ふと、目がさめると俺はソファーの上ではなく、城の宝物庫の前に立っていた。
何故俺がメルロマルク城の宝物庫の前に突っ立っていたのがわかったのかと言うと、
「投擲具の勇者様! どうされたんですか? 宝物庫の前に立って」
見張り番をしていた兵士にそう声をかけられて、気づいたからだ。
「……う? 俺は……」
「なんだか虚ろな目でフラーっとここへきたのでびっくりしましたよ。一体何のようです?」
用ねぇ……。何故宝物庫の前に立っているのかを考える必要があるだろう。
まるで夢遊病のようにここへ来たと言うことは、竜帝のカケラの仕業か、カースシリーズラースダガーのどちらかの仕業だろう。
いや、待てよ。
俺の装備は没収された挙句に呪いの装備として封印されてしまったはずだった。
「……なあ、中に入っていいか?」
「いえ、流石にそれはご遠慮いただきたいです」
「たぶん、俺はこの先に用があるんだ。それが解決しない限り、俺はきっとまたふらっとここにやってくることになると思う」
「は、はぁ……。ですが」
「ここに俺の装備が封印されてるはずだ。それが呼んでいるんだ」
「……少々お待ちください」
俺の懇願に、見張りの兵士はそう言うと、誰かを呼びに行った。
戻ってきた兵士は、錬金術師を連れてきたのだった。
「こんな夜中に何の用でしょうか、投擲具の勇者様」
「すまないが、俺の装備にどうやら呼ばれててな」
「投擲具の勇者様の……?」
「ああ、捕まった時に没収されたやつだ」
「! なるほど。あの呪いの魔槍の持ち主は投擲具の勇者様でしたか! あれは大変危険なものなので、封印処理を施して奥深くに厳重に保管してあります。後日でも構いませんか?」
「いや、悪いが今すぐがいい。どうもあの槍に呼ばれている気がするからな」
じゃないと無意識に来たこともないはずの宝物庫に無意識で来るわけがなかった。
しかし、封印処理を施して厳重に保管ってどうなっているんだ?
俺が最後に見たときは、そんな呪いの槍みたいな状態じゃなかったんだがなぁ。
しばらく待っていると、鍵を持った兵士がやってきた。
「では、行きますよ」
俺を連れ立って、兵士と錬金術師で宝物庫の奥に進んでいく。
宝物庫の一角に到着すると、厳重に封印されたそれが見つかる。
槍サイズの箱に札が張られ、鎖でしっかりとロックされている。
「ええ、なんで人の武器をここまでする?」
驚いて俺はそう言葉を漏らす。
「それでは、ロックを解除します。気をつけてくださいね、その槍は触れるだけで人間の血を吸いますよ」
ガチャリと音を立ててロックが解除された。
蓋を開けると瘴気がむわっと溢れてくる。
見ると、見たこと無いような不定形の槍が一本収められていた。
人間無骨+の面影はあるが、装飾や機能自体が不定形な感じだ。
「……?」
だが、その槍は間違いなく俺のものであるのは直感でわかる。
「ああ! ちょっと!」
怪訝な顔をしながら、柄を掴むと、その不定形の槍は収縮し、一つのキューブへと形を変えた。
え、なにこれ。
鑑定すると、次のように表記される。
無骨 菊池宗介専用武器
持ち主の想像した武器に変化する呪いの武器。菊池宗介以外のものが持つと、呪いにより様々な状態異常になる。
無骨……。
俺が槍を想うと、そのハコを中心にズルリと槍が生えた。それは本来の人間無骨の形をしている。
短刀を思うと、ドスみたいな形状に変化する。
弓を思えば弓に、拳銃を思えば拳銃に変化する。
面白い武器だなとは思うが、なんだこれは。
「おい、他にも俺から没収した武器があっただろう? それはどこに行った?」
「同じ箱に封印していたはずです!」
封印されていた箱は空だ。
どうやら、この謎の箱『無骨』に統合されてしまったらしい。
ちなみに、箱じゃ持ちにくいなと思った瞬間にカードケースサイズになったので、形はなんだっていいのだろう。
「い、一体なにが……?」
「さあ……?」
俺としてもよくわからない。
溶けて再構成されたのか?
「その箱はまるでこの世の呪いが全て、濃縮されたような箱ですな」
それは、持っているだけでわかる。
おそらく俺が、『憤怒』のカースを使えるのもこいつのせいだろう。いや、下手すれば全てのカースを使えるようになるかもしれない、それほどの呪いの武器だった。
そして、持っているだけでわかるほど血を欲している。
俺が投擲具を取り出すと、メッセージウィンドウに【危険】と言う文字が浮かぶ。
おい、竜帝、こいつの呪いはどうにかできないのか?
ふむ、血塗れの勇者と接続された呪具か。お前の七つの罪を濃縮した、特大の呪いを持つ呪具。怒りだけなら我も制御できるが、他の呪いはそれぞれ担当の魔物でなければ制御できぬな。
うへぇ……。
ただ、お主が望めばその【危険】のメッセージを抑えることは出来よう。お主から生まれた呪いだからな。
ふーん。
それに、その呪具には女神の呪いも移してある。真実を告げようとすると魂を破壊する呪いもそこに封じ込めてある。故に、お主以外が触れると死ぬのだ。これは我の仕業なのだがな。
なんてことを……。
その武器で敵を殺害すれば、別の世界線であっても同じタイミングで死ぬだろう、それほどの呪いだ。
「……これ、再封印したほうが良く無いか?」
もはや人間無骨とは別物である。
俺を使って世界に呪いを振りまきたい災害じゃ無いか。
「そうですよね……。我々もそう思います」
「勇者様は平気なのですか?」
「ああ、人間無骨は元々俺のだしな。あー、親父さんにもう一回作ってもらうしか無いか。こんな呪具、流石に手に余るぞ……」
だが、手から離そうとすると、その意識がぶれて行動できなくなる。
箱に戻そうとしても戻せないのだ。
くっ……! 意識が逸れる……?!
「勇者様……?」
「どうやら、破棄・封印はできないようだな。仕方ない。持っているしか無いか……」
俺はポケットに入れる。
こんなもの、武器としても使えないし、どうしろと。
親父さんにでも見せてみるかな……?
こうして、人間無骨+は何かよくわからない呪具に変貌してしまっていたのだった。
色々言いたいことがある人がいるだろうけれども、これ以外の結論はなかったんや!
そもそも、宗介は武器は殺すための道具であって執着があるわけでも無いので…。