私達は槍の勇者様に連れられて、馬車の荷台の確認を手伝わされていた。
と言っても、魔法使いの人がそれぞれ魔法を使って中身を透視して確認するらしい。
女の身としては嫌な魔法だ。
「いました! そこの荷車です!」
魔法使いの言葉に反応して、槍の勇者様と弓の勇者が駆け出す。
そして、荷車から布を取り払って盾の勇者様が姿を現した。
背後にはラフタリアさんと、青い髪の少女……メルティ第二王女がいる。
白いフィロリアルも、フィーロちゃんに変身した。
「やはりいたか!」
剣の勇者様も、盾の勇者様のところに駆け出す。
「見つけましたよ! メルティ王女を解放しなさい!」
「解放も何も、別に拘束してないぞ!」
「白々しい! 証拠は上がっているんだぞ!」
弓の勇者とその仲間たちが攻撃を仕掛ける。
逃亡する盾の勇者様を追って行くと、少々の攻防があって盾の勇者様一行を崖のところまで追い込んだ。
「尚文さん、あなたに正義はありません!」
「正義……ねぇ?」
私は白い目で弓の勇者を見る。
この人の戯言は聞き飽きた。
そもそも、ソースケのために付き合わされているだけで私はこの行いになんの正しさも見いだせていなかった。
「お前らの言っていることは本当に正しいと、正義だと言えるのか?」
「どう言うことだ?」
「第二王女はこの通り、怪我一つなく生きている」
メルティ王女は心配そうに盾の勇者様を見上げると、同意するように大きくうなづいた。
「剣の勇者様、槍の勇者様、弓の勇者様。盾の勇者様は無実です。むしろ私の命を守ってくれています」
メルティ王女の言葉に、動揺する3勇者。いや、剣の勇者様はこの状況に疑問を感じているように見えた。
「どうか信じてください。此度の騒動は大きな陰謀が隠されています」
「しかし、メルティ王女はその男に連れ回されているではありませんか」
「それこそ、私の命を守ってもらう為に、わたしからお願いしています」
メルティ王女本人の口から説明されて弓の勇者はたじろいだ。
「不自然ではありませんか。盾の勇者様がわたしを誘拐する事に何の得があるのですか?」
「そ、それは……」
私のいる位置からは弓の勇者の表情は見えないけれど、きっと難癖のように自分が正義である理由を探しているに違いなかった。
「だが、コイツは──」
「勇者様方はメルロマルク国が盾の勇者様だけ扱いがおかしいと考えませんでしたか?」
「確かに……」
「母上が仰っていました。今は人と人とが手を取り合い、一致団結して災いを退ける時だと……勇者様方にこの様な不必要な時間の浪費をさせる余裕はこの世界には無いのです。どうか、武器をお納めください」
勇者二人は武器を持つ手を弱める。
そもそも、剣の勇者様は腰に剣を収めたままだった。
盾の勇者様に指摘されて、こんな事に時間をかけている暇なんてないと自覚したのだろうか?
「わかったか? これは陰謀だ。これから俺の知る限りの真相を話す。戦うか否かはそれからでも良いだろう?」
盾の勇者様が話そうとするところを、性悪王女のマルティが出てきて言葉を遮る。
「盾の悪魔の言葉を聞いてはなりません!」
この人は一体何を考えて生きているのだろうか?
私には全く理解できない次元である事しかわからなかった。
「今回の事件が明るみになった時に説明されたではありませんか! 盾の悪魔は洗脳の力を持っていると!」
「姉上?!」
槍の勇者様と弓の勇者様以外誰も信じていない戯言である。
その戯言を本気で信じているとするれば、ソースケの言葉を借りるならば【阿呆】である。
だけれども、熱心な三勇教の信者はそう信じている人も多い。
熱心な兵士さんが私やリノアさんに一生懸命に説明していたしね。
リノアさんが「私、そもそも四聖教なんですけど」と言って唾を吐かれるのがオチであったが。
「洗脳の盾、という邪悪な力を持った盾の話ですね。眉唾物の話だったのですが……」
「いつ覚醒したかは解りませんが、教会の推測では一月程前からだそうです」
弓の勇者が驚愕したように言う。
それに性悪王女が解説を挟む。
時期的には、私がアールシュタッド領でソースケ達に助けられた頃だろうか?
「状況が証明しているじゃないですか。行く先々で情報が混濁していて、まるで彼に力を貸している様な行動をしているじゃないですか。一般人の彼等が犯罪者相手に、こんな一致団結したりするものですか?」
「国中の奴等がおかしい。盾の勇者がそんな事をするはずがないなんて言うし、元気なお婆さんまで盾の勇者を崇拝の如く絶賛してたもんな……」
あのおばあさんの姿が頭をよぎる。
「……くだらんな」
剣の勇者様だけがそう吐き捨てた。
「おそらく、近くに居て話をするだけで自らの思うように相手を洗脳する力を持っています。現在、国の教会関係者が力を合わせて洗脳を解く準備を進めております」
「んな力あるかボケ!」
性悪王女の解説に、盾の勇者様が声を荒げて反論する。
「だが、宗介の力もそうだが、チートコードを入力すれば手に入るかもな」
「錬、お前どっちだよ!」
私は剣の勇者様が何を言いたいのかイマイチ理解できなかった。
普通に考えれば、そんな便利な能力があるならば、こんな事態になる事は無いと思うのだけれどなぁ……?
私が三勇教の兵士さんにそう指摘をしてあげると、よくわからない誤魔化しをされた。
私が「話すだけで洗脳されるなら、オルトクレイ王も洗脳されているのでは?」と指摘すると、「貴様! 叩き斬ってやる!」と激怒して、槍の勇者様が諌めるという事があった事を思い出す。
その後にお礼を言ったら、「話を聞いていなかったからよくわかんないけれど、君を守るのが使命だからさ!」と格好つけられたっけ。
「ラフタリアちゃんやフィーロちゃんもアイツの力で洗脳されているって事だよな!」
「違います! 私達は洗脳なんてされていません!」
「俺達が君達を救い出してあげるからね」
「フィーロはごしゅじんさまと居たくているんだもん!」
……やっぱり、私達がなんで言い争っていたか聞いていなかったんだなぁ。
「どうでも良いから話を聞け! 事と次第によっては第二王女はお前達に渡してもいい」
「え!?」
メルティ王女が意外そうな声を出した。
この状況でも交渉するのは流石としか言いようがない。
ソースケなら嬉々として戦い始めそうだ。
「……話を聞こうか」
剣の勇者様が話を聞こうとする。
「まず前提として洗脳の力なんて物はない。そこから──」
「信じられませんね!」
「うるせえ! お前には言ってないんだよ、副将軍!」
副将軍は軍隊の階級だったかな?
なぜ弓の勇者が盾の勇者様にそう呼ばれているかは理解できなかった。
「とにかく、これは陰謀だ。王かそこの女か教会の連中が、第二王女を俺にけしかけて暗殺未遂をした」
「……話は分かった。じゃあお前達の身柄を拘束する代わりに俺達に同行してもらおう。その代わりに他の奴に絶対被害を負わせないと約束する。調べる時間をくれ」
「信じるのか!? このフィーロちゃんを洗脳した悪人の話を?!」
「そうですよ! 僕は信じられません!」
「剣の勇者様! 悪魔の言葉に耳を傾けてはいけません!」
信じていない人たちがそれぞれ文句を剣の勇者様に言う。
リノアさんがちょんちょんと突いてきて、
「槍の勇者様って本当に盾の勇者様が嫌いなのね。話すら聞こうとしないなんて、ちょっと異常よ」
と言ってきた。
女性に優しい槍の勇者様の様子を見れば、『冒険者仲間を盾の勇者様が強姦した』と言う噂に関連がありそうである。
「戦わずに済むのなら、それが良いだろう。真偽は後で確かめる」
剣の勇者様の案は、普通の国ならば通用したかもしれない。
だけれども、ソースケがどうなったかを考えれば、この案も愚策である。
剣の勇者様はこの国がアルマランデ小王国のように狂ってしまっている事を知らないらしい。
私もリノアさんと話して気づいたんだけれどね。
盾の勇者様の様子を見ると、メルティ王女と何かを相談しているようである。
メルティ王女が盾の勇者様のマントをぎゅっと握りしめる。
「……約束しただろう」
「えっ?!」
少しの逡巡の後、盾の勇者様はこう宣言する。
「悪いな。どうもお前等を信じられない。ここで第二王女を渡しても、きっとお前等は守りきれない。俺はコイツと約束しているんだ。絶対に守るってな」
盾の勇者様はそう言うと、フィーロちゃんにメルティ王女、ラフタリアさんを乗せて大きく跳躍した。
「フィーロ、イヤだろうが荷車を放棄して、コイツ等から逃げろ!」
「はーい!」
「じゃあな」
崖の岩場をうまく利用して跳躍するフィーロちゃん。
それを追いかけるように槍の勇者様が懐から何かを取り出した。
「あ、待って──」
「はいくいっく!」
「させるか!」
「な──」
槍の勇者様が投げた輪っかが足に装着されたフィーロちゃんは人型に変化すると、盾の勇者様一行と共に落下する。
盾の勇者様はメルティ王女とラフタリアさんをうまく受け止める。
「うわっ!」
「きゃっ!」
「いてて……」
そして、落下したフィーロちゃんは足枷を取ろうと躍起になる。
「くぬ……! えい! 取れない! 取れないよごしゅじんさま!」
こうして、機動力の封じられた盾の勇者様一行は、他の勇者様との戦闘に突入してしまった。
剣の反応だけ微妙に変わっただけですね。
大きく変えるにはやはり槍を変えるのが一番か…!
実は錬のセリフの幾分かを樹が言ってます笑