でも、話を繋げるためには必要なので許してください!
「もう少しだというのに……」
今、俺たちの視界には国境を見張る石造りの砦……関所があった。
宗介の言によると、俺はここで戦うらしい。
見張りが砦の上で辺りを監視している。
行き交う人々はそんなにいない……関所にいる見張りが馬車の積荷をチェックしている。
「まったく、妙に監視が厳重だな」
「わたし達がいるからでしょ? 北東の関所よりは兵士が少ないから良いじゃない」
「そうなんだがな」
何故か元康が関所前いる。放火魔も一緒だ。
これも宗介の予言通りでうんざりする。錬や樹ならまだマシだろうにな。お前は話を聞かないだろ。
とは思うが、俺の思い込みの所為で会話が成立しないのかもしれないとフィトリアに言われたばかりだ。
まあ当人であるビッチがいるから会話にならないのかもしれない。
だけどここは正面から挑まないと抜けられそうにない。
フィーロやメルティ、ラフタリアの話なら少しは聞いてくれるかもしれないと淡い期待をしておこう。
ここからさらに迂回すると、それだけ日数がかかるし……目的地は目の前でもあるんだ。
何より元康だ。今までだってどうにかなったじゃないか。もしも会話が成立しなくても関所を突破していけばいい。
そう──強行突破だ。
「メルティ、ゴールが近いんだ。悪いが関所を強引にでも突破するぞ。まあ、その最中に元康と話をするがな」
ピーチクパーチク騒ぎそうだけれど、念は押しておこう。
「わかったわ」
「ん? どうしたんだ?」
「何が?」
「印象が悪くなるからやめろとか言うかと思った」
「……」
サッとメルティは視線を逸らしてバツが悪そうにつぶやく。
「あんなことしちゃうほど、国が荒れているなら荒療治も必要よ」
アレか、盾に負けるぐらいなら封印された化け物の封印を解いて街を滅ぼしたって良いとか思うあの領主のことを言っているんだな。
メルティは決断力があるんだな。これは好印象だ。
このまま逃げ続けるくらいなら正面突破して被害を減らすのも手だ。
「よし、じゃあ行くぞ! 準備はいいか?」
「万全です」
「フィーロ、体が軽いよ」
「わたしも全力で行くわ」
「……よし!」
俺が手を挙げるとフィーロが荷車を強く引いて走り出した。
そのまま関所に突入する。
「盾の悪魔が現れたぞ!」
相変わらずご挨拶な連中だな。
こっちは妥協して話をしようと考えているのに、これだ。
フィトリアに言われて考えを改めたが……宗介の言う通り戦いは避けられそうにない。
「車止めを展開させろ!」
関所の扉の前に尖った杭が何重にも絡んだ車止めが設置される。
荷車でこれを超えるのは厳しい。
それでもフィーロは速度を緩めない。
「尚文いぃぃぃいいぃぃ!!」
元康がこちらに向けて槍を構える。
お前はフェミニストだからな。フィーロに手など出せないだろ。
そう思ったところで、元康の槍が輝く。
「マイン!」
「はい!」
ビッチが魔法を詠唱する。
「ツヴァイト・ファイア!」
「エアストジャベリン! そして──」
マインの唱えた魔法を追いかけ、元康がスキルで生み出された光り輝く槍を俺たちに投げつける。
「合成スキル、エアストファイアランスだああぁぁぁああぁぁ!!」
炎の槍が俺たちに向かって飛んできた。
やばい!
俺は咄嗟にフィーロの背中に飛び乗ってスキルを唱えた。
「エアストシールド! セカンドシールド!」
スキルで作り出された盾が元康の放ったスキルを受け止める。
しかし、どうやら一歩及ばなかったようで炎の槍をフィーロは荷台から飛び出す形で避け、ラフタリアはメルティと手を繋いで荷車から脱出した。
あの元康が何の遠慮もなくスキルをぶっ放してきた?
しかも何だそれは。魔法とスキルが合わさって合成スキルになるのかよ。
アレだ。魔法剣とかそう言う類の攻撃だ。
今までやってこなかったのは手加減していたからなのか?
「いきなり何をするんだ!」
逃げる前に話ぐらいはしようと思ったが問答無用で攻撃するとか。
「マイン!」
「わかっていますわ!」
ビッチな王女が兵士共に視線を送る。
するとバチバチと俺たちを中心に魔法で構成された檻が現れる。
「キャ!?」
「なーに? これ?」
「な、なんだ?」
大きさは40メートル四方。かなり大きな雷で構成された檻だ。
魔法……なのか? それとも何かしらの道具で作られたモノか?
「やっと、やっと見つけたぞぉぉおぉ! 尚文ぃぃいぃいいぃい!」
元康の様子が明らかにおかしかった。その様子はまるで宗介が暴走した時を思い起こさせる。
「元康……」
「絶対に逃がさない!!」
元康の表情は、明らかに怒りの表情であった。いつもの余裕があるような表情ではなかった。
なんだ? 普段の元康にある軽い感じがない。
「ナオフミ、これは捕縛の雷檻って言う魔法道具だったはずよ」
メルティが檻の方を見て教えてくれる。
「設置型の罠で、術者と対象を閉じ込めるの」
「術者もか? この罠は何が目的なんだ?」
「対象を逃がさないことを目的としている」
なるほど、俺達がフィーロの脚力に頼って逃亡を図るから逃げられないようにしたのか。
「わたしでも壊すことはできるけど、ちょっと時間がかかると思うわ」
「罠を正しく解除する方法は?」
「道具を使用した相手から鍵を奪えば……」
俺はフィーロから降りて元康を睨む。
「戦うのですか?」
「その前に交渉するつもりだが、十中八九そうなるな」
ラフタリアも剣を取り出して構える。
「ラフタリア、お前は防具が心もとない。できれば下がっていてくれ」
「ですが……」
「フィーロが戦う?」
「そうだな。戦いが始まったら任せる」
元康はなんだかんだで美少女に弱いからな。先程は遠慮なく攻撃してきたが、避けることを前提にしていたのかもしれない。
「メルティは檻を壊せないか?」
「やってみるけど……期待しないでね」
「じゃあ、ラフタリアはメルティを守りながら様子を見ていてくれ」
「はい!」
俺はみんなを代表して歩き出す。
「尚文、作戦会議は終わったか?」
「元康、話を聞け」
フィトリアに注意されたから、なのかも知れない。
元康は何も知らされず、ビッチな王女に騙されている。
そうでなければ、ラフタリアを助けようとか思わないはずだ。
元々考えが軽いだけで、本気で俺を嵌めようと思っていたわけじゃないと仮定しよう。
「お前の話を聞くつもりはない!」
まったく、コイツは未だに洗脳の盾が実在すると信じてしまっているのか。
むしろこの考えなしの方が洗脳されているんじゃないかと疑いたくなる。
しかしこいつは槍の勇者。俺が異世界から召喚される時に読んでいた本である四聖武器書を参考にするなら槍の勇者は仲間想いという事になる。
仲間想い=仲間を疑わない。
そしてコイツの後ろにはビッチとクズ王がいる。盲目的に仲間を信じるなんて実にバカな奴だ。
「モトヤス様、早くメルティと、盾の悪魔に洗脳されたもの達を救うのです」
ビッチに至っては火に油を注いでいる。どこまでも心が醜い女だ。
「今回は手加減なんてしてやらない。お前を全力で倒す!」
「……それはこっちの台詞だ」
思えば異世界に召喚されて二日目と一ヶ月目に元康には辛酸を舐めさせられてきたんだ。
ここらで一矢報いるのも一興か。
って、またこのパターンかよ! 学習しろ、俺!
「とにかく話を聞け、勇者同士で争っている場合か? 錬や樹はどうしたんだよ。お前だけしか追ってこない理由を考えないと完全に道化だぞ!」
俺は悪だと思うのなら、俺を追ってこない錬や樹を話題に出そう。
そうすれば元康も何かがおかしいと思ってくれるかも知れない。
「お前が殺したくせに! お前の甘言なんて誰が信じるものか!」
「は?」
殺した? 何を言っているんだ?
錬と樹を殺す? 俺達が? どうやって?
「おい元康、何を言っているんだ? 殺したってどういう事だ?」
「そうやって錬や樹を騙して殺したんだな!」
「は? どういう事か説明しろ!」
「とぼける気だな! 俺は聞いたんだぞ! お前が近くの街に封じられた魔物を解き放った後、レイファちゃんを人質にして錬と樹の不意をついて殺したって!」
俺達がフィトリアの聖域にいた頃、メルロマルク国内ではそんな事件が?
考えられるのは事件の強引さに疑いを持ち、調査していた錬と樹を都合が悪いから消した。
クズの王か三勇教の連中かわからないが、罪を俺になすりつけ、元康に囁いた奴がいる!
「誤解だ! 気付け、俺が錬や樹を殺す理由が無い」
「うるさい! レイファちゃん達も用済みだと言って殺した殺人鬼のくせに! 俺はお前を信じない! もはやお前に対する慈悲すら残っていない! たとえ女の子を盾にしようとも、錬や樹、レイファちゃんのためにも手を汚してみせる!」
「はぁ? レイファを? それこそ俺が殺す理由がないだろう!」
「うるさい! 黙れ! その口を開けるな!!」
……ダメだ。話が通じない。元康の中では錬や樹、レイファを殺した犯人が俺だと確定してしまっている。
くそ、先手を打たれた。
フィトリア、すまないな。どうやらこの国の連中は世界の事なんてどうでもいいみたいだ。
世界の危機とやらに立ち向かう四聖勇者はもう二人だけになってしまったらしい。
元康のこの様子じゃ、俺を殺さない限り納得しないだろう。
だけど俺は死ぬわけにはいかない。
俺は盾をキメラヴァイパーシールドに変化させて元康に向かって構える。
元康はビッチ、そして女二人の仲間がいる。さらに関所から兵士がやってくる。檻のおかげで入ってくることができないみたいだけど、それだけで逃げづらくなる。
対してこっちは俺とフィーロが前線に立ち、メルティは罠の解除、ラフタリアは守りに入らせている。
「尚文、お前を倒すと誓った時に出現した強力な槍を見せてやる」
元康はそう言うと、グリフィンが象られた禍々しい槍に変化させた。
あれは、カースシリーズか?!
くそっ、厄介なものに目覚めてやがる。
「傲慢の槍。この槍でみんなの仇を撃たせて貰う!」
「はっ、『傲慢』なんて槍はお前の事をわかっているじゃないか。自分が道化であることを知りやがれ!」
良いだろう。今は前とは違う。
メルティは戦えないが、俺にはラフタリアとフィーロがいる。
宗介に教えてもらった盾の強化方法の信頼ブーストもある。
盾が本気を出せる状況ならば、たとえカースシリーズだろうが負けはしない。
いざ、尋常に……どちらが強いかをここで見せつけてくれる!
「「うおおおおおおおおおおおおお!」」
俺た達は各々の未来を懸けた戦いを始めた。
元康さんが憤怒を発現するわけがないでしょ!
自分こそが勇者なんて傲慢にもほどがありますねー