと減っていた。
リノアさんは無事みたいだけれど大丈夫だろうか?
アーシャさんもHPはあまり残っていない。
私は不安になった。
「おい! 勇者様の仲間が大怪我で運ばれてきたぞ!」
その言葉に、避難所は騒然とする。
運ばれてきたのは、ソースケと一緒に来ていたゴツい鎧の騎士さんと、ところどころが黒く変色して大怪我を負ったアーシャさんだった。
「アーシャさん!」
私はアーシャさんのところに駆け寄る。
「アーシャさん、大丈夫ですか?!」
「……さすがに……大丈夫じゃない……わ。レイファは……無事で良かった……」
アーシャさんは怪我で苦しそうだ。
傷や呪いのせいで黒く変色しているところを見ると、アーシャさんもソースケにやられたのだろう。
「ソースケ……様は……?」
「今、治療院で治療中です。盾の勇者様に鎮めて貰いました」
「そう、良かった……わ……」
「アーシャさん!」
アーシャさんは完全に気絶したようであった。
『力の根源たる私が命じる。理を今一度読み解き彼の者の傷を癒せ』
「ファスト・ヒール」
私はアーシャさんに回復魔法を試みる。
傷の治りはあまり良くないが、少しは回復したようである。
「すまないが、私にもかけてもらえないかな?」
アーシャさんを引きづっていた騎士さんも苦しそうだったので、私は回復魔法を試みる。
『彼の者の傷を癒せ』
「ファスト・ヒール」
騎士さんは「ありがとう」と感謝の言葉を述べると、アーシャさんとともに治療院に運ばれていった。
騎士さんもまた、呪いのせいか少し黒ずんでいた。
「君が、レイファか」
騎士さんにそう言われて、私はうなづいた。
「ええ、そうですけれど……」
「すまなかった。おそらく、私がキクチ=ソースケが暴走するキッカケを作ってしまったのだ」
いきなりそんな事を言い出す騎士さんに、私は慌てるしかなかった。
「え、え、どうされたんですか?」
騎士さんは私に向き直ると、治療を受けるために鎧を脱ぎながら、語り始めた。
「私はライシェル=ハウンドと言う。メルロマルクの騎士だ」
「え、ええ」
「私が国王……オルトクレイ=メルロマルク32世から仰せつかった任務は、キクチ=ソースケの監視だった」
それから、私は黙ってライシェルさんの懺悔を聞いていた。
ライシェルさんの任務は、保釈されたソースケの監視であった。
理由は、ソースケには奴隷紋が通用しなかったためである。
そして、ソースケを私達……リノアさんやアーシャさんから引き剥がすことも任務の一つだったと言う。
波での戦いの時以外は決して近づけるなと言う命令だったらしい。
これは、マルティ第一王女が言っていたことと符合する。
ライシェルさんがその事をそれとなく告げるとともに、ソースケ雰囲気が変わったらしい。
従順から、無反応に変化したそうだ。
一応、呼びかけには反応するが、薄かったらしい。
ライシェルさんは諦めにも似た感情を抱いたのだとその時思ったそうであった。
そして、転移後、剣の勇者様と対峙した時に暴走が始まったらしい。
どこからともなく禍々しい短剣を取り出し、憎悪と狂気に彩られた表情に一変した。
ライシェルさんはすぐさま、剣の勇者様を守るために動いたが、神の如き強さでライシェルさんを一蹴、剣の勇者様を追い詰めたらしい。
それから、剣の勇者様を見逃したと思ったら、突然メシャス村に足を向けたらしい。
こんなデタラメな強さを持つソースケが村に到着すれば、村人全員を殺害するのは容易い。
そう感じたライシェルさんは、アーシャさんとともにソースケを止めるために戦ったそうだ。
持てる力を全て使っても、口での足止めが精一杯だったそうで、アーシャの言葉でなんとか3時間は持ったらしい。当然、その間はアーシャさんもライシェルさんもソースケに蹂躙されながらな状態だったらしいが。
「アーシャさん……」
アーシャさんはふざけているのかと思ったけれど、ソースケの事を本気で慕っているんだなと彼女を見直すとともに、感謝するしかなかった。
あの状態のソースケならば、避難しきれていない村人を虐殺する恐れがあったのは確かだからだ。
そうでなくても、盾の勇者様を妨害する事になるので、余計な被害が出ていたのは確実であった。
「レイファ嬢、私の方からも、キクチ=ソースケとレイファ嬢を引き剥がす事の危険性について具申させていただくよ」
「い、いえ。それに、ソースケは危険じゃないです! 悪いのは、あの王女様です!」
そう、そもそもの元凶はあのマルティ王女である。
ソースケはきっと、絶望し、世界を憎悪したのだろう。
私も、ソースケに会えないと思ったら、こんな世界なんて要らないと思ってしまうもの。
お父さんだけでなく、ソースケまで居なくなってしまったらと考えると恐ろしい以外の何者でもなかった。
だからこそ、あの王女様は許せなかった。
「……私からは何も言えない。だが、盾の勇者様やソースケくんには申し訳ないと思っているがね」
「いえ、騎士様は職務を果たしているだけですので、その言葉が聞けただけで十分です」
そう、盾の勇者様が迫害される理由もおかしかった。
盾の勇者様と一度でも話してみれば、女性を強姦なんてするような人間でない事は誰だって理解できるだろう。
実際、メルロマルク城下町の人も、「可哀想ね、盾に選ばれたばっかりに」と言っていた事を覚えている。
私はお父さんの方針で一応は三勇教ではあるけれども、ニュートラルに見れるように教義には触れてこなかった。
お父さんは常々「偏見こそが人間の悪の根源だ。自分が正義だと言う立ち位置に立てば、人間は平気で悪を成す。それを正義と信じて」と言っていたのを覚えている。
だからこそ私は弓の勇者が嫌いだった。
「ただ、ソースケが起きたら謝ってください」
「……そうさせてもらおう」
私は、ライシェルさんにそれだけはやってほしかった。
例え命令でも、ソースケを傷つけた事には違いないのだから。