波の尖兵の意趣返し   作:ちびだいず@現在新作小説執筆中

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原作率80%


槍と盾の戦い

「尚文を倒すために生まれた槍の専用効果を見せてやる! セルフカースブロウイング!」

 

 元康がカーススキルを発動すると、槍から黒い風が舞い上がり槍に黒い風を纏う。

 おそらく、名称からして憤怒の盾Ⅱのセルフカースバーニングと同系統のスキルだろう。思えば宗介の両手両足が燃えていたのもセルフカースバーニングの炎と同じものだった。

 

「フィーロ、お前は元康を──」

 

 俺はすぐさまフィーロに指示を出す。

 女であろうと容赦しないと決断した元康はフィーロにも殺気を放って、槍を構えている。

 

『力の根源たる次期女王が命ずる。(森羅万象)を今一度読み解き、彼の者等に炎の雨を降らせ』

「ツヴァイト・ファイアスコール!」

 

 随分と傲慢な詠唱をしたビッチが炎系範囲魔法を放ってくる。

 

「ナオフミ、フィーロちゃん!」

『力の根源たるわたしが命ずる。理を今一度読み解き、彼の者等に降り注ぐ炎の雨を妨害せよ』

「アンチ・ツヴァイト・ファイアスコール!」

 

 メルティが檻の解除を行う前に、ビッチの詠唱した中級魔法を相殺する。

 しかし、完璧に相殺しきれず、俺たちに向けて火の雨が降り注いだ。

 辺りが一瞬にして火の海のなった。幸い、前線にいた俺とフィーロにしか直撃していない。

 

「そう何度も、モトヤス様を蹴らせたりしませんわ」

 

 ビッチの奴、本気で俺たちに向かって魔法を唱えやがった。

 メルティも魔法は得意なのだろうが、相手が悪い。

 ビッチとではLVと言う大きな差がある。

 

「フィーロ、大丈夫か?!」

「うん、大丈夫!」

 

 火の雨を受けても、フィーロはダメージを受けていないようだ。

 俺は……まあ、波の時に騎士団から魔法の洗礼を受けても無傷だったわけだし、痛くもかゆくも無い。

 

『力の根源たるわたしが命ずる。理を今一度読み解き、恵みの雨を降らせよ』

「ツヴァイト・スコール!」

 

 メルティが自信とラフタリアを守る雨を降らす。

 

「さあ! モトヤス様は盾の悪魔に意識を集中してください! 鳥は私達が魔法で近づけさせません」

 

 ビッチは配下と共に魔法の詠唱を始めた。

 

「いっくよー!」

 

 詠唱を気にせずフィーロは元康に向けて駆け出す。

 

「待てフィーロ──」

 

 むやみに突撃したら、あの傲慢の槍から何が飛んでくるかわからない! 

 

「ウィング・タックル!」

 

 風邪で作られた大きな塊が元康を蹴り飛ばそうとするフィーロに向かって飛んでいく。

 

「ほっ!」

 

 ボフンと人型になったフィーロがグローブを即座に手に嵌めてツメにして元康に切りかかる。

 

「そうか、洗脳されているとはいえ、この勇者である俺に向かってくるか!」

 

 元康の槍がフィーロを狙って攻撃する。

 あれは間違いなく殺すための軌道だ! 

 フィーロはフィトリアから人型時での戦い方を学んだおかげか、槍を上手く避けてツメで切りつける。

 

「行くよ! たあああああああああああ!」

 

 フィーロが素早くツメを元康に向かって振りかぶる。まるでネコ科の戦い方のようなヒット&アウェイ。敏捷なフィーロ独自の戦い方だ。元々は強靭な足による力技が常だったのに、フィトリアから教わった戦い方でここまで成長したと言うのか。

 

「フィーロちゃん! この勇者である俺に挑むならば、相応の報いを与えねばならん」

 

 元康の言動が、カースのせいかおかしい。

 なんだその偉そうな態度は! イライラする! 

 元康の槍が煌めく。

 

「小手調べだ。羅刹・流星槍!」

 

 させるか! 俺はフィーロを守るように前に出て盾を突き出す。元康が高らかに跳躍したかと思うと槍が黒く光り輝き、俺たちに向かって投げられる。

 槍の形をした、エネルギーで構成された攻撃が俺に降り注ぐ。

 

「ぐぅ……?!」

 

 一番防御力の高い盾の部分で受ける。

 信頼ブーストがあるはずなのに、ずしんと体の奥に響くような重い一撃が盾を通じて俺に降りかかった。

 全身の骨がミシリと嫌な音を立てる。いきなり必殺技とか何を考えているんだ! 

 まあ、現実の戦いだったら出し惜しみなんてするも必要ないか。

 

「ほう、さすがは盾の悪魔だ。では、次だ。往生・乱れ突き! 厭離穢土・昇竜槍!」

 

 カースの入ったスキルを次々と繰り出してくる。俺のキメラヴァイパーシールドの専用効果、蛇の毒牙なんて目もくれず打ち込んでくる。

 カースの影響か、受けた俺に回復遅延の呪いの状態異常にまでかかる。

 くそ……Lvが高いからって調子に乗りやがって! 

 

「マイン、皆の者!」

「はい! ツヴァイト・ファイア!」

「「ツヴァイト・エアーショット!」」

「受けるが良い! 炎と風と俺のスキルによる合成スキル! エアストカースバーストフレアランス!」

「ぐぅぅぅぅ……!!」

 

 防御しきれなかった所から激しい痛みが走る。

 あの元康の異様に傲慢そうな態度は確実に、カースシリーズに飲まれてやがる。

 蛮族の鎧に炎耐性と風耐性が無かったらどうなっていたかわからないな。フィトリアが加護をしてくれたおかげだ。

 血が吹き出ているのが見ていなくても分かった。

 回復魔法を……かける余裕を元康は与えてくれるつもりはなさそうだ。

 

「シールドプリズン!」

 

 盾の檻が元康を中心に展開される。

 

「緩いわ! 降魔・大風車!」

 

 槍をブンブンとバトンのように振り回し、出現した盾を元康は、薙ぎ払う。

 く……信頼ブーストがあるにも関わらず、元康の攻撃力が俺の防御力を大きく上回っていて止めることができない。

 これでスキルのクールタイムが無くなったらまた連続でスキルを放ってくる。

 さすがに防戦一方では勝機はないに等しい。

 

「ごしゅじんさま!」

 

 フィーロが腕を交差させて元康に駆け寄る。

 

「フィーロちゃん、勇者でない君が勇者同士の戦いに割って入るなど笑止千万よ」

 

 だから誰だお前は! 

 元康の普段の言動や態度とはかけ離れすぎている。

 だが、今の元康はその傲慢な言動を実現できるだけの力がある! 

 近づいてくるフィーロの腹に向けて槍の柄の部分で薙ぎ払う。

 その前に俺は魔法を唱えた。

 

『力の根源たる盾の勇者が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者を守れ』

「ツヴァイト・ガード!」

 

 ガツンと大きな音を立てて、元康の一撃はフィーロに刺さることなく跳ね返された。フィーロはフィトリアとの戦いで人型時の服に高い防御力を宿らせるのを知ったからな。

 さすがにファストだと防ぎきれたか怪しいが、ツヴァイトならば元康の攻撃も相当耐えれるはずだ。

 

「ほう、やるでは無いか」

「フィーロ、負けない!」

 

 その隙を逃さず、フィーロは元康に切りかかる。

 

「小癪な。フィーロちゃんでは俺を止めることなど叶わないと言うのにな」

 

 攻撃を余裕の表情で避け反撃するフィーロにバックステップをして魔法を唱える。

 

『力の根源たるフィーロが命ずる。ことわりを今一度読み解き、かの者を激しきしんくうの竜巻で噴き飛ばせ』

「ツヴァイト・トルネイド!」

『力の根源たる次期女王が命ずる。(森羅万象)を今一度読み解き、真空の竜巻を霧散せよ』

『『力の根源たる私が命ずる。理を今一度読み解き、真空の竜巻を霧散せよ』』

「「「アンチ・ツヴァイト・トルネイド!」」」

 

 フィーロの魔法も三人がかりの相殺によってただのつむじ風になる。

 更にフィーロは意識を集中させる。俺は元康の腕を掴んで動きを止めた。

 

「触るな下郎!」

「誰が離すか! フィーロ!」

「うん! はいくいっく!」

 

 フィーロが高速で移動し、俺が捕まえている元康の背後に立つ背後に立つ。

 ザシュっと切り裂く音とガキンと防ぐような音が聞こえる。

 

「俺に当てたことは賞賛してやろう」

 

 なっ! フィーロのハイクイックを一部防いだだと! 

 俺の拘束を解き放ち、槍を回転させて、槍を回転させて俺の顔をめがけて突いてくる。

 速い! 首を横にずらして避けたが、槍にまとわりつく風が俺にダメージを与える。

 

「ぐぅぅ……!」

 

 俺は元康から距離を取る。

 

「は!」

「うわあああああ!」

 

 ラフタリアによって檻の中にいた一人の兵士が切り倒された。

 兵士共が隙あらばラフタリアとメルティに向けて攻撃しようとしているが、この二人だって馬鹿じゃない。身を守ることぐらいできる。だが、それもどこまで持つか……。

 どうする? 元康さえ倒せば切り抜けられそうではあるが、傲慢のカースシリーズによって強化された挙句に、ビッチ達が邪魔だ。

 ジリ貧だ。俺の体力が尽きるのが先かビッチ達の魔力が尽きるのが先かで結果が大きく変わる。

 

「ん?!」

 

 ビッチ共……魔力を回復させる魔力水を飲んでいる。

 やばいぞ……これじゃあ、あの魔力水が切れるまで俺は耐え続けなければならなくなる。

 

「やるではないか。その力で錬や樹を殺したか!」

「だから違うと言っているだろうが! 話を聞けっての!」

 

 スキルを何度もはなっているのに余裕の表情を崩さない元康。こっちはかなりのダメージを受けてるよ! 

 血が体から滴っているのを感じる。

 

「それにこの強さは、情報通とは違ったタフな育ちをしているからだ。お前のような異世界万歳俺TUEEEをしたいわけじゃねぇ」

 

 これまでこの世界に来て、色々と試行錯誤を繰り返してきた。

 強くなるために手段を選んだつもりはない。解放できる盾の装備ボーナスは貪欲に埋めてきたつもりだし、宗介のお陰で盾の強化方法の一つである信頼ブーストもかかっている。それでも……負け職では勝てないのか? 

 

「無礼者!」

 

 ビッチの叫び声がして、元康がそちらの方を向く。俺も元康の見いている方角に目を向ける。

 元康の仲間の一人の肩に魔力剣が突き刺さっていた。

 おお、これで奴等は魔法を使いづらくなったぞ。

 ラフタリアが防戦一方になっていた俺たちのために援護してくれたのだ。

 メルティの方は……檻の破壊をこなしつつ、近寄ってくる兵士を魔法で撥ね飛ばしている。

 だが、それでも近寄ってくる兵士がいる。

 

「第二王女! 覚悟!」

「メルちゃん!」

「ぐわあああ!」

 

 メルティが対処しきれない状況にフィーロがフィロリアル・クイーン形態に戻って兵士共を薙ぎ払う。ハイクイックほどじゃないが素早く動いている。フィトリアとの戦いのおかげだ。

 

「ナオフミ様とフィーロにだけ注意を向けすぎて隙だらけです!」

「この!」

 

 仲間をやられてビッチが剣を振りかざしてラフタリアに斬りかかる。

 

「前にも剣で戦い合いましたよね。貴女は私に勝てません!」

 

 キンと音を立ててラフタリアはビッチの突きを受け止めて弾く。

 うん。かなり善戦している。後はメルティがこの檻を破壊してくれることを祈ろう。

 

「下郎が! マインに触れるな! く……」

 

 元康がビッチの元に駆け寄ろうとするのを俺が阻む。

 

「聞け、元康。全てはお前の周りにいるビッチな王女と三勇教の陰謀だ。錬や樹、レイファを殺したのは俺達じゃない」

「聞かぬといったであろう下郎が! 俺の道を阻むか!」

 

 何度も会話を試みるが、カースに侵された元康に聞く耳はない。仲間想いなんて言うが裏を返せば盲信しているようなもんだ。頭が固くて信じない相手の言葉は耳に入らない。

 どうする。俺に攻撃手段はないし、フィーロに攻撃してもらうにしてもメルティを守るために離れてしまっている。もちろん、呼べばくるだろうが……。

 

「ナオフミ様!」

 

 ラフタリアが尻尾を膨らませながら俺を呼んだ。それだけで何を伝えたいのかわかった。

 なるほど、さっき見本を見せてくれたのは元康だもんな。

 俺はビッチの元へ駆け寄る隙を伺っていた元康を敢えて通し、同時にラフタリアと呼吸を合わせる。

 

『力の根源たる私が命ずる。理を読み解き、姿を隠せ』

「ファスト・ハインディング!」

 

 意識を集中させた瞬間、俺の視界にスキル名が浮かび上がる。

 なるほど、こうするのか。

 

「ハインディング・シールド! チェンジシールド!」

「俺のマインに何をする! パラライズスピア!」

 

 元康がラフタリアに向けてスキルを放つ……が。

 

「何!?」

 

 ラフタリアの目の前に突然、盾が出現した。

 そう、これが俺とラフタリアの合成スキル。

 ハインディング・シールド。見えない魔法の盾を作り出すスキル見たいだ。

 その盾をチェンジシールドでカウンター効果のある盾にする。

 俺が変えたのはソウルイーターシールド。カウンター効果はソウルイート。

 

「ぐあ!」

 

 ソウルイーターシールドが元康に食らいつき、なにかを奪って光の玉になって俺に飛んでくる。

 

「俺のSPを奪っただと!」

 

 やはりそうか。ソウルイーターシールドのカウンター効果は相手のSPを奪う。

 元康のSPがどれほどのものかわからないが、これである程度戦えるはずだ。

 

「ナオフミ様を弱いと思わないことです」

 

 ラフタリアはそう言うとハイド・ミラージュで姿を隠して移動する。

 

「どこに行った!」

「モトヤス様! お任せを」

 

 ビッチがラフタリアの潜伏魔法を消そうとしたが、既にラフタリアは十分距離を取っている。

 

「小癪な真似を!」

 

 今度は俺に向かって元康がイノシシのように駆けてくる。

 

「羅刹・──」

 

 元康が安堵する俺に向かってスキルを放つ。確か、このモーションは流星槍だったはず。

 強化された鎧によって良くなった動体視力なら……行ける。

 俺は黒く光り輝く槍の柄……風をまとっていない位置を力強く掴む。

 

「俺の流星槍を掴んだか!」

「さっきから馬鹿のひとつ覚えみたいにスキルをバカスカぶっ放しやがって! もう完全に見えるんだよ! ノロマ!」

 

 キメラヴァイパーシールドのカウンター効果、蛇の毒牙(中)が元康に食らいつく。

 

「う……体が」

 

 やっとの事で毒が回り始めたか。

 元康が槍からどうやったのか薬を取り出す。

 え? 今どこから出した? 

 

「させるか!」

「一足遅かったな」

 

 邪魔しようと手を伸ばすが、呆気にとられた隙に飲まれてしまった。

 

「ふう……下郎にしてはなかなかの策だが、通用すると思うなよ?」

 

 槍から解毒薬を出すってなんだよ。やり方がわからん。

 

「毒が効かない……ねぇ? 他にも効く手段は色々とある事は既に証明済みだと思うんだがな」

 

 とは言っても、カースシリーズのせいか能力値に補正が入っている元康にとってはハッタリでしかない。

 

「いい加減、少しは人の話を聞け! 俺達は錬や樹、レイファ達に手なんて出してねぇよ! 全てはお前の背後にいる女の陰謀だと何度言えば理解する」

「黙れ外道! 貴様の話は聞かないと言っただろうが! 俺は俺の女の言葉以外を聞くつもりなどない!」

 

 傲慢になって余計に話が通じなくなっている。

 とにかく、これでフィトリアの頼み通り、最大限譲歩したつもりだ。

 奴が傲慢の槍を使っている最中でも、憤怒の盾に頼らない方法でな。

 

「交渉決裂だな。できればこの手段は使いたくなかったが」

 

 もったいぶって盾に手をかざす。このままじゃジリ貧なのは確かだ。

 メルティがこの魔法の檻を破壊することができない限り、増え続ける増援の兵士にいずれ俺たちは押し切られかねない。その前に逃げなければ終わる。

 

「フィーロも忘れちゃダメだよー」

 

 俺はラフタリアの援護をするように指示を出す。

 

「さっきの攻撃方法を見て、お前も警戒するんじゃないか?」

「くだらん。見え透いた考えだ」

「メルティ」

「何よ?」

「わかるだろ?」

「……わかったわよ」

 

 俺の考えは一つだ。

 ラフタリアの魔法によって見えない盾を出現させ、元康が動いたところでカウンター効果の盾にフィーロやメルティの魔法を合成させてダメージを与える。

 下手に魔法を使うと妨害されるが、この方法はどうなんだろうな? 

 

「お前の仲間も、その槍も、攻撃方法は炎か風が多いみたいじゃないか。俺には効果が薄いことぐらい……わかってんだろ?」

 

 なにが幸いするかわからないものだ。フィトリアの加護で対等に戦うことができる。

 

「それと、俺にもま奥の手があることぐらい理解できないわけじゃないだろ?」

 

 憤怒の盾を元康は一度見ている。

 あの傲慢の槍よりも強化されている盾だ。

 まだその盾を使っていない状況で、対等に戦っている状況だ。このまま憤怒の盾を使ったらどうなるんだろうな? 

 まあ、フィーロが暴走するだろうがその程度は目を潰れる。

 

「ふふふ、ははははははは!」

 

 突然、元康が笑い出した。

 

「なにがおかしい」

「切り札! 切り札か! そうだな、俺も似たような切り札を持っている」

 

 やはり、既にⅡにグロウアップしていたのか?! 

 

「お前で実験するのも悪くないだろう、なあ、尚文!!」

 

 元康はそう言うと、地面に槍を突き刺した。

 

「バインドランス!」

「な?!」

「ナオフミ様!」

「ナオフミ!」

「ごしゅじんさま!」

 

 まるで俺をあの日、ビッチ共の前にインナーのみで拘束されたときのように槍が俺の身体を拘束した。

 空中の至る所から槍が出現して俺を拘束する。

 

「デディケートランス」

「がっ!」

 

 腹部に衝撃を受けると、俺を空中に押し上げるように地面から槍が突き出していた。

 

「憤怒の盾!」

 

 俺はとっさに憤怒の盾に切り替える。

 逃げようにも動けない! 

 来る!! 

 

『その愚かなる罪人への我が決めたる罰の名は聖なる十字架に供物として捧げられる苦しみ也。叫びすら供物として捧げられ、激痛に身を委ねるがいい!』

「トーチャーステークス!」

 

 背後に出現した禍々しく装飾された十字架に、槍によって両手両足が縛られる。

 やばい! これはまずい! 

 目の前に心臓を穿つ杭が出現する。

 ガーン! 

 一度打ち付けられるだけで俺は吐血した。

 

「ガハッ!」

 

 次が来る! 憤怒の盾でも防ぎきれないダメージだ! 

 何度も受けてしまうと俺のHPが尽きてしまう! 

 

「させません!」

 

 ラフタリアが飛び上がり、杭を剣で防ぐ。

 

「ごしゅじんさまを傷つけるなんて、許せない!」

 

 なぜか暴走していないフィーロが杭を蹴り、破壊した。

 杭が破壊されると同時に、両手両足の拘束が解除される。

 

「す、すまない、助かった」

 

 俺は何とか地面に降り立った。

 

「ほう、トーチャーステークスを耐えるとはさすがは盾の悪魔だな」

 

 と、不意に元康が苦しみだす。そして元康の槍が元に戻った。

 

「ぐ……、これ以上はさすがにキツイ……!」

「モトヤス様! 大丈夫ですか?」

 

 あの系統のカーススキルはSPを全て消費するからな。それに長いこと使用していると精神が侵される。俺も即座にキメラヴァイパーシールドに戻した。

 元康も、傲慢の槍の後遺症で精神にダメージを負っている今がチャンスだった。

 ボフンとフィーロが人型に変化する。

 

「フィーロちゃん! 今よ!」

「うん、メルちゃん!」

「呼吸を合わせて!」

「わかったー!」

 

 メルティとフィーロが二人で息を合わせて魔法を唱え始めた。

 

『力の根源たるわたし(フィーロ)達が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者を──』

「合唱魔法?!」

 

 ビッチ達の顔色が変わる。

 何だそれは? ……いや、魔法書で読んだ覚えがある。

 高位魔法の中には術者が協力して、魔法を唱えることがある。

 合唱魔法はその一つだ。

 最低二人必要なその魔法は一人で唱えるよりも複雑な魔法が唱えられる。

 この合唱魔法の上位が儀式魔法と言われ、それはもう高威力の戦争でも使われる大規模魔法を発動できる……らしい。

 

『暴風雨で薙ぎ払え』

「「タイフーン!」」

 

 メルティとフィーロが合わせた手から魔法が紡がれ、小さな、それでいて威力の高そうな水気を含んだ竜巻が元康達の方へ飛んでいく。

 さすがに魔法を無効化することができず、元康達はそのまま耐えることになる。

 

「く……俺が守ってみせる!」

 

 精神的にボロボロでありながらも、その前に立って仲間を守る姿勢は評価されるべきだろう。

 槍を横にしてメルティとフィーロの唱えた水竜巻を受ける。

 

「ぐあああああああああああ!」

 

 既にカースシリーズでない元康は堪えきれずに宙を舞う。

 だが、メルティとフィーロの魔法もそれが限界なのか、水竜巻は消え去った。

 ドサッと元康が地に倒れる。しかし、即座に起き上がった。

 

「俺は……俺はここで負けるわけにはいかないんだ。ここで負けたらメルティ王女も、ラフタリアやフィーロちゃんも盾の悪魔のものになってしまう」

 

 ……ここまで来て正義を確信しているコイツにはある意味、賞賛の感情が浮かんでくる。まさに、傲慢だろう。

 というか、何で俺が悪役のような扱いを受けているんだ。

 まさか、元康には俺がゲームでいう中盤のボスのように映っているのか? 

 何という不愉快な扱い。誰がボスキャラだ。

 

「絶対に、助けるんだ。錬や樹、レイファちゃんのためにも」

「女好きの道化も、ここまでくると哀れだな」

 

 洗脳なんてしていないのが見ていてわからないのか。

 この執念をもっと別の方向に向ければいいのに……もったいない。

 

「く……」

 

 既にカースシリーズを使うわけにもいかない。決定打を俺たちに与えられない。仲間が蹂躙されかかっている。

 そこまで考えて、まだ闘志を失わない精神は、確かに勇者だ。

 だが、盲目的に自分の正義を主張し、身内を疑わないというのはどうなんだ。だからこそ傲慢のカースが発動するんだ。

 

「諦めろ、カースのないお前は俺たちには勝てない。素直に話を聞いてくれ」

 

 もはや意地だ。この石頭をどうにかしないと先に進めない。

 ……逃げるまではな。

 

「メルティ、さっきから援護してくれるのはありがたいが、早く魔法の檻を壊してくれ」

「今、やってるところ!」

「モトヤス様! 早く盾の悪魔を倒さないと逃げられてしまいます! さあ、早く私に盾の首と妹のメルティを助けて差し出してください!」

「わかっている!」

 

 その味方が実は全ての黒幕だと言うのを知らない。欲しいのはメルティの首だろ。

 元康、本当の悪が目の前にあるのを理解しろよ。

 しかし、ビッチも諦めが悪い。

 ラフタリアに視線を向けるとコクリとうなづく。

 ハイド・ミラージュで隠れて、今度こそビッチを黙らせて欲しい。

 前回使った魔力剣なら容易いだろう。ビッチを昏倒させたら今度こそ逃げよう。

 ……ついでに殺してやりたいという感情は多大にある。

 だけど、ここで俺の無実を証明するためには殺すわけにはいかない。

 殺すのは俺の無実が証明されあのクズ王をどうにかしてからでなければならないだろう。

 そうでなければ、俺はあのクズと同格になってしまう。

 気に入らない相手に対しては身内であろうとも犠牲にし、手を緩めない。

 そんなので良いのか? 否、俺は無実を証明してみせる! 

 

「まだだ……まだ俺は負けられないんだぁああああああああああああああ!」

 

 元康が玉砕覚悟なのか、槍を俺に向けて突進してくる。

 

「フィーロ!」

「待って!」

 

 俺の指示に待ったをかけたのはメルティだった。

 メルティは周りを見渡すと、俺のこう告げた。

 

「さっきまでいた兵士が見当たらないわ。何が起ころうとしているの?」

 

 メルティの指摘に呼応するように、ピクリとフィーロは背中の羽毛を逆立てて、フィロリアル・クイーン形態に変身し、メルティを背に乗せ、潜伏しようとしていたラフタリアに手を伸ばす。

 

「え──」

「メルちゃん!」

「ど、どうしたの、フィーロちゃ──」

「きゃあああああああああああああ!」

「わ、私は王女よ、魔物風情が何の権利があってそんな無礼を──」

 

 その足でハイクイックしたのか姿をぶらせながら元康、ビッチとその仲間を俺の方に乱暴に蹴り飛ばして近寄らせる。

 

「な、フィーロちゃ──ぶべ!」

 

 なんだ、思いのほか簡単に元康を倒すことはできるんじゃないか。

 と、思ったが肩で息をしている。

 しかも、元康をはじめ、ビッチ達に対してダメージを与えていない。

 フィーロをはじめとした敵味方全員が俺の足元に集まった状態だ。

 

「ごしゅじんさま! 全力で防御! あの黒い盾にして! じゃないと無理!」

「い、いきなり──」

「いいから早く! 上にいっぱい盾出して!」

「くっ! わかった!」

 

 フィーロの剣幕に押され、咄嗟に憤怒の盾に変化させ、シールドプリズンを張り、エアストシールドとセカンドシールドを発動させる。

 プリズンが出現するのと同時だっただろうか、空から巨大な光の柱が俺たちに向けて降り注いだ。

 

「ぐう……!」

 

 ズシンと体の芯まで響く思い攻撃だった。




ちなみに、魔法の詠唱が原作時点でイマイチ統一されてないので、波の尖兵の意趣返し独自ですが統一しています。

理を読み解き:ファスト
理を今一度読み解き:ツヴァイト
森羅万象を今一度読み解き:ドライファ

ビッチはドライファの詠唱を唱えてますが、習得していないのでルビになっています。

傲慢元康はまあ、誰を下書きにしているかわかるよね?

トーチャーステークはオリジナルカーススキルですね。
苦しみの杭と言う処刑です。

盾:アイアンメイデン
剣:ギロチン
弓:ファラリスの雄牛

と来てるので、槍はこれしかないかなと。

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