私達はソースケの提案でロッソ村に到着していた。
ソースケは見た目が酷すぎるため、馬車で休んでもらっている。
ライシェルさんが、見張りをしてくれるとの事で、私達3人で情報収集と聖水の購入を行うことになった。
ただ、村の中央で集会があるのか賑わっていた。
私達はそれとなく近づき、様子を見る。
「──この様に、兵士達を惨殺し、盾の悪魔はメルティ第二王女を誘拐したのだ!」
映像水晶で投影された映像は、ラフタリアさんやフィーロちゃんが凶悪な笑みを浮かべて、兵士達を殺害する映像であった。
だけれども、ソースケが散々冒険者達を殺害する光景を見てしまった私としては、兵士の倒れ方は切られて倒れていると言うよりも殴られて倒れている様にしか見えなかった。
「リノアさん、これって……?」
「さあ? こんなことをして、メルロマルクは滅びたいのかしら?」
リノアさんはため息をつく。
「だいたい、人間至上主義の国内だけならば盾の勇者様がこんなことをしましたと言って大義名分が立つだろうけれども、そもそも盾の勇者様は亜人国の勇者様よ。シルトヴェルトに『攻め滅ぼしてください』とお願いしている様にしか見えないわ」
「た、確かに……!」
よく考えればわかることである。
亜人のシルトヴェルトにとって、人間を殺すことは、何も問題ないのである。
もし、
すなわち、【メルロマルク滅ぶべし】と盾の勇者様が宣言したことに他ならない!
「あのロザリオ……。メルロマルクの国教である三勇教ですね」
アーシャさんが水晶を持っている神官の胸元を見て断言した。
「なるほどね。ソースケはこれを見せたかったか、確認したかったのね」
「どういう事ですか?」
「カンタンなことよ。私達が動きやすくなるの」
「は、はぁ……」
「盾の勇者様に注目が集まる以上、私達が国外に逃げたところで何も問題ないという事ね」
「でも、どうしてこんな事に……」
盾の勇者様は優しい人だ。
神鳥の馬車を引く聖人様と同一視されている人物だ。
実際、神鳥と言うのはフィーロちゃんの事を指すのだろうとは思う。
「恐らく、この国での盾の勇者様の信頼度が高くなったためと推測されますね」
私の呟きに、アーシャさんが答える。
「逆に、他の四聖勇者様の支持が落ちています。表の噂を集めただけですけれども、盾教や四聖教を信じ始めるメルロマルク国民も徐々に増えている感じですね」
「ま、弓の勇者様だけ見てもロクな奴じゃないし、仕方のないことかもしれないわね」
「そもそも、弓の勇者様の活躍は噂すら無いですよ?」
噂すら無いと言うのは、どう言うことだろうか?
「むしろ、他の冒険者の狩りを邪魔しただとか、魔物の討伐のしすぎで生態系を破壊しただとか、そう言うマイナスの噂ばかりが聞こえてきますね」
「それ、聞いたことあります……」
私が情報収集をするとき、ソースケから言われて他の勇者様の情報も集めていたけれど、そう言う話はよく耳にした。
剣の勇者様は東の村で疫病を流行らせた。
槍の勇者様は南西の村で植物の魔物を復活させて、村を崩壊寸前まで追いやったり、女性をナンパして娼館に売りつけていると言う噂だ。
正直、心象が悪くなる噂ばかりが流れている。
そして、弓の勇者はそんなに大きい噂は無いが、アーシャさんの言う細々とした嫌がらせをした系統の噂が流れているのだ。
「……なるほどね。なりふり構って居られなくなったと言うわけね」
リノアさんは納得した様だ。私もここまでヒントを出されれば、流石に理解できる。
「なら、なおの事動きやすいわね。今、国中がソースケよりも盾の勇者様を優先しているわ。こんな国、さっさとオサラバしてゼルトブルかフォーブレイにでも身を隠した方が良いわね」
「……そうですね」
「それじゃ、ソースケ様用に教会で聖水を購入しましょう」
私達は教会で聖水を購入して、ソースケ達の待つ馬車に戻った。
ソースケの両手を癒す聖水を交換しながら、ソースケに仕入れた情報を話す。
「ああ、なるほどね。思ったより変化がなくて良かった」
ソースケは安堵した様にそう言うと、少し考えて方針を決める。
「そうだな、恐らく、国境は容易く抜けることはできなくなっているんじゃ無いか? 尚文を絶対に国外に出したく無いだろうしな。尚文はシルトヴェルトの方に向かっているだろうから、そっち方面は行かないほうがいいだろうが、基本的に今のタイミングじゃ国境線は超えられないだろう」
「私もソースケくんの意見に同意だな。緊急警戒網が敷かれているはずだ。こっそり亡命も無理だろう」
「つまり、まだメルロマルク国内に待機すると言うこと?」
「そうなるな。近場に俺たちの家もあるし、そこに避難するのもアリかもしれないな」
ソースケがそう提案した。
私はすぐに思い至る。
「確かに、それはいいかもしれない! うん!」
「だろう?」
ソースケの提案というのは、私の家でしばらく身を隠すと言うことだ。
あそこならば、滅多に人が来ない場所だしちょうど良かった。
「……どう言うこと?」
リノアさんが訝しむので、私が説明する。
「私の住んでいた家は、身を隠すのに丁度いいんですよ。行けばわかります。そこで、ソースケや私達の怪我の治療をしつつ、様子見をするんです」
「なるほどね。良いわ、その方針で行きましょ。ライシェルさんもその方針で大丈夫かしら?」
「構わない」
「それじゃ、決まりですね」
と言うわけで、私達は私の家に向かうため、移動を開始したのだった。
ロッソ村はセーアエット領内の村ですね。
他国の一般人目線で見れば、この愚行って何の大義名分にもなって居ないんですよねー。
メルロマルクが内政しか気にして居ないことがわかるお話ですね。