メルロマルク大図書館。
メルロマルク城に併設された図書館である。
一般市民では使うことが許されない図書館であるが、勇者様が調べたいことがあると押し通り、入館が許可された。
そこで私たちは三勇教についての調査を行う事になった。
三勇教の歴史はまさにメルロマルクの歴史そのものだと言うレベルの歴史があった。
勇者伝説発祥の地『フォーブレイ』、その地には四聖勇者を平等に崇める『四聖教』という宗教の聖地が存在する。
この宗教は各国にも広まっており、メルロマルクも元々は四聖教が国教であった。
しかしメルロマルクと長年敵対するシルトヴェルトが盾の勇者を信仰する『盾教』に改めたため、 「敵の国の神など我が国の悪魔だ」という事で盾の勇者を悪魔とする『三勇教』に国教を改めたと言う経緯がある。
これは、単純に驚いた事だけれども、そうなんだと言った感じである。
たまに行く教会の巡礼でも盾の勇者様が悪く言われるのは私も聞いたことがあった。
その中でも私みたいな一般信者では知る事のない情報があった。
それが、四聖武器の模倣品の作成であった。
意図としては、勇者の力を量産して軍事利用しようと言うのが目的だったらしい。
威力は山を割り、湖の水を蒸発させるほどの威力であった。
だが、それでも、勇者単体の攻撃力には遠く及ばなかったらしい。
それに、1回の使用にも膨大な魔力を必要とするようで、とても兵器としては扱えない伝説の武器である。
そして、現在では所在不明になっている国宝だと言う。
他にも、三勇教とは関係なさそうではあるが、国宝・国宝級のお宝が消えていたりしている記録があったりする。
それも、メルロマルクがシルトヴェルトとの戦争で勝利を収めて以降顕著になっている。
「……消えたお宝と、宗教ですか。これは臭いますね」
弓の勇者はワクワクしながら、私たちが集めた情報を確認している。
「確かにな。やはり、教会自体を調査した方が良さそうだな」
「広場の龍刻の砂時計に併設されてるあの施設ですね。早速行ってみましょう」
ある程度三勇教の基礎知識が集まったところで、私たちは教会の方に足を伸ばした。
「……変だな。人の気配が無いぞ?」
「ですね。普段なら入って来たら早々に教皇の出迎えがあるはずなんですが……」
実際、教会には人っ子一人居なかった。
一応受付係のシスターさんが居たけれど、それだけである。
「レイファ、もしかしたら、盾の勇者様を殺す算段が……」
「もしくは、ここで倒さないといけなくなったとかですかね?」
私とリノアさんはうなづいた。
つまり、何らかの方法で盾の勇者様を倒せる方法を三勇教が所持していると言う事である。
そして、私の脳裏にさっきの兵器が過ぎる。
「……レン様」
「どうした、テルシア」
「もしかして……」
「……その可能性は考慮している。証拠を探すぞ」
私たちは教会の奥に踏み込む。
いくつか仕掛けが施されているが、弓の勇者がいとも簡単に解除してしまう。
そして、厳重な仕掛けの施された部屋には、色々な文献だけでなく、高そうなツボや、絵画、そして武器が丁寧に収められている。
勇者様は何も言わずに自分の持っている武器と似た系統の武器をタッチしていく。
何をやっているのだろう?
ここも図書館同様に私たちが調査をして報告する事になった。
わかりやすい位置に、伝説の武器の安置場所の資料と、恐ろしい事に魔王に関する資料が置いてあった。
「魔王……だと……!」
「やはり、三勇教が伝説の武器を隠し持っていましたか」
リノアさんは罠だと言う。
私もそう指摘されてそう感じた。
「レン様、これは罠なんじゃないですか?」
「……まあ、ここまで無警戒だとそう考えざるを得ないな。だが、どちらにしても行く必要はある」
レン様は魔王の資料を握りつぶす。
「魔王…。勇者の武器を媒介に生み出せる可能性があると…。ここの連中、一体何を考えているんだ?」
「人工的に魔王を作る目的、ですね。確かに動機が気になるところですね」
魔王の研究……。
盾の勇者様が魔王になれば、三勇教は喜んで盾の勇者様を討伐するだろう。
もし、相手の意思に関係なく魔王化が出来るとしたら……。
とても恐ろしい話である。
「ここに置いてあると言うことは、もう少し研究は先に進んでいるはずね。恐ろしいカルト宗教じゃない。一体何を考えてるのよ」
リノアさんはため息をついた。
「そして、そんなところに召喚される勇者様も勇者様よね」
「……俺は召喚される場所を選んだ覚えはないぞ?」
リノアの文句にレン様はそう答える。
盾の勇者様の様子を見る限りだと、勇者様本人は召喚に応じるとかそう言うことは無さそうである。
「それじゃあ、ここからは二手に別れましょう。錬さん、僕は伝説の武器の方を確認しに行きますが、錬さんは魔王研究施設の調査で大丈夫ですか?」
「ああ、これまでの調査で俺たちが踊らされていたことは充分理解できた。後は決定的な証拠を抑えるだけだ」
「ですね! やっぱりアドベンチャーパートはこうでなくてはいけませんね!」
弓の勇者は本当に楽しそうだ。
そんな感じで人のいない教会を後にして、それぞれが移動を開始した。
どうにも嫌な予感しかしなかったが、私たちは前へ進むしかなかった。