今頃は尚文達がバレて逃走している頃かな、なんて思いながら俺はラヴァイトの馬車に乗りながら移動していた。
ラヴァイトは未だにクエクエしか鳴かないので、人化はレイファと合流してからだろう。
無駄な尚文探しをしつつ、どうやってレイファと合流するかを考えていた。
やはり、南西にある関所の砦近辺か。
元康の奴は確実にあそこに出現するし、女王陛下も出てくるので、確実だろう。
そんな感じで俺は南西の方角を目指していた。
その道中、情報収集のために酒場に入ると、どこかで見たことあるような気がする二人組がいる事に気付いた。
髪を逆立てて右側を垂らした赤い髪の青年と、青い髪を後ろで三つ編みにした髪型の女性が仲よさそうに飲んでいる。
この時期にはもうこっちに来ていたのか……。
俺はウィスキーと酸味のある炭酸水(レモンっぽい果物の果汁が入っている)を注文してハイボールを自分で割って飲んでいる。
ちなみに、炭酸水は普通に売ってあって驚きだった。
学生の頃からお酒は自作していて、カクテルなんかも一応色々と作れたりするんだが、そんな暇は一度もなかった。
こっちではほとんどの大衆酒がルコルの実を希釈したものばかりだしなぁ。
ワインやスピッツ、ブランデーとかそう言うお酒は若干値が貼るか、そもそも存在しないものもあるようだ。
ルコルの実が一般的なお酒の原料なので、エールやラム酒っぽいやつの方が値が張る。
まあ、穀物類や果実なんかは確認した感じだと普通に存在するみたいだし、落ち着いたら色々なお酒を作ってみたいものである。
シェイカーなんかも親父さんに依頼すれば作ってくれそうだし、今度頼んでみるかなぁ?
キッカケは20歳の誕生日に友人から貰ったスコッチ・ウォッカだった。バランタインの20年物だったっけ。あれが美味しくて、お酒に一気にハマってしまったのだ。
カクテルを自作するようになったのもその1月後だったっけ。
正直、お酒研究会みたいなサークルを立ち上げようか迷っていたんだよなぁ。
合気道サークルの稽古やバイトと被らないようにする必要はあったが。
そんな時期にトラックに跳ねられて死亡だからやるせないよな。
などと思いを馳せながらハイボールを片手に店の中をうろつく。
見たことある二人にはもちろん、近づかないようにするけれどな。
そこで情報を収集していると、俺の知っている通りに北東の砦付近に厳重な検問が敷かれており、シルトヴェルト方面に行くのは困難であるみたいな情報があった。
大筋が変わってなければ誤差ですよ誤差!
しかし、今思い返してみると、やはり次元ノケルベロスを俺の手で討伐したことが間違いの始まりだったのではないだろうかと改めて感じる。
俺が介入することによる歪みが、結果として今のズレに影響を及ぼしている気がするんだよなぁ。
そんな事を思案しながら自分の席に戻ると、俺の席に見覚えのある二人が座っていた。
「悪いな。勝手に座ってるが、お前さんと話がしたくてな。席で待たせてもらったぜ」
「すみませんね。ですが、盾の勇者を探しているとのことで、お話が聞きたかったのです」
さて、どうしようかな?
いる事が分かった時点で撤退しなかった俺の落ち度ではあるが、酔いが丁度いい感じに回ってて、そこまで頭が回らなかったのも事実だった。
「あー……。情報には対価が欲しいな……」
「なら、その高そうなウィスキーを奢りにさせてくれ。な?」
男はそう言うと、ジャラッとボトル一本分の銀貨と銅貨を机に置いた。
「……ま、良いだろう」
俺は金を受け取る。
「で、何が知りたいんだ?」
「ああ、その前に自己紹介かな? 俺はラルク、ラルクベルクってのが本名だが、ラルクって呼んでくれ。こっちはテリスだ。冒険者をやっている。よろしくな!」
「よろしくお願いします」
あー、これは俺も自己紹介する必要があるのか?
《首刈り》なんて二つ名があるから、あんまり自己紹介とかしたくないんだけどなぁ。
「……俺は、景虎だ」
「カゲトラ、ね。よろしくな、坊主」
相変わらず屈託の無い笑みを浮かべるな。
そこらへんは原作と変わりなさそうだ。
俺はハイボールを作りながら、話を進めることにする。
「で、あんたらは盾の勇者の情報が欲しいと」
「ああ、なんでも悪魔みたいな奴らしいからな。俺たちでとっちめてやろうと思ってよ」
やっぱり、目的はそんな感じか。
「……なるほど。で、欲しい情報ってなんだ? 正確な場所は流石にわからないぞ?」
「そうだな……。坊主から見た盾の勇者を知りたい」
「俺から見た?」
「そうだ。坊主も盾の勇者の情報を集めてただろう? それだったら、俺たちよりも情報を持っていると踏んでな」
「……ま、構わんが、そこいらで話を聞けばただで手に入ると思うぞ」
まあ、聖人君子化されてしまっているので、若干歪んでいる気がしないでも無いがな。
「いや、あんな崇拝者の話じゃなくて、ニュートラルな坊主の話を聞きたいな」
「ええ、村の人は盾の勇者を尊敬している感じですからね。とてもじゃ無いけれど、人物像が一致しないのよ。良かったら教えていただけないかしら?」
ふーん、この人たち、無意識ではあるけれど、俺に情報を垂れ流しているな。
それとも、情報を教えてくれているのか?
何にしても、この二人がラルクベルクとテリスならば、知りたい情報を推察するのは容易いだろう。
「そうだな、盾の勇者は特殊な盾以外での攻撃が一切できない奴だな。自分の配下に代わりに攻撃させている。当然、その連帯は熟練の腕前を持つ兵士よりも強いな」
「あー、いやまあ、そっちもありがたいんだが、人となりをな?」
「あったこともない奴の人となりがわかるわけがないだろう?」
俺は嘘つきだと自覚している。
ただ、嘘のつき方と言うものがある。
ハッタリやブラフは情報を引き出したり、逆に情報を与えないために有効なのだ。
だが、当然ながら見破ってくる奴もいる。
「ははは、坊主、そりゃないぜ。嘘は良くねぇよ嘘は」
ニヤリと笑うラルク。
こう言う鼻が効く奴もいるのだ。
面倒臭いな。
「ふっ、どうして嘘だと思うんだ?」
「そりゃ勘って奴だ。お前さんは盾の勇者に詳しい。そう俺の勘が告げているんだ」
俺はため息をついて、カウンターを指差してこう言った。
「……対価」
「なるほどね。分かった分かった。何を奢って欲しいんだ?」
そうだな、人の金で酒を飲むのだ。
今回の情報料は高めで良いだろう。
……あのウィスキーで良いか?
「ラーレグレイ30年物のボトル、銀貨13枚だな」
「うげっ! あの酒そんなにするの?!」
「あれは間違いなく美味いな。それが対価だ」
ラルクはチラッとテリスを見る。
テリスがうなづいた。
「……坊主、一口ぐらいよこせ!」
ラルクはそう言いながら、カウンターに行き、ラーレグレイ30年物ウィスキーを購入してきた。
あと、グラスを3つと氷も持ってきてくれた。
「ほらよ」
ドンっと、ウィスキーを机に置く。
俺は瓶を開封して、早速ロックのウィスキーを注ぐ。
おお! これはなかなか!
タルの匂い、木の匂いが良い感じに香ってくる。アルコール臭がキツ過ぎないのも良い感じだ。
口に含むと、芳醇な香りが鼻を通り抜ける。味も、まろやかで上品な味わいの中でも高級感がある。なるほど、こいつはなかなか美味しいウィスキーだった。
安物のキャンディを口に含んで飲むと、更に良い感じだった。
「お、おい、俺も飲んで良いか?!」
「その前に、情報を聞かなくて良いのか?」
「う、そ、そそそ、そうだな。クソぅ!」
と言うわけで、大雑把な特徴を話す。
俺のイメージだけどな。【守銭奴で偽悪的行動をする奴。奴隷を調教する奴。あと、料理のプロで、ご飯がめっちゃ美味い、料理店を出したら繁盛しそうだ】と言う情報を伝えた。
外見的特徴も伝えてある。
まあ、実際に会った時のイメージとは違うけれど、間違いではないので良いだろう。
ご飯が美味いの下りはラルク達にはどうでも良かったみたいではあったが。
「なるほど、確かにその情報は役に立ちました」
「そうかい、そりゃどうも」
ラルクは早速ボトルからウィスキーをグラスに注ぐと、ぐいっと一気に飲み干す。
「くあぁぁぁぁ!! ウメェ!!」
更にもう一杯注ごうとした手を止めて、俺はキャンディを握らせる。
「そいつを舐めて飲めよ」
「おお、いいのか?」
俺がうなづくと、ラルクはキャンディを一つ口に頬張る。
そして、ウィスキーを飲む。
「なっ?! ウィスキーが安物のキャンディでここまで美味くなるとは!」
そのあと、ラルクが大惨事になったのは言うまでもなかった。
いや、良いウィスキーを飲ませてもらった。
一応、止めたんだけどなぁ?
テリスは飲んでもいなかったので、情報はテリスがちゃんと覚えているだろうけれどさ。
ウィスキー美味しいよね