「私、ミレリア=Q=メルロマルクは此度の事件を鎮めるために尽くして頂いた方々に多大な感謝を致します。此度の祝宴、皆様、存分にお楽しみください!」
俺たち、所謂投擲具の勇者組が戻ってくるとすぐに宴が始まる。
ライシェルは王命で俺たちの支援を行うことになった。
一緒に旅をした仲間だからな。意味のわからないハーレムよりはマシである。
祝宴はバイキング形式とレストラン形式で、俺達は来賓席で食事が運ばれてくる。前回の第二の波の宴よりも豪華なのは、やはり主催が女王陛下であるからだろうか。
個人的にはこういう扱いは苦手だ。それは、レイファやリノアも同様である。
「うーん、なんか居にくいよ」
「今まで賞金首だったりしてたわけだしな……」
「やっぱり、ドレスコードがあったんじゃ無いの? そのままでいいとは言われてたけれども!」
「ドレスコードが無いのは女王陛下のお達しだ。気にすることはないさ、リノアさん」
しかし、マナーだけ見れば諜報員をやっていたアーシャがダントツでマナーが良い。続いてお嬢様のリノア、ライシェルがマナーが良いだろう。
所詮村人のレイファや、異世界人の俺はまあ、悲しくなるよな。
ふと、会場を見渡していると錬と樹、そのパーティが入ってくる。
錬はウェルト達と会話をした後、こっちに向かって歩いてきた。
「宗介も参加していたのか」
「ああ、どうしてもと言うことだったんでな。どうした?」
「お前も俺の仲間だからな、挨拶をしにきた。レイファもリノアも無事で何よりだ」
「レン様こそ、ご健勝で何よりです」
「レン様が元気で良かったです」
リノアが丁寧に、レイファはいつもの通りに挨拶をする。
「アーシャに助けてもらって助かった。改めて礼を言う」
「いえ、ソースケ様のご命令でしたのでお気になさらず」
アーシャはなんで俺をそこまで崇拝しているのかな? 意味不明だ。そんなにやってもセックスはしてやらないぞ?
「剣の勇者殿の話は聞いています。実際の噂はともかく、凶悪な怪物を倒していただき助かっております。私はソースケくんの仲間になったライシェル=ハウンドです。お見知り置きを」
「そうか」
ライシェルには素っ気ないな。まあ、元々はそんな感じであるが。
「宗介、戻ってくるならいつでも歓迎する。ではな」
錬はそう言うと、今の仲間の近くの席に一人で座る。相変わらずの様子だな。ウェルト達も大人しいのが悪いが。アイツは割と積極的に絡んで行かないと心を開かないんだよな。
ざっと見渡してみると、顔ぶれは冒険者の方が多い。アールシュタッド領の領主の姿は確認できた。奥さんっぽい人と幼い娘を連れているのが確認できるが、ミナ……ミリティナの姿はなかった。豚箱に送られたのかな?
女王陛下は尚文達としばらく話をしている。その間には貴族達がダンスパーティーをしているようだった。やはり、こう言う会ってのは貴族の社交場でもあるから仕方ないだろう。
こんな救いのない世界に公爵令嬢とかに転生した阿呆とか居るのかな? ……いそうだ。
まあ、今すぐに殲滅はしてやらないがな。レーダーには反応がないためこの場にいる人間には俺以外の波の尖兵は居ないが。
さて、そうこうしていると、俺のところに錬と樹を連れた女王陛下が参上した。
「ソースケ様」
「どうされましたか、女王陛下」
「これから、勇者様同士で会議を致します。よろしければ是非、ご参加ください」
ナズェ俺が……?
あ、投擲具の勇者だったっけ。
俺装備外せるから忘れるところだった。
「はっ、了解しました!」
丁寧なのは、俺は一般人であると言う自覚からだ。
「ご理解いただけたようで、ありがとうございます。では、ナオフミ=イワタニ様の所に参りましょうか」
と言うわけで、錬に樹、ついでに俺を連れて尚文に所に向かう。
女王陛下はそのままステージの上に登った。
「なんだ? どうしたんだ?」
「女王が集まってほしいって言うからさ」
「ええ、何でしょうね? 元康さんもいませんし」
「うーん、なぜ俺が……」
樹の言葉に尚文は鼻で笑い元康のことを教えてくれた。
「俺を毒殺しようとした女の容体を気にして治療院に行ったんだと」
「毒殺?!」
「わかるだろ? 奴だ」
「……ああ、本当だったのか」
「女王が毒を飲ませたのでは?!」
樹の推理は飛躍しすぎだろう。流石に顔に出てしまった。
このやり取りは分かっていたんだけどなー。
「……宗介さん、何ですかその顔は?」
「いや、流石に飛躍しすぎだろう。動機がない」
「む、そうですね……」
「ああ、その通りだ。それに、その時間、俺と一緒にいたし、奴が運んだ料理を奴に食わせただけだそうだ。だからアリバイがある」
「なるほど……」
なんて話していると、女王陛下が振り向いて勇者達に告げる。
「さて、勇者様方。此度の宴はどうでしょうか?」
「悪くない」
「ええ、達成感はあります」
「無罪が証明できて一安心ってところだ」
「……。え、俺? ご飯が美味しいです」
黙っていると錬や樹や尚文が見てきたので、そう答える。やっぱり勇者カウントなのね。投擲具手放したくなってきた。
こいつ、ほんとなんではなれないんですかねぇ……?
「それは何よりです」
扇子で口元を隠しそう告げる女王陛下。
女王陛下は何度もうなづいた後扇子を畳んで高らかに宣言した。
「この度は私共の国の者達が問題を起こし、勇者様方には多大なご迷惑をお掛けしました。その補填をしたいと私共は思っております」
カルミラ島活性イベント。あと、書籍版なら波が発生するな。ちょうど、グラス達……絆の世界と繋がる波だ。
まあ、仮に行くとするならばだが、レイファやリノア、ラヴァイト達のレベルを上げるにはちょうどいいだろうな。レイファは護身術の他にも魔法を使ってもらう必要がある。レイファだけ先行して龍脈法を鍛えるのもありだろう。
いいぞ。ならばそのカルミラ島に到着して、頃合いになったら我を呼ぶといい。
だが、行くとは言ってない。
「近々この国の近海にある……カルミラ島が活性化するようです。勇者様方には奮ってご参加くださるようお願いいたします」
尚文は頭にクエスチョンマークが浮かんだような顔をしている。まあ、知らないのは当然だろうな。
「本当か!?」
錬が喜んでる。感情をあまり表に出したがらない子なのに出すと言うことは、それほど嬉しいのだろう。
「何だそれ?」
「まさかのボーナスフィールドですか!?」
樹も喜んでいるな。俺は知っているが、すでに島のレベルキャップは超えている。レベリングするならば尖兵共を虐殺した方が効率がいいだろうな。
……既に尖兵共は俺にとって魔物と同一の存在なんだな。経験値タンク。
「イワタニ様はご存知ないようですので説明しますね。活性化と言うのは10年に一度、その地域で手に入る経験値が増加すると言う現象です」
詳細はまあ、知ってるだろうけれど解説するか。
カルミラ島ってのは、ハワイやグアムみたいな島だ。ルルハワみたいなものかな?
色々な魔物が生息しているので、レベリングにも最適。特に活性化の時期はそりゃもう冒険者で溢れる島になると言う話だ。
補填と言うのは、この島に行ける優先権である。レベル上げを妨げてしまった補填だと言うことだ。
「もちろん、宿の手配、入島の手配は済んでおります。皆さま奮ってご参加ください」
え、俺も?!
俺が自分を指差すと、女王陛下は頷き返してくれた。
どうやらカルミラ島行き確定のようだ。
「それから」
女王陛下は四聖勇者に提案をした。四聖勇者にだ!
「勇者様方には島に行く前に情報交換をなさってはいかがかと私共は提案いたします」
「情報交換……ですか?」
「はい。徐々に厳しくなる波を乗り越えるため、勇者様方にはもっと連携して臨むことが必要不可欠かと思います」
「……そうかもな」
錬の反応にびっくりする樹。
「俺はお前に強くなると誓ったからな。貪欲に行こうと思う」
「僕は不要だと思いますがね」
樹は相変わらずである。
「ですが私共はメルロマルク第三の波の時に勇者様方の連携がなっていなかったと聞いております。その辺りの話し合いは重要かと思うのですが?」
「宗介と連携ならできる」
「俺とだけ連携できてもだな……」
いやまあ確かに一番過ごした時間は長いからね?
むしろウェルトとかと連携できてない方がまずいと思うよ?
「他にも、勇者同士で合同演習を行なったり、仲間同士の話し合いも重要かと思われますが?」
「……そうですね。これからの波を越えるためには必要な手順かもしれません」
樹はまあ、そのままクソガキのままなら死ねばいいんじゃないかな? おっと、死んだら不味いので痛い目にあうといいよ。仲間に見捨てられて放置されれば少しはマシになるんじゃないかな?
「では、宴の最中に、話し合いの席を設けるとしましょう。ささ、勇者様方は改めて自己紹介をしながら付いてきてください」
勇者達は顔を見合わせた。
おい、何で俺の方を見る!
「だとさ」
「連携は重要ですね。まずはどうしましょうか?」
「それぞれの仲間を紹介すればいいんじゃないか?」
「そうですね。では僕に仲間から紹介しましょう」
まあ、それだけで嫌な予感がしたのは、言うまでもなかった。
「貴様! なぜイツキ様と共にいる! 犯罪者!」
「黙れ燻製! 今ここでお前の首を刎ねてやろうか?」
バチバチと睨み合いをする燻製と俺。
他の樹メンバーは尚文と錬に挨拶をする。
「この方々が僕の仲間をしてくださっている人達です」
「自己紹介は初めてですね。盾の勇者さん。そして……何度か話はしましたね、剣の勇者さん」
「……ああ」
「それにしても、マルド殿とソースケさんは本当に仲が悪いですね」
ロージルが俺と燻製をそう言って諌める。カレクの奴は偉そうに座ってメイドの給餌を受けている。樹パーティは全体的に偉そうだ。
「盾の勇者の岩谷尚文だ。……よろしく頼む」
尚文が自己紹介をすると、燻製が「貴様に構っている暇などないのだ」と捨て台詞を吐いた。
「ええ、よろしくお願いします。我等イツキ様親衛隊は世界のために戦う所存です!」
「「親衛隊!?」」
「ブッフー! 親衛隊とか草生える!」
「黙れ犯罪者! 我等を侮辱するか!」
「燻製、テメーを嘲ってるんだよ!」
俺につられて錬と尚文は笑っている。
「あー……。宗介の事は?」
「ええ、よく知っていますよ。《首刈り》のソースケはメルロマルクの冒険者の中で知らないものは居ないでしょう」
「すみません! 頼まれた料理を持ってくるのに時間がかかってしまいました!」
皿に盛りきれないほどの料理を抱えたリーシアが戻ってきた。
「あ──」
尚文は落としそうになった皿をキャッチする。
「す、すみません!」
「遅いぞリーシア! ほら、自己紹介に加われ」
「ふ、ふぇえ……は、はい!」
リーシアが加わってフォーメーションを整える。もちろん燻製も加わっている。
「「我等、イツキ様親衛隊六人衆! 今後ともよろしくお願いします!」」
「……あの子が来るまで待たなかったぞ?」
「言ってやるなよ。察してやれ」
普通に呆れる以外ないがな。
「どうですか? 頼もしいでしょう?」
「とりあえず言いたいことは山ほどある気はするが、……まあ良いんじゃないか?」
燻製が俺を睨んでいるので中指を立てる。「ふぬっ!」と反応するが、我慢しているようだ。そのまま死ね!
「あんまり関わってなかったけれど、変わった仲間を連れているんだな」
錬は言葉を選びながら感想を述べた。俺の感想は、教育に悪そうな連中を連れているな、だ。
「そうですか? 普通だと思いますが」
常識は多数決だ。樹チームの常識が親衛隊なのだろう。
燻製の目つきが気になったのか、イラッとした表情をする尚文。
「樹」
「なんですか?」
「ソイツの目つきと態度をどうにかしろ。宗介ともすぐに喧嘩をするし、改善は必要だろう」
「……そうですね。宗介さんもこれからは勇者仲間ですし、仲良くしましょう。良いですね、マルドさん」
「……わかりました!」
喧嘩と言うわかりやすい態度が目に余ったのか流石に注意される燻製。
「あと、俺への態度もだ。俺の事をまだ犯罪者だと思っているんだろう?」
「それは尚文さんの心の持ち方ではないですか? 僕は特には気になりませんが」
「む!」
樹の命中が発動したのか、不機嫌な顔になる尚文。
「そりゃあ、お前を見ている時とは目つきが違うんだよ」
「気のせいでは有りませんかな? 盾の勇者さん」
「お前の話をしているんだよ。横から入ってくるな!」
「気持ちの悪い猫なで声である」
「なんだと! 犯罪者!」
「良いから喧嘩するな!」
呆れた表情をする尚文。
「さっきから気になっていたんだが」
錬が手を上げて発言する。
「なんですか?」
「マルドは仕方ないにしてもだ。樹のことは『様』付なのに、なんで俺や尚文は『さん』付なんだ?」
「剣の勇者さんや盾の勇者さんはイツキ様より活躍の面で格下。ですから私達はさん付けで呼んでいるのです」
「……何を言うかと思えば」
錬は呆れの声を出した。視野狭窄だな。笑ってやろう。ブッフー!
「活躍? 一番地味な勇者って評判の樹がか? 弓の勇者がどこでどう活躍したとか俺の耳には入ってこないな」
「う……で、ですが宗介さんなら僕の活躍を知っていますよ!」
樹は俺を指差した。そりゃまあ、アルマランデ小王国を救ったのは確かに樹だろう。それは俺も見届けた。ドナドナされたが。
「俺を捕まえたことが活躍ならそうじゃないか?」
擁護して欲しいなら、俺の好感度を上げておくべきだったな。
「犯罪者! イツキ様を愚弄するか!」
「おお? やる気か? お前の首だったらいくらでも刎ねてやるぜ? 何メートル吹き飛ぶんだろうなぁ?」
樹が俺と燻製の間に入って止める。
「ふぇえ……」
「やめてください、宗介さん!」
「樹、どうやら俺たちはもう少し話をする必要がありそうだな」
「……」
錬が不快そうに吐き捨てた。仲間を愚弄されたと思ったのか?
「とにかく、錬さんや尚文さん、宗介さんは僕と同じ勇者なのですからもう少し敬意を持って接してください。マルドさんは宗介さんを挑発しないでください」
「……善処します!」
と、燻製たちは敬礼するが、そもそもメルロマルク語で『善処』と言われてもなぁ……。それはしないのと同じ意味だ。
「じゃあ、次は俺の仲間たちを紹介するか」
錬がポツリと呟いてスタスタと勝手に歩いていく。
俺はなぁ……、バクター以外知っているしなぁ……。
そんな事を考えながら、錬の後に続いたのだった。
分割しますね。
燻製と宗介の絡みはスラスラ出てきますね。
まさに水と油。
ちなみに、宗介を捕獲したことはマジで大金星だったりするので、宗介が言っていることは間違っていないと言う。
これも燻製が手柄を横取りしてますが…。