しばらく考えても、いい策は思いつかなかった。
「ソースケ、朝だよー」
コンコンとノック音が聞こえてくる。
「ああ、起きてるよ、レイファ」
俺は手近の服をサッと着る。
インナーで寝ていたので、そのままだと問題だろうからな。
扉を開けるとレイファがニコニコしながら待っていた。
「おはよう、ソースケ」
「ああ、おはよう、レイファ」
天使がいた。
まさにこの世の天使だろう。
この天使を歪ませるのは、誰が許そうと俺が許せない。
レイファの肉体も精神も、守るのは俺自身である。
クソ女神の……メガヴィッチの制約に俺は負けてはならなかった。
逆らえば頭と魂がパーンではあるが。
「朝ごはんできてるから、食べに行こう?」
「ああ」
「えへへ」
うーん、こういう妹は最高やな!
だが、この妹を守るためにも、俺はヴィッチとレイファを会わせてはいけないと思う。
あのクソ女がどういう人物かと言うのは【盾の勇者の成り上がり】で散々思い知っているからな。
一番は、燻製……マルドみたいな同類に押し付けてしまう事だろう。
類は友を呼ぶと言うしな。
……この国にはそう言う自分勝手な奴らは多数いるだろうから、押し付ける分にはそこまで問題ではないだろうな。
最悪、錬を見習って普段は別行動にしてしまうのもアリかもな。
俺はそんな事を考えながら、朝食を食べてしまった。
「坊主、仕事に行くぞ」
「ああ」
「私は?」
「レイファには今日は別の仕事を任せる予定だ」
「うん、わかった」
と言うわけで、俺はドラルさんに連れられて、次の依頼を受けに行った。
「坊主、基本はお前にはギルドで仕事を受けてもらう」
「ああ、だから登録をしたんだな」
「そうだ。もちろん、お前が自立してやっていくのは構わない。人手が足らなければ、レイファを連れて行って構わない」
「報酬の分け前は?」
「家賃、食費、今回の武器代を払ってもらえれば良いさ」
うーん、ドラルさんは人が良すぎないか?
なんだかんだ言ってメルロマルクはクソみたいな村人が多いからな。
まあ、これでさようならなんて恩知らずなことはしないがな。
「わかった。じゃあ今日も簡単な依頼を受けて、戻る感じかな?」
「そうだな。俺は一度戻って木こりをするが、夕暮れになったらラヴァイトと共に迎えに来るとしよう」
「了解」
という感じで、俺はドラルさんと別れて、ギルドのカウンターに向かった。
さて、クソ女とどのタイミングで出会うやら。
まあ、そう時間もかからなかったわけであるが。
「ねぇ、あなた、一人で依頼を受けるの?」
声を掛けて来たのは、美女であった。
直感でわかる。
コイツ、メガヴィッチの分霊だ。
ライトブルーの髪色に、若干のツリ目、見ればわかる。
メガヴィッチに非常に似ている。
「ああ、そのつもりだけれど……」
「良かったら、私と一緒にその依頼、やってみない?」
ニッコリと微笑むヴィッチ。
ホント、本性さえわからなければ美人なのになぁ。
性格ドブスとか、俺の好みではない。
まあ、制約に引っかかって死ぬよりはマシだろう。
「良いのか?」
なので、知らないふりを俺はすることにした。
「ええ、もちろん。私から提案したんだものね」
服装は、少し装備が豪華な感じがする。
きっと俺よりもレベルが高いのだろう。
「それは助かるな」
魔物を狩る依頼なので、人手があったほうが早く終わるのも確かだしな。
断ったら死ぬ以上、断る理由もない。
「ふふっ、よろしくお願いしますね。私はミナ、ミナ=デティラと言いますわ」
ほう、スペイン語で地雷っすか。
なんでマイン=スフィアと言い地雷を名乗るんだろうな?
「ミナさんだね。俺は宗介、菊池宗介だ」
「へぇ、まるで伝説の勇者様みたいな名前なんですね!」
「ああ、よく言われる」
俺は肩をすくめてそう言う。
確か、分霊は記憶を共有してないんだっけな。
だから、ミナが俺を波の尖兵として送り込んだ事を知る由がない。
「そうなんですね。剣と槍と弓と小手を装備しているみたいですけど、それを全て使うんですか?」
「ん、ああ。俺はこの武器を全部一人で使うぞ」
「ふーん、珍しい戦闘スタイルですね」
「まあな」
俺からはあんまり仲良くなる気がない。
明らかに媚びた態度であるが、こっちも無下にできない理由もある。
なので、クールを装ってみることにする。
「それじゃ、早速依頼を達成しに行きましょうか! ソースケさん」
「ああ」
と言うわけで、俺は冒険者ミナ=デティラと共に、魔物の討伐依頼をこなすことになったのだった。