プロローグ
メルロマルク城。
何気に訪れるのも久しぶりである。
前回はいつだったか……?
今までの数ヶ月間が濃密すぎてまるで大昔のように感じる。
「投擲具の勇者様一行、入場!」
途中で回収したレイファとリノアと俺で謁見の間に入る。
久しぶりに見る光景だな。
玉座には女王陛下が座っている。メルティ王女はこの場にいないようだった。
クズが座っている位置とは逆の椅子に座っている。
「ようこそおいでくださいました。投擲具の勇者様。私はメルロマルク女王、ミレニア=Q=メルロマルクです」
鋭い眼光だ。萎縮しちゃうよね。
俺とリノア、レイファは首を垂れる。
「お恥ずかしながら具申いたしますが、私は単に投擲具の精霊様よりこの武器を預かっている身。真の投擲具の勇者ではありませんので、どうか《首刈り》とお呼びください」
俺がそう言うと、謁見の間がざわつく。まあ、ありえない事なんだから仕方ない。
コイツは俺を正当な所持者とは認めていないが、俺から出ていかない以上は預かっていると言った方が正しいだろうからな。
「……面をあげなさい。わかりました、ソースケ=キクチ殿。では、単にソースケ殿と呼びましょう」
「はっ!」
俺たちは顔を上げる。
「では、ソースケ殿、此度は四聖勇者様方と協力しての逆賊ビスカ=T=バルマスの討伐、誠にご苦労様でした。女王である私からも直接感謝を述べたいと思います」
「いえ、当然のことをしたまででございます」
「また、調査の結果我が国の国教である三勇教の企みで、強制的に剣の勇者様のパーティを離脱させられ、暗殺されそうになったことをお詫び申し上げます」
「こちらこそ、貴国の国民を、襲われたとはいえ殺害したこと、深く謝罪致したいと申し上げます」
女王陛下からお詫び? 恐れ多すぎるわ!!
「ふむ、報告に上がってきていた人物像とは若干乖離があるようですね。もっとこう、狂気に彩られた殺人鬼を想定していました」
だから、護衛の兵士が多いのだとわかった。
「否定は致しかねます」
間違いではない。その自覚はある。
そもそも、容易く首を刎ねるなんて、常人の感覚から逸脱しているしな。
悪人にお前のやって来たことは悪だと教え、蹂躙をする事は好きだし、それこそ、その時は間違いなく俺は狂気に彩られた殺人鬼に違いない。
「ふむ、そうですか。現状は理性的で冷静な人だとお見受けします。ソースケ殿、我が国メルロマルクは七星武器の権利を全て放棄しています。ですので、これ以降はメルロマルク国外に出る自由を保障いたします」
女王陛下がそう言うと、兵士が人数分の書状を渡してくれた。
「こちらは、メルロマルクの渡航許可証となっております。関所に見せれば、自由に国を行き来できます」
「ありがたき幸せ。頂戴させていただきます」
「それと、盾の勇者様が起きた後、祝賀会を開くことになっております。よろしければ、しばらく滞在して構いませんので、ご参加いただけないでしょうか? 勇者様方もソースケ殿と積もる話もあるようですし、有意義な時間になるかと思います」
「はい、参加させていただきます」
「よかった。では、此度の報奨金の授与を」
女王陛下がそう指示を出すと、例の高級プレートにお金の詰まった袋が乗せられたものを、兵士が目の前で捧げる。
「あの……、申し上げにくいのですが、刑を免除するのが報酬では?」
「いえ、調査の結果、ソースケ殿がその行為を行う原因となったのはこちらに非があります。ですので、お気持ちですがこれからのご活躍に期待して、報奨金の銀貨1000枚を追加報酬としてお支払いいたしましょう」
チラッとリノアを見ると、受け取りなさいよって顔をしている。レイファはまあ、怯えている。
「それに、お仲間の二人にも迷惑料として銀貨300枚をそれぞれ用意してあります」
「はっ、ありがたく頂戴いたします」
受け取ると、安堵したような表情をする女王陛下。
これは受け取った方が罪悪感がないな。
「では、ソースケ殿、レイファさん、リノアさん、祝賀会までごゆるりとお過ごしください」
「投擲具の勇者様一行には、メルロマルク城に滞在許可が降りている! 詳細は左官により指示があるので、謁見の間の外で詳細を伺うように! 以上!」
そんな感じで、色々とあっけにとられた女王陛下との謁見は終了した。
うーん、なんだかなぁ。先立つものが色々と急に手に入って、驚くほか無かった。
だが、改めてこの国は救われたんだなと実感することになった。
「はうぅぅ……。緊張したあぁぁ……」
「私なんてそもそも他国民よ! 色々と驚きね……」
俺たちは案内された部屋に到着した。
宿を取っていたんだけどなー。
まあ、それはいい。
なんでダブルベッドの部屋なんですかねぇ……?
いや、めっちゃ豪華だけどさ!
「まあ、それだけソースケが活躍したんですよ!」
「そうね。ソースケは自分は不要だったって言うけれど、他の勇者にも負けないくらい活躍していたわ」
いやー、俺がやったのって、兵士を一個師団虐殺しただけなんですがねぇ……。教皇戦では遠慮してたしなぁ……。ボコボコにできて気分は良かったが。
今でもあの肉が潰れる感触は思い出しただけでもなかなか……おっと、やめておこう。
とにかく、俺は無罪放免! やったぜ。それで十分だろう。
死んだ彼らも地獄で反省していることだろう。
いずれ俺もそっちに向かうから、恨み言は後で聞くぜ!
「それにしても、ふかふかのベッドなんて久しぶりー! 実家を思い出すわ」
リノアはゴロンとベッドに横になる。
パンツはピンクだった。
「リノア、パンツ見えてるぞ。デリカシー無いな」
「見せてんのよ。欲情しないの? 魅力的な女の子二人と相部屋なのよ?」
「妹相手に欲情するか!」
「……はぁ」
リノアはため息をついた。そして、俺に近づくと頬をつねる。
「アンタの妹フィルターはどうやったら外せるのかしらー??」
さあな。今はそう言うことに興味がとんと湧かない。精神的に追い詰められたままなんだろうな、俺は。心に余裕がない。
だからこそ、殺人狂になってしまったとも言えるが。
「さあな。アーシャには黙っておけよ。あいつ絶対夜這いしてくるからな」
俺はソファーに横になる。
考えなくてもレイファもリノアも魅力的なのは理解できる。だが、欲情はしなかった。
あの時以来、心が休まることは無かった。
今、休めと言われても心の休め方なんてもう、忘れてしまった。
その日は、そんな感じで1日を過ごしたのだった。