波の尖兵の意趣返し   作:ちびだいず@現在新作小説執筆中

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タイトルだけね。


尚文の凱旋

 場所を移して、決闘場に使った広間に移動した。

 中央にはギロチンが設置されている。

 

「ギロチン……ねぇ。アントワーヌ・ルイが考案した、受刑者が痛みすら感じずに処刑するための、人道的な処刑器具だったか」

 

 こちらでの発生はおそらく、勇者のカーススキルの模倣だろう。

 中世と言えばギロチンだが、他の異世界ではどうしてギロチンが発明されたんだろうな? 

 機能として言えば、木の拘束具で頭を垂らして、兵士が叩き斬る手法の方が現実的だと言うのにな。ギロチンを作成するコストやらを考えれば、斬首刑の方が普及しそうではある。

 別に受刑者が苦しむから、それを回避するためという意味で導入されたわけでもなさそうである。数ある処刑手段の一つ、みたいな。

 まあ、直接肉を断つ感覚は、常人であれば罪の十字架を抱えるほど重たいものだろうが。

 

「誰よそれ」

「俺の世界でギロチンを最初に考案した人だ」

「そうなんだ。処刑器具を開発するって引くわね……」

 

 引かれても困る。まあ、アントワーヌ・ルイはアイアンメイデンやギロチンの前身のハリファックス断頭台なんかを考案している処刑具マニアの外科医なので、俺と同じような狂人であるのは違いないだろうが。

 

「いずれ、ギロチンを巡る悲しい物語を教えてやろう」

「……アンタの世界の話なら、聞いてあげなくもないけれど、処刑道具の逸話は別に良いわよ」

 

 えー、聞いてくれても良いじゃん、面白いし! 

 まあ、置いておいて、目の前では喜劇が進行していた。

 流石に、王族が処刑されるだけあり大々的に取り仕切られている。

 レイファはもちろん、女王陛下、メルティ王女も顔が青い。処刑場は活気にあふれている。

 処刑台の上では、ヴィッチがぎゃーすか喚いているが、どうでも良いだろう。

 ちらりと見ると、尚文も顔が青い。

 まあ、俺はもう感性が壊れているので、清々しい気分しかしないのだが、一般的な感覚で考えれば、誰かの処刑を見るのは嫌だろう。例えそいつの自業自得であったとしてもだ。

 

「……ねぇ、ソースケ」

「どうした、レイファ」

「どうして、公開処刑なんてあるのかしら?」

 

 優しいレイファは、そう俺に問いかけてきた。

 レイファにとっては辛い光景だろう。だからこそ、意味や意義を解説するのは必要だろう。

 

「そうだな……。じゃあ、なんで俺が殺すと思う?」

「……身を守るため?」

「そうだ。公開処刑って言うのは国が自分が崩壊しないように身を守るためにある制度だ。こう言うことをするとこうなりますよって言う宣伝効果もある」

「そうなんだ」

「だけど、俺は女王陛下は執行しないと思うぞ?」

 

 俺がそう断言すると、レイファやリノア、アーシャがキョトンとした表情をする。

 

「は?」

「……ソースケ様?」

 

 何で俺が睨まれるんですかねぇ? 

 

「クズ……オルトクレイ王は杖の勇者だし、ヴィッチは死ぬと困るんだよ。フォーブレイ王に気に入られているらしいからな」

 

 俺がそう言うと、リノアとアーシャはすごく納得した表情をした。

 そう、杖の勇者を処分するわけにはいかないし、ヴィッチはフォーブレイがメルロマルクを許すための交換条件だ。だから、この公開処刑はただの茶番である。

 

「……なるほどね。盾の勇者様に伝えなくて良いのかしら?」

「必要はないさ。あのお人好しが、こんな残酷な事を看過できるはずがない。俺じゃないしな」

 

 俺が断言するのと、ヴィッチの懇願はほぼ同時だった。

 

「な、ナオフミさまぁ……! お願い助けて! ナオフミさまぁあぁぁ……! ナ゛オ゛ブミ゛ざま゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

 ヴィッチの顔面は涙や鼻水でぐしゃぐしゃで、メイクも溶けて凄まじい形相だった。

 俺ならば、クズは情状酌量の余地があるから別の刑を与え、ヴィッチはそのまま斬首をするがな。お優しいことに、尚文は処刑場にまで降りてきた。

 

「待て!」

 

 まるで演劇でもするかのように、声を響かせる。

 

「そんなやつらには死刑なんて生ぬるい! 死ねばそこで終わりだ。こんな奴らがそれで済んでいいのか?」

 

 尚文の問いかけに、会場がざわつく。

 尚文の登場に、女王陛下が安堵したような表情を一瞬浮かべたのが目に入った。うーん、なかなか目敏くなってしまったな。

 

「奴隷紋も反応しなかった。さんざん貶めてきた相手に本気で命乞いをするような面の皮の厚い奴らだ! それだけ厚いとギロチンの刃も通らないかもな!」

 

 尚文は二人を嘲るように言う。アニメ版そのまんまの展開だなと改めて思った。

 

「だから俺から提案だ! 王はこれから『クズ』、第一王女は『ビッチ』と名前を改めろ!」

「く、クズ……!」

「び、ビッチですってぇ?!」

 

 クズは悔しそうに、ヴィッチは顔を赤らめて恥ずかしさと驚きでそう言った。

 

「これから一生その名で生きていくんだ! それがいやなら死刑にでもなんでもなればいい!」

 

 書籍版でも最終的な着地点はそこだったな。

 すでに俺は呼んでいたがな。

 

「ちなみに、マルティには冒険者名として『マイン=スフィア』と言う名もあるようです。そちらは?」

「じゃあ、ビッチの冒険者名は……『アバズレ』だ♪」

 

 アニメそのままに、楽しげに指を鳴らしてそう命名する。クズもヴィッチも文句は言えないだろう。会場は笑いが起こる。

 

「今回の事件において一番の功労者である盾の勇者様から、最大級の温情がかけられました。よって、以降はオルトクレイ王を『クズ』、マルティ王女を『ビッチ』冒険者名を『アバズレ』と改名させます」

 

 クズは唖然と、ビッチは羞恥で顔を歪めている。ま、落とし所としてはこんなものだろう。ここでヴィッチを処刑しても、悪霊として復活するタチの悪い奴なのでな。

 人間無骨があったなら、魂をズタズタに傷つけるため粉砕することができるが、今は封印の解かれていない呪具と成り果ててしまったからな。

 

「そして、事件最大の原因である『三勇教』は、これを持って廃止。メルロマルク国は新たに『四聖教』を国教とします」

 

 女王陛下の宣誓により、ロザリオが相撲の座布団のように会場に投げ込まれる。レイファも、万感の思いを込めてロザリオを見ると、会場に投げ捨てた。

 

「……本当に良かったの? これで」

「仕方ないんじゃないか。それに、今はまだ殺すべき時ではないしな」

「……時々、ソースケってまるで未来を見てきたかのような事を言うわよね」

「まあな」

 

 むすっとするリノア。

 対してレイファは安堵したような表情をする。

 

「でも、盾の勇者様がお優しくて良かった。やっぱり、こう言うのは見ていて良い気がしないものね」

「……ま、殺すなら自分の手で殺したほうがいいさ」

 

 実際、この手で殺したほうが、処刑なんかよりもずっと気が晴れるしな。

 

「マリティナは公開処刑以外ないけれどね。アイツは皆んなを不幸にしたんだから……!」

「ヴィッチもそうだろ。それに、勇者を仲違いさせるように動いたのも罪だしな。まあ、いずれツケは払う事になるさ」

 

 俺は立ち上がると、三人の方を向く。

 

「悪は栄えた試しがないからな」

 

 俺もその点で言えば、悪である。

 悪によって悪を挫く、ダークヒーローみたいな立ち位置に立ってしまっている。

 錬が羨ましがりそうだな。

 

「……そうね。マリティナを捕まえないと!」

「どこまでもお伴しますわ、ソースケ様」

「私もついていくよ!」

 

 レイファ、リノア、アーシャ、それにライシェルにラヴァイト。それに我。頼もしい仲間がいる。

 さて、ここからはカルミラ島編だな。俺はどう動いたら正解なのか、改めて考える必要があった。


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