愚かな偽勇者がまんまと騙されて建物内に侵入したのを確認した。
我々魔術部隊は一番効果的なタイミングで、神を騙る偽勇者を浄化せしめるのだ!!
嗚呼、教皇様の仰られていたことは真実だったのだ!
弓の偽勇者は、自分が弓の勇者に選ばれたと言う傲慢から愚かにも権威を示さず、勇者の偉大さを民草に知らしめなかった。
そもそも、弓の偽勇者が懲らしめていたほとんどの貴族は敬虔なる三勇教の信徒である。
弓の勇者様の権威を知らしめる贄となるならば本望であるが、そうでないならば話が違うのだ!
私も、弓の偽勇者に討伐された貴族の一人であるが、その点が一番納得できなかった。
弓の偽勇者は己の手柄を隠すのだ!
なんと愚かな事か!
嗚呼、弓の勇者様のためにと我が身を差し出した妻子供使用人達に面目が立たぬ。
ただただ、無駄に懲らしめられたのでは何の意味も無いではないか!
私が涙を拭ってバルマス教皇様に相談したところ、教皇様はこう説いてくださった。
「アレは弓の偽勇者です。伝承に伝えられし強さでは、その弓は一度放つと大地を割き、争う人々の間に境界を定め、天地を創造するとされています。そして、世界に真の正義を知らしめるとされています。嗚呼、可哀想に、弓の偽勇者にやられてしまったのですね。我々もかの偽勇者には困らせられているのです。どうかその時のために堪えてください。そして、祈りを捧げようではありませんか」
嗚呼、泣き寝入りしか無いと思っていたが、偽物ならば何も問題はない!
私は教皇様の教えに感謝の涙を流し、一方的に悪と決めつけられ、偽者とその仲間に蹂躙され、そして最終的には妻子に逃げられた顛末に対して、偽物に正当に復讐できることに、感激の涙を流した。
おお、神よ!
真の勇者様よ!
私を見放しはしなかったのですね!!
私は弓の偽勇者一行が施設に入ったのを確認する。
私の仕事は、偽勇者が愚かにも三勇教を調べた際に、確実に浄化するために祠の一番奥に到着したことを伝える役目である。
ここは人里離れた僻地に存在する、過去に三勇教が遺棄した祠の一つである。
そこを少しばかり体裁を整えて、使っているように見せかけただけの、何もない祠なのだ。
真の勇者であれば、看破するはずだと教皇様も仰っていたので、何の警戒も無く祠に突入した彼らが偽物であるのは、もはや疑いようがなかった。
私は弓の偽勇者が祠の中央に侵入したことを確認すると、合図を送った。
それで、『裁き』が下る。
最後に愚かな偽者の……勇者を騙る愚か者の顔を拝むのも一興だろう。
気づかれないように、気づかれない位置どりで、私は愚か者の顔を拝むために移動する。
「なっ?! 何も入っていません!!」
嗚呼、その間抜け面が拝めただけでも最高だった。
光が降り注ぐ。
偽物を裁く光が降り注ぐ。
「イツキ様! 上を!」
「?! アレは……! 不味い! 逃げないと!」
仲間から指摘され、ようやく自身の危機を察知した愚か者は、弓を構える。
「転送弓! あれ、何で?! 何で?! 転送弓!! 転送弓!!!」
愚かな偽者の断末魔が心地よかった。
その焦り、その絶望、その恐怖に歪む顔!! それが!! 私が見たかったものだ!!
「うわあああああぁぁぁあぁぁあぁぁぁああぁぁ!!!」
「イツキ様! 何とかしてください! イツキ様あぁぁぁ!!」
次第に光は強くなっていき、そして私の意識も含めて、偽者もこの祠も、何もかもを光へと帰していった。
「嗚呼、三勇者様に、教皇様に栄光あれ──」
そして、私の意識も──
巨大な爆発音が鳴り響く。
天空から降り注ぐ、神聖魔法。
高等集団合成儀式魔法『裁き』
直撃を受けた祠は溶けて消え、熱によって溶けてマグマ化した地面と、爆風により抉れたクレーターのみが残るだけとなった。
弓の勇者がどうなったかを知るものは、この場にはもう居なかった。
フ────
スッとしたぜ
何故だろう?