俺たちが西の方に移動していると、明確な殺気が近づいてきた。
「ラヴァイト!」
「クエ!」
ラヴァイトは俺の掛け声に、馬車を停車させる。
「そこの馬車、止まりたまえ」
どうやら、向こうの馬車から降りてきたのはメルロマルクの兵士だった。
「私が行こう」
ライシェルはそう言うと、俺の方をポンと叩き馬車を降りる。
「メルロマルク軍所属ライシェル=ハウンド部長だ。どうされましたか、デメル分団長」
「ライシェル部長か。お前が見張っている冒険者の処分が決定した。身柄を引き渡すが良い」
「?!」
おいおい、雲行きが怪しくなってきたな。
「具申いたしますがデメル分団長、現在は我々は盾の悪魔を捜索している最中です。その決定は承服し兼ねます」
「貴様の意見など聞いていない。やれ!」
「くっ!」
ライシェルは剣を抜く。
ま、この時期なら勇者の殺処分が決定した時期だからな。
俺は剣とボウガンを装備して飛び出す。
アーシャとラヴァイトもそれに習う。
「おらっ!」
「キクチ=ソースケが出たぞおおおお殺せええええ!!」
「ソースケ様!」
「皆殺しだ! どうせ奴らは三勇教の手先だからな!」
「了解しました!」
俺は剣で相手の剣を受け流し、素早く小手返しをして首を掻っ切る。
まずは一人目!
「ソースケくん!」
「うるさい! 殺意を持って俺を殺そうとしてくる以上は殺されても文句の言いっこは無しだ!」
ライシェルさんにそういうと、俺は戦いを続行する。
アーシャは本当に俺の指示通りに的確に暗殺して行く。
姿が見えるのに暗殺するっていうのもアレだがな。
ラヴァイトはフィロリアルキングの姿のまま、兵士でリフティングをする。
気絶させるだけまだ優しいな。
「やはり《首刈り》! 貴様は我等三勇教に楯突くか! 邪教徒め!」
「はっ! テメェらカルト宗教に言われたくねぇな!」
思ったよりも敵の練度が高いのか、殺害前に割って入られたりして思うように殺せていなかった。
やはり、人間無骨は人を殺すのに最適化された槍だったなと改めて思う。
「あの女は危険だ! 殺せー!」
「連携して攻撃を妨害するんだ!」
などと喚いているが、俺はそんなに長期にとどまるつもりは無かった。
「テメェらの目論見はわかってるんだよ! テメェらと無理心中なんてゴメンだね!」
俺はそう言うと、腰に剣を収めた。
そして、投擲具のナイフを装備する。
「ソースケくん?!」
「安心しな。カースは使わないから」
アクセサリーが無いのに装備されたままの投擲具に、精霊は一体何を考えているのかわからないが、使えるものはなんでも使う主義だ。
「タイム・フリーズ」
俺がスキルを行使すると、全ての時が止まる。
この中では呼吸が出来ないので、30秒ちょいが俺が時の止まった世界で動ける時間だ。
また、使用中は声を発することができないし、常時SPを消費するデメリットもある。
俺は素早く動いて兵士共の首を掻っ切れる位置に投擲具のナイフを設置する。
「そして、時は動き出す」
そう宣言する必要はないけれど、宣言すると、俺が首を掻っ切った兵士が首から血を噴出させて倒れて行く。
「は? は?」
ライシェルさんと鍔迫り合いをしている分団長が困惑した表情で周囲を見渡す。
ラヴァイトにリフティングされて気絶した兵士、アーシャに暗殺された兵士、俺に首を掻っ切られた兵士、死屍累々の光景が広がっていた。
「あ、悪魔……!」
「お前も死ぬか?」
分団長を残した理由は簡単である。情報収集のためだ。
俺はナイフを首筋に突き立てる。
「わ、私は悪魔になんぞ語る口は持たない!」
「そっか、じゃあ死ね」
俺は投擲用ナイフで首を掻っ切る。
まさか本当に殺されるとは思わなかっただろう分団長は、驚愕の表情を浮かべながら、血の泡を拭いて絶命した。
「ソースケくん……。やはり敵には容赦の無いのだな」
「そうしなきゃ生き残れなかったのでな」
投擲具を装備から外すと、スゥッと投擲具が光の玉になって体内に吸収された。
どうなっているんだこれ?
「ははっ、私も、なんだか裏切られた気分だよ。まさかここまで酷い有り様だとは思わなかった」
「そうかい。とりあえず乗りなよ。そろそろここに『裁き』が落ちてくるぜ」
「『裁き』……か、どこまで腐っているんだ! 女王さまに会わせる顔がないぞ、オルトクレイ王……!」
愕然とするライシェルさん。
まあ、クズは良いように三勇教に使われているだけの哀れな道化に過ぎないからな。
憎しみに目が昏み、叡智の賢王としての資質が眠っている状態だ。
家族のためと言う盲信で暴走している可哀想なやつなのだ。
だからこそ、こんな状態でもクズの命令に兵士が従っている程のカリスマを持ち合わせているわけだしな。
「ソースケ様、移動の準備ができました」
「ああ、ありがとうアーシャ」
「いえ、ご褒美は夜に宿の中でいただければ」
「あのさぁ、そのネタいつまで引っ張るわけ?」
「もちろん、いつまでもですわ」
俺は呆れつつ、馬車に乗り込む。
ライシェルもそれに続いた。
「……しかし、ここまで強硬手段に三勇教が出るとは……」
「とにかく、西の砦に向かうぞ。ラヴァイト!」
「クエー!」
俺たちはそうして難を逃れた。
後ろで物凄い音がしたと思ったら、『裁き』が先ほど俺たちがいた場所を焼き尽くしていた。
あーあ、お仲間の死体があったのになー。
俺にはもはや関係のない話だがな。
「まさか、本当に……!」
「それだけ俺の存在は奴らにとって邪魔なんだろうな」
「もしかして、他の勇者様の身にも同様のことが……?!」
そこに行き着くとは天才か?
「どちらにしても、今は確認のしようがないだろ。行くぞ」
落ち込むライシェルを放置して、俺たちの南西の砦への旅は続くのであった。
明確に三勇教が敵になった以上は、俺はもう、立ち向かって来るならば躊躇うことなく皆殺しにしてしまうつもりで行動した。
俺が狙われると言うことは、道化様に同行しているレイファ達にも危険が及んでいるはずである。
俺は焦燥感を感じながら歩みを続けるのであった。
宗介くんのチートスキルが発動!