俺、天木錬が北東の村の宿屋のフロントで柱に寄りかかって待機していると、樹が戻ってきた。
俺のパーティメンバーの4人も付いてきていた。
元康の方は此処とは別の町の高級な宿に宿泊しているので、王女がいることによる差別にイライラする。
「錬さん! どこに行っていたんですか! お陰で取り逃がしてしまいましたよ!」
「すまない。そうだ、勇者同士で話したいことがある。少し空けてくれないか?」
俺がそう言うと、マルドとウェルトが困惑した表情をする。
「しかし、イツキ様もお疲れでは……?」
「レン様もお休みになられた方が……」
それに、俺は強権を使う。あまり好きではないがな。
「勇者同士での連携に必要なことだ! お前達は宿で休憩していろ」
「……わかりました。錬さんがそこまで言うなら、きっと大事なことなんですね。皆さん、明日からの正義のためです。先に休んでいてください」
俺と樹がそう言うと、あまり強く出れないのか理解を示してくれた。
俺と樹は外に出ると、近場にある定食屋に入る。
「で、なんのお話ですか?」
「ああ、俺たちの明日からの方針についてだ」
「尚文さんを追いかけるのでは?」
俺は、レイファから借りた【三勇教のロザリオ】を机の上に置いた。
「ん? 剣と槍、弓が象られたロザリオですね。これがどうかしました?」
「……何か足りないとは思わないか?」
俺の指摘に、樹は少し考えると、何かを閃いた表情をした。
「確かに、盾がありませんね。ですが、どうしたのですか?」
「……お前の好きそうなイベントだ」
俺がそう言うと、樹は眉毛をピクリと動かした。
「つまりは、このロザリオに悪の陰謀が絡んでいると?」
「ああ、そのロザリオは、この国の宗教である、三勇教のロザリオだそうだ」
「……確かに、町の教会でもよく見かけるシンボルですね」
「で、こっちが世界的な宗教である四聖教のロザリオだ」
俺は、リノアから借りた【四聖教のロザリオ】を並べる。
「……なるほど、それで尚文さんの悪行が帳消しになると思っているんですか?」
「それは知らん。だが、尚文がここまで差別される理由になると思わないか?」
俺の問いかけに、樹は少し考えると肯定の意を見せる。
「……確かに。思い起こせば尚文さんの扱いは最初からどこかおかしかったですからね」
「もしかしたら、あの強姦自体が尚文を陥れるための冤罪だった可能性もある」
「……それは被害者がいるのでわかりませんが、裁判もなしに決めつけていたのは気になりますね」
と、此処で飯が運ばれてきたので中断する。
ロザリオは素早く回収した。
「なるほど、錬さんの考えはわかりました。確かに僕の好きなイベントです。ただ、尚文さんを放置しておくことも問題だと思うんですよ」
「それは同意だ。ちゃんと訳を聞かなければ納得できないからな」
尚文は盾のくせに強い。
宗介と同じ種類のチートを使っているからな。
だから、元康に任せきりと言うことはしない方がいいだろう。
もしかしたら、元康だけが尚文のチートを手に入れるかもしれないからな。
抜け駆けは許されない。
「お前の仲間と俺の仲間を半々で出し合って、尚文を追う班と三勇教を調査する班に分けよう。俺は調査の方をしたいが、お前はどうする?」
「僕も調査の方ですね。信頼できる仲間なので、任せて大丈夫でしょう」
勇者が二人とも調査か。
まあ、こればかりは仕方ないだろう。
俺には、宗介の仲間二人を預かっている。
つまり、このことに関して俺が逃げるのは許されない。
「……そうだな。では明日、班分けをして王都に向かうとしよう」
「ですね。少しワクワクしてきました」
……樹は楽しそうだな。
俺は正直こんな面倒なことはしたくはない。
だが、現状このままにしておくのも気持ちが悪い。
武器の性能も若干落ちている気がするし、色々と気になることが多すぎる。
それに、宗介に貸しを作れば、チートコードを教えてもらえるかもしれないからな。
強くなるには地道な経験値稼ぎが重要だが、チートコードがあるならば俺も活用したい。
そんな事を考えながら、樹と何処から調べるかを相談するのだった。
翌朝、私はリノアさんと同じ部屋のベッドで目を覚ました。
「おはよう、レイファ。うなされていたけれど大丈夫だった?」
「おはようございます、リノアさん。うなされていました?」
リノアさんがベッドを指差すと、汗でグッチョリになっていた。
「……お風呂入ってきますね」
「わかったわ。私が対応するから、レイファはゆっくりしてくるといいわよ」
私はリノアさんの言葉に甘えて、お風呂に入らせてもらう。
と言っても、カルミラ島のような立派なものではなく、ソースケ曰くゴエモン風呂だそうだけれどね。
しかし、私はあの時の、兵士に斬られそうになった時の恐怖が蘇る。
ソースケはあんな裏切りにあってまで、この世界を救うために動いているのだ。
ソースケはレン様と同じような世界から来た、異世界人である。
私だったらあの時のソースケみたいに、救うことを諦めるかもしれない。
そう考えると、ソースケは本当の意味で勇者だと思う。
ソースケの事を想うだけで、私の震えは止まる。
「側にいなくても、私を救ってくれるんだね」
ソースケに斬られた跡を見る。
呪いのせいかまだ完全に治りきって居ない。
それにしても、私たちはどうなってしまうのだろう?
とりあえずはレン様についていく事になると思うけれど、大丈夫だろうか?
そんな漠然とした不安を考えながら、ぼんやりとお風呂に入っているとリノアさんが入ってきた。
「レイファ、レン様が呼んでるわ」
「はーい」
私は返事をすると、すぐに体を拭いて、髪を魔法で乾かし、着替えてしまう。
生活に使う魔法程度ならば適性がなくても使えるのは便利だろう。
「ファスト・ドライウィンド」
熱風がふわりと私を包み、表面の水分を蒸発させる。
サッと着替えた後、私はリノアさんと共に宿屋の食堂に向かった。
「では、マルドさん、カレクさん、ウェレストさん、スケーリアさんは尚文さん捜索班、ロジールさん、リーシアさんが僕とともに調査班として同行してもらいます」
「「「「わかりました、イツキ様!!」」」」
どうやら、樹のところの班分けは出来たようだ。
「俺とレイファ、リノアは調査班確定だから、テルシアが調査班として同行してもらう。ウェルト、バクター、ファリーはあの連中と一緒に尚文の捜索をしてくれ」
「「「わかりました、レン様!」」」
俺はウェルト、バクター、ファリーをメンバーから除外、ウェルトに編隊の申請する。
なるほどな、確かにこれは便利である。
「では、よろしくお願いしますね、マルドさん」
「ワシに任せるが良い! イツキ殿!」
しかし、マルドは追い出したとは言え樹との相性は良さそうだった。
思い起こせば、マルドは傲慢でどうしようもない人物だった。
ドラゴンとの戦いでも、何も考えないで突っ込んで行くので、俺までフォローをするハメになったのだ。
しばらくして、依頼料の横領をしていることが発覚して追い出したんだが、樹のパーティでは上手くやっているようだ。
「ウェルト、頼んだぞ」
「はい! レン様!」
俺たちはこうして別れた。
まずは、メルロマルク城下町……王都の図書館からだな。
この調査でくだらない事に時間を割く必要がなくなれば良いのだが……。
本来は班分けは起きない事象ですね!