波の尖兵の意趣返し   作:ちびだいず@現在新作小説執筆中

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剣の勇者と冒険者ソースケ

 これはまだ、俺が錬とパーティを組んでいた頃の話だ。

 まだ、人を殺したことのないただの冒険者だった頃、精神が破綻する前の俺の記憶だ。

 

「ん、お前らどこに行くんだ?」

 

 俺がどこかに行こうとするウェルトや燻製達を呼び止めると、微妙な笑みを讃えてこう答えた。

 

「いえ、我々もソースケさんにばかり頼るわけにはいかないので、訓練をして来ようと思っているにですよ」

「そうか。まあ、そうしたいならそれが良いんじゃないか? お前たちが強くなるのは錬サマにとってプラスだしな」

「ええ、ええ、そうですよね。では行ってきますね」

「ああ、頑張ってこいよ」

 

 燻製は一言も喋らなかったのが怪しかったが、気にしてもしょうがないだろう。アイツと話していてもイラつくだけだからな。

 ウェルト達が出て行った後でしばらくして、錬が戻ってきた。狩が終わったのだろうか? 

 

「む、ソースケだけか。他は?」

「俺がいなくても機能するように訓練をするらしい」

「そうか。これから依頼を受けようと思ったんだがな……」

 

 そう言うと、錬は俺に依頼書を見せてきた。

 クレイジートロールの討伐……どうやら、第二の波の時にこの世界に居着いた魔物のようだった。この世界にはゴブリン、オーガと言った人型の魔物は居ない。亜人国ですら存在が確認されていないのだ。

 

「非常に珍しい魔物だ。この時期以降しか出現しないアップデートで追加されたモンスターだな。これを討伐しに行こうと思ったんだが……」

 

 錬はそう言って困った表情をする。

 

「ソースケ、お前と俺二人で行くか?」

「構わない。燻製がいない分楽になるだろうしな」

「ならば早速出発するか。ウォーミングアップも終わったしな」

 

 と言う訳で、訓練に行ったウェルトや燻製を置いて、俺と錬はクレイジートロールの出現する森まで来ていた。

 馬車でしばらく行った先の森なので、日帰りは余裕だろう。

 

「さっそくお出ましか」

 

 錬がそう言うと、ゴブリンっぽい敵が出現した。

 

「クライゴブリン。雑魚だが集団で出てくる厄介な魔物だ」

 

 錬はそう良いながら一刀のもとに斬りふせる。

 こう言う解説の時は、饒舌になるのが癖だな。

 

「そうか、まあ、この程度ならば特に問題はないかな」

 

 俺も錬に負けじと槍で斬りふせる。

 人間無骨はなかなか良い槍だ。直槍モードでも十二分に魔物の討伐が出来る。

 片手で軽々と槍を振り回しながら、剣で飛び道具を弾く。中距離の敵は槍で、近接距離は剣で斬り伏せる。

 俺と錬はそう苦戦することもなく、クライゴブリンの集団を一掃した。

 

「ふむ、経験値がなかなか美味しいな」

「まあ、他の魔物に比べればな」

 

 同程度の強さのデルヤマヌシと言うヤマアラシの化け物に比べれば、経験値が10%程度は高い。

 

「先を急ぐぞ」

「あいよ」

 

 俺と錬は特に苦戦することもなく、敵を排除して先に進む。

 森はダンジョン化しており、至る所から魔物が出現する代わりに、希少な薬草やらが収集できるため、そちらも回収しながら攻略していく。

 人数が少ないので持てる数が少なくなってしまうのは、現実でもゲームでも一緒か。

 それはゲームによりけりだな。

 

「ぜいやああああ!」

 

 ズバッとエルモオーガを錬が切り裂く。

 あんなゴア表現が凄まじいのになんでゲームの世界だと認識できるんだろうな。内臓とかなかなかグロテスクだ。

 

「ふぅ、そっちはどうだ? そろそろ最深部も近いはずだが……」

「そうだな。思っていたよりもさっくり進めちゃったもんな」

 

 しかし、今日本語で話しているが、気づかないもんなんだなぁ。

 まあ、わかっててやっている訳だが。

 

「ん、どうやら発見したようだ。あそこにいるのがクレイジートロールだな」

 

 見た目はウィザードリィに出てくるトロールそのままで、腹の出た大男って感じだ。

 耳は尖っており、亜人……人間でないことがはっきりわかる。その目には理性が宿っておらず、知性のない亜人が魔物視されてしまうのは仕方ないかもしれなかった。

 

「行くぞ!」

「おうよ」

「GAAAAAAAAAAAA!!」

 

 剣を腰に収め、槍のみを構える。

 錬が切り捨てるが、HPに余裕があるのか平気そうである。

 槍で切っても皮膚が硬いので刃が通りにくい。

 

 ゴウンっと音を立てて棍棒が俺に迫るので、槍で受け流す。

 インパクトの瞬間に力の方向を変化させると、思いっきり空ぶったようにずっこける。

 

「はああああ!」

 

 すかさず錬が追撃する。

 しかし、この異様にHPと防御力の高いトロールはなかなか倒せない。

 こりゃウェルト達がいたら足手まといだったなと思いつつ、俺は槍で攻撃を受け流し受け流し、隙をついて切る。

 

「GUOOOOOOOO!」

 

 しぶとい奴だな。

 

「魔力解放、第2段階」

 

 俺は槍に魔力を流し込んで、十卦モードに変形させる。

 人間無骨は十文字槍になると、防御無視の効果が付与される。

 

「ツヴァイト・サンダーブリッツ」

 

 俺は魔法を詠唱し、手に雷を纏う。

 接近戦用の雷の魔法で、殴って発動する系統の魔法だ。

 雷を付与して殴るので、威力が見込める魔法で、ショットに比べれば自分の武器に魔法を付与しやすい。

 俺がその手で槍を掴むと、槍が青白い雷を纏う。

 すると、ステータス魔法で確認できる俺の必殺技の名称の頭に雷系統の名称が付与される。

 

「必殺! 雷鳴乱れ突き!」

 

 バチバチと青白い雷を纏った槍を高速でランダムに敵に突き刺す。

 手数を稼ぐ時に使うが、十卦モードだと全て防御無視のためクリティカルヒットする。

 ドシュドシュっと音を立てて槍が硬い皮膚を突き破り、肉に雷を流し込む。

 

「GAAAAAAAAA!!」

 

 トロールは叫び声をあげる。

 

「雷鳴剣!」

 

 錬が雷を纏った剣で切るつける。

 雷系統は結界破壊の効果がある。最近鍛えているらしい。

 よろめくトロールにチャンスだと感じた俺は、槍から剣に装備をスイッチさせる。

 

「シュッ!」

 

 槍で破壊した皮膚の部分を狙って皮膚を削ぐように剣を振るう。

 メリメリと音を立てて皮膚が剥がれ落ち、肉が露わになる。

 

「ソースケ!」

「行くぜ!」

 

 錬とは呼吸が合っている気がした。

 その剣でのコンビネーションは極めて自然に出来たと言っても過言ではなかった。

 それは、錬が集中している事と、俺が全体に意識を向けて錬の集中を削がないように動いていることも関係しているかもしれない。

 俺と錬の攻撃によってあっという間に鎧の皮膚を全身剥がされて、肉が露わになるトロール。

 

「トドメだ! エアストバッシュ、セカンドソード! はああああ! 紅蓮剣!」

「必殺! 抜剣・獅子孫々!」

 

 錬がスキルで、俺が抜刀術で切り裂くと、全身なます切りにされたトロールは声すらあげずに絶命した。

 

「ふん、楽勝だったな」

「皮膚が硬かったけどな」

 

 錬は俺に拳を向けてきたので、俺はそれに答える。

 トンっと拳を合わせて錬と喜びを分かち合った。

 

 宿に戻ると、すでに空は日が落ちかけていた。

 ウェルト達も訓練が終わったのか戻ってきていた。

 

「ああ、レン様、どちらに行っていたのですか?」

「お前達がソースケ抜きで立ち回れる訓練をしていると聞いてな。手が空いたソースケとともにクレイジートロールを討伐してきたところだ」

「は、はぁ……」

「ギルドに報告はしてある。俺は飯を食べたら経験値を稼いでくるから、お前らも飯を食べたら自由にしていいぞ。すでにこの村の近辺のスポットは教えてあるからな」

「わ、わかりました」

 

 錬はそう言うと、さっさと食堂に行ってしまう。

 

「ふん、いい気にしていられるのも今のうちだぞ、冒険者!」

 

 燻製がそう言って、錬の後に続く。

 

「では、我々も勇者様と共にしましょうか」

 

 ウェルトの声とともに、俺たちは夕食にすることにしたのだった。

 

 これは、ウェソン村に到着するかなり前の話だ。

 既に連中はこの時から動いていたのだが、俺は気にも留めなかった。

 いずれ、俺は離脱する運命だと理解していたからだ。

 だが、命まで狙われることになるなんて、思っても見なかったわけで……。


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