波の尖兵の意趣返し   作:ちびだいず@現在新作小説執筆中

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盾の勇者は魅力的だが、血塗れの勇者は面白い

「ポータルスピア!」

 

 私たちは一瞬で、森の中に転送された。

 ここはどこだろう……? 

 

「ここはシルトヴェルトの国境に接した森よ。盾の勇者なら、シルトヴェルトかシルトフリーデンのどちらかに行く可能性があると言うことで、この近辺を探しているのよ」

 

 エレナさんが解説してくれる。

 確かにそれなら納得である。

 とは言っても、私ではただの足手まといなのになぜ私を連れて行こうとするのだろうか? 

 それに、基本的に私たちは固まって行動するし、兵士と一緒に動くマルティ王女以外は基本的に槍の勇者様の周りにいるだけで良いらしい。

 

「リノアさん」

「ん? 何よ。どうしたの?」

「私達っている意味あるんです?」

「さあ……? 知らないわ。とりあえず、喋らずに従っていれば良いんじゃないかしら?」

 

 確かに魔物退治の姿を応援するだけだったり、盾の勇者様を探すだけだけれど一緒にいるだけだったりと、ソースケの役に立ちたい私としては、退屈であった。

 

 

 

 俺たちは、俺の先導に従い尚文の捜査を開始していた。

 とは言っても、尚文に接触したりするつもりはない。

 それっぽい感じで探している振りをするためである。

 だけれども、そういう時に限って見つけてしまうんだよなぁ。

 おおよそ3日目だったか、意外に先に進んでおらず、メルロマルク城下町から南東の交易街で物資の補給をしている最中にばったりと出くわしてしまった。

 

「あ、ソースケさん」

「ふぁ?」

 

 フードを被っているが、間違いなくラフタリアだった。

 えー……。

 俺は見なかったフリをして立ち去ることにした、が、ラフタリアに腕を取られる。思ったよりもがっしりと掴まれてしまった。逃がすつもりは無いらしい。

 

「ちょうど良かったです。折角ですし、お話ししていきませんか?」

「……あー。まあ良いけど」

「では、あちらです」

 

 という感じで、俺は連行されてしまった。

 どうせ、影のアーシャは見ているだろうから、大丈夫だというハンドサインだけをしておく。

 

「……よお、元気そうだな、宗介」

「おかげさまでな」

 

 不機嫌そうな表情をした尚文の姿があった。

 

「……盾の勇者様、その人は?」

 

 青いツインテールの少女が出てきた。

 ヴィッチに似た姿の幼いが美少女とわかるその姿は、メルティ=メルロマルクその人だった。

 

「冒険者の菊池宗介。《首刈り》と言ったら通じるか?」

「《首刈り》……!」

 

 メルティ王女は俺に敵意を向ける。

 

「大丈夫だ。コイツは信頼のおける奴だからな」

「そ、そう?」

「うん、メルちゃん。武器の人はいい人だよー」

「……フィーロちゃんがいうなら」

 

 メルティ王女からの敵意は引いたように感じた。

 で、尚文が俺の方に向き直る。

 

「さて、前々から聞きたいことがあったんだが、機会を逸してなかなか話せなかったな」

「聞きたいこと?」

「ああ、お前の持っている投擲具……だったか? その武器とか、お前の知っている前提知識について共有して欲しい」

 

 それは、俺も聞かれても困る内容であった。

 何をどう答えれば良いか困るような質問の仕方だ。

 ここで洗いざらい吐けば良かろう。その方が面白い展開になりそうだ。と竜帝のカケラ。お前は黙ってろ! 

 

「……はあ、まあ良い。何が聞きたい?」

「そうだな。最初に聞きたかったのは、お前がどこの世界から来たかという事だな。どう言う世界で、どんな常識があって、そしてこの世界と似たようなゲームのタイトルは何かを話せ」

 

 うーん、まあそれぐらいならば整理するために話しても良いか。

 

「……対価は?」

「そうだな、悪いが情報を聞いてから判断させてもらう。嘘だったら俺の凶暴な魔物が暴れだすと思って貰えば良い」

「んー?」

「……わかった。商売のお得意な尚文にこれ以上交渉をしても無駄だな」

 

 さて、俺の世界は自分にとっては尚文の世界と大差がないと思っている。

 第二次世界大戦の戦勝国はアメリカと習っているし、2019年時点での総理大臣は安倍晋三である。

 

「2019年……?!」

「何を驚いているんだ?」

「俺が召喚されたのは、2012年だ!」

 

 驚きはない。

 web版の盾の勇者の成り上がりの連載開始は、2012年10月29日だ。

 

「なるほどな、同じ世界だと思っていたが、少し先の未来から召喚されることもあるのか……」

「ま、俺の場合は召喚されたと言うよりかは、転移に近いものなんだがな」

 

 メルティ王女が首を捻っているようなので、少しだけ話すか。

 もちろん、女神転生の事は話さないがな。

 はははは、別に話しても良いぞ? 我に知られて魂が消滅しない時点でその呪いとやらはほぼ残っておらぬからな! え、そうなの?! 

 そうだ。それに例え砕けるような事態になったとしても我がいるのだ。問題なかろう。

 竜帝のカケラの話が本当だとしても、それを言うのはどっちみちアウトだ。

 

「この世界は基本的に異世界人が訪れるには勇者武器による召喚が一般的だ。それ以外の方法は存在しない。とされている」

「そうなのか?」

「ええ、その人が言っていることは本当よ」

 

 メルティ王女が肯定する。

 伝承に詳しいもんね。

 まあ最近だと、女神による転移者や、転生者、波による侵略者が居るからそうでもないだろうけれどな。

 

「俺は、簡単に言えば元の世界で死ぬ際に、転移してしまったらしい。次元の狭間にでも落ちたんじゃないかと推測している」

 

 これは、嘘だ。

 だが、推測である以上はフィーロも指定ができなかったようであった。

 

「んー、嘘っぽいけどホント見たいな?」

 

 と言っているから、多分臭いか何かで嗅ぎ分けているかもしれない。

 

「……まあ良い。錬の世界はVRMMOの世界だった。樹と元康は俺たちの世界に近い世界だと推測している」

「まあ、概ねそうだな」

「……で、お前の世界はどうなんだ? 俺は格闘漫画の世界だと推測しているが」

「はえ?! なんでまた」

 

 俺は驚くほか無い。

 俺は俺の世界が標準的な世界だと思っているからだ。

 ……まあ、それを言うのは野暮だろうが。

 FGO的に言うならば、それぞれの日本と言うのは並行世界なんだと思っている。

 可能性や時間軸の異なる世界から勇者たちは呼ばれるのだ。

 日本人限定である謎は、まだ語られて無いけれども。

 

「そりゃ、お前の武術だ。確かに俺の世界にも……大学にも合気道部は存在したが、お前の格闘家としての戦い方はそれこそ、異常だ。まるで、格闘術の漫画に出てくる主人公のように感じたんだよ」

「ケンイチみたいな?」

「……そんな漫画もあったな。あれは連載中だったはずだがな」

 

 やはり、尚文と俺の世界は並行世界論的には近い世界の異世界なのだろう。

 隣にあるレベルの近い世界だと思われる。

 しかし、格闘家が出てくる漫画なんて心外である。

 刃牙じゃあるまいしね。

 

「で、お前の世界にはどんなゲームがあったんだ?」

「……俺の世界は書籍だった」

「書籍?」

「ライトノベルだよ。悪いがゲームではなかった」

 

 尚文は四聖武器書だっけか。

 そこが俺と尚文の違いだろう。

 

「ラノベ……ねぇ。2019年に存在するのか?」

「ああ、この間もアニメ化されたりしたな」

「……どう言う話か教えて貰えないか?」

「それはNGだな。元の世界に帰ってから読んでくれ。俺はネタバレするのは好きじゃないんだ」

 

 尚文がチラリとフィーロを見る。

 フィーロは「んー?」と尚文に答える。

 

「……はぁ。じゃあ次の質問だ。投擲具の勇者武器を持っていることについて説明をしてくれないか?」

「断る」

 

 俺は笑顔でそう答えた。

 流石にこの事について話すのはネタバレにも程がある。

 だけれども、それを許さない人物がもう一人いた。

 

「この人、投擲具の勇者様なの……? お母様から聞いていた容姿とは全然違うんだけれど」

 

 メルティ=メルロマルク第二王女である。

 

「第二王女、詳しく頼む」

「ええ、投擲具の勇者様は投擲具の七星武器に選ばれた人よ。確か、異世界から召喚されたと聞いていたわ。修行好きで修行に行ったまま帰ってきていないとは聞いていたけれど……」

 

 メルティ王女が俺をジトーっと見つめる。

 

「でも、本当に持っているの? 勇者武器は基本的に外せないはずよ。それに、この人……《首刈り》のメイン武器は特殊な槍だと聞いているわ! ……今は持ち合わせていないみたいだけれど」

「そう言えばそうだな。人間無骨はどうしたんだ?」

 

 尚文が話題を脱線してきたので、便乗するとしよう。

 

「どうやら、メルロマルク城で封印されているらしいな。触ったものの血を吸う魔槍となっているそうだ。本当かどうかは疑わしいけれどな」

 

 尚文はメルティを見るが、メルティは首を横に振った。

 知らないと言うことらしい。

 

「捕まった時にアーシャが持っていたんだが、没収されたそうだ。問答無用だったそうだ」

「そりゃ、殺人鬼から武装を剥奪するのは当然でしょう」

 

 だろうなー。

 すでに3桁の人間をぶっ殺した凶器の槍だしなー。

 よく考えないでもやり過ぎな気がしてきた。

 まあ、基本クズか邪魔なやつしか殺してないからダイジョーブダイジョーブ。

 

「で、問題を戻すと、このひとが投擲具の勇者武器を持っているのは本当なの? 盾の勇者様、ラフタリアさん」

「ああ、事実、その装備のカースシリーズに操られた宗介と交戦した」

 

 あれは、操られたわけではない。

 ヤケになったと言うのが正直正しい。

 ムカつく連中が多いのは事実だけれどな。

 まあ、言わぬが花、沈黙は金だけれど。

 

「宗介、出せるか?」

 

 出せると言えば出せるが、出したくなかった。

 

「断る。今までの情報料に20%上乗せするならば話すけれどな」

「……それほどの価値があるのか?」

「なければ吊り上げないさ」

 

 実際、尚文からすれば攻略のヒントである。

 お金を出すには当然の話である。

 

「……わかった。別の話を聞くとしよう」

 

 流石に金銭のやり取りなので、引いてもらえたようである。

 

「盾の勇者様! この情報は締め上げてでも聴きだすべきよ!」

「第二王女、流石に今、指名手配されている段階だ。聞けることを聞いたほうがいい」

「でも……!」

「それに、コイツは話そうと思っている事については聞けば話してくれるが、絶対に話さないと決めている事については拷問しても口を割らない質だ」

「……そこまで言うなら」

 

 なんで尚文はそこまで俺のことがわかっているんですかネェ……? 

 

「じゃあ、次だ。お前はどこまでわかっているんだ?」

「……!」

「前々から思っていたんだ。お前の態度は、未来を知っているんじゃないかと思えるような態度を取ることがある。お前が2019年……俺よりも後の時代の人間だと聞いて、より確信が深まった」

 

 たぶん、尚文が一番聴きたい情報はそこなのだろう。

 俺は尚文の口調から察する。

 

「だから、あえて聞くぞ。どこまで知っている? お前は何を俺たちに望んでいるんだ?」

 

 これは、たぶん積み上げても尚文はその金額を支払うのだろう。

 そう言う確信があった。

 

「……そうだな、この情報については30%上乗せだ」

「良いだろう。話せ」

 

 俺はため息をついて説明する事にした。

 

「……ま、この先6、7ヶ月分ぐらい、どう言うことが起こるかについては具体的に話せるよ。もちろん、元康や錬、樹すら知らない情報を持っているさ。逆に、元康、錬、樹しか知らない情報もあるがな。ただ、核心的な情報は俺が圧倒的に持っているだろう。攻略本ありで攻略したいならば、情報を買うかい?」

 

 俺は尚文を茶化すようにそういった。




ネタバレ回かな?

今気づいた。
尚文は錬がVRMMOだと言う事しかしらねぇよ!!
というわけで該当箇所のセリフ変更しました。

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