さて、ミナと組んでの依頼ではあるが、ミナは基本的に後衛で魔法を撃ってくれる。
俺が一人で前衛中衛後衛を果たせてしまうので、撃ち漏らしを魔法で攻撃する感じであった。
ああ、もちろんパーティは組んでいる。
現時点では猫を被っているのか、推測だけで俺がヴィッチだと決めつけている状態である。
おかげさまで、俺はレベルを7に上げることが出来たので、まあ問題ないだろう。
討伐が終わり、俺は街に戻る。
「今日はありがとうございました」
「いや、お陰でこっちも楽ができた。礼を言うのはこっちだろう」
俺はそう言って礼を言う。
「良かったら、明日も組みません?」
「ああ、それは構わない」
「それなら良かった。ソースケさんはどちらに泊まっているんですか?」
「ああ、俺はお世話になっている人のところに泊まっているよ」
「……ふーん、そうなんですね」
何処とは聞かなかった。
こちらの信用を得ることを第一目標としているのだろうか?
ヴィッチは基本自分の利益になる行為しかしないからな。
恐らく、俺を値踏みしているのだろう。
「じゃあ、明日も同じ時間にギルドに居る。そこで上手く落ち合えたら、またパーティを組もう」
なので、俺は妥協案を提示する。
別に俺はハーレムを望んではいない。
どうせなら元の世界に帰りたいものである。
だって、【盾の勇者の成り上がり22巻】は40ページまでしか読み終えていないのだ。
レイファを守るのが重要だから、優先度の低い目標ではあるがな。
「……わかりました。それじゃあお待ちしていますね」
と言うわけで、俺はミナと別れた。
取り分はミナの方を若干多めにしてやった。
黙らせるためでもある。
と言うわけで、俺はドラルさんに迎えに来てもらい、家に帰ったのであった。
一応、道中でミナと言う冒険者とともに、パーティを組むことになったことを告げた。
「好きにするといい。俺はそう言う女はあまり信用できないがな」
と言っていた。
俺もそう思います。
こっちも事情があるから仕方ないけれどね。
最悪全財産ギられてポイじゃないかなと思っているので、そこの管理は徹底するつもりだ。
翌日から、俺とミナはパーティを組んで依頼に当たった。
なんだかんだで戦いやすくはあるし、本性を隠しているからか、話しやすくはある。
気をつけてはいるが、戦闘時のフォローに関しては信用できるだろう。
それから3日経ったぐらいか、ギルド内で不穏な噂を聞いた。
「おい、メルロマルクでもついに【龍刻の砂時計】が落ちきるらしいぜ」
「マジかよ……。って事は、【厄災の波】が来るってことじゃん」
「場所はわかるのか?」
「いや、それは予測できないらしい。国は、発生した時点ですぐに軍を送るって言っているがな」
「でも、他国の話じゃ被害はかなりでかいんだろ? 小国だと滅んだ国もあるらしいじゃねぇか」
「メルロマルクは大国だから大丈夫だろ」
「それに、発生は明日らしいから、心配なら逃げる準備をしておけばいいんじゃないか?」
「何処で起きるかもわからないのに?」
「だからこそだろ」
そんな話が聞こえてきた。
「【厄災の波】……ね」
「ソースケさんは参加されるんです?」
ミナに聞かれて、俺は少し考えて答える。
「……まあ、そう言うことになるんだろうがな。セーアエット領か隣のアールシュタッド領で発生したなら、俺は挑まざるを得ないさ」
勇者じゃないので、波に転移する事は出来ない。
まあ、わかっちゃいるんだけどな。この波でルロロナ村……ヒロインであるラフタリアが住む村は壊滅するのだ。
流石に、波ほどの災害を一人で収められるほどの勇者のような実力はない。
俺では変えられないのだ。
ならば、少なくともレイファやドラルさんを守るべきだろう。
「そうなんですね。それじゃあ、良かったら波の間も私と一緒に戦いませんか?」
「……そうだな」
場所を考えれば、発生地点はルロロナ村である。
今回の波の場所は意図的に決まっているのだ。
距離的にはかなり離れているドラルさんの小屋は無事だろう。
そもそも、ドラルさんはめっちゃ強い。
今の俺が心配するだけ無意味である。
「ふふっ、それじゃ、よろしく頼みますわ」
「ああ、そうだな」
ミナの戦闘能力はこれでも買っているのだ。
ヴィッチ種の例ならば、そろそろ猫の皮がハゲるのではないかと踏んではいるけれどね。
ミナのせいでレイファとともに戦えないのだけれど、それは仕方ない事だ。
「ソースケさん、今日は戻られるんですか?」
「いや、今日はこっちに宿を取る予定だ。迎えにも事前にそう伝えている」
俺は一度もミナにドラルさんやレイファの名前を出していなかった。
これもわざとではあるけれどな。
「どちらに泊まられるんです? 良かったら同じ宿に泊まりませんか?」
俺は考える。
どう言う意図でそう言う提案を発したんだ?
そこまで深く考える余裕がないので、俺は端的な理由を考える。
「同じパーティなら近い方が良いか……。わかった」
「ふふっ、それじゃあ案内しますね」
俺はミナに連れられて、宿に向かう。
宿に到着したミナは、俺を自分の部屋の前まで案内した。
あー……。そう言うことね、はいはいなるほど、理解しましたわ。
「悪いけど、別の部屋でいいかな?」
「えー!」
「流石に同じ部屋に泊まれるほど、俺はミナさんを信用してるわけじゃないんでね」
「……チッ」
うーわ、めっちゃ小ちゃく舌打ちしやがったぞ、この女。
聞こえてないわけないだろうが、この至近距離で!
「そ、そうですよね。あはは、冗談です!」
ミナは笑顔で取り繕う。
俺が普通の波の尖兵だったなら、これから熱い一夜を過ごしてしまうのだろうけれど、そうは問屋が卸さない。
美人局など御免被りたいところである。
と言うわけで、俺は鍵をガッチリと掛けて、波に備えて爆睡したのだった。
だんだんめくれてくるミナの本性。